Weekly Recommendation  Bartees Strange「Farm To Table」

 Bartees Strange「Farm To Table」 

 

 

 

 Label:  4AD


 Release: 2022.6.17



”Bartees Strenge”の名を冠して活動を行うBartees Cocks Jr,は、イーストアングリア生まれ、現在、ワシントン州を拠点にするソロミュージシャン。母親にオペラ歌手を持ち、さらに、英国のイプスウィッチのRAFベントウォーターズで空軍エンジニアとして勤務する父親の間に生まれたコックスは、12歳までに、英国、アイスランド、ドイツを経巡った後、最終的に母のオペラ歌手としての働き口を求めるため、アメリカ合衆国のオクラホマに定住することとなった。

 

コックスJr.は、20代にワシントンDCでオバマ政権の副報道官として勤務後、バックバッティングの募金活動や環境キャンペーンなどの活動を介して社会的な貢献を果たそうとしてきました。その後、ブロックパーティーの「Silent Ararm」、それから2006年、オンエアされていたデイヴィッド・レターマンの演奏を目にしたとき、彼は政治の道を離れ、一転してミュージシャンの道に転向すると決意します。その時のことを、コックスJr.は「あの出来事は私の人生を変えた」と述べています。「それは私にとって、抗議活動や行進よりも重要な意味を持っていた」と。

 

その後、コックスJr.は、オバマ政権の副報道官として勤務する以前に売り払っていた音楽の機材を全て買い戻すことになる。フェンダーのムスタングをトレードマークとし、ロックギタリスト、シンガーとして活動を行うようになり、 音楽の表現という領域において社会的な貢献を果たそうと考えるようになりました。Bartees Strangeのファッション、現在のデニム・ジーンズ、ミリタリー系のジャケットなどを見るかぎりでは、彼はフレンドリーなス姿勢は彼の経歴から見ると意外なものに思え、そのような職業に就いていたことを疑う人すらあるかもしれません。

 

ミュージシャンとして最初に知名度を高める要因となったのが、2020年にリリースされた「Live Forever」で、この作品には名だたるインディーロックシーンのスター、ルーシー・ダカス、コットニー・バーネット、フィービー・ブリージャーズらが参加したアルバムによって、ミュージシャンとしての地位を確立、その後、イギリスの名門レーベル4ADとのサインを交わし、前作の発表後、それほど時を経ず、新作アルバム「Farm To Table」のレコーディングに取り掛かりました。彼は、この作品が自分のキャリアの分岐点になることを予期していたかもしれません。

 

 

 

私は、音楽を革命的な行為として見始めました: 黒人、クイア、それから、女性。これまで存在しなかったものを構築する。

                       Bartees Strange

 

Bartees Strangeは、最新作「Farm to Table」の制作の背景、コンセプトについて、上記のように語っています。オバマ政権の副報道官という仕事を経たコックスJr.だからこそ、今回の制作のコンセプトは、非常に強い意味を持ち、さらに作品に対するる強い興味を惹きつけるものとなるはずです。アルバムの音楽は、12カ国という土地を経巡ってきた彼がこれまでに聴いてきた様々な音楽の記憶が取り入れられ、様々な手法を介して野心的な作風が生み出されています。

 

なんと言っても、このアルバムの中で衝撃的なインパクトを与えるのが、先行シングルとして発表された「Hold The Line」です。


往年の1970年代の王道のR&Bを彷彿とさせる曲で、彼はミネアポリス州で発生した事件「ジョージ・フロイドの死」を題材に選んでいます。コックスJr.は、その後、アメリカの各地で沸き起こった黒人達が列を作って行進する抗議運動を見、自分にも出来ることはないか、それを暴力的な表現でなくて、温かな慈しみ、ブルースのような淡い哀愁や、ほのかな慈しみにより、包みこもうとしているのです。

 

アルバムは、ほとんど無節操と呼べるほど、ジャンレスな多様性が導入される。それらは古典的なR&Bに始まり、インディーロック、ローファイ、ヒップホップ、オルト・ポップ、ソフト・ロック、ブルース、新旧のミュージックにも深い敬意を払い、人種を問わない音楽を生み出そうとしています。言ってみれば、カオスではあるものの、それらは現代の社会を反映していると好意的な見方をすることも出来る。それは、Bartees Strangeというミュージシャンがアルバムのコンセプトに掲げるように、以前に存在しえない何かを生み出そうと、作品の中で試行錯誤を重ねているのです。

 

アメリカのオクラホマに移住した当初、白人の社会において黒人として生きることは、彼の両親がそのことにプライドを持つようにと教育したおかげでそれほど難しい問題にはならなかった。でも、その後、彼は、大きな社会の中でどのように生きれば、どのような表現をすれば、社会的に良い影響を与えられるのかを考えてきました。このレコードの中に聴きとることが出来る様々な概念の中、コックスJr.は、暴力的な表現が意味をなさないこと、それらは反感を生むだけと熟知しているように感じられます。

 

「Farm To Table」に表れ出ている音楽性は、全体的な作風として、それらの多種多様なバリエーションあふれる間口の広い音楽を温かなものとしてまとめ、一つに包み込もうと試みているように思えます。Bartees Strangeは、この新作アルバムの中で、幼少期の体験がそうであったように、多種多様なジャンルの音楽を経巡り、探索し、長い旅を繰り広げていきます。それらは一向にまとまりがつかない部分もあり、また反対に、力強いアクセントになっている部分もある。

 

世界の殆どの政治家とは対象的に、そういった政治の真の姿を知る人間として、コックスJr.はすべてを包み隠すことなく、その時、その瞬間、自分が持ちうるものを、全力でギターのスウィープ(泣き)とし、ソウルフルな歌とし、爽やかなポピュラリティとし、真摯に表現しようと試みていきます。多種多様な音楽の中心にある王道のブルース、旧来のモータウンサウンドを取り巻きながら、インディーロック/ローファイが副次的に集積されていった後、それまでの楽曲で積み上げられた熱意のようなものがほどよく抜け、クライマックスの「Hennesy」では、アメリカのブラックミュージックの源流をなす教会音楽の朗らかな雰囲気のゴスペルに帰着する。これは、コックスJr.が、黒人たちに連結し、先頭に立ち、肩を組み、和平的に団結しようと、時を越えて呼びかけている。もちろん、現代の人間、限定されたコミュニティに属する人たちだけに「Hold the Line」と言っているわけではなく、未来の人々にも、同じようなメッセージを送る。人種や立場を問わず、すべての人々に団結しようと呼びかけているのかもしれません。

 

アルバムのアートワークについては、アートのコラージュのような手法が取り入れられているのが面白く、バーティーズ・ストレンジの幼少期の写真らしき素材がパッチワークされ、その構図の中心には、レオナルド・ダヴィンチの名画「最後の晩餐」が暗示的に据えられています。表面的にそれははっきりとは見えないものの、このアーティストからの隠された「ダ・ヴィンチ・コード」のようなメーセージが、そのバックグラウンドには読み取れなくもないわけです。

 

かのレオナルド・ダヴィンチも、宮廷やミラノのサンタマリア修道院の食堂の壁面に描かれた「最後の晩餐」をはじめとする芸術作品を生み出した後、イタリア国内で戦争が勃発、戦争のため、画材、パトロン、ほとんどすべてを失い、失意のまま、故郷、イタリア、ミラノを後にし、ヨーロッパの国々を放浪をかさねたすえ、「モナリザ」を描いたと伝えられる謎めいた雰囲気のある画家。いささかミステリアスな印象のあるレオナルドの幻影は、英国、イースト・アングリア、アイスランド、ドイツといった諸国を経巡った後、最終的に、アメリカ合衆国のワシントンDCに根付いたBartees Strangeの移民としての哀愁あふれる姿に、心なしか重なるものがあるようです。

 


critical ratings:

87/100


Weekend Featured Track 「Hold The Line」

 

 

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