サニーデイサービス 「冷やし中華」EP

 Sunny Day Service 『冷やし中華』 EP 

 

 

 

 Label:  Rose Records

 Release: 7/15 2022



REVIEW

 

日本のインディーシーンで絶大な人気を誇る、曽我部恵一率いるサニーデイ・サービスは、1992年に結成。平成時代の「渋谷系ーShibuya-Kei」の象徴的なバンドとして活躍してきた。近年のJ-POPのフジファブリック、スカートといった音楽の源流はこのバンドに求められるはず。以前、スコットランドのネオアコ・ギターポップシーンに触発されたインディーフォークを日本の音楽シーンにもたらし、ジャンルにとらわれない幅広い音楽性がバンドの魅力となる。また、オリジナル・メンバーであった丸山晴茂は2018年に四十七歳という若さでこの世を去った。

 

近年は、オリジナル・メンバーの丸山がなくなったためか、ベスト・アルバムやリミックスを中心にリリースしていたサニーデイ・サービス。その後のメンバー編成がどうなっているのかは寡聞にして知らないが、最新EP「冷やし中華」では、懐かしのシティ・ポップや、アルバムジャケットを見ての通り、細野晴臣、大滝詠一のようなゆるくまったりしたサウンドに回帰している。 

 

が、やはり、今作において曽我部恵一のソングライティング能力の高さが際立っていいる。耳障りの良いサウンド、そしてキャッチーなフレーズ、それらはこのバンドの最大の強みで有り続けてきたが、今回のEPではせつなげなエモーションが加味され、夏にふさわしい涼味のあるサウンドが体現されている。


しかし、近年見られたいかにもシティ・ポップを意識したキラキラしたポップサウンドではなく、平成時代のサニーデイ・サービスの自然なインディーフォークバンドとしての魅力を余す所なく再現した一枚である。短編小説のような作品ではあるけれど、その簡潔さ、潔さがリスナーに心地良さをもたらすだろうと思われる。

 

特に、面白いのは、瀬戸内海の海を見て着想を得たというオープニングトラック「冷やし中華」ではいかにもサニーデイ・サービスの全盛期を彷彿とさせる深い味わいがあるのに加えて、はっぴいえんどのように懐古的な歌謡曲を下地においたサウンドへの回帰をはたしていることである。ここではこのバンドの最大の特徴である淡いノスタルジアがここに提示される反面、二曲目の「ジャスミン」で現代的なインディーフォークのスタイリッシュな雰囲気も感じられる、さらに1970年に発表された中川イサトのカバー「その気になれば」において、日本の70年代のフォークソングの核心に迫ろうとしているのがこのEPの醍醐味と言えるだろうか。

 

さらに、サニーデイ・サービスが長い歩みを続けていく上で薄れていたガレージロック/ローファイバンドとしての性質がエンディングの「夏のにおい」で、長年月を経て舞い戻って来る。オリジナルメンバーの早すぎる死は、その時代の音楽をこのバンドに思い出させた。これらの懐古的で現代的でもある簡潔なサウンドの妙な風味がアートワークのイラストの穏やかな雰囲気と上手く合致を果たしている。夏のセンチメンタルな詩情を込めた「冷やし中華」を聴くかぎり、彼らはまだやるべきことが残されているように思える。これまでと同じく、サニーデイ・サービスは、今後も日本のミュージック・シーンの新境地を開拓するバンドでありつづけるのだ。

 

 

Critical Rating:

84/100

 

 

 

  「冷やし中華」のCD盤にはボーナストラック「冷やし中華 -Chill Inst-」が収録。生産限定盤CDは手ぬぐいが付属する。CD盤は15日のデジタルリリースに続いて7月22日にリリースされる。


 また、今年の秋、サニーデイ・サービスは東名阪のツアーを開催します。ツアーの詳細情報についてはチケットぴあで御確認下さい。