The Ratel 「Scan」/ Review

The Ratel 「Scan」

Label: Fresh Lettuce

Release :2022年6月29日

 

 

Review

 

The Ratelは、池田若菜、内藤彩を中心に2018年に結成された。現在、東京都内を中心に活動するオルタナティヴ・ロックバンド。近日、東京、秋葉原グッドマンにて灰野敬二とのツーマンライブを控えています。

 

『The Scan」は、このバンドの記念すべきデビューアルバムであり、浅草のツバメスタジオでレコーディングが行われている。コアなサイケデリックロックマニアは、このツバメスタジオで幾何学模様の現時点でのラストアルバムのレコーディングも行われていることをご存知ではないでしょうか。




 

このアルバムは、奇妙な静寂性とアバンギャルド性が見事な融合を果たした作品です。ボーカルは、常に冷静でありながら、バンドサウンドとの緊密な距離感を持ち、そのサウンドの中に巧みに溶け込んでいくような調和性を持っています。Codeineのような暗鬱かつミドルテンポのスロウコアを基調とし、フルート、ファゴットを始めとするオーケストラの木管楽器、ダブ、アンビエント的なエフェクトが取り入れられているのが独特で、アフロファンクのようなコアな雰囲気さえ滲んでいる。そして、ポストロックのように、テクニカルでありながら、内省的な展開を見せつつ、時折、そこに対極的な激しいディストーションサウンドが折り重なることにより、曲の進行やグルーヴに強いうねりをもたらしている。



 

全体的には、フルート、ファゴットといった管楽器を取り入れたポストロック/アバンギャルドロックという印象で、表向きにはつかみやすいものの、変拍子と無調を交えたかなり高度な演奏力を擁しているバンドです。例えば、ボーカルの旋律進行をあえて王道からずらし、サイケデリックに近い雰囲気を醸し出していたり、また、突如として、スティールパンが導入されたり、さらにはトロピカルサウンドにも挑戦していたりと、めいめいのメンバーの音楽に対する情熱と深い理解、そして多彩なバックグラウンドを感じさせる玄人好みのサウンドです。特に、一般的には相容れないと思われる、強烈なディストーションギターと木管楽器のブレスの組み合わせというのはかなり前衛的で、そこにダブ風のディレイエフェクト処理さえ組み込んでいるのはほぼ圧巻というよりほかなし。聴けば聴くほど、果てない迷宮に入り込んでいくかのようで、相当奥深い世界観を持つアルバムです。



 

もちろん、マニアックなサウンドだけでなく、ふしぎな親しみやすさがあるのがこのバンドの魅力。そのあたりは坂本慎太郎、ニューヨークのSteve Gunnに比する雰囲気を持っている。おそらく、このデビューアルバム「Scan」の中では#7の「淡くない」が、最も聞きやすい部類に入る一曲になるでしょうか。スロウコア、サイケデリック、ロック、ジャズ、ファンク、ソウルを変幻自在にクロスオーバーし、これまでにありそうでなかったアンニュイで摩訶不思議なサウンドをThe Ratelは生み出しています。

 

そして、歌詞の世界もまた演奏と同じように抽象的でシュールな雰囲気が醸し出されていて、それが直接的な表現よりもはるかに濃密なエモーションを感じさせる。多分、もっと踏み込めば、よりマニアックなバンドアプローチを図れる実力があるのではないかと思われますが、そのあたり、ギリギリのところでバンドアンサンブルのバランスを保っているのが見事。調性が崩れる一歩手前のところで、旋律や和音を絶妙に保ちながら、アバンギャルドとメインストリームの境界の限界を彷徨う特異なサウンド。何度も繰り返し聴きたくなるようなミステリアスな魅力を持ったアルバムです。


 

 90/100



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