Cheerbleederz 「even in jest」-New Album Review

 Cheerbleederz  「even in jest」

 

 

Label: Alcopop!

Release: 2022年7月27日

 

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Review

 

UK・ロンドンを拠点に活動するトリオ、チアブリーダーズのアルコポップ!からリリースされたデビュー作「even in Jest」は、オルト、ポップパンク、パワー・ポップ、シンセ・ポップを織り交ぜたような作風である。


バンドはプレスリリースを通じて、この作品について、キャラクター、希望、エネルギー、惨めさ、内省、怒りに満ちている」と話している通り、若者らしい日常的な感覚をギターロックとして余す所なく込めている。近年、ポピュラー・ミュージックシーンはオートメーション化された音楽がメインストリームを圧倒しており、人間的な感覚からかけ離れた作品が多く見受けられる。このアルバムはそういった近年のオートマタに対する強いパンキッシュな反駁を投げかけているとも取れる。

 

もちろん、作り手としてはそういった難しいことまでは考えていないかもしれないが、ここではチアブリーダーズの三者の人間的な感情、人生における悲喜こもごもが表現されているため、リスナーはその音楽の持つ世界に惹き込まれざるをえなくなる。チアブリーダーズは内的な感情をバンドアンサンブルで純粋に示している。8ビートのシンプルなリズムを強固に支えるドラムとベースライン、不協和音を交えたギターラインの進行、音感の良さを維持しながらスクリームに近いボーカルのシャウトは、感情的であり、信頼の置けるものであるように思える、チアブリーダーズはこの録音で感情を表に曝け出すことを恐れていない、だからこのアルバムはエモーションが感じられるのであり、人間味を深く漂わせている。現代的なオートメーションの世界にからめとられることを、現在のSNS時代に生きるチアブリーダーズは少なくともこのレコーディングでは良しとはしていないのである。

 

このアルバムでは、近年のバンドの音楽的な成果がはっきりと示されている。1990年代のUSインディーロックの影響を感じさせるオープナー「break ur arm」、Snail Mailの最初期の作品を彷彿とさせる「cute as hell」、さらに、全体を見渡すと異質な雰囲気を持つ、Mitskiのような清涼感のあるミドルテンポのシンセ・ポップ「love/hurt」、多彩な音楽性が展開されている。そのほか、日常のSNSでの若者らしい苦悩を歌ったと思われる「notes app apology」をはじめ、ロンドンに生きる若者の苦悩を包み隠さず表現した楽曲が複数収録されている。

 

ボーカルは、お世辞にもオーバーグラウンドの歌手ほどには巧緻であるとは言いがたい。しかし、欠点らしき性質--それは、つまり、人間の魅力にほかならない。こういった直情的な歌をうたうことを恐れているミュージシャンとは裏腹に、チアブリーダーズのボーカリストは、自分の感情、どのような人物であるかをさらけ出すことを恐れていないのが信頼できる。それは、叙情的なギターラインと相まって、ボーカリストの感情的な歌声は、リスナーの心深くに共鳴をもたらす。そして、なぜなのかはわからないが、オーバーグラウンドに並み居るアーティストたちが成功と引き換えに見失ってしまったインディーロックの本質が、このアルバムには宿っているようにも思える。


このデビュー作『Even In Jest』は、表立った流通のアルバムでないため、ビッグヒットが見込める作品とまでは言いがたい。けれども、少なくとも、チアブリーダーズのメンバーの人生の青春のいち側面を麗しく切り取った魅力的な作品で、何度も聴く価値がある素晴らしい作品と称せる。特に、アルバム発売前の最終のプレビューシングル「notes app apology」は、なぜかしれず夏の記憶を思い出させ、エバーグリーンな余韻を漂わせており、ホロリとさせるものがある。

 

75/100



 「notes app apology」