Why Bonnie 『90 In November』
Label: Keeled Scales
Release: 2022年8月19日
Review
テキサス州出身のインディーロックバンド、Why Bonnieのデビューアルバム『90 In November」は、新旧のインディーロックファンを唸らせるような出色の出来映えとなっています。Snail Mail、Beach Fossils,Hindsのツアーでオープニングアクトを務めているWhy Bonnieは、その前評判に違わぬ、麗しいインディー・ロック/ドリームポップワールドを繰り広げている。
「90 In November」のほとんどは、プレスリリースによれば、Why Boniieのフロントマンのブレア・ハワトンがオースティンからブルックリンへと移住した2019年に書かれたのだそうです。彼女はロックダウン中、テキサスの広々とした空間から遠く離れたブルックリンのアパートの閉じ込められていることに気づき、そのような環境にある中、彼女は新しい故郷を見出すこと、置き去りにした故郷ーホームタウンーの意味を理解しようと内面をつぶさに分析し、これらの曲を書きあげている。
ここでは、Big Thiefの洗練された現代的なフォーク・バラードを彷彿とさせるアンニュイかつ幻想的な音楽の要素も見いだされるが、このバンドがビック・シーフと明らかに異なるのは、強固なインディーロック精神を持ち合わせながら、古き良きアメリカン・ロック、ハートランドロックの影響を感じさせるということでしょう。同様に、プレスリリースにおいては、The Lemonheads、The Replacementsが引き合いに出されていますが、その良質なメロディー、及び、テキサスの大地を思わせるような懐深いミドルテンポのロックが滑らかに進行していきます。
このデビュー・アルバムでは、「Nowhere LA」を始め、Pavementを彷彿とさせる、乾いた質感をもったインディーロックサウンドが貫かれていますが、そのサウンドの向こう側には独特なロマンチシズム、ワイルドな雰囲気が漂う。これが良質な旋律進行に加え、楽曲にパンチをもたらしている。ブレア・ハワトンのボーカルは一貫してクールなスタンスでうたわれていますが、そこには、テキサスの広大な大地を思わせるような懐歩かさ、ホームに対する憧憬に近い雰囲気も漂っている。そして、スロウコアの影響を伺わせるギターのシンプルで叙情的なアルペジオ進行がシンプルなドラミングと合わさることにより、強固なオルトロックサウンドを形成していく。これらの楽曲は、聞き手を別の場所に誘うような引力をしっかり持ち合わせているのです。
『90 In November』は、フロントパーソンのブレア・ハワトンがオースティンからニューヨークへと転居したからこそ生み出されたもので、この秀逸なシンガーの内面的な郷愁が余す所なく表現されています。音楽として、淡く、純朴な雰囲気を漂わせる作風であり、派手さはそれほどないにもかかわらず、じっと聞き入らせるような深いエモーションを兼ね備えているため、ザ・リプレイスメンツのポール・ウェスターバーグの良質なソングライティングの系譜にある、乾いた大地を思わせるような雄大なUSインディー・ロックを、この作品で心ゆくまで味わうことが出来ます。クローズド・トラック「Superhero」は、新進バンドとは思えないほどのスケールの大きさを感じさせるもので、ブレア・ハワトンはビブラートを活かした特異な歌唱法のスタイルを取りながら、前の時代のカントリー/フォーク・ミュージックの偉大さを受け継いでいる。
Why Bonnieは、ニューヨークのミュージック・シーンに見受けられるような現代的に洗練されたオルタナティヴ・フォークと近い雰囲気を持ち合わせつつも、ブレア・ハワトンがこのアルバムのテーマとして掲げているのは、故郷テキサスへの音楽における幻想的でワイルドな旅です。ここでは、ディストーションサウンドと鋭い対比をなす、穏やかな雰囲気を擁するボーカルにより、新たなオルタナティヴロックサウンドが提示されていることについても言及しておきたい。ここで、フロントパーソンのブレア・ハワトンは、他の四人のバンドメンバーと手を取り合い、遠く離れた故郷--ホームタウン--へのせつないロマンチシズムを素朴な形で昇華してみせています。
92/100
Weekend Featured Track 『Nowhere LA』