Weekly Recommendation Sarah Davachi 『Two Sisters』

 Sarah Davachi 『Two Sisters』

 


 

Label: Late Music 


Release: 2022年9月9日

 

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Review


 カナダ出身の作曲家、オルガン演奏家のサラ・ダヴァチーは、現在、ロサンゼルスを拠点に活動している。2021年からUCLAでポピュラー音楽、現代音楽、古楽等を中心に学んでいるアーティストです。ドローンアンビエントのシーンで存在感を持つ作曲家で、パイプオルガン/リードオルガンの持続音を生かした作風という点では、スウェーデン・ストックホルムを拠点に活動するポスト・ミニマルのシーンに属する作曲家Kali Maloneが引き合いに出される場合もある。

 

 最新作『Two Sisters』はLP盤として二枚組の作品となり、サラ・ダヴァチー自身の主宰するレーベル”Late Music"からリリースされている。

 

本作には、室内アンサンブルとパイプオルガンが収録されている。他にもカリヨン(鋳鉄製のベルで構成された鍵盤楽器)、合唱、弦楽四重奏、低音の木管楽器、トロンボーンの四重奏、その他にもサイントーンや電子ドローンを中心とする様々な楽器が楽曲の中で使用される。中でも、サラ・ダヴァチーが演奏に使用するパイプ・オルガンは、1742年製のイタリア製トラッカーオルガンで、現在、このオルガンはアメリカの南西部の砂漠地帯に設置されているという。

 

 一曲目の「Hall Of Mirrors」は、アルバムの前奏曲とも呼ぶべきで、上記のカリヨンが導入されています。既存の作品において、アンビエントだけではなく、古楽/バロック的なアプローチを図ってきたサラ・ダヴァチーらしい前奏曲で、このアルバム全編に充溢する荘厳な雰囲気をカリヨンの鐘の音で予告する。さらに、二曲目「Alas,Departing」は、ポストモダン的な雰囲気を持つ声楽の澄明さを生かした楽曲で、活動中期のメレディス・モンクのような前衛的な声楽のアプローチに取り組んでいる。静謐で瞑想的ではありながら、人間の声の音響そのものの美しさを体感出来ますが、ここにはやはり古楽的な旋律と和声法が組み込まれていることに注目です。


 以上の二曲から一転して、三曲目の「Vanity Of Ages」以降は、サラ・ダヴァチーのパイプオルガン(トラッカーオルガン)の演奏を中心に木管楽器や弦楽器の重奏といった楽曲で構成される。

 

例えば、ストックホルムのKali Maloneがオルガンの通奏低音を最初の持続音を徹底して引き伸ばす作曲技法を好むのに対して、サラ・ダヴァチーはそれらのオルガンの器楽的な特性を活かしつつ、音響的実験に取り組み、音を重ねながら、特異な和音を組み上げていくのがひとつの特徴です。それは、時に、調性のある和音/前衛的な不協和音/と、様々な形質をとり、縦向きの音階の連なりが次々現れ出てきますが、長く持続される通奏低音の上に、次にどのような音階が重ねられるのかを予測して楽しむというような聴き方も出来ます。しかし、それは時にこの作曲家の鋭い才覚により、予期される出現する音が高い確率で裏切られることにもなるのが惹かれる点でもある。

 

その他にも、二枚組のアルバムには、連曲形式の楽曲が収録されています。「Icon StudiesⅠ、Ⅱ」では、オルガンと木管楽器の音の連なりを対比的に表現した曲であると思われます。オルガンの低音が生み出す雰囲気と、バスフルート等を中心とした低音の木管楽器の重奏のコントラストを楽しむことが出来るはずです。しかし、これらの低音を生かした慎重なハーモニーは常に何らかのセレモニーのような厳粛性が尊重され、木管楽器の重奏については、アラビア風の旋法が現れることもあるため、かなりエキゾチックな雰囲気を醸し出していることも確かなのです。

 

 アルバムの中で最も美しい調性が保たれているのが「Harmonies in Green」となるでしょう。ここで、サラ・ダヴァチーは古楽時代のパイプオルガンの領域に踏み入れ、それを厳粛な形で表現しています。もちろん、そういった中世の西洋音楽への興味にとどまらず、アンビエント・ドローンのアーティストとしての1つの音響学的な研究の大きな成果が近年の作品以上に表れ出た楽曲といえるかも知れません。曲の序盤は、このアルバム全体の作風と同じく、厳かで重々しさがありますが、最終盤に差し掛かるにつれて、曲の雰囲気がガラリと一変し、美麗なハーモニーが現れ、荘厳で、神々しい、息を飲むような瞬間がクライマックスに立ち現れるのです。

 

その他にも、アルバムのクライマックスを飾る「O World And The Clear Song」において、音響学の観点から未曾有の領域に踏み入れていきます。サラ・ダヴァチーは、18世紀のイタリア製のオルガンを駆使し、バッハの宗教音楽、それ以前のイタリアのバロック音楽にも比する、重々しく厳格な現代音楽を、構造的解釈を交えながら、魅惑的なエンディング曲として組み上げています。

 

 

92/100 



Weekend Featured Track  「O World And The Clear Song」(#9)

 

 

 

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