Hyper Pop/ Experimental Pop 新世代のポピュラーミュージックは2020年代を席巻するか??

Yeves Tumor




・Hyper Pop/Experimental Pop主導のミュージックシーンの未来はどうなる??

 


ハイパーポップ/エクスペリメンタルポップは、近年、特に注目を浴びるようになった音楽ジャンルの一です。サブスクリプションサービスの台頭もあってか、最近はアーティスト自体も以前に比べて、大量の音楽を聴き、そのバックグラウンドも幅広くなっています。今や、一国の音楽文化はその国だけのものにとどまらず、ワールドワイドなものとなっている。米国のアーティストたちは英国の音楽に強い影響を受け、英国のアーティストたちが米国の音楽に強い影響を受ける。そのようなことはごく当たり前の風潮となっている。それはインターネットという情報網を通して、どのような地域の音楽も、さらにどの時代の音楽にもたやすくアクセス出来るようになったからこそなのでしょう。

 

この音楽自体の多様化と情報量の著しいまでの増大は、当初、アンダーグラウンドシーンのアーティストに強い触発を与えていたが、今日では最早、オーバーグラウンド、メインストリームのポップスを基調とするアーティストにも全然無関係ではなくなりつつある。彼ら(彼女ら)は、純粋な王道のポピュラー音楽だけをそのまま提示することに飽き始めているのかもしれません。それは、言い換えれば、すでに単純なポップスでは、リスナーを市場に取り込むことが困難になってきたからなのです。今日のポピュラーアーティストたちは、本来相容れないジャンルまでをも取り込み、これまでになかった前衛的なポップスを生み出す時代の要請に答える必要があったのです。

 

そういった時代/聴衆の要請に応えて出現した音楽制作の新たなスタイルが、アーティスト自身でソングライティングからプロデュースまでを一人で完遂する”Bedroom Pop”だったのです。彼らは、それ以前まで膨大な制作費用を必要としていたような音楽を、その費用の十分の一、いや、それ以上に低い割合で、以前のヒット・ソングと同じクオリティーの作品をベッドルームで作り上げるようになりました。この最初のウェイヴを巻き起こしたひとりが、イギリスのエド・シーランだった。作品の最終的な段階ではこの限りではないが、彼はそれまでプロデューサーが行っていたようなことを、自分のアイディアで欠点を賄おうと試みたアーティストの一人に挙げられます。

 

そして、このベッドルームポップと並んで、ここ数年で台頭してきた音楽が、ハイパーポップ/エクスペリメンタルポップです。

 

では、これらのポップスは一体以前のポップスと何が異なるのでしょう。これは一見、判別が難しいかもしれないが、長年、米国の音楽メディア、Pitchforkの編集長を十数年にわたり務め、ウォール・ストリート・ジャーナルでも評論を行ってきたMark Richardson(マーク・リチャードソン)氏は、この”Hyper Pop”という新ジャンルについて、「キャッチーな曲と記憶に残るフックを取り入れたコミカルなノイズの壁」というように表現しています。つまり、リチャードソン氏の言葉を引き継ぐと、ポピュラー音楽の根本的な要素のひとつである楽曲自体の掴みやすさ/わかりやすさに加えて、本来アンダーグラウンドの領域に位置するノイズ・ミュージックの要素があることや、コミカルな雰囲気を要する音楽というように定義づけることが可能となる。それに加えて、ハイパーポップやエクスペリメンタルポップは他のジャンルとのクロスオーバー、IDMを始め、ハウス、ロック、メタル、オルタナティヴロック、現代音楽というように、これまでポピュラー音楽とは相容れなかったジャンルまでを無節操に内包するようになってきています。このことは、アイスランドのビョークの最新作「Fossora」にも顕著に見られる特徴です。

 

このアルバムでは、エレクトロ・ポップの要素に加えて、映画音楽、現代音楽、メタル、民族音楽、ノルウェーのミュージック・シーンの中心のジャズ/フォークトロニカ、そして、アイスランドの電子音楽をすべての飲み尽くそうとこのアーティストが試みたアルバムである。つまり、これらの音楽は、ヘヴィ・メタルから、ダンス・ミュージック、旧来のエレクトロ・ポップまで何から何まで”モンスターのごとく”取り入れてしまおうというわけなのです。

 

これらのミュージックシーンの台頭はもちろん、ソーシャルメディアの主流化や、それまでサブカルチャーという、メインストリームの下層にあるいかがわしいところのある文化とみなされてきた概念が若者たちの文化にごく自然に根差していったことによって、日頃普通に鑑賞しているドラマやアニメーションからの影響や、それ以外にも、SNSのスラングをごく自然に音楽として昇華したことで生み出された音楽と言える。これらのポピュラー音楽は、InstagramやTiktok、TwitterといったSNSで起きることと何ら無関係とは言いがたいです。それが理由なのか、これらの音楽は、どことなくSF的であるとともにメタ的な構造を持ち、そして、仮想空間に氾濫している音楽をポピュラー・ミュージックとして体現したような印象を聞き手に与えることでしょう。


音楽的な観点からのハイパーポップ、エクスペリメンタルの定義は以上のようなものであるが、一人のアーティストとしてのコマーシャリズムにもこれらのシーンに属するミュージシャンたちには変化が生じているとも付け加えておかねばなりません。つまり、アーティスト写真や、アーティストの佇まいの変化について。一例では、FKA Twigs,Willow,Rina Sawayama,Bjorkに至るまで、近年のアルバム・ジャケット、及び、アーティストの宣伝写真に著しい変化が見られることに、すでに多くの読者諸賢はお気づきになられていることでしょう。

 

アートワークに映し出されるアーティストの姿は人間離れしており、SFに登場するキャラクター化している場合もあれば、映画「アバター」に登場するような仮想的なモンスターの場合もある。これらはこのアートワーク/アーティストという音源に付随する一種の芸術作品に接した鑑賞者にいくらかセンセーショナルな印象を与え、そのアーティスト写真やアートワークを見た瞬間に一発で、そのことを記憶に残させるという効果がある。今や、これらの宣伝方法を見るに、アーティストは時に人間から離れ、SF化され、人間ではない他のなにかになぞらえられたり、変身したりするような時代になっています。それは全時代から続いていたミュージシャンのスター・システムがより先鋭化した表現性がこれらの文化、音楽が見いだされるとも換言出来るわけです。


これら、以下に掲載するハイパーポップ/エクスペリメンタルポップのアーティストの入門編は、新世代の音楽の門扉を率先して開いてみせた、画期的かつ前衛的なアルバムばかりです。


しかし、これらの最新の音楽に最大の賛美を送るとともに、警鐘を鳴らしておく必要もありそうです。これらの音楽が未来によりスタンダードとなり、それらが消費される意味しか持たぬ音楽に堕するとするならば、決してこれらの音楽は、必ずしも人間にとっての良薬となりえない可能性もある。オートチューン、オートメーション、過度なノイズ加工や過剰なコンプレッション、それらは音楽をロボットにすることであり、また、音楽をAI化することでもある。このハイパーポップ/エクスペリメンタルポップは、2022年代の象徴的な音楽であることに変わりはありませんが、音楽をオートメーション化しないということを念頭におかないで、先鋭化しつづけるならば、必ずや、どこかの年代において飽和状態を迎える時期が到来すると思われます。


とにかく、2022年の今、どのような音楽が次に到来するのか全く予測することができません。未だ知られていないだけで現在も私たちがしらないどこかで、すでに新たな音楽が誕生しようとしているのかも知れませんね。

 



・Hyper Pop/Experimental pop ー入門編ー

 

今回、読者の皆様にご紹介するのは、「ベスト10」を始めとするような網羅的なセレクションではなく、そのごく一部であり、単なる入門編に過ぎません。他にも素晴らしいアーティストは数多く活躍していますので、ぜひ、以下のリストを参考にしていただき、皆さんそれぞれのオンリーワンと呼べるような作品を探してみてください。

 

 

 

 Yeves Tumor 「Heaven To A Futured Mind」 

 


Yves Tumorが2020年にリリースした「Heaven To A Futured Mind」 は、ポピュラー・ミュージックの定義そのものを覆してしまったセンセーショナルなアルバムです。

 

今作において、Yves Tumorは、IDM、ヒップホップ、ソウルなどのクロスオーバーミュージックを企図している。

 

オープニングトラック「A Gospel For A New Country」で、Yves Tumorは新世代のポピュラー・ミュージックの到来を告げており、ブレイクビーツを多様し、唯一無二の世界観を確立しています。このアーティストは、 インタビューを一切受け付けていないらしく、いまだ多くの謎に包まれている。

 

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Charli XCX 「Crash」


Hyper Popというジャンルを知るためにこれ以上はないというくらい最適なのが、UKの大人気シンガーソングライター、チャーリー・XCXの2022年の最新作「Crash」でしょう。

 

ノイズ性の強いポップ、コミカルな雰囲気、ボーカルに施されたオートチューン等、ハイパーポップのジャンルを構成する基本的な要素を今作に見出すことが出来る。内郭にある音楽としてはチルアウトの要素が強く、ゆったりとした感じを楽しむことが出来るアルバムです。ソーシャルメディア文化の気風を体現した作品で、スマッシュヒットを記録したのも頷ける話ですね。



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Rina Sawayama   「Hold The Girl」

 

 

UKの主要な音楽メディアを騒然とさせたリナ・サワヤマの最新作「Hold The Girl」。主な英国内のメディアが殆ど満点評価を与えたにとどまらず、日本人としてUKチャートの歴代最高位を記録するなど、素晴らしい功績をサワヤマはこのアルバムで残しています。

 

制作時、サワヤマは、エルトン・ジョンから幾つか有益なアドバイスを貰ったとのことで、相当、プロダクションからも相当苦心の跡が窺え、真摯に聞き入ってしまうアルバムです。ハイパーポップの要素に加え、ヘヴィ・メタルなど幅広いジャンルが含まれている。タイトルトラック、及び「This Hell」を始め、ポップ・バンガーが勢揃いしており、国内の気鋭メディアが総じて絶賛しているのも納得の内容。ポピュラー・ミュージックとしても名盤にあげておきたい作品。

 

 

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Willow  「Ardipithecus」

 


アメリカ出身のシンガーソングライター、ウィローもまたジャンルにとらわれない幅広い音楽性を生み出しています。ウィローは、10月7日に新作アルバム「COPINGMECHANISM」を発表したばかりです。

 

最初期は、R&B色の強い音楽を制作していたウィローですが、2021年の「lately I Feel Everything」では、ロックミュージックにも挑戦している。ハイパーポップの音楽性の雰囲気が感じられる作品としては、2015年のアルバム「Ardipithecus」を挙げておきたい。この作品で、ウィローは時代に先んじて、ハイパーポップ、モダンソウル、IDMの融合に挑戦しています。他にも、ハープやシロフォンといったオーケストラ楽器を取り入れたアヴァンギャルドな作風。 


 

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Sophie 「Oil of Every Pearl's Un-Insides」

 


今回、これらのハイパーポップの入門編として幾つか作品を挙げる中で、最も音楽的に異彩を放っているのがギリシャ・アテネを拠点にするSopieというシンガーソングライターです。

 

他のアーティストがIDMなど、メインストリームのダンスミュージック/エレクトロニカを取り入れているのに対して、 このアーティストは、アンビエントやドローンとアンダーグラウンドに属する音楽を本来、メインストリームにあるポピュラー・ミュージックとして昇華しようと試みています。

 

ここに取り上げる2018年に発表された「Oil of Every Pearl's Un Insides」は、アヴァンギャルドな領域に属する音楽であり、ポップス=シンプルな音楽という旧来の文脈を書き換えようとした画期的な作品にあげられます。アンビエントドローンとボーカルトラックの融合は幻想的な雰囲気すら感じられる。

 

 

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Bjork  「Fossora」

 


 

ビョークの「Fossora」は、エクスペリメンタルポップとハイパーポップの中間点に位置するような作品です。今年のポピュラー・ミュージック作品の中では最も洗練された作品と言えるでしょう。

 

キノコを主題に置いたという「Fossora」は、モダンクラシカル/北欧フォークトロニカと旧来のポピュラー音楽との融合を試みた作品として位置づけられるかもしれません。オーケストラのストリングスの重厚感のある重奏、スティーヴ・ライヒのミニマリズムに象徴される木管楽器を、どのように既存/現在のポップスの枠組みの中に組み込むかを模索したようにも見受けられる。もちろん、その他にもメタル、ノイズなど、幅広い要素がこの作品の中に見出すことが出来る。

 

アルバムの評価自体は差し置いて、質の高いアヴァンギャルドポップであることに変わりはありませんが、その真価がよりはっきりと発揮される瞬間があるとするなら、ライブパフォーマンスにおける舞台芸術とのこの「Fossora」の収録曲の劇的な融合性にあるかもしれません。これらの楽曲はステージ演出において実際の演奏とどのように同期されるのかに注目していきたいところです。もちろん、ビョークの息子がヴォーカルに参加したというクローズド・トラック「Her Mothers's Voice」など、アート性の高い最新鋭のアヴァン・ポップスに挙げられるでしょう。


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