New Album Review  Ezra Collective 『Where I’m Meant To Be』

 Ezra Collective 『Where I’m Meant To Be』

 


 Label: Partisan

 Release:2022年11月4日



Review 

 

 

ロンドンのジャズ集団、エズラ・コレクティヴは、近年、 盛り上がりつつあるロンドンのジャズシーンの熱狂を象徴するようなクインテットである。彼らは、エズラ・コレクティヴとしてだけでなく、他のジャズバンドでも演奏しているのでスーパーグループと見なされる場合もあるようだ。

 

エズラ・コレクティヴの音楽は大まかにNu Jazzに属すると思われるが、その中にもこのグループの人種を問わない構成からも分かるように、多様性に富んだ内容となっている。レゲエ、アフロ・ビート、アフリカンミュージック、ネオ・ソウル、ヒップホップ、さらには、UKガラージ、ベースラインにいたるまで様々な国々の音楽を吸収し、これらの要素をセンスよくニュージャズの中に取り入れている。

 

とりわけ、この五人組の中で、ひときわ強い存在感を放っているのが、ドラマーのモーゼズ・ ボイドだ。彼は、なんと、ナイジェリア出身のアフロビートの始祖、Fela Kutiのバンドで活躍したトニー・アレンにドラムの手ほどきを受けた、言わば、ドラム奏者として一廉の人物である。このボイドの生み出すドライブ感抜群の超絶技法のドラムをもとに、TJ Koleosoが凄まじいグルーブ感を保つベースラインを加わることで、アンサンブルとしての骨格が出来上がっている。個人的な意見としては、この二人のリズム奏者は、格式あるモダン・ジャズシーン全体を見渡しても、世界最高峰の技術を擁していると思われる。もちろん、ベースとドラムだけで十分演奏自体はスリリングなのだが、これらの堅固な土台に、軽やかで、陽気な、サックス、トランペット、ピアノが加わることにより、ロンドンの最新鋭のジャズ・グループ、エズラ・コレクティヴの音楽は完成に導かれるのである。

 

最初期のエズラ・コレクティヴの音楽性は、Nu Jazzの領域にありながら、レゲエの要素が強かった。そして、この最新作では、「Togertheness」、「Ego Killah」ではその影響が若干残っているが、レゲエやアフロ・ビートの要素が少しだけ弱められ、ヒップホップや、ベースライン、ダブの流動的なリズムを押し出した作風となっている。基本的には、即興演奏をもとにしたジャズ曲としてのキャラクター性が強いが、ザンビア出身のラッパー、Sampa The Great.Kojey Radicalら、秀逸なラップアーティスト、さらに、UKのシンガーソングライター、Emeli Sandeのゲスト参加により、ボーカル・トラックがインスト曲の合間に導入されることで、アルバムのアートワークからも見えることではあるが、華やかで陽気な雰囲気を持つ作品に仕上がっている。

 

 エズラ・コレクティヴのメンバーは、最新作『Where I’m Meant To Be』において、ロンドンの最新鋭のジャズと、アフリカの音楽性を架橋するような作風を志したと説明しているが、他にもこのアルバムには、ラテン・ミュージック、特にカリブ音楽の影響が色濃く反映されており、それらが彼らの音楽性の根幹にあるアクの強いアフロビートと見事に合体を果たしている。常に、エズラ・コレクティヴの演奏は、最初のモチーフのようなものをバンドのセッションを通じて即興的に転がし、流麗な展開を形作って曲の構想を発展させていき、誰も予測のつかない着地点を曲のクライマックスで見出す。そして、このアルバムの楽曲の展開は、スリリングとしか言いようがない。エズラ・コレクティヴのメンバーは、ジャズの基本の型であるコールアンドレスポンスを通じて、彼ら五人は楽器で軽やかに会話をし、さらにそれらの会話を、大きな構成を持つ楽曲へと昇華させているのだ。

 

アルバムの中には、「No Confusion」「Words By Steve」の二曲に、語りのインタルードが導入されているが、これらが、キャッチーな印象を持つラップソング、ポップス/ソウル、そして、エズラ・コレクティヴの音楽性の基礎であるニュージャズの楽曲の中に、ストーリー性を付け加えている。今作において、エズラ・コレクティヴは、演奏の面白みを追求するだけではなく、万人に親しめる音楽性を示しつつ、音楽の持つ文学性や物語性を掘り下げようとしているように見受けられる。そして、それらを実際のセッションだったり、ボーカリストとの白熱した共演を通じ、このグループの最大の魅力である多様性をもとに一つのアルバム作品として組み上げているのだ。

 

 特に、このスーパーグループの演奏の超絶技法、即興演奏におけるクリエイティビティが最大限に高められているのが「Belonging」だ。この曲では、ベースとドラムの演奏技術の力のみで曲が最後まで牽引されていくが、中盤から変拍子を巧みに駆使し、ピアノの即興演奏、ホーンセクション、パーカッション、ストリングスを交え、スリリングな展開に繋げていく。それに加えて、アフリカの民族音楽のメロディーも卒なく取り入れられ、最後には予測のつかない華やかなエンディングが待ち受けている。

 

その後に続く「Never The Same Agein」で、エズラ・コレクティヴは、エキゾチックジャズの新境地を勇猛果敢に開拓してゆく。イントロの哀愁あふれるピアノのフレーズから陽気で心楽しいカリブ音楽へ一挙に様変わりし、ジャズのアンセミックな響きを持つ、言わば、ダイナミックな展開へ導かれる。この刺激的なライブセッションにこそ、最新作『Where I’m Meant To Be』の最大の迫力が込められており、エズラ・コレクティブの晴れやかなジャズ・スピリットの真骨頂が体感出来る瞬間となるだろう。


ロンドンのジャズ・クインテット、エズラ・コレクティブは、この最新作においてさらなる進化を遂げ、既存の作風を軽やかに超越し、ニュージャズの次なるフィールドに歩みを進め始めている。本当に見事だ。

 

 

86/100



Featured Track「Never the Same Again」

 

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