New Album Review  Mac Demarco 『Five Easy Hot Dogs』

Mac Demarco 『Five Easy Hot Dogs』 

 

 

Label: Mac's Record Label

Release:  2023年1月20日


Review

 

米国のインディー・ロックシンガー、マック・デマルコの自主レーベルからの二作目のフルレングスは意外にもインスト作品となりました。デマルコはリリースに際して次のように語っています。

 

「このように、僕は、あちこちに出かけてレコーディングや旅行をする性質上、座って計画したり、自分がやろうとしたことが何だったのかを考えたりするのには向いていないんだ。サウンドもテーマも何も考えず、ただレコーディングを始めてみたんだ」

 

「幸運なことに、この時期のレコーディング・コレクションはすべてリンクしていて、全体として現在の音楽的アイデンティティを持っているんだ。僕はその中にいながら、その中から出てきたものがこれなんだ」


「このレコードは、そんな風に転げまわっているような感じの音だ。楽しんでもらえると嬉しい」

 

レコードに収録された全16曲には、デマルコが実際に旅行をする過程で、その土地の地元の人と一緒にレコーディングされたものも含まれているようです。アルバム収録曲には、マック・デマルコがどのような旅の過程をたどったかが分かる。カルフォルニアのグアララ、クレセントシティを始めとする西海岸からポートランド、テキサスのヴォクトリア、そして、カナダのヴァンクーバー、エドモントン、シカゴ、そして、最終的にはニューヨークのロッカウェイへとたどり着く。

 

これらの楽曲は、前作『Here Comes The Cowboy』の音楽性を引き継ぎ、そして、アコースティック・ギターとシンセを中心に組み立てられています。ほかにもリコーダーのような吹奏楽器、それから、おもちゃのカスタネットが登場したり、このアーティストらしいユニーク性が漂う。デモ曲のように気安く書かれ、ラフなミックスがほどこされているため、ローファイ感も満載です。そして、スロウ・テンポのインディー・フォークをアシッド・ハウス的に解釈しているあたりが、いかにもマック・デマルコらしい作品と呼べるでしょう。

 

これは憶測に過ぎませんが、それ以前のロックダウンの時代を過ぎて、ぜひともマック・マルコは当時の閉塞した気分を解消するため、旅をする必要性を感じていたのではないでしょうか。そこで、彼は、実際に米国やカナダの土地の風景、また、そこで出会う人達とのコミニケーションを通じて、これらのサウンド・スケープや内的な心象風景をくつろいだ感じのあるローファイ音楽という形で書き留めておきたいと思ったのかもしれません。聴いてみると分かる通り、これらの短くまとめられた全曲は、その土地の風景や人の雑踏や、街角の景色を聞き手の脳裏に呼び覚ます喚起力を持ち合わせており、さらに、近年のマック・デマルコの作品の中では最もロマンチックで、繊細で、叙情性に溢れています。それはまた、旅をしたあとの儚い回想録のようにも喩えられる。しかし、それほどセンチメンタルにも生真面目にもならず、デマルコらしいユニークな観点から、これらの追憶の音楽は紡がれていくのです。

 

このアルバムは、おおよそ、米国、カナダ、米国と、3つの旅の工程に分かれ、大きく聞き分けていくとより解釈がしやすい。それぞれの土地の雰囲気をかたどった音楽を楽しむことが出来、曲が進んでいくごとに風景がたえず移ろっていくようにも思えて面白いです。序盤の「Gualala1-2」では、カルフォルニアの海沿いの美しさ情景が繊細かつワイルドに表現されたかと思えば、「Portland」では既存の作品と同様、ハウス・ミュージックに根ざしたインディー・フォークが展開されます。

 

続く「Victoria」は、これまでのマック・デマルコの作風とは異なるものがあり、メキシコの国境近くにあるような砂漠地帯の風景、他にも、海沿いの穏やかなリゾート地の景色が秀逸なオルタナティヴ・カントリー/オルタナティヴ・フォークによって表現される。序盤から中盤にかけてはミート・パペッツのサイケ・フォークに近いメキシカンな雰囲気が感じられるでしょう。

 

さらに、中盤になると、カナダをモチーフにした楽曲「Vancouver1」で、チルアウト風のフォーク音楽に様変わりし、「2」では、クラシカル風のギター音楽の影響を感じさせる涼やかな曲が繰り広げられる。続いて「3」では、ミニマル・ミュージックに根ざした淡々とした音楽が展開される。これらはマック・デマルコが体験した情景の儚さが上手く表現されているように思えます。また、同じく「Edmonton」は、移調を交えた気安いオルタナティヴ・フォークという形で展開される。

 

クライマックスになっても、曲調は流動的に移ろい変わり、「Chicago」では、雰囲気がガラッと変わり、アシッド・ハウスやローファイに根ざしたフォーク音楽に転じていき、「Chicago 2」では、ディズニーのテープ音楽のようなアナログ・シンセの音色をセンスよく融合させたダウンテンポへと引き継がれていきます。アルバムのラストに収録されている「Rockaway」では、以前の活動拠点であったニューヨークを懐かしく振り返り、淡い郷愁のような感慨が端的に表現されています。


 

76/100

 


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