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Matilda Mann


Matilda Mann(マチルダ・マン)は、ロンドンの気鋭のインディーフォークシンガーとして同地のシーンに名乗りをあげた。これまでは心に染みるような哀感のあるフォークミュージックを制作してきた。マチルダ・マンは、自身の恋愛にまつわる感情をもとにセンチメンタルなポップミュージックでリスナーを魅了してきた。誰にでも起こりうる内的な感覚をギターに乗せて歌う。


シンガーソングライターというのは、人間的な成長とともにその音楽性も変化していかざるを得ない。ソングライティングは、ある人物のポートレイトを意味する。充実したときやそうでない時も、明るい時も暗い時も、鮮やかに歌い上げるのが優れたシンガーでもあるのかもしれない。

 

今週、発売された2曲のニューシングルのうち一曲は、これまでのマンの作風とはやや異なる。「Meet Cute」はシンガーソングライターのネオソウルに対する傾倒が伺える。そして「Tell Me That I'm Wrong」では、従来のセンチメンタルで繊細なインディーフォークを披露している。


「Meet Cute」についてマチルダ・マンはこう語っている。 「この曲は、好きな人に何度も何度も会いたいという気持ちを歌っているんだ」

 

「Meet Cute」

 

この曲には、ベン・ハリス監督によるミュージックビデオが付属している。「初めて誰かに会うというのは、アドレナリンが出まくるものなんだ」


「何が起こるかわからない可能性が、頭の中を狂ったように駆け巡る。何度も何度も会いたいと願う。だから、私たちは何度も会えるビデオを作りました!パーティー、駅、そして古典的な映画の "ミート・キュート "のスタイルで彼らに会う」


同時に配信されたもうひとつのニューシングル「Tell Me That I'm Wrong 」について、彼女は付け加えた。

 

「誰かを好きになる最良の方法は、ゆっくり落ち着いていくことだと思う。予期せぬことだけど、とても正しいと感じるとき。時間をかけて、言葉をかけて、やがてすべてがうまくいく。あなたはただそれを始めさせなければならないの」

 

 

「Tell Me That I'm Wrong 」

Weekly Music Feature - Sinai Vesselシナイ・ヴェッセル)

Sinai Vessel



このアルバムは啓示的なオルタナティブロックの響きに満ちている。導きなのか、それとも単なる惑乱なのか。それはおそらくこのアルバムに触れることが出来た幸運なリスナーの判断に委ねられるだろう。


天が開いて、神の前腕が雲から飛び出し、あなたのアバターのボディーに「SONGWRITER」という謎の文字を叩きつけるとする。そのとき、この職についているあなたはなんというだろう?


今まさに、”曲を書くこと”が天職なのか、単なる呪縛なのかが問われている。湖から剣を引き抜き、勝利の凱歌を揚げるか? それとも、皮膚が腫れ物に這わされ、背後の農作物が炎上するのか? 


果たして、曲作りやソングライティングの習慣は、ガーデニングのようにやりがいのあるものなのか? それとも、ビールを2本飲むたび、タバコを1本吸うような、薄汚い習慣なのだろうか? 


曲作りは仕事なのか? 聖なる義務? それとも、世の中流階級以上の荒くれにとって、たまにやりがいを感じさせる趣味なのだろうか? もし私が、言葉とメロディーのハイヤー・パワーによって定められた運命を受け入れるとしたら、一体どうやって医療費を払えば良いのか?


ノースカロライナ州アッシュヴィルのケレイヴ・コーデスによるプロジェクト、シナイ・ヴェッセルの4枚目のアルバムは、教会の地下のサポートグループでの告解のようでもあり、未来の叙事詩のようでもある。その言葉が、Tシャツにデカデカとプリントされたり、特に神経質な介助犬のベストに警告としてプリントされたりするのを想像してみると、なんだか愉快でもある。


チーフ・ソングライターのケイレブ・コーデスは、このアルバムの最初のトラックで "どうでもいいこと "と、 "何らかの理由があって "起こることの両方を歌っている。シナイ・ヴェッセル・プロジェクトには、素晴らしく、見事な、そして滑稽なソングス(滑稽というのが一番難しい)が含まれている。仮にその事実がなければ、この葛藤や矛盾は実体化することはなかった。


しかし、ケレイヴ・コーデスは、Tom WaitsやM. Wardといった米国の象徴的なシンガーソングライターと同じように、連作を書くように運命によって定められているらしい。彼にとってソングライティングとは、書いているのではなく書かざるを得ないものなのだ。「Birthday」の親密で小説的な畏敬の念を考えてみよう。または、「Dollar」の微妙な経済パニックは、市場の暴落という恐怖の下、道路から逸れた車のあざやかな水彩画をエレガントに描きだそうと試みる。「馬は、いつも私の心の中で果実を踏みつける。私の考えでは、10年間どうしようもないものを食べ続け、何度もおかわりをする」というのは、これまで聞いた中で最高の冒頭のセリフのひとつだ。なんてこと、もしかしたら彼は本当にこの技術に召されているのかもしれない!!


しかし、これらの予言的でもある鋭い一節をどんなふうに捉えたらいいのだろう? 長年のコラボレーターであるベネット・リトルジョン(Hovvdy、Claire Rousay)が、芸術的で巧みな共同プロデュースを手がけ、Sinai Vesselをあらゆるプリズムのフレーバーで描き出した。


ウェルチ・スタイルのしなるようなアコースティックな小曲、デス・キャブ・フォー・キューティのベストアルバムのタッチ、解体されたボサノヴァ、ワッフル・ハウスのジュークボックスを思わせるナッシュヴィルのストンパー(ジョディのニック・レヴィーンによる超プロ・ペダル・スティールがフィーチャーされている)、そして、最も驚くべきは、デフトーンズに隣接し、囁くように歌うヘヴィネスが、迷子の鳥のようにあなたの部屋に飛び込んでくるはずだ。


各々のソングライティングのスタイルのチャレンジは、レッキング・クルーのリズム・セクションによって成し遂げられた。リトルジョンのド迫力のベースとアンドリュー・スティーヴンスのドラム(シナイ・ヴェッセルの『Ground Aswim』で見事な演奏を披露した後、ここでは再びドラムを叩いている)が、アルバムのスウィングを着地させ、コーデスのベッドルームでレコーディングされたヴォーカルの親しみを、自信に満ちた広がりのある世界に根付かせる。


シナイ・ヴェッセルは、アトランタの写真家トレント・ウェインと異例のコンビを組んでいる。彼の不気味なフラッシュを多用したアルバムのハイコントラストのアートワークは、彼らの相乗効果から生み出された。シュールな道化師の特権的視点をもたらし、曲の冷徹なリアリズムとぴたりと合致している。そしてコーデスは、後期資本主義の恐ろしい空模様を巧みに描写し、ウェインは、その予兆である広々とした空っぽの高速道路と空っぽの店舗を捉えてみせる。


あなたは、リプレイスメンツの 「Treatment Bound」という曲をご存知だろうか? この曲は彼らの最も酔狂なアルバムのひとつで、リスナーに対する最後の「ファック・ユー」とでも言うべき愉快な曲。コーデスがグレープフルーツ・スプーンでニッチを切り開こうとし、ストリーミングの印税や信託資金の権力に真実を語りかけるかのような、DIY生活者のブラックユーモアに溢れている。その代わり、コーデスは、苦笑いをしながら、それらのリアリズムに首を振り、自分が見ているものが信じられないというように、代わりに「ファック・ミー」と言う。


私たちと友人が一緒に、必死に考え抜かれたノイズを商業生産のプラスチックの箱の底に押し込めることがどれほど馬鹿げているのだろうか。そして、「夕飯を食べるために歌う」という、現代のアメリカの中産階級の失われつつある天職の中で、シナイ・ヴェッセルはあり得ない奇跡を成し遂げてみせる。- Ben Sereten (Keeled Scales)



Sinai Vessel 『I Sing』/ Keeled Scales   -ナッシュヴィルのシンガーソングライターが掲げる小さな聖火-

  

今年は、主要な都市圏から離れたレーベルから良いアルバムが発売されることがある。Sinai Vissel(シナイ・ヴェッセル)の4作目のアルバム『I Sing』はテキサスのKeeled Scalesから本日発売された。

 

何の変哲もないような出来事を歌ったアルバムで、それは日常的な感覚の吐露のようでもあり、また、それらを音楽という形にとどめているに過ぎないのかもしれない。少なくとも、『I Sing』は、家の外の小鳥がさえずるかのように、ナッシュビルのソングライターがギターやドラム、シンセ、ベースという基本的なバンド編成を元にして、淡々と歌い、曲集にまとめたに過ぎない。もちろん、メガヒットはおろか、スマッシュヒットも記録しないかもしれない。マニアックなオルトロックアルバムであることはたしかだ。

 

しかし、それでも、このアルバムには、男性シンガーソングライターとしての魅力が詰め込まれており、ニッチなオルトロックファンの心をくすぐるものがある。シナイ・ヴィッセルの曲には、M.Wardの系譜にある渋さや憂いが内在している。男性シンガーの責務とは、一般的な苦悩を自らの問題と定義付け、説得力のある形で歌うことである。それが彼の得意とするオルタナティブ・ロックの領域の中で繰り広げられる。メインストリームから適度に距離を置いた感覚。彼は、それらのスターシステムを遠巻きに眺めるかのように、淡々と良質なロックソングを演奏している。分けても素晴らしいのは、彼はロックシンガーではなく、一般的な市民と同じように歌を紡いでいる。そして、Keeled Scalesの素朴ではあるが、夢想的な空気感を漂わせる録音の方針に溶け込んでいる。アーバンなオルトロックではなく、対極にあるローカルなオルトロック......。もっといえば、80、90年代のカレッジ・ロックの直系に位置する。R.E.M、The Replacementsの正当な後継者を挙げるとするなら、このシナイ・ヴィッセルしか思い浮かばない。

 

米国的な善良さは、グローバリゼーションに絡め取られ、失われたものとなった。ローカルな感覚、幹線道路のネオン・サイン、もしくは、ハンバーガーショップやアイスクリームショップの幻影......。これらは、今や古びたものと見なされるかもしれないが、アメリカの文化の大きな醍醐味でもあったのである。2010年代以降、そのほとんどが目のくらむような巨大な経済構造にかき消されてしまった。それにつれて、2000年代以降、多くのソングライターが、ローカルな感覚をどこかに置き忘れたてしまったか、捨ててしまったのだった。それと引き換えに、都会性をファッションのように身につけることにしたのだった。それは身を守るために必要だったのかもしれないが、ある意味では別の誰かを演じているに過ぎない。そしてシナイ・ヴィッセルは、巨大な資本構造から逃れることが出来た稀有な音楽家である。このアルバムは、テキサスのHoovdyを彷彿とさせる善良なインディーロックやポップソングという形を取っている。

 

そして、ケレイヴ・コーデスのソングライティングやボーカルには、他では得難いような深みがある。

 

エルヴィス・コステロ、ポール・ウェスターバーグ、ボブ・モールド、Pedro The Lionのデイヴィッド・ハザン、ビル・キャラハン、Wilcoのジェフ・トゥイーディーの系譜にある。つまり、この人々は、どこまでも実直であり、善良で、愛すべきシンガーソングライターなのである。


そして、基本的には、ケレイヴ・コーデスは、フォークやカントリーはもちろん、ブルースに重点を置くシンガーソングライターである。このブルースというジャンルが、大規模な綿畑の農場(プランテーション)の女性労働者や男性の鉄道員が労苦を和らげるために歌ったところから始まったことを考えると、シナイ・ヴィッセルのソングライターとしての性質は、現代的なワークソングの系譜に位置づけられるかもしれない。彼の歌には南部の熟成したバーボンのように、泥臭く、渋く、苦味がある。ある意味、軟派なものとは対極にあるダンディズムと憂いなのだ。


もちろん、現代的で親しみやすいロックソングのスタイルに昇華されていることは言うまでもない。彼のロックソングは、仕事後の心地よい疲労、華美なものとは対極にある善良な精神性により構築される。派手なところはほとんどない。それでも、それは日々、善良な暮らしを送り、善良な労働を繰り返している、同じような純朴な誰かの心に共鳴をもたらすに違いない。そう、彼のソングライティングは日常的な労働や素朴な暮らしの延長線上にあると言えるのだ。

 

アルバムの冒頭「#1 Doesn’t Matter」は、ボサノヴァを咀嚼した甘い感じのインディーロック/フォークソングで始まる。シナイ・ヴィッセルのボーカルは、Wilcoのジェフを思わせ、ノスタルジックな思いに駆られる。親しみやすいメロディー、乗りやすいリズム、シンプルだが心を揺さぶるハーモニーと良質なソングライティングが凝縮されている。ボサノヴァのリズムはほんの飾りのようなもの。しかし、週日の仕事の疲れを癒やすような、週末の最後にぴったりの良質なロックソングだ。この曲には、日々を真面目に生きるがゆえの落胆もある。それでもアコースティックギターの演奏の背後に、癒やしや優しげな表情が垣間見えることがある。曲の最後には、ハモンド・オルガンがコーデスの歌のブルージーなムードを上手い具合に引き立てる。

 

そっけないようで、素朴な感じのオルトロックソングが続く。彼は内面の奥深くを掘り下げるように、タイトル曲「 #2 I Sing」で、内的な憂いや悲しみを元に情感溢れるロックソングを紡いでいる。イントロは、ソフトな印象を持つが、コーデスの感情の高まりと合わせて、ギターそのものも激情性を帯び、フックのあるオルトロックソングに変遷していく。これらはHoovdyの楽曲と同じように、エモーショナルなロックへと繋がる瞬間がある。そして注目すべきなのは、都会性とは異なるローカルな感覚を持つギターロックが序盤の音楽性を決定づけていることだ。

 

「#3 How」は、Wilcoのソングライティングに近く、また、Youth Lagoonのように、南部の夢想的なオルトロック/ポップとしても聴くことができる。シナイ・ヴィッセルは、南部的な空気感、土地の持つ気風やスピリットのようなものを反映させて、砂煙が立ち上るような淡い感覚を作り出す。ヴィッセルはハスキーなボイスを活かし、オルタネイトなギターと乾いたドラムを背景にして、このソングライターにしか作りえない唯一無二のロックソングの世界を構築してゆく。表面的には派手さに乏しいように思えるかもしれない。しかし、本当にすごいロックソングとは、どこかしら素朴な感覚に縁取られているものである。曲の中でソングライターの感情と同期するかのように、ギターがうねり狂うようにして、高められたかと思えば、低くなる。低くなったかと思えば、高められる。最終的に、ヴィッセルは内側に溜め込んだ鬱屈や悲しみを外側に放出するかのように、ノイズを込めたダイナミックなロックソングを作り上げる。

 

「#4 Challenger」では内省的な感覚を包み隠さず吐露し、それらをオルトフォークの形に昇華させている。ビル・キャラハンの系譜に位置し、大きな曲の変遷はないけれども、曲のいたるところに良質なメロディーが散りばめられている。アコースティックギターとシンセサイザーの演奏をシンプルに組み合わせて、温和さと渋さの間を行き来する。やはり一貫して南部的なロマン、そして夢想的な感覚が織り交ぜられ、ワイルドな感覚を作り出すこともある。しかし、この曲に深みを与えているのは、ハスキーなボーカルで、それらが重さと軽さの間を揺らめいている。

 

「#5 Birthday」は、Bonnie Light Horsemanのような夢想的なオルトフォーク/カントリーとして聴くことができるだろうし、American Footballの最初期の系譜にあるエモとしても聴くことができるかもしれない。アメリカーナを内包するオルタナティヴ・フォークを基調にして、最近、安売りされるようになってしまったエモの原義を問いかける。彼は、一貫して、この曲の中で、ジョージア、テネシーといった南部への愛着や親しみを示しながら、幹線道路の砂埃の向こうに、幻想的な感覚や夢想的な思いを浮かび上がらせる。彼の歌は、やはり、ディランのようにそっけないが、ハモンド・オルガンの音色の通奏低音が背後のロマンチズムを引き立てている。 また、Belle And Sebastianの最初期の憂いのあるフォーク・ミュージックに近い感覚もある。

 

 

「Birthday」- Best Track

 

 

 

その後も温和なインディーロックソングが続く。考えようによっては、シナイ・ヴィッセルは失われつつある1990年代前後のカレッジ・ロックの系譜にある良質なメロディーや素朴さをこのアルバムで探し求めているように思える。先行シングルとして公開された「Laughing」は、前の曲で示されたロマンチズムをもとにして、アメリカーナやフォークミュージックの理想的な形を示す。ペダル・スティールの使用は、曲のムードや幻想的な雰囲気を引き立てるための役割を担う。そして曲の背景や構造を活かし、シナイ・ヴィッセルは心温まるような歌を紡いでいく。この曲も、Belle And Sebastianの「Tigersmilk」の時代の作風を巧緻に踏襲している。

 

ポール・ウェラー擁するThe Jamのようなフックのあるアートパンクソング「Country Mile」は、中盤のハイライトとなるかもしれない。ガレージ・ロックやプロト・パンクを下地にし、シナイ・ヴィッセルは、Televisonのようなインテリジェンスを感じさせるロックソングに昇華させている。荒削りなザラザラとしたギター、パンクのソングライティングの簡潔性を受け継いだ上で、コーデスは、Wilcoのように普遍的で良質なメロディーをさりげなく添える。そして素朴ではありながら、ワイルドさとドライブ感を併せ持つ良質なロックソングへと昇華させている。この曲の簡潔さとアグレッシヴな感覚は、シナイ・ヴィッセルのもう一つの武器ともなりえる。

 

 アルバムの終盤には、ウィルコと同じように、バロックポップを現代的なオルトロックソングに置き換えた曲がいくつか見いだせる。「#8 $2 Million」は、メロトロンをシンセサイザーで代用し、Beatles、R.E.M、Wilcoの系譜にあるカレッジ・ロックの醍醐味を復活させる。コーデスは、後期資本主義の中で生きざるを得ない現代人としての悲哀を織り交ぜ、それらを嘆くように歌っている。そして、これこそが多数の現代社会に生きる市井の人々の心に共鳴をもたらすのだ。その後、しなやかで、うるおいのあるフォークロックソング「#9 Dollar」が続く。曲ごとにややボーカルのスタイルを変更し、クレイヴ・コーデスは、ボブ・ディランのようなクールなボーカルを披露している。ローカルな感覚を示したアルバムの序盤とは正反対に、アーバンなフォーク。この曲には、都市のストリートを肩で風を切って歩くようなクールさが反映されている。2024年の「Liike A Rolling Stone」とも呼べるような興味深いナンバーと言えるか。

 

アルバムの序盤では、ウィルコやビル・キャラハンのようなソングライターからの影響が見いだせるが、他方、終盤ではBell and Sebastianの系譜にあるオルトフォークソングが色濃くなってくる。 これらのスコットランドのインディーズバンドの主要なフォークソングは、産業化や経済化が進む時代の中で、人間らしく生きようと試みる人々の矛盾性、そこから引き出される悲しみや憂いが音楽性の特徴となっていた。そして、シナイ・ヴィッセルは、その特徴を受け継いでいる。「#10 Window Blue」、「#11 Best Wetness」では、憂いのあるフォークミュージックの魅力を堪能できる。特に後者の曲に漂うほのかな切なさ、そして、淡いエモーションは、クレイヴ・コーデスのソングライターとしての高い能力を示している。それは M.Wardに匹敵する。 

 


「Best Wetness」- Best Track 

 

 

アルバムの終盤は、 大掛かりな仕掛けを作らず、素っ気無い感じで終わる。しかし、脚色的な音楽が目立つ中、こういった朴訥なアルバムもまた文化の重要な一部分を形成していると思う。そして、様々なタイプの曲を経た後、シナイ・ヴィッセルは、まるで南部の田舎の中に踏み込むかのように、自然味を感じさせるオーガニックなフォーク・ミュージックの世界を完成させる。

 

「Attack」は、ニューヨークのグループ、Floristが行ったように、虫の声のサンプリングを導入し、オルトフォークソングをアンビエントの音楽性と結びつけて、シネマティックな音楽を構築している。さらに、クローズ「Young Brother」では、アコースティックギターとドラムのシンバルのパーカッシヴな響きを活用して、夏の終わりの切ない雰囲気を携えて、このアルバムはエンディングを迎える。アルバムは、短いドキュメンタリー映像を観た後のような爽快な感覚に満ち溢れている。 それは、ハリウッド映画や大手の配給会社とは対極にあるインディペンデントの自主映画さながら。しかし、その素朴さこそ『I Sing』の最大の魅力というわけなのだ。

 

 

 

85/100 

 

 

「Doesn't Matter」 

 

 

 

* Sinal Vessel(シナイ・ヴィッセル)によるニューアルバム『I Sing』はKeeled Scalesから本日発売。ストリーミングや海外盤の購入はこちら

 

©︎Dear Life Records

Lindsay Reamer(リンジー・リーマー)は、ニューアルバム『Natural Science』をディア・ライフから8月16日にリリースすると発表した。この発表に伴い、フィラデルフィアを拠点に活動するシンガーソングライターは「Figs and Peaches」を公開した。


このニュー・シングルについて、リーマーは声明の中で次のように述べてい


「『Figs and Peaches』を書いたのは、ミシシッピ州のナッチェス・トレース沿いのある場所で、外来植物に関するトレイル・サインを読んだ後だった。20世紀初頭に、壊れやすい磁器を出荷する際の梱包材として使われたため、日本の高床植物が初めて北米に持ち込まれたことを知った。今ではテキサス州以東ではどこでも見られるようになった。


また、最近取り壊されたサウス・ジャージー州の石炭発電所であるB.L.イングランド発電所にまつわる言い伝えも参考にした。発電所を囲む温水が、通常なら南へ回遊する魚を引き寄せ、絶好の釣り場となったという噂だ。このことから私は、環境史の中で重要なテーマである「意図せざる結果」について考えるようになった。


個人的なレベルでは、良くも悪くも、自分たちの周りにあるものに影響を与えることができるということは、何か奇妙な心地よさがあると思う。この曲では前者に焦点を当てている。このフレーミングは、僕を絶望的な気分ではなくしてくれる。だからこの曲は、僕自身の小さな人生でもそのことを忘れないようにしよう、受け身にならないようにしようということを歌っているんだと思う。手を伸ばし、自分の実を摘み、自分のものにする。」






『Natural Science』

Label:  Dear Life
Relaeae: 2024年8月16日

Tracklist:


1. Today

2. Spring Song

3. Red Flowers

4. Sugar

5. Lucky

6. Mushroom House

7. Necessary

8. John’s Song

9. Figs and Peaches

10. Heavenly Houseboat Blues

 

Laura Marling

ロンドンのシンガーソングライター、Laura Marling(ローラ・マーリング)は、ニュー・アルバム『Patterns in Repeat』を2024年10月25日にクリサリス/パルチザン・レコードからリリースする。この発表に合わせて、ローラはアルバムのファースト・シングル『Patterns』を公開した。


『Patterns in Repeat』は、ローラがロンドンの自宅スタジオで作曲、レコーディング、プロデュースを行った。2020年に発表され高い評価を得た『Song For Our Daughter』が、架空の娘に向けて、また娘について書くという観点から比喩的に書かれたとすれば、『Patterns in Repeat』は2023年に娘が誕生した後に書かれた。


ローラは家族という星座の中で繰り広げられるパターンについて考察している。この曲は、彼女の人生において非常に具体的で啓示的な時期に根ざしたものであり、何世代にもわたって家族を通して耐えてきた考え方や行動を深く見つめ直したものである。


このアルバムは、ほぼ全編マーリングの自宅スタジオでレコーディングされ、ドム・モンクスが共同プロデュース、ストリングスの巨匠ロブ・ムースも参加している。このレコーディング・セッションには、ローラの娘がしばしば同席しており、アルバムの内容の比喩的な親密さだけでなく、純粋に状況的なものも反映している。


『Patterns in Repeat』は、常に多作なイギリスのミュージシャンによる8枚目のスタジオ・アルバムであり、彼女の15年のキャリアの中で、新作が出るまで最も長い間待たされたことになる。


「Patterns」



Laura Marling 『Pattern In Repeat』


Label: Chrysalis /Partisan 

Release: 2024年10月25日


Tracklist:

1 Child Of Mine 

2 Patterns 4 

3 Your Girl 

4 No One's Gonna Love You Like I Can 

5 The Shadows 

6 Interlude (Time Passages) 

7 Caroline 

8 Looking Back 

9 Lullaby 

10 Patterns In Repeat 

11 Lullaby (Instrumental)

 

Katy J Pearson


グロスターシャー出身のシンガーソングライター、ケイティ・J・ピアソンは、近日発売予定のアルバム『Someday, Now』から新曲「Sky」をリリースした。ブリオンのプロデュースによるこの曲は、リード曲「Those Goodbyes」に続くセカンドシングル。ピアソンらしい70年代のトラッドフォークのアプローチにオルトロックのテイストが添えられている。クランチなギターも心地よく、シンガーソングライターの歌声と上手くマッチしている。試聴は以下から。


「この曲は、私がどれだけ遠くまで来たか、私はここにいる価値がある、と自分自身に言っているような気がするわ」とピアソンは声明で語っている。

 

「私はいつも場所を取るのが恥ずかしかった。今となっては、これが3枚目のレコード! 信じられないようなプロデューサーと、私と一緒にこれを作りたいと言ってくれた選りすぐりの素晴らしいミュージシャンたちと一緒に仕事ができました」


2022年の『Sound of the Morning』に続く『Someday, Now』は、Heavenly Recordings/PIASから9月20日にリリースされる。

 


「Sky」

Liza Lo
Liza Lo

ロンドンを拠点に活動するプロデューサーでシンガー・ソングライターのLiza Lo(リザ・ロー)が、「A Messenger」に続くセカンドシングル「Confiarme」を発表した。 配信リンクは下記より。


ドーター、マロ、ビリー・マーティンなどからインスピレーションを得たリザ・ローのサウンドは、穏やかなフォーク風のインストゥルメンテーションとインディーポップが交差する場所にある。


ギタリストと共にスタジオでライヴ・レコーディングされ、クリス・ハイソン(ジョーダン・ラケイ)とジョン・ケリー(ポール・マッカートニー、ケイト・ブッシュ)らがプロデュースを担当した新曲「Confiarme」は、リザが柔らかなフィンガー・ピッキングに乗せてスペイン語で落ち着いたヴォーカルを歌っている。


極めて優美な玄なバッキング・ヴォーカルのアレンジの下には、壊れやすくクリスタルのようなピアノ・ラインが飛び交い、激しく浮き沈みするトラックを盛り上げている。


同楽曲について彼女は、次のように話している。


「これは、親友のアンドリー・キドス、ドワラ、コットン・パーム、オッドリカーとスペイン北部で1週間過ごした後に書いた曲なの」


「彼らは、自己と互いを信頼することの本当の意味を思い出させてくれました。その頃私たちは皆、音楽制作から少し距離を置いていたんだけど、彼らと一緒に時間を過ごすことは、自分自身を再認識するために必要なことだったわ。適切な人たちと休暇を取ることは、自分を信じる大切さというものを思い出させてくれたから」


「彼らは、とある関係を終わらせたばかりで、自分自身を本当に信じられなかった私に、純粋な友情と信頼を見せてくれました。自分自身を疑い、間違ったことをしたと感じるループに陥るのは簡単なことで、自分自身と自分の決断を信じることは、私にとってそれほど簡単ではないの」

 

「友情は人生を本当に意味あるものにしてくれる。屈託のない微笑み、嬉し涙、そして互いの習慣や相違、あるいは共通点に対する純粋な理解から芽生える友情……。『Confiarme』には、人生において自分自身を信頼することは、本当に自由を感じることだという意味が込められているの」

 

ニューシングルはロンドンのGear Boxからリリースされたデビューシングル「Messenger」と同じように、アコースティックギターによる弾き語り。爽やかなフォークミュージックの気風に縁取られ、スペイン語のソフトな感覚を持つリザ・ローのボーカルが南欧の安らいだ息吹を吹き込む。聞きやすさと深みを併せ持つこの曲は、玄人のリスナーも唸らせる何かがありそうだ。


 

 


Liza Lo 「Confiarme」- New Single


Label : Gear Box

Release: 2024年7月3日


Save/Add(楽曲のストリーミング):  https://bfan.link/confiarme



Liza Lo Biography: 

 

スペインとオランダで育ち、現在はロンドンを拠点に活動するシンガー・ソングライター、プロデューサー、ミュージシャン。親密で詩的な独自の音楽世界を創り出す彼女は、ドーター、マロ、ビリー・マーティンなどからインスピレーションを受け、生々しいヴォーカルと誠実なソングライティングで聴く者を内省と静寂の世界へと誘う。

 

最新EP『flourish』は、Spotifyの「New Music Friday UK」、「NL」、「BE」にセレクトされ、「the most beautiful songs in the world」プレイリストでも紹介された。2024年5月、Gaerbox Recordsとの契約およびデジタル・シングル「A Messenger」のリリースを発表。

 

現在は、西ロンドンのスタジオ13で、ジョン・ケリー(ポール・マッカートニー、ケイト・ブッシュ)とバンドと共にアルバムの制作に取り組んでいる。

 


オルタナ・カントリーの魔術師、MJ Lendermanの次のアルバム『Manning Fireworks』はAnti-から9月6日にリリースされる。2022年にブレイクした『Boat Songs』の続編として期待されている。


レンダーマンは2024年、ワクサハッチーの最新アルバム『Tigers Blood』でリードギタリスト(そして時折デュエット・パートナー)を務めた。しかし今、彼は単独でスポットライトを浴びている。


リード・シングルの "She's Leaving You "は、メロディアスでウィットに富み(「服を着直せばいい、彼女は去っていく」、「フェラーリを借りてブルースを歌えばいい、クラプトンが再臨したと信じればいい」)、マタドールのカタログにあるアルト・カントリーと90年代ロックの中間を行く。


レンダーマンのバンドメイトでパートナーのWednesdayのカーリー・ハーツマンがハーモニーを提供し(曲のフィナーレでは、脈打つベースラインの上で曲のタイトルを歌っている)、彼はピッチの上がったギター・ソロに突入する。「It falls apart, we all got work to do "とレンダーマンは歌う。


「She's Leaving You」




MJ Lenderman 『Manning Fireworks』


Label: ANTI-

Release: 2024年9月6日


Tracklist:

Manning Fireworks

Joker Lips

Rudolph

Wristwatch

She’s Leaving You

Rip Torn

You Don’t Know the Shape I’m In

On My Knees

Bark at the Moon

 


 

LAを拠点に活動するソングライター兼ミュージシャンのJensen MacRae(ジェンセン・マクレー)が新曲「Massachusetts」を発表し、Dead Oceans(ミツキ、フィービー・ブリジャース、クルアンビン)との契約を発表した。8月7日にロンドンのセント・パンクラス・オールド・チャーチで行われるUKライブも発表された。チケットは6月14日(金)に発売される。

 

「私は主人公症候群ではなく、語り手症候群なのです」とジェンセン・マクレー。彼女の曲作りは、タイトルやコンセプトを抄出するかのようで、耳に残った言葉やフレーズの、ほんの些細な断片から始まる場合が多い。会話的であり、”彼女の周りの人々や場所から閃く”というインタラクティブなもの。それは、多作で寛大、更に失敗を恐れぬマクレーの作品にも表れている。

 

同レーベルからの最初のリリースとなる「マサチューセッツ」は、マクレーのファンからの支えによって完成されたネットミーム的な作品で、不足の感覚とインターネットを通じての想像の余地から生み出されたものである。この曲は、彼女がリアルタイムでシェアしてきた多くのソーシャル・ポストの短い投稿からインスピレーションを得ており、それらは、ファンによって数々のカヴァー、解釈、デュエット、タイトルさえも生み出した。やがて完成ヴァージョンを想像するファンの大群によって、#videogames、#christianbaleとして知られるに至った。上記のエピソードはジェンセン・マクレーのインフルエンサーとしての適正を象徴づけている。



「マサチューセッツ」で目に飛び込んでくるのは、失恋後に訪れる憧憬や余韻のような、柔らかくも疲れたような感覚。癒しの軽さ、一緒にいて良かったことを思い出す自由...。それらの感覚が多数のファンの心に共鳴をもたらしたことは想像に難くない。リリースに先駆け、ノア・カハンをサポートするツアー中のアリーナで、ファンはこの曲をマクレーに歌い返していたという。

 

ジェンセン・マクレーは当初、この曲を煮詰めることをためらっていたというが、最終的に完成させることを決断した。彼女は、その時の緊張感をはっきりと認めている。「私は完璧主義者ではないのです」とマクレーは言う。マクレーは最終的に、プロデューサーのブラッド・クック(ワクサハッチー、ハーレイ・フォー・ザ・リフ・ラフ、ボン・アイヴァー)とスタジオ・バージョンをレコーディングする前に、ツアーのかたわら「マサチューセッツ」を完成させた。

 

 

「Massachusetts」

 


Adrianne Lenker(エイドリアン・レンカー)が『Bright Future』の収録曲「Evol」のミュージックビデオを公開した。監督はMega BogのErin Birgy「エリン・バーギー)が務めた。以下よりご覧ください。


エリン・バーギー曰く、このビデオは「根を下ろさず、つながりの現実に疑問を抱き、さまよう人の肖像」である。

 

「彼らの好奇心は、風景とそこから投資された人々を通して導かれる。この人物は、自我のない場所と存在の相互関係を否定しようとする植民地主義に後押しされたストイックな個人主義を卒業しようとしている」


「この映画は魔術的リアリズムを駆使して、異質な、そしてしばしば心を揺さぶるような知覚の転換を象徴的に表現している。この映画を作るために、砂漠のネズミ、農夫、アーティスト、馬、さらに宇宙人からなる素晴らしいチームを得た。エイドリアンヌや私の親しい友人たちと、この音楽以外の物語を語るプロジェクトで協力できたことは、とても特別なことだった」


アルバムのハイライトである「Evol」は、レンカーの絶妙な言葉遊びがフォーク・ミュージックの豊かな伝統の中にしっかりと立っているように、鏡の中にある愛を探求している。意味が現れたり、枠から外れたりしながら、言葉は反転する。愛はエボル(悪)となり、詐欺を教え、罠を仕掛ける。ヴォイスとヴァイオリンは、エイドリアンヌが目にしたものを受け入れるように、重さを感じさせないメロディーを繰り返す。"与える者は奪う // 奪われる者は与える"」



「Evol」


2010年代から、フランスではフォークミュージックが盛んで、ライブハウスでも若い年代のフォークバンドが多数出演している。同地はヨーロッパ・フォークの中心地の一つでもある。

 

さて、フランスのエクスペリメンタルフォークシンガー、This Is The Kitは、2023年5月19日、イギリスの風光明媚な海岸地域コーンウォールにあるMinack Theatre(ミナック・シアター)で、午後のマチネー公演と夜の公演のダブルヘッダーを行っている。

 

このライブの模様が音源化され、4月20日のレコードストアデイに発売された。本日このライブ音源がストリーミングでリリースされた。ライブパフォーマンスのワンカットの映像が公開されているので、下記より御覧下さい。


昨年のフルアルバム『Careful Of Your Keepers』とともに、それ以前の『Off Off On』、『Moonshine Freeze』からの主要曲の演奏を収録したライブ音源では、バンド(3人編成のホーン・セクションを含む)が絶好調で、素晴らしい演奏でオーディエンスの期待に応えてみせた。


このライブ音源に関するミュージシャンのコメントは以下の通りとなっている。「ファルマスの素晴らしいコーニッシュ・バンクでショーを予約している私たちの友人ウィルが、コーンウォールのミナック・シアターで私たちをブッキングするという、ちょっと野心的なアイデアを出してくれました。そこは海を見下ろすコーニッシュの崖っぷちにある、素晴らしい野外円形劇場であって、そこでギグをやるのはとても楽しいアイデアに思えました。その結果、とても壮大な環境の中で、とても壮大な1日の音楽ができあがり、それを録音する先見の明があった」

 

ディス・イズ・ザ・キットはプリマヴェーラ・ポルトに出演したほか、グラストンベリー、グリーンマン・フェスティバルなど、大型の音楽フェスティバルへの出演を控えている。 

 

Bonny Light Horseman

Bonny Light Horseman


Bonny Light Horseman(ボニー・ライト・ホースマン)のニューアルバム『Keep Me On Your Mind / See You Free(キープ・ミー・オン・ユア・マインド/シー・ユー・フリー)』は、人間性の祝福された混乱への頌歌である。


自信に満ち、寛大なこのアルバムは、あらゆる人間の感情や想定される欠点をさらけ出した、ありのままの提供物である。愛と喪失、希望と悲しみ、コミュニティと家族、変化と時間など、テーマは高く積み上げられている。ヒューマニスティックなタッチポイントのすべてにおいて、「Keep Me on Your Mind/See You Free」は、ある種の説明不可能な魔法から生み出されることになった。


2023年に5ヶ月かけて書かれたこのサード・アルバムは、バンドの中核をなすトリオ、アナイス・ミッチェル、エリック・D・ジョンソン、ジョシュ・カウフマンがこよなく敬愛してやまないコラボレーターのJT・ベイツ(ドラムス)、キャメロン・ラルストン(ベース)、レコーディング・エンジニアのベラ・ブラスコとともにアイリッシュ・パブに集まったときに始まった。

 

アナイス・ミッチェルは、オーナーのジョー・オリアリーとの間でかわされたある会話から、最初のレコーディング場所としてこのパブを提案した。彼女はこの場所について直感し、バンドメンバーの熱意に驚いていた。年季の入ったパブの中に一歩足を踏み入れるやいなや、トリオは何十年もかけて築かれたこの場所の感じられる共同体、家族のような感覚につながりを感じた。


そのパブとは、コーク州の小さな海岸沿いの村、バリーデホブにある100年以上の歴史を持つ水飲み場、リーヴィス・コーナー・ハウスと呼ばれる店で、そのエネルギーがボニー・ライト・ホースマンのクリエイティブ・エンジンの唯一の源ともなった。


パブのスペースの一角にあるアップライトピアノは、バンドの音楽のきしむ音を鎮静するための一種の精神的支点となり、アルバムのすべてのモチーフを体現するひとつの存在となった。この100年以上続く地元フォークの集いの場と、このアメリカン・フォークのトリオとの類似性は否定できない。


カウフマンは言う。「この場所には歴史が感じられるし、狭くて、あちこちにこぼれ落ちそうなものがぎっしり詰まっている。僕らのバンドのパブ版みたいだった。パブの壁に飾られてて、作業中のバンドを見守っていた絵がアルバム・ジャケットになった」


「レコーディングのほとんどの時間、その人と目を合わせていた」とジョンソンはアートワークについて語った。そして、もっと深い関連性があった。バンドがパブでのレコーディングを計画する前から、オーナーの妻はこの絵の女性をボニーと名付けていた。


リーバイス・コーナー・ハウスのような場所には魔法があるが、それを使うには適切な魔法使いが必要だ。ボニー・ライト・ホースマンの中心にあるのは、パワフルで優しい3人のアーティストの特異な組み合わせ。


彼らは最上級の言葉を巧みにかわすが、お互いを強化し、豊かにする方法と、それぞれが1人でいるよりもより良く、勇敢に、傷つきやすくする絆であると認めるのは早計かもしれない。このことは、最も優しい瞬間から最も非情にも思える慟哭に至るまで、お互いを完全に信頼して活動する彼らの声の力以上に確かなものは存在しないからである。結果、聴く者を慰め、揺り動かすだけでなく、動揺させ、打ちのめし、生まれ変わらせることができる力がある。


現実的なレベルでは、『Keep Me on Your Mind/See You Free』の "祝福された混乱 "は、群衆の愉快な騒ぎ声、笑い声、咳払いといったフィールド・レコーディングが、この特別な場所からのすべてを伝えるように、このホームへの忠実さに表れている。


しかし哲学的に言えば、"混乱 "というのはより深い感覚の証拠足りえる。それは、唯一の共同体験から生まれた不完全で魂の糧となる果実なのであり、良き仲間の精神によって参加者を変容させるものでもある。

 

ミッチェルは "ごちそう "という考え方を提唱し、友人たちとの夕食がどのようにコースや会話、時間を無理なく過ごすのか、肉体的にも精神的にも栄養価の高い食事であることを示す。「私の友人に、食卓から食器を取り出してはいけない、残骸の中に座るべき、と言う人がいます」と彼女は言う。


さらに、アナイス・ミッチェルはアルバムの制作について、「すべてを吐き出すという新しい段階があった」と語っている。

 

レコーディングからリリースへの進化において、これは2枚組LP-18曲を2枚のディスクにまとめることを意味した。それはまた、正確には異なるレコードではないにせよ、2つのタイトルを意味する。『Keep Me On Your Mind / See You Free』は、広大で心地よく、グループの魅惑的かつ芸術的なレイヤーを包括している。伝統的なフォークミュージックのサウンドと叙情的な精神がルーツであり、実験的で感情的に生々しいバンドのバージョンにより分岐している。


グループは曲の約半分をリーバイスのメインルームで録音した。彼らは2日間を単独で作業に費やした。3日目の夜には、オリアリーは何人かの熱心な住民を参加させた。このアルバムが完全なライヴアルバムというわけではない。その代わり、アイルランドのセッションの3日目は、観客が暗黙のうちにこの課題を理解していたため、エネルギーのセレンディピティ的な融合を表していた。観客は、バンドがアレンジについて話し、複数のヴァージョンの曲をレコーディングしたりするのに十分な猶予を与えた。「彼らのスポットのど真ん中でやっているのに、彼らは直感的に自分たちに求められていることを理解していた。それはまさにマジックでもあったんだ」


その後、バンドは精神的な故郷であるニューヨーク北部のドリームランド・レコーディング・スタジオ(ここでバンドは最初の2枚のアルバムを完成させた)に戻り、着手した作業を終えた。コラボレーターであるマイク・ルイスがベースとテナーサックスで参加した。アニー・ネロもアップライト・ベースを弾き、午後のひとときのハーモニーを歌うために立ち寄った。その日々は狂想曲的であると共に、癒しや安らぎに満ちていて、彼らは涙を流すように歌を歌った。


「I Know You Know(アイ・ノウ・ユー・ノウ)」の中心にある切ない迷いは、ほんの数分で明らかになった。制作における素早さは、すでに『Keep Me On Your Mind / See You Free』の大半を完成させており、創造性の「肩の上に立つ」ことができたからとトリオは言う。この曲は感情の荒廃を特異なポップ・センスと結びつけるバンドの能力を示しており、それはアルバム全体を通して一貫性がある。マンドリンに彩られた気持ちの良いアレンジとアンセミックなコーラスは、リフレインという要素がいかにリスナーの心を捉えるのかを裏付けている。「君を愛すれば愚か者、君を手放せば愚か者」とジョンソンは歌い、ミッチェルの歌声が彼とともに高鳴る。


解き放たれた人間関係をフォーク・ロックで描いた「Tumblin Down」もそのメロディーの複雑性においてよく似ている。イングマール・ベルイマンの『ある結婚の情景』の精神を歌にしたようなもので、表面は軽いが、内側には実存的な危機が織り込まれている。その一方、「When I Was Younger」は、原始的な叫びであり、母性、成熟、そして、折り目正しき社会が口に出して言わないことすべてをオープンに受け止めている点で革新的である。この曲では、ミッチェルとジョンソンの蜜のような声が出会い、溜め込んだ感情から形成された双頭の獣へと変貌する。


「Old Dutch(オールド・ダッチ)」は、カウフマンの故郷にある同名の歴史的な教会で録音されたボイスメモから生まれた。タイムスタンプが "Old Dutch "で、完璧すぎる。その合唱のリフレインは、それらの起源を反映している。また、このバンドが語る移り変わる愛の物語は、心が必然的に導かれる魅惑的なもの、つまり余韻の残る、しばしば非論理的な感情で締めくくられる。


『Keep Me On Your Mind / See You Free 』で、ボニー・ライト・ホースマンは独特の優美さを感じさせる。そして物事が完璧でないときこそ、人生は生き生きとしたものになるということを思い出させてくれる。長年にわたり、バンドは人生のオドメーターに多くのマイルを積み重ねてきた。それは、栄光と混沌に彩られたモダンなフォークソングに色濃く反映されている。ミッチェルは言う。「簡潔ではない、全然簡潔ではない。雑然としているけど、それでいいのよ」

 

 


「Keep Me On Your Mind/ See You Free」- jagujaguwar



 

今年のアメリカのシンガーソングライターやバンドの主要な作品の多くに見受けられる傾向として、米国人としての原点に立ち返ろうとしているということである。より詳細にいえば、アメリカ合衆国としての文化のルーツを見つめ直すということでもある。


これはある意味では、近年、たとえ、裁判等の審判の際に証言台に立つ人物が、神の名を唱えるのだとしても、キリスト教の意義が薄れてきていることの反証でもある。長らく、米国人にとっては、ひとつのドグマが浸透していたのだったが、近年の他宗教や、多民族主義、そして、様々なカルチャーや考えが複雑に混淆していることを考えると、もはや、米国が一宗教のもとに成立している国家とは考えづらいものがある。

 

また、元首としての存在感が薄れるにつれ、国家の持つ意義そのものが希薄になりつつあるように感じられる。そこで、急進的とはいわないまでも、なんらかの一家言を持つミュージシャンは、旧来の国家主義から距離を置いた考えを主体にせざるをえない。そして、あらためて音楽家たちは、「アメリカとは何か?」ということを音楽や芸術、全般的な表現形態を通じて追い求める。

 

チャールズ・ロイド、パール・ジャム、アンドリュー・バード、エイドリアン・レンカーの今年のアルバムを見ると分かる通り、ジャズ、ミュージカル、トラディショナルフォークやアメリカーナ、ロック、メタル、ポップ、エレクトロニック、実験音楽等、ミュージシャンの人生観によってそれぞれ探求するものがまったく異なるのだ。 

 

アナイス・ミッチェル、エリック・D・ジョンソン、ジョシュ・カウフマンからなるBonny Light Horseman(ボニー・ライト・ホースマン)も同じく、トラッド・フォークやアメリカーナという彼らのスタイルを通じて、アメリカのルーツに回帰している。バンドは基本的にはツインボーカル(トリプルボーカル?)のスタイルをとり、曲ごとにメインボーカリストが入れ替わる。

 

もちろん、トラッドなフォークミュージックの範疇にあるボーカルが披露されたかと思えば、ソウルフルなボーカル、ジャジーなボーカルというように、ボーカリストの人柄や性質ごとにその曲の雰囲気も変化する。

 

また、ブラック・ミュージックのコーラスグループやその後のドゥワップのグループのように、ミッチェル、ジョンソン、カウフマンの三者三様の麗しいハーモニーが生み出される。それはゴスペルに変化することもある。音楽を聴けば分かる通り、メンバーの異なる性質を持ち寄り、その個性を突き合わせ、最終的には淡麗なハーモニーを持つフォーク・ソングとして昇華される。

 

 

 『Keep Me On Your Mind』

 

 ・1−5

 

『Keep Me On Your Mind/ See You Free』は、一時間以上の尺を持つ(ダブル)アルバムという構成を持つ。基本的にはトラディショナルフォークやアメリカーナを中心に20曲が収録されている。手強い印象を覚える。

 

しかし、ミッチェルが「簡潔ではないアルバム」と指摘するにしても、意外なほどスムースに耳に馴染んでくるのが驚きである。そのことは、ビリー・ジョエルのバラードソングのように美麗で、ゴスペル、R&B、トラッドフォークを主体とした「#1 Keep On Your Mind」を聴けば、本作の素晴らしさが掴みやすいのではないだろうか。

 

アナイス・ミッチェルのボーカルを中心に繰り広げられる温和な雰囲気は、ギターによってメロウな雰囲気を帯び、それと対比的に歌われるD・ジョンソンのボーカルがソウルフルな空気感を作り出す。つまり、一曲目で、アルバムの世界に長く浸っていたいと思わせる何かがあることに気がつく。それは、彼らのボーカルや音楽に癒しがあり、そして、包み込むような温かみがあるからなのだ。これが作品そのものの完成度とはなんら関係なく、キャッチーで親しみやすい音楽に聞こえる理由なのである。

 

その後、このアルバムは、トラッドフォークの果てなき世界へと踏み入れる。次の「#2 Lover Take Easy」 を聴くと、なぜデビューアルバムが英国のインディーズ・チャートで上位にランクインしたかが分かる。


彼らの牧歌的な雰囲気に満ちたフォークソングはアイルランドやセルティック・フォークのように開放的な雰囲気を持ち、渋さを漂わせる。 淡麗なアコースティックギターとドラムを中心とした音楽に、息の取れたボーカルのハーモニー、サックスフォンの演奏を取り入れ、ジャズと結びつけ、それらをゴージャスな音楽性に昇華させる。


その後もアルバムの収録曲は、穏やかで安らかなトラッドフォークを中心に構成されている。「#3I Know Know」は、ディランの「風に吹かれて」を思わせるフォーク・ロックだが、ボニー・ライト・ホースマンの場合は、より古典的な音楽へと沈潜している。カントリーミュージックに依拠したD・ジョンソンの甘ったるい感じのボーカルがソウルフルな渋みを生み出す。アコースティックギターのしなやかなストロークは、エレクトリックギターの演奏と溶け合い、温和な空気感を作り出す。また、アナイス・ミッチェル、D・ジョンソンのダブル・ボーカルはどこまでも澄んだ雰囲気を作り出し、ノスタルジックな気分に浸らせる。

 

アルバムの冒頭にはサンプリングが導入される。「#4 grinch/funeral」は子供の話し声の短いインタリュード。「#5 Old Dutch」は安らいだピアノのパッセージとシンセのシークエンスが溶け合い、続く曲の展開に期待をもたせた後、ジャズ・ソウルの曲へと移行する。この曲はおそらくノラ・ジョーンズが得意とするようなバラード。そして、ボニー・ライト・ホースマンは、トラッドフォークを主体とした軽やかな曲調に繋げる。その後、ハーモニカの演奏が加わるが、一見、安っぽい感じのフレーズも、バンドの演奏が強固な土台を作り出しているので、むしろそういった音色としてのチープさはユニークな印象をもたらしている。

 

 

「Keep Me On Your Mind」

 




・6−10


大枠で見ると、本作はアメリカの音楽のルーツを総ざらいするような意義が求められるかもしれない。しかし、曲単位では、バンドメンバーの個人的な回想が織り交ぜられる。そしてそういった小さな積み重ねが、大掛かりな作品を構成していることが分かる。「#6 When I Was Younger」では、ビリー・ジョエル風のバラードがジャズの音楽性と結びついている。ミッチェルは、ピアノの演奏を背景に真心を込めて歌を紡ぐ。その後、立ち代わりに、ジョンソンがボーカルを披露する。その後、カウフマンのクランチなギターがワイルドな雰囲気を作り出す。ボーカルとギターの演奏にはやや泥臭さがあるが、背景となるバックバンドの演奏はアーバンな印象を与える。これらの対極にある音楽性が巧みなコーラスワークと相まって、味わい深さを作り出す。アウトロにかけてのギターのノイズ、そして両者のコーラスワークが哀愁を醸し出す。

 

その後、温和なトラディショナルフォークに立ち返る。「#7 Waiting And Waiting」ではナイロン弦のアコースティックギターが柔らかな印象を作り出す。後から加わるドラム、そしてコーラスも楽しげな空気感を生み出す。立ち代わりに歌われるボーカルがそれらの雰囲気を上手く引き立てる。明るく、希望に充ちた、晴れやかで純粋な音楽の世界を彼らは作り出す。そしてそれは、バンドメンバーの三者三様の個性を尊重した上で、それらの相違が生み出す調和からもたらされる。淡々とした音楽のように思えるが、彼らの作り出すハミングのハーモニーは平らかな気分を呼び起こすのだ。


それらの楽しげな雰囲気は以降も続いている。チャーミングなマンドリン/バンジョーの演奏を取り入れた「#8 Hare and Hound」は、ジョン・デンバーのようなカントリー/ウェスタンの古典の原点に立ち返り、モダンな印象を付け加えている。可愛らしいミッチェルのボーカルとワイルドなジョンソンのボーカルが、コールアンドレスポンスのような形で繰り広げられて、サビではカウフマンもボーカルに加わり、ジャズのビックバンドのような楽しげな音が作り出される。カウント・ベイシーが志した人間の生命力をそのまま音楽によって表現したかのようなとても素晴らしい曲だ。

 

 

一転して、「#9 Rock The Cradle」は落ち着いたバラードソングとして楽しめる。同じようにナイロン弦から生み出される繊細なアルペジオのギターをもとに、オルタナティヴなトラッドフォークを制作している。この曲には古典的な音楽を志すバンドのもう一つの表情が伺える。つまり、Superchunk(スーパーチャンク)のようなキャラクターを見いだすことができる。彼らのコーラスは「1,000 Pounds (Duck Kee Style)」のような穏やかさを思い起こさせる。


アウトロでは、パブの歓声のサンプリングが導入され、入れ子構造のような意味を持つことが分かる。また、このレコーディングの手法については、2023年のM. Wardのアルバム『Supernatural Thing』の「Story of An Artist」でも示されていた。続く「#10 Singing to The Mandlin」で、ダブルアルバムの第一部がひとまず終了する。


この曲は、もしかすると、ビックシーフやエイドリアン・レンカーの主要曲のような感じで緩く楽しめるかもしれない。トラディショナルな音楽性に重点を置くバンドのモダンなオルタナティヴフォークソングとして。

 

 

「Hare and Hound」

 




『See You Free』

 

・11-15


 第二部はしんみりとしながらも勇壮な雰囲気を持って始まる。D・ジョンソンのボーカルはまるで、大地に向けて歌われるかのようだ。「#11 The Clover」はアメリカーナの原点にあるアイルランド性を呼び覚ます。曲は荒野を駆け抜けていく一頭の馬、そしてそのたてがみさながらに爽快だ。

 

アコースティックギターをいくつも丹念に組み合わせて、その背後にマンドリン/バンジョーのユニゾンを重ね、ギターの重厚な音圧を生み出す。これらは、ギターが旋律のための楽器にとどまらず、リズム的な楽器でもあることを象徴付けている。背後のドラムは、概して、これらのギターや歌の補佐的な役割を果たすにとどまるが、曲の表向きのイメージを強化している。そして、ミッチェルのコーラスが加わると、この曲はにわかに力強さを帯びはじめ、そして、生き生きとしてくる。音楽そのものが躍動するような感覚が最後まで続く。アウトロではハモンドオルガンがアメリカーナのメロウでアンニュイな雰囲気を生み出す。


トラディショナルフォークと合わせて、ボニー・ライト・ホースマンはゴスペルのルーツに迫ることもある。「#12 Into The O」は、深みのあるゴスペルソングに昇華されている。三者のボーカルが織りなすハーモニーはブルージーで、メロウな雰囲気もある。ゴスペルの要素に加えて、ニール・ヤング&クレイジーホースを彷彿とさせる渋いアコースティックギターが曲全体の性格を決定づける。この曲は、1970年代のアメリカン・フォークの醍醐味を蘇らせている。アナログレコードでしか聴くことが叶わなかったあの懐古的な響きをである。

 

背後のボウド・ギター(弓のギター)のテクスチャーと大きめのサウンドホールを持つアコースティックギターのアルペジオが緻密に組み合わされて、最終的には、Temptations、Plattersを始めとする古典的なコーラス・グループのように巧みなボーカルのハーモニーが生まれ、熟成されたケンタッキーバーボンのようなソウルフルな苦味を作り出す。トラッドフォークとゴスペルに加えて、アルバムのもう一つの特徴にはソウル・ジャズからの影響が挙げられる。

 

「#13 Don't Know Why You Move Me」は、Norah Jones(ノラ・ジョーンズ)の系譜にあるメロウなバラードで、彼らはそれをフォークバンドという形で表現しようとしている。この曲では、アナイス・ミッチェルのやや溌剌とした印象を擁する主要なボーカルのスタイルとは異なるメロウでムードたっぷりの歌声を味わえる。バンドはゆったりしたドラムの演奏を背景にして、スライドギターやハーモニクスの技法を交えながら、ソウル・ジャズの醍醐味を探求する。

 

「#14 Speak to Me Muse」では、アナイス・ミッチェルは鳥のささやきのような柔らかく可愛らしいボーカルを披露し、ジョニ・ミッチェルのシンプルで親しみやすいバラードソングの直系にあるソングライティングを行っている。曲の中で繰り返される「All Right」という一節は何かしら琴線に触れ、サクスフォンの演奏がジャズの性質を強める。バンドによる「All Right」という誰にでも口ずさめる優しげなコーラスはゴスペルの教会音楽としての性質を帯びる。

 

少なくとも、ボニー・ライト・ホースマン、とくにアナイス・ミッチェルの歌声には、自然や音楽の恵みに捧げられた敬虔なる思いに満ちあふれている。しかし、このアルバムはシリアスになりかけると、すぐにバランスを図るために、彼らの記憶というモチーフの働きを持つ文学や映画のような試みが、サブリミナル効果のように取りいれられる。しかし、モチーフの基軸に最も近づいたとき、距離を置く。そして、それとは異なる安らぎのひとときが訪れる。「#15 Think of The Royalities,Lads」では第一部の冒頭の収録曲「Grinch/ Funeral」と同様に、語りのサンプリングのワンカットが繰り広げられる。そして、曲の中では、パブの和やかな会話が繰り広げられている。

 

 

 「Speak to Me Muse」

 



・16-20

 

「#16  Tumblin Down」はラフで巧みなドラムのタム回しで始まる。ボニー・ライト・ホースマンがライブバンドとしての性質が強いグループであることが分かる。ライブからそのまま音を持ち込んだかのような精細なアンサンブル、D・ジョンソンの歌声はニール・ヤングの系譜にある古典と現代を繋げる役割をなすフォークシンガーの系譜にあるが、彼の場合は甘ったるいようなボーカルのニュアンスを付け加えている。

 

この曲は、それほど大きな起伏もなければ、スケールやコードの著しい変化もない。しかし、ボーカルの節回しやジェフ・ベックを彷彿とさせるギタープレイ、それからハモンドオルガンのメロウな響きなど、多彩な要素を一つの音楽に中に織り交ぜることにより、上手くバリエーションをつけている。そして、楽節の単調さやリフレインの反復を恐れないことで、シンガロング性の強いボーカルフレーズを作り上げている。単一性と多様性の双方を使い分けることによって、こういった親しみやすい構成が出来上がるものと思われる。ここには、バンドの地道な活動の蓄積が顕著に反映されている。多くの一流のミュージシャンと同じように、彼らは近道をしようとせず、フォークバンドとしての高みに一歩ずつ上り詰めていったように思えてならない。


アルバムの序盤から中盤にかけて、語りのサンプリング等を織り交ぜながら、一般的にはトラディショナルフォークの楽しさや渋さ、メロウな側面というように、ポピュラーな側面に焦点を当ててきたボニー・ライト・ホースマンであるが、アルバムの終盤には瞑想的なトラッド・フォークが収録されている。これは例えば、米国の文化性の源流にある移民性、その象徴的な音楽であるアパラチアフォークにしか求めがたいような"祈りとしての音楽"を彼らは呼び覚ます。


そこには、必ずしもスピリチュアルな要素が重視されているというわけではないが、音楽から感じられるスピリットのようなものが含まれていることも事実である。そして彼らは、それらを最終的にポピュラーミュージックの範疇にある音楽としてアウトプットする。他の曲と同じように聞こえるかもしれないが、ブルースハープやミッチェルのボーカル、それからピアノの演奏が織りなす絶妙なハーモニーが楽曲の持つ枠組みとは対極にある崇高な感覚を呼び起こす。この曲は、アメリカン・ロックの原点に立ち返るような意味があるのかも知れない。

 

アルバムのクライマックスでは、米国のトラディショナル・フォークにとどまらず、アイルランド/スコットランドの系譜にある広やかな雰囲気のフォークミュージックも披露される。これらのアイルランドやスコットランド発祥のフォークミュージックは、バクパイプ等の演奏を含める舞踏音楽(儀式音楽)としての性質が殊に強いが、これらの特徴をボニー・ライト・ホースマンが上手く受け継いでいることは言うまでもない。

 

「#18 Over The Pass」は広々とした草原で、フォークバンドの演奏に合わせて円舞するような楽しさだ。つまり、音楽のシリアスな側面とは異なる”楽しさ”に焦点が当てられているのである。開放弦を強調したのびのびと演奏されるアコースティックギターのストローク、三連符を強調する軽快なドラムの演奏は、本曲、ひいてはアルバムの音楽に触れるリスナーに一方ならぬ喜びをもたらす。そして、以後の2曲も、バンドの志す音楽に変化はない。しかし、レビューの冒頭でも述べたように、ボニー・ライト・ホースマンは、やはり米国の文化や国家性の原点へと立ち返ろうとしている。

 

「#19 Your Arms(All The Time)」はジャズ・ポップスという形で、ミュージカル風の音楽へ向かい、トラディショナルフォークと結びつける。全く同じ調性で続く「#20 See You Free」は、フォークミュージックのコーダのようなもの。クローズ曲ではトラディショナルフォークやスタンダードジャズの要素に加えて、Aretha Franklin(アレサ・フランクリン)のアルバム『Lady Soul』に対するバンドのオマージュが捧げられる。ステレオタイプの曲が続くようでいて、その音楽の印象はそれぞれ違っている。それはボニー・ライト・ホースマンの音楽が、世界中の人々にたいする誰よりも深い理解と受容、そして弛まぬ愛情によって支えられているからなのである。


 

 「See You Free」

 

 

 

 

86/100

 


* Bonny Light Horsemanのニューアルバム『Keep Me On Your Mind / See You Free』はjagujaguwarから発売中です。


 

©Seren Carys


イギリス/グロスターシャー出身のケイティ・J・ピアソン(Katy J Pearson)は実力派のソロシンガーとして知られており、イギリスでは評価が高いミュージシャンである。ドリーム・ポップデュオとして活動し、ソロに転向後はトラッドなフォーク・ミュージックを中心に制作しています。

 

ケイティ・J・ピアソンは最新アルバム『Someday, Now』をヘブンリー・レコーディングスから9月20日にリリースすると発表しました。2022年の『サウンド・オブ・ザ・モーニング』に続くこのアルバムでは、ケイティ・ピアソンは、カーリー・レイ・ジェプセン、ニルファー・ヤニャ、ウェスターマンなどを手がけるエレクトロニック・プロデューサー、ネイサン・ジェンキンス(通称: ブリオン)と仕事をしています。新曲「Those Goodbyes」は以下よりご視聴下さい。


ケイティ・J・ピアソンは說明している。「誰と仕事をしたいのか、セッション・バンドが誰を選ぶべきなのか、どこでレコーディングしたいのか、制作前にはっきりわかっていました。最終的に自分自身でショットを決めることができたような気がして、それはとても力になったわ」


リードカット「These Goodbyes」について、彼女は次のように付け加えています。「変な話なんだけど、以前は、人に弱さ(繊細さ)を聴いてもらうためには高音で歌わなければならないと思っていた。でも実際は、自然な音域でリラックスして歌うことで、もっと弱さが出てくると思うのよ」

 

 

「Those Goodbyes」




Katy J Pearson 『Someday, Now』

 

Label: Heavenly Recordings

Relase: 2024/09/20


Tracklist:


1. Those Goodbyes

2. Save Me

3. It’s Mine Now

4. Maybe

5. Grand Final

6. Long Range Driver

7. Constant

8. Someday

9. Siren Song

10. Sky

 

Pre-order: https://ffm.to/katyjpearson-thosegoodbyes

 

©Jasper McMahon

Marina Allen(マリーナ・アレン)がニューシングル「Deep Fake」をリリースした。彼女のサード・アルバム『Eight Pointed Star』からの最新シングルである。前作『Centrifics』のフォローアツプとなる新作アルバム『Eight Pointed Star』は6月7日にFireからリリースされます。

 

この曲には、ギターとシンセサイザーでHand HabitsのMeg Duffyが参加しており、カリー・ヘルナンデスが監督したビデオも公開されている。以下よりチェックしてみてください。


『Deep Fake』はちょっとした天啓のような感じだった」とアレンは声明で説明している。「この曲は、クリス・ワイズマンが指導してくれた作曲ワークショップから生まれた。20歳の時に彼からギターのレッスンを受けた」

 

「彼は曲作りのためのあらゆる道具を持っていて、『Deep Fake』はプロンプトから生まれたんだ。それが何だったかは覚えていない。この曲は、2つの異なる曲を一緒にしたようなものなんだ。最初の部分は、愛する人と話すような、本当に個人的な感じにしたかった。この曲は、私たちの文化を構成している非常に複雑なものすべてに名前をつけるということでもある。それらを現実として認識すること。でも、それらに立ち向かい、それを神聖なものとして捉えること」


ヘルナンデスは、「このビデオは、マリーナの顔を、ソースとなったアーカイブ映像、別名 "ディープ・フェイク "を通して、無数の女性の顔に重ね合わせている。ビデオの後半は不具合のあるDVカメラで撮影され、現実と虚構、現実と非現実の境界線をさらに曖昧にするために意図的に使われている」と付け加えた。

 


「Deep Fake」

 

©︎Netti Habel

ポーティスヘッドのベス・ギボンズが、待望のソロ・デビュー・アルバム『Lives Outgrown』を金曜日にリリースする。「Love Changes」は、壮大かつ哀愁を帯びた、ベスの曲に求めるものすべてを詰め込んだようなナンバー。 またインディーフォークを基調とした美しい曲でもある。


彼女は、このシングル曲のなかでストリングスのテクスチャに相対して、「私たちはみんな一緒に迷っている/私たちはお互いを騙している...。私たちは努力するけれど、説明できない/私たちはあるフィーリングを引き受けた/輝く瞬間/そして、ゲームは何だと言った」と歌っている。


ベス・ギボンズの新作アルバムは、最初の発表時に説明されていた通り、大掛かりな音楽や装置や舞台ではなく、ギボンズがミュージシャンとして、あるいは独立系のアーティストとして今、何が出来るかを考えたというものである。『Lives Outgrown』はタイトルにも見える通り、ミュージシャンだけにとどまらず、家庭人としての人生も部分的に反映されているのかもしれない。こういったアウトプットについては、男性よりも女性の方が向いているという気がする。女性は人生の節目で現実を見つけるが、男性は現実という名の幻想の中に生きる生き物なのだ。

 

当初は、大きな希望を叶えることが人生の醍醐味であると考えていたギボンズであるようだが、年を重ねるにつれ、それらの中にはどうにも出来ない問題や弊害も存在することが分かる時がある。若い時代に抱いていた希望の多くが幻想だったかもしれず、しかし、それは諦観とも言いがたい、納得や安堵に近い感情へと変遷していくものである。なんらかの出来事に打ちひしがれたことのない人々にとっては、あまりに救いのないようなことに思えるかも知れないが、しかし、それは同時に納得出来るポイントを見出したという、明るい意味も含まれている。

 

人生とは、結局のところ、無数の選択肢のなかで、自分や周囲との関係の中で頷けるポイントを見つけるということである。ギボンズの場合は、自分自身や人生に正直であるということだった。そのことに関してギボンズは言う。「希望のない人生がどんなものかを悟りました。それは、私が感じたことのない悲しみでした。以前は、自分の未来を変える能力があった。でも、自分の体に立ち向かっているとき、その体がやりたくないことをさせることはできなかった」 

 

このシングルには、いかなる人もいつかは体験するであろう不思議な感覚があり、浮き沈みのある人生や音楽的表現を経験したことに対して、ささやかな慈しみの眼差しが注がれている。そして、窓辺の向こうにゆっくり流れていく過去の自らの人生を見つめるような優しい感情に溢れている。それは忙しない人生の流れを止め、ほんの少しだけ時計の針を遅らせる効果がある。

 


「Love Changes」



今年のベス・ギボンズのツアーは5月27日のパリから始まり、スペイン/プリマヴェーラ・サウンドと日本/フジロックフェスティバル出演を含む。全日程(ヘッドライン公演はビル・ライダー・ジョーンズとの共演)は以下の通り。



Beth Gibbons – 2024 Tour Dates:


May 27 – La Salle Pleyel, Paris - SOLD OUT

May 28 – Theater 11, Zürich

May 30 – Primavera Sound Festival, Barcelona

May 31 – La Bourse Du Travail, Lyon – SOLD OUT

June 2 – Uber Eats Music Hall, Berlin

June 3 – Falkonersalen, Copenhagen

June 5 – TivoliVredenburg (Main Hall), Utrecht - SOLD OUT

June 6 – Cirque Royal, Brussels - SOLD OUT

June 9 – The Barbican Centre, London - SOLD OUT

June 10 – Albert Hall, Manchester

June 11 – Usher Hall, Edinburgh

July 27 – Fuji Rock Festival(フジロックフェスティバル), Niigata(新潟)

 Owen 『The Falls of Sioux』

 

 

Label: Polyvinyl

Release: 2024年4月26日

 

 

Review

 

マイク・キンセラはアメリカン・フットボールとは異なる音楽性を''Owen''というソロ・プロジェクトを通じて追求してきた。


アメリカンフットボールがインディーロック的なアプローチであるとするなら、Owenではインディーフォーク調の音楽性を追い求めている。2011年のアルバム等が有名だが、他にもレキシントンでのライブ・アルバムも聴き逃せない。観客との距離感を大切にしたこの音源では、イギリスのフットボールに関する微笑ましいやりとりも残されている。ある観客が「好きなフットボールチームはどこ?」と聞いて、キンセラは「フットボール!?」と苦笑いで答えた。いわば、インディーフォークの温かい感情を留めたアルバムだった。
 

最新アルバム『The Falls of Sioux』は、いつもよりドラマティックなサウンドを探求しているように感じられる。旧来のインディーロックやフォークの音楽性に、オーケストラベルを導入したり、アコースティックの録音を再構成として散りばめたりと、かなり作り込まれたプロダクションになっている。そこにマイク・キンセラによる音のストーリーテリングの要素が加えられた。
 
 
オープニング「A Reckoning」ではアコースティックギターの弾き語りを通じて、途中からインディーロックのダイナミックスを意識した迫力のあるサウンドへ変遷を辿る。その中には、編集的なプロダクションで新しいロックを提示したウィルコの最新アルバムに近い何かがある。そこにキンセラのエモーショナルなボーカルが加わり、オーウェンのサウンドが出来上がる。曲の後半では、エレクトリックとアコースティックギターの双方を緻密に重ね合わせて、きらびたかなサウンドへと移行していく。この曲にはエモやインディーフォークの象徴的なシンガーソングライターとして経験を重ねてきたキンセラの次なるステップが垣間見えるような気がする。


続く「Beacoup」はアメリカンフットボールに近い楽曲で、ソロプロジェクトではありながら、バンドアンサンブルの響きを重視している。強調されるベースライン、そして、シンプルではあるがツボを抑えたアコースティックギターとマイク・キンセラのボーカルの兼ね合いは、やはりアメリカンフットボールの音楽性の延長に位置する。しかし、この曲の中盤からはディレイ処理を施したピアノが導入されたりと、実験的なサウンドを織り交ぜている。そこにはこのシンガーソングライターの美的センスがなんとなくうかがえるような気がする。


続く「Hit and Run」は、OWENの代名詞的な曲であり、ソングライターのフォークソングの涼し気なイメージが流れる滝のようにスムーズな質感をもって展開される。アルバムの序盤の2曲のようにエレクトリック/アコースティックギターの多重録音に加え、ピアノの美麗な旋律が曲に優しげな印象を添えている。また、ネイト・キンセラとのデュオの活動で培われたシンセサウンドは飾りのような形でアレンジに取り入れられている。ギターの旋律やコード進行の巧緻さはもちろんのこと、そこにヴァイオリン/フィドルの上品な対旋律を加えながら、気品のあるフォークミュージックが作り上げられる。それらは複数の演奏を入念に行った後で、緻密に最終的なサウンドを構築する過程が記されているのである。始めから出来上がったものを示するのではなしに、一つずつ着実に音の要素を積み上げていく過程は圧巻である。そこにオルタネイトな旋律やアメリカーナのギターが加わることで、癒やしのあるサウンドが作り上げられる。
 
 
 「Cursed ID」はやや遊び心のある曲で、ギターのリズム性を意識したアルペジオを重ねながらイントロからアウトロにかけて起承転結がストーリーのような形をとって構築されていく。やはり、緻密なサウンドであるのは他の曲と同様なのだが、この曲ではピアノのアレンジに、ジャズ的な響きが加わる。そしてオーウェンの他の曲と同じように、だんだんと感情の流れがゆるやかに増幅していくような感じで、曲の構成が次なる段階へ移行していく。この曲には、タイトルの風景が少しずつ移ろい変わっていくようなサウンドスケープがオーウェンらしい形式で作り上げられていく。弦楽器のプロダクションにもこだわりがあり、ドローン風のレガートを散りばめたりと、インディーフォークを起点としながらも実験的なサウンドが繰り広げられる。

 

「Virtue Misspent」ではドラムのリズム性に重点を置いたエモが繰り広げられる。この曲には従来のアメリカンフットボールのファンもカタルシスや共感を覚えてもらえるかもしれない。「Never Meant」を彷彿とさせるギターのフレーズはもちろん、タイトルの部分ではマイク・キンセラ節ともいうべき他のアーティストには見られないような特異な歌唱が繰り広げられる。そこにシンセサイザーやグロッケンシュピールを加え、曲そのものにドラマ性をもたらそうとしている。最終的にはミニマルミュージックのような微細なマテリアルと、スポークンワードを織り交ぜることによって、従来にはなかったオーウェンの曲の形式が作り出されている。

 

 

終盤の3曲は従来のOwenのソングライティングの延長線上にあるナンバーとして楽しめる。しかし、そこはやはりベテランのミュージシャンで、旧来にはなかった新しい音楽性も付け加えられている。#6「Mount Cleverland」ではギターやドラムの演奏の中にジャズ・フュージョンやアフロビートからの影響がわずかにあるように思える。しかし、それらのエキゾチックなイメージはしだいにマイク・キンセラのフォーク・ミュージックの中に吸い込まれていく。この曲の中には音楽そのものにより雄大なアメリカの自然を物語るような感覚があって面白い。曲の中盤ではハードロック的なギターサウンドが展開されるが、やはりそれは、モダンなサウンドプロダクションとして昇華され、コラージュ的なサウンド(ミュージックコンクレート)として中盤のハイライトを形づくっている。しかし、たとえ、前衛的なサウンドの表情を見せることがあっても、その後はやはりマイク・キンセラらしい安心感のあるロックソングへと移行していく。ここにはこのアーティストによる様式美のようなものが体現されているのかもしれない。

 

『スーの滝』はベテラン・ミュージシャンによる飽くなき音楽の探求心が刻印されているように思える。クローズを飾る「With You Without You」では、Cap N' Jazzの時代から存在した中西部のインディーフォークの要素が、華やかなシンセストリングスとドラムのダイナミックなリズムによって美麗なエンディングを作り上げる。バスドラの連打に合わせて歌われるキンセラの歌はエモーショナルの領域を越えて、何かしら晴れやかな感覚に近づく。アウトロの巧みなアコースティックのギター、そのなかに織り交ぜられる繊細なエレクトリック・ギターやストリングスに支えられるようにして、このアルバムは最後に最もドラマティックな瞬間を迎える。

 

 

85/100

 

 

「With You Without You」

 

Luis Vidal
 

ロンドンを拠点に活動するプロデューサー/シンガー・ソングライターのLiza Lo(リザ・ロー)が、ニュー・シングル「A Messenger」をGear Box Recordsから発表しました。


オーストラリアのインディー・フォーク・ソングライター、ハリソン・ストームとのEU/UKツアーを完売させたばかりのリザは、ロンドンと故郷アムステルダムで公演を行ない、口コミで急速に知名度を上げています。このニュー・シングルは、彼女がセルフ・リリースした『flourish』EPに続くもので、インディー・フォークに優しく瞑想的なテイストを取り入れたこのEPは、幅広いプレイリストの支持を集め、プレスやラジオでも早くから高い評価を得ました。


ドーター、マロ、ビリー・マーティンなどからインスピレーションを得たリザ・ローのサウンドは、穏やかなフォーク風のインストゥルメンテーションとインディー・ポップが交差する。ジョン・ケリー(ポール・マッカートニー、ケイト・ブッシュ)とスタジオ13でレコーディングされた彼女の内省的な「A Messenger」は、繊細なストリングス・アレンジとゴッサムのようなギター・ワークが組み合わされ、リザの親密で詩的なヴォーカルを中心にうねり、花開いています。  



同楽曲についてリザ・ローは、「友人を失ったときの心の傷について書いたものなの。人は時に小さなメッセンジャーのようにやってきては、思いがけない足跡を残して去っていく。友情の突然の終焉に伴う痛みは誰もが知っていることだけど、このトピックはあまり語られることがないのよね。これは私がとある親友との会話の後に書きあげた曲なの」というように話しています。

 

 

 「A Messenger」

 

 

 


「A Messenger」ーNew Single

 

ダウンロード/試聴はこちら: https://bfan.link/a-messenger

 

 

Liza Lo Biography: 

 

スペインとオランダで育ち、現在はロンドンを拠点に活動するシンガー・ソングライター、プロデューサー、ミュージシャン。親密で詩的な独自の音楽世界を創り出す彼女は、ドーター、マロ、ビリー・マーティンなどからインスピレーションを受け、生々しいヴォーカルと誠実なソングライティングで聴く者を内省と静寂の世界へと誘う。最新EP『flourish』は、Spotifyの「New Music Friday UK」、「NL」、「BE」にセレクトされ、「the most beautiful songs in the world」プレイリストでも紹介された。2024年5月1日、最新デジタル・シングル「A Messenger」をリリース。現在は、西ロンドンのスタジオ13で、ジョン・ケリー(ポール・マッカートニー、ケイト・ブッシュ)とバンドと共に新曲のレコーディングに取り組んでいる。

 

 

©Michal Pudelka


Bat For Lashes(バット・フォー・ラッシズ)が新曲「Home」を発表した。この曲はナターシャ・カーンの次作『The Dream of Delphi』の収録曲。すでにタイトル曲と「Letter to My Daughter」でプレビューされている。
 
 
この新曲には、カーンと娘のデルフィをフィーチャーしたビデオが付属しており、以下でチェックできる。
 
 

「デルフィのお気に入りの曲だった。 彼女がこのアルバムを振り返ったときに、小さな赤ちゃんのときに大好きだった曲だと言えるようにね」
 

Bat For Lashesのアルバム『The Dream of Delphi』はMercury KXから5月31日にリリースされる。



「Home」

 

ロサンゼルスのシンガーソングライター、Marina Allen(マリーナ・アレン)は三作目のアルバム『Eight Pointed Star』の2ndシングル「Swinging Doors」で戻ってきた。インディーフォークを主戦場とするシンガーだが、この曲はロックソング風のアプローチを図っている。

 

「スウィンギング・ドアーズ "は、シックス・フラッグスの行列や初デートの車の中で感じる蝶のような」人生の新たな章の興奮を楽しむものだと、アレンは声明で説明している。「リスクへの頌歌であると同時に、信頼への頌歌でもある。このアルバムでは、これまで以上に愛について書いた。必ずしもロマンチックな愛でなくてもいい。Swinging Doors'は信頼の落下でもある。でも、自己反省の代わりに、その意味を体験的に発見することをテーマにしているんだ」


マリーナ・アレンの新作アルバム『Eight Pointed Star』はFire Recordsから6月7日に発売予定。最初のリードシングルとして「Red Cloud」が先行配信されている。

 

 「Swinging Door」

 


米国のフォークバンド、Bonnie Light Horseman(ボニー・ライト・ホースマン)が、20曲入りの2枚組アルバム『Keep Me On Your Mind/See You Free』を発表した。このアルバムは6月7日にJagujaguwarからリリースされる。


バンドメンバーのアナイス・ミッチェル、エリック・D・ジョンソン、ジョシュ・カウフマンは、ベーシストのキャメロン・ラルストン、ドラマーのJT・ベイツは、アイルランドの100年以上の歴史を持つ由緒あるパブ、”リーヴィス・コーナー・ハウス”で3日間の大半をレコーディングに費やした。その3日目には、ライブ・オーディエンスを招き、演奏とレコーディングを行いながら彼らのエネルギーを吸収した。

 

今作は、ジョシュ・カウフマンがプロデュースし、D・ジェイムズ・グッドウィンがミキシングを担当し、ニューヨーク北部のドリームランド・レコーディング・スタジオで完成させた。Bon Iver(ボン・イヴェール)のマイク・ルイスがベースとテナー・サックスを演奏し、さらにアニー・ネロがアップライト・ベースとバッキング・ハーモニーを担当した。


アルバムには最近のシングル曲 「When I Was Younger 」とリリースされたばかりの 「I Know You Know」が収録されている。

 

ボニー・ライト・ホースマンらしいユニークなインディー・フォークのテイストを帯びるリード曲は、トリオ初のミュージック・ビデオと合わせて公開された。エリック・D・ジョンソンはこう説明している。


「ボニー・ライト・ホースマン初の(!!)ミュージックビデオの監督を考えた時、キンバリー・スタックウィッシュが頭に浮かんだ。彼女の挑発的な作品の長年のファンだったし、僕らのバンドにとって、彼女なら "わかってくれるかも "と感じた。人生の多元的な世界、喜びと苦しみの二面性、私たちの選択によって、どちらか一方への道を歩むことになる。モハベ砂漠の平原で、夕日と塩辛いコヨーテの群れから逃れようと、砂漠のペリカンに見守られながら撮影したんだ」

 


「I Know You Know」




Bonnie Light Horseman 『Keep Me On Your Mind/See You Free』

Label: Jagujaguwar

Release: 2024/06/07


Tracklist

1. Keep Me on Your Mind

2. Lover Take It Easy

3. I Know You Know

4. grinch/funeral

5. Old Dutch

6. When I Was Younger

7. Waiting and Waiting

8. Hare and Hound

9. Rock the Cradle

10. Singing to the Mandolin

11. The Clover

12. Into the O

13. Don’t Know Why You Move Me

14. Speak to Me Muse

15. think of the royalties, lads

16. Tumblin Down

17. I Wanna Be Where You Are

18. Over the Pass

19. Your Arms (All the Time)

20. See You Free

 

POND Creative


ニューヨークを拠点に活動するSSWの新星、S. Raekwon(S.レイクウォン)は、j次作アルバム『Steven』の最新シングル「If There's No God...」をリリースした。フォーク・ミュージックとソウルを融合させたスタイルは「Folk-Soul」とも称するべきだろうか。この曲は、前作「Old Thing」と「Steven's Smile」に続くシングル。この曲のミュージックビデオは以下よりご覧下さい。


「『If There's No God...』はアルバムの感情的、テーマ的な中心作なんだ。自分の中にある醜さが自分という人間を定義しているのかどうかを問うている。人間というのは、自分の最悪の部分によって判断されるべきなのだろうか? それとも、私はちょっとだけ自分に厳しすぎるのだろうか? しばらくの間、この曲をどんなふうに仕上げるか迷っていたんだ。やはり、宗教と道徳は大きなテーマになっている。でも、この作品が本当に好きなのは、そのどれにも答えようとしないからなんだ。誰も批判しちゃいない。だれも自分のことしか考えていないだけだよ」


PONDクリエイティブはビデオについてこう付け加えた。「ニューヨークを中心としたグラウンドホッグ・デイのような物語を実現するため、マンハッタンからスタテン島まで、スタテン島フェリーに乗り、何度も何度も往復してみた」

 

「日の出、日没、朝、昼、夜明け、夕暮れ、後悔から羞恥心、怒り、混沌まで、スティーヴンがフェリーの壁の中で様々な感情を経験するのを見守っていた」


S. Raekwonによる新作アルバム『Steven』は5月3日にFather/Daughter Recordsからリリースされる。黄昏に照らされるマンハッタンのフェリーのミュージックビデオは、ヴィンテージな映像処理が施され、クールで美しい。アーティストはマンハッタンの望洋の果てに何を見るのか??



「If There's No God...」