Miss Grit『Follow the Cyborg』/ Review

 Miss Grit 『Follow the Cyborg』

 


 

Label: Mute Artists

Release: 2023年2月24日

 

Listen/Purchae

 

 

Review

 

ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動する韓国系アメリカ人のシンガー、ミス・グリットの待望のデビュー作。


ミス・グリット(本名、マーガレット・ソーン)はEP『Talk Talk』ではロマコメの理想を追い求め、EP『Imposter』では人種的な偏見に立ち向かう等、アルバムの中に架空の人物を登場させ、それらの何らかのテーマとして発展させる。今作では、サイボーグという現代的なテーマを交えてユニークな世界観を探求している。マーガレット・ソーンはJia Tolentinosのエッセイ、Ex Machinaの映画、様々な作品の引用を織り交ぜ、ポップミュージックの特異点を探ろうとしています。

 

マーガレット・ソーンは影響を受けたミュージシャンとしてセイント・ヴィンセントを挙げている。その影響は本作の節々に読み解くことができる。テクノを基調としてダンサンブルなビート、それにアンビエントのように空間的な響きを持つミス・グリットの爽やかなボーカルは例えば昨年デビューした同じく韓国系シンガーのNosoの持つ清涼感を彷彿とさせるものがある。それらをオルタナティヴ・ポップ、つまり、ムーグシンセやメロトロンといった特殊なシンセを活用することで、デビュー・アルバムはタイトルに準じた形でスムーズに展開していくのです。

 

オープニング「Perfect Blue」、続く「Your Eyes Are Mine」は、このアーティストを知らぬ聞き手にミス・グリットなる歌手がどのような存在であるのかを知る手ほどきとなるようなトラックです。シンプルなテクノ調のビートやリードに加え、軽妙なボーカルは浮遊感を与え、時に夢見がちな雰囲気を擁する。まさに聞き手はアルバムの音源を再生をするやいなや、その世界の扉の向う側にある世界に足を踏み入れることになる。そして近未来的でありながらポピュラーミュージックとしての艶気を失わない音楽はその架空の世界にしばし居続けることを促すのです。

 

ミス・グリットは「Nothing Wrong」において、ビッグ・シーフが得意とするようなインディー・フォークにジョン・レノンのソロ作のようなクラシカルなポップスの要素を加え、聞き手の興味を惹き付ける。新旧のポップスを交え、それを現代的な解釈の手法で聞きやすい音楽を提示する。そしてこの曲では、アーティストの持つテーマの展開力の豊富さを感取することもできます。シンプルなシンセサイザーのビートを交え、そこに一定の熱量を与えることに成功しているのです。続く「Lain」こそまさにミス・グリットの音楽性の真骨頂ともいえるトラックで、ここではアーティストが敬愛するセイント・ヴィンセントが『Actor』を引っさげてシーンに登場したときの鮮烈な印象の再現を多くのリスナーは捉えることができるかもしれません。

 

タイトル・トラック「Follow the Cyborg」はラスト・トラック「Syncing」とともに本作のハイライトとなる。テクノ調のシンセサイザーとギターロックサウンドを融合させ、そしてオルタナティヴな音階や和音を交え特異な音楽性を生み出しています。古いテクノの時代を知る聞き手にとってはノスタルジアを与え、そして、それを知らぬ聞き手には近未来的な印象を与える。これらのフレーズを、マーガレット・ソーンのボーカルはドリーミーに引き立て、独特なグルーブ感を渦のように巻き起こす。これらの存在感を放ちながらも叙情性を失わない秀逸なポピュラー・ミュージックの連続は、新時代の到来を告げ知らせるものです。さらにアウトロにかけてのシンセサイザーのシークエンスも不思議な期待感を漂わせている。さらに続く韓国語のトラックでは、ミニマルなビートとテクノ性にスポークンワードをグリットは交え、新鮮味のある音楽を提示する。まさにアーティストの佇まいのクールさを象徴付けるような一曲です。

 

 その後も、このアーティストのテクノに対する愛着を色濃く感じさせるポピュラー・ミュージックが淡々と続いていく。「Like」で繰り広げられるレトロなフレーズの持続性には、クラフトワークやデュッセルドルフの初期のテクノシーンのファンは何らかの共感性を見出すだろうし、 続く、「The End」では、シンセのビートを背景に深妙かつ瞑想的なサウンドを展開させる。ラストソング「Syncing」では、アルバムの前半部とは打って変わって、テクノとオルタナティヴ・ロックを交えた芯の強いバラードへ転ずる。リフレインを基調として彼女自身のボーカルの力量によって後半部で深い余韻をもたらし、シンセのシークエンスとミス・グリットとハミングは、今作の擁する世界に今しばらく浸っていたいという思いを呼び起こす。ミス・グリットは今作でSSWとして高いポテンシャルを証明してみせました。次作品への期待感はいや増すばかりでしょう。

 

 

85/100


 

Featured Track「Follow The Cyborg」