Shannon Lay 『Covers Vol.1』/ Review

 Shannon Lay 『Covers Vol.1』

 

 

Label: SUB POP

Release: 2023/4/14




Review



2018年からコンスタントに作品をリリースしている、ロサンゼルスのフォークシンガー/シャノン・レイは昨年、サブ・ポップと契約し、哲学的なテーマを込めたドイツ語で"概念"を意味する『Geist』を発表している。昨年のアルバムもコンテンポラリーフォークとして聴き応えのある作品であったが、今回、初のカバー集となる『Covers Vol.1』も同様に素敵な快作となっている。

 

元々はロックバンドのメンバーとして活動を行い、ソロ活動を始めた当初はカルフォルニアのレドンドビーチを題材にしたサウンドスケープを髣髴とさせる繊細なフォーク/カントリーを書いてきたシャノン・レイではあるが、キャリア初となるカバー集『Vol.1』もまたこのシンガーソングライターらしい叙情性が引き出されているように思える。もちろん、今回、シャノン・レイがカバーに取り組んだのは、純粋なフォーク・ミュージックのジャンルだけにとどまらない。ざっと名を挙げると、Nick Drake、Arthur Russell、Sibylle Baier、Vashti Bunyan、Ty Segallの曲を演奏しており、なかにはラップもある。それを彼女の得意とするアコースティック・ギター、ピアノ、ボーカルというシンプルな構成を通じて再構成に取り組んでいる。そう、これは単なるカバー集というより、他のアーティストの作品の再構成とも称すべき作品集なのである。

 

これまでと同様、開放的な自然味を感じさせるレイのボーカルにそれほど大きな差異はないが、以前よりも感覚や感情の共有に重点を置いているように思える。そして、デビュー当時の内省的な雰囲気に加え、コミュニケーションを重視しているため、これらのカバーソングは親和性に満ちている。さらに、原曲に細やかなリスペクトを込め、しっかりとアコースティックギターのサウンドホール内の共鳴を意識するかのように、慎ましく繊細なピッキングにより伴奏やフレーズが紡がれていき、それらが和やかなフォークシンガーの世界観と合致を果たす。淡々としているが、ときに、ボブ・ディランのようなノスタルジアも「Close My Eyes」には感じ取ることが出来るはずだ。

 

近年では、わりと明るい雰囲気に彩られたフォークソングを中心に書きあげてきたシャノン・レイではあるが、デビュー当時のようなサウンドスケープを思わせる内省的なフォークソングのカバーにも取り組んでいる。「Glow Worms」は、フォークソングという一貫したスタイルを図ってきたミュージシャンの集大成を為す楽曲である。あらためてレイは、フォークミュージックの親しみやすさとオリジナルの楽曲が持つ旋律の輝きをこのトラックで呼び覚まそうとしている。

 

このカバー集は、必ずしもコンテンポラリーフォークのカバーのみにとどまらないところに興味を惹かれる。そして、明るい感じの曲から、最初期の憂鬱さを感じさせる曲まで幅広い感情を込めた曲風に取り組んでいる。カバーとはいえども、ギターの演奏やボーカルの合致から汲み出される深い感情性は胸に迫るものがある。シャノン・レイは、このカバー集の中であらためて新旧のフォークミュージックが感情の表出であることを明示し、それらの感覚を温かく包み込むかのように歌っている。今回のカバー集はじっくりと聴く価値がある。それは歌手がハンドクラフトのように真心を込めてカバーに取り組み、歌を大切にうたっているからなのである。

 

カバーの女王といえば、ロイヤル・アルバート・ホールでボブ・ディランの伝説的なコンサートの再現を行ったキャット・パワー(シャーン・マーシャル)が思い浮かぶ。だが必ずしも本作は、キャット・パワーのような形でのカバーを意図しているわけではないと思う。シャノン・レイは自分なりの"概念"を凝らすことで、原曲の隠れた魅力を伝えようとしている。そういった意味では『Geist』と無関係ではなく、前作と組み合わせて聴くとより楽しみも増えるかも知れない。



85/100

 

 

 Featured Track 「Glow Worms」