New Album Review LA Priest 『Fase Luna』

 

 

Label: Domino Recordings

Release: 2023/5/5



Review

 

LA Priestは、UKのノッティンガムのソロアーティスト、サム・イーストゲートのプロジェクト。ウェブリーポップとも称されるイーストゲートの主な音楽性は、サイケとローファイの融合にある。同国のOscar Lang、米国のAriel Pinkに近く、ギターのトーンをどぎつく揺らしまくっている。神話的なテーマを擁するという点では、Alex Gのソングライティングにも親和性がある。

 

メキシコとコスタリカの熱帯雨林でレコーディングされたという本作は、アステカ文明へのロマンに充ちている。オープニング「On」を始め、ポンゴのリズムに甘美的なポップスの要素を散りばめ、熱帯雨林の極彩色の雰囲気を漂わせている。


イーストゲートのソングライティングは、基本的にはポップスを意識しつつも、断片的に70年代のジミヘンらのハードロックの要素を部分的に交えている。ループ色の強いソングライティングは、UMOの最新作『V』にも近いニュアンスが見いだせるかも知れない。 確かに一曲目と二曲目「Silent」には7,80年代のディスコポップに対するアーティストの偏愛が散りばめられている。

 

三曲目の「It's You」では、ルバン・ニールソンと同様、ボーカルトラックに薄くクランキーなディストーションを加味しており、パンチの聴いたローファイソングとして楽しめるはずである。ただ聞きやすさを重視しつつも、イーストゲートはカスタネットのようなパーカッシブな要素をトラックに交え、サイケ/ローファイファンを唸らせるような渋い曲に仕上げている。ときおり、トラックの中に挿入されるイーグルスのようなギターサウンドはこの曲にねちっこく絡みつき、ジャングルの風景を想起させるような独特なサウンドが組み上がっている。トラックに搭載されるイーストゲートのボーカルは、マック・デマルコのように陽気である。これはまさにメキシコの密林の気風に直に触れたからこそこういったボーカルスタイルに変化したのだろうか。

 

国籍不明の不可思議なサウンドは、「Misty」でより抽象的なアンビエントに近いサウンドに変化している。 アッパーサウンドの対する落ち着いたサウンドは、LA Priestの進化を反映しているといえ、またそのサイケなサウンドには米国のロックバンド、Real Estateのデビュー当時のような懐古主義の趣も感じられる。ボワボワとした抽象的なサウンドは、トラックの最後ではジミ・ヘンドリックスのような熱狂的なエネルギーを帯びるように成る。しかし、イーストゲートのギターの熱は、ヘンドリックスとは対象的で、内向きに向かうエナジーとも言えるかもしれない。「Star」もまた70年代のポップス/ロックに根ざした楽曲で、近年のサイケ/ローファイシーンのアーティストと同様に、 イーストゲートはそれをアナログ風のサウンドに置換している。まさにレコードのアナログのサウンドの志向性を踏まえたセンスの良い音作りとなっている。

 

アルバムの中で最もアステカ文明の雰囲気を感じさせるのが、続く「Sail on」である。この曲では、一曲目の「On」及び二曲目の「Silent」と同じように民族音楽の打楽器のパーカッシヴな性質を力強く打ち出し、サイケの雰囲気を散りばめることで、面妖なサウンドが生み出されている。まさにジャングルの奥地を旅している時、あるいは、その密林の中に流れる川を筏で下っていると、その木陰から不可思議な生物が顔を出す。まさにアルバムのアートワークの半魚人のようなオカルティックな生物が音の向こうに出没するのではないかと思わせるような冒険心満載のトラックだ。それに加えて、儀式的なコーラスを散りばめることで、曲の次の展開を良い意味で裏切る。そして、その儀式的なリズムは、曲の中盤部ではリズミカルな要素を増していき、ほとんど民族音楽のディスコのような形で繰り広げられる。さらに続く「Neon」はUMOの『V』にちかいギターの音作りで、それをロンドンのクラブミュージックの要素をまぶすことにより、特異なサウンドを導き出している。一例では、King Kruleのようにグライム・サウンドを反映させた現代的なダンスミュージックの影響をここに見出すことができるはずである。

 

アルバムの終盤になると、LA Priestはダイナミックな展開を避け、 内向きのコアなサイケサウンドに落着する。「Ocean」はタイトルのように、はてない南米の海の上をゆらゆらと気分良く漂うような不可思議なサウンドである。心地よく、まったりとしているが、その核心には、コアなローファイアーティストとしての矜持も滲んでいる。そしてクローズでは意外な展開を迎える。

 

「No More」のイントロを通じて、LA Priestはアステカ文明の向こう側にある超自然的な存在と交信するかのように、シンセサイザーを駆使し奇妙なサウンドを制作している。これがアルバムのテーマの自然の先にあるスピリチュアルな要素と絡み合い、まったりとしたサイケロックと劇的な融合を果たしている。イントロは超自然的であるものの、その最後には不思議にも人間的な温みを持ち合わせるオルトロックへと直結する。レディオ・ヘッドに近い内省的な雰囲気も兼ね備えているこの最後の楽曲を通じて、LA Priestはこれまでになかった新たなスタイルを確立したと言える。今作で何かを掴んだ気配があるので、今後の作品の更なるブラッシュアップに期待したい。

 


76/100

 

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