Margaret Glaspy 『Echo The Diamond』/ Review

 Margaret Glaspy 『Echo The Diamond』


Label: ATO

Release: 2023/ 8/18



Review



ニューヨークを拠点に活動するマーガレット・グラスピーによる3rdアルバム。この作品は喪失による悲しみから生み出され、彼女のパートナーである作曲家/ギタリストのジュリアン・レイジと一緒に制作された。シンプルなアメリカン・ロックとして、ゆるく楽しめる良作となっているのではないか。

 

シンプルなパワーコード(スリーコード)を中心に、キャッチーなソングライティングがこのアルバム『Echo The Diamond』の主要なコンセプトとなっている。アルバムの序盤では、「Act Natural」、「Get Back」といったロックンロール主体の曲がひときわ強固な印象をもたらす。とりわけ、後者のナンバーでは、本作の主題である悲しみを切なさという形に落とし込んで、エモーショナルなロックとしてアウトプットしている。さらに、それらのスタンダードなロックのアプローチに加えて、アメリカーナに触発されたビブラートを駆使したマーガレット・グラスピーのボーカルは、鋭いコントラストを描いている。ボーカルの力強さは、シェリル・クロウあたりの良質なアメリカン・ロックの女性ボーカリストの音楽性を思いうかばせるものがある。


 

上記の2曲のスタンダードなロック性に加え、三曲目の「Female Brain」ではライオット・ガール風のボーカル・スタイルを披露し、ややパンキッシュなナンバーに挑んでいる。 ただ、それらはアヴリル・ラヴィーンのようなスターダムのロックというよりも、ブギーのギターの要素を突き出した渋いギターロック・ナンバーとして昇華されている。共同制作者のジュリアンのギタープレイの貢献が、こういった抜けさがないロックナンバーを生み出してみせたのだ。


キャッチーでノイジーかつパンキッシュな印象を擁するアルバムの序盤とは対象的に、中盤では、内省的かつ静的なグランジ、オルト・カントリー、スロウコア/サッドコアに根ざしたスロウな楽曲が並んでいる。 分けても、「Irish Goodbye」では、L7のような今や古典となった女性的なグランジへと舵を取る。重々しいギターラインだが、グラスピーのボーカルラインはエディー・ヴェイダーほどにはワイルドではないし、クリス・コーネルのようにも瞑想的ではない。グレスピーはむしろ、モダンなインディー・ポップ風のボーカルスタイルを披露することで、この曲に軽やかで溌剌とした印象をもたらすことに成功している。


 

その後は、ベッドルームポップに触発されたオルトポップ性を引き出した「I Don't Think So」でリスナーの耳をクールダウンさせ、「Memories」では古典的なカントリー/フォークの風を呼び覚ます。これらの2曲は既に使い古された手法ではありながら、グラスピーのボーカル、及び、ジュリアン・レイジの演奏には真摯な姿勢が感じ取られ、ある一定の集中性を及ぼしている。

 

とりわけ後者の「Memories」ではアメリカーナの主要なイメージを形成する農場ののどかな光景や、畑の上を駆け抜けていく涼風が脳裏に呼び覚まされるかのようである。これらのソングライティング性は、以前よりも高水準なコンセプチュアルな作品、あるいは、それにまつわる音楽を制作することができるようになったことを明かし立てている。その他にも、テキサスのモダン・カントリー・シンガー、Jess Williamson(ジェス・ウィリアムソン)のような温和なカントリー/フォークの作法が大人びた雰囲気を醸し出す、Norah Jones(ノラ・ジョーンズ)の最初期のジャズ・ポップに触発されたスモーキーなソングライティングと結びつき、「Turn The Engine」という美しい結晶を生み出している。

 

このアルバムは、表向きにはスタンダードなUSロックの印象が強いけれども中盤と同様に、後半でもジャズに触発されたロックが個性的な雰囲気を放つ。「Hammer and the nail」ではソングライターとしての細やかな成長を示している。「My Eyes」はアメリカーナの影響を交えながら、バロック・ポップのソングライティング性に静と動の要素を付加し工夫を凝らす。ギターのフランジャーの効果が印象的なクローズ「People Who Talk」は奇妙な哀愁が漂う。ギターの音の運びにはスロウコアに近い悲哀が込められ、ギターラインの上に乗せられるグラスピーのソフトなボーカルは、ジャジーかつ上質な空気感を生み出している。

 

これらの10曲は、以前に比べアーティストのソングライティング性に個性的な何かが加わってきている証だ。実際のリスニングの印象としても、アルバムを聞きおえた後、じんわりとした温かい余韻を残す。 特に、#7「Turn The Engine」は、悲しみを漂わせる美しいバラード・ソングである。



75/100