Interview - 岡田拓郎 最新作『Betsu No Jikan』から制作秘話、こまぶんフェスタ出演までを語る

 Interview 

 

 岡田拓郎



 

岡田拓郎さんは、バンド時代からソロ活動、そして他のアーティストのミックスなど多岐にわたる分野でご活躍されているギタリスト/ボーカリスト/作曲家です。


2015年、ソロ活動に転じると、現在もなお邦楽ロックファンの間で高い評価を受ける『ノスタルジア』を発表。その後、日本のエレクトロニック・シーンで活躍目覚ましい、duennとのコラボレーション・アルバム『都市計画』を発表する。2022年には、細野晴臣(Haruomi Hosono)、ジム・オルーク(Jim O' Rourke)、サム・ゲンデル(Sam Gendel)とのやりとりを通じて制作された『Betsu No Jikan』を発表した。


今回のインタビューでは、2022年の最新作『Betsu No Jikan』から、制作の秘話、ギターへのこだわり、福生という街、さらに、先日、愛知県で開催された”こまぶんフェスタ 2023”への出演等について網羅的にお話を伺うことが出来ました。そのエピソードの全容を読者の皆様にご紹介いたします。

 




・2022年の最新作『Betsu No Jikan』について、ご質問します。このアルバムのテーマ、また制作者としての狙いや意図について、改めて教えていただけないでしょうか?


大まかなプロセスとしては即興演奏、編集、即興演奏、編集、、を繰り返して作品を組み上げていきました。デモやスコアを作って予め決められた楽曲に対してアプローチ、肉付けしていくのとは異なる方法で音楽を制作をする、DAWの編集機能を出来るだけクリエイティヴな方法で活用する、DAWでしか出来ない作曲プロセスを辿る。。といった簡単なルールを設けて、制作を始めたと思います。コロナ禍真っ只中での制作で時間が有り余る程あったので、基本的には思いつくがまま、久しぶりにほとんど我を忘れ、音楽の中にフォーカスしていく事ができました。


そうした作業はほとんど直感で進めていましたが、ぼんやりと、時間は過去との繋がりで前進し続けながらも、先行きの見えない、予期せぬ事が起こり続けるという状況に対してどういったアプローチをする事が出来るかということを考えたりしていたように思います。

 
・最新作では、ボーカル曲「Moons」が収録されています。インスト曲が中心のアルバムですが、ボーカルトラックを収録してみようと考えた理由がありましたら教えていただきたいです。


これに関しては、特に理由はないです。出来てしまった。。という感じでした。




 
・このアルバムの発表後、収録曲のセットリストを組んだライブも開催されていたかと思います。最新アルバムの収録曲を演奏なさった時、音楽的に何か新しい発見などはありましたか?
 
 

この辺りに関しては、まだ定期的にライブ演奏が出来ていないので、即興演奏と編集という関係をライブでどういった形で表現することが出来るのか模索中です。ですが、先日、8/10に渋谷WWWで、森 飛鳥さん(ペダルス・ティール)、マーティ•ホロベック(Martin Holoubek)さん(コントラバス)、山本 達久さん(ドラムス)という編成で、楽曲のテーマになる反復のパターンを共有しつつ、それらのムードを時間でゆったり区切りながら変化させていく方法で行ったライブに手応えがありました。この手法を少しづつ詰めていこうと考えています。

 
 

・『Betsu No Jikan』については、岡田拓郎のサウンドの核心にあったポップスという側面は、薄れて来ているという印象も受けます。近年の音楽性の変化の理由などありましたら、教えてください。
 

 
おそらく、”森は生きている”をやっていた頃から、核心の部分はさほど変わっていないと考えています。


ここで仰っているポップスというのは、音楽の側生地の部分の話で、それは天麩羅の衣側の話であるように感じます。もちろん素晴らしい天麩羅職人の生み出す衣は核心のようなものだと思うので、この例えはあまり良くないかもしれませんが。。。


ただ音楽性の変化は確かにあると思います。これに関しては、自身で、歌があって歌詞のある所謂ポップスを作るには、色々の制限があって不自由に感じていて、もっと純粋に音楽の響きへの関心が強くなったんだと思います。もちろん、ポップスのプロダクションに加わったり、聴いたりするのは今でも楽しいのですが、自分が表に立ってやりたいとは今は全く思わないです。

 

 
・バンドからソロ転向後の2015年から、実験音楽の要素は作品のリリースごとに強まっているような印象も受けます。例えば、Duennさんとのアルバム『都市計画』では、ニューエイジ、アンビエントといった、旧来とは異なる音楽へとチャレンジしています。この時期に、従来とは異なるジャンルのプロデューサーと組んでみようと思ったきっかけがあれば教えて下さい。


 

duennさんとは、以前『mujo』という作品を共同で制作して、その後も定期的に何かしらを作っていたので、この辺りは自然の流れに身を任せてという感じでした。


 
duennさんは、音楽に対するマインドやアプローチも全然異なりますし、歳も生活も離れてますし、ウマも合うのか合わないのかよく分からないのですが・・・、とても好きなんですよね。

 


・その後、『Morning Sun』では、シティ・ポップやドリーム・ポップに近い音楽性にも取り組まれています。岡田さんの従来の作品の中で、最も甘口のポップスのように感じるのですが、実験的な作風と並行して、この時期にキャッチーなものを制作しておきたかった理由などありますか? 


 
 

客観的に見ても、『Morning Sun』はサウンド的にもマインド的にも全くシティ・ポップを感じませんが、これはどういう視点なのでしょうか?   ここでいうシティ•ポップはどういった類の音楽を想定していますか。シティ•ポップじゃない、と自分の作品に断りを入れるのは、森は生きているの頃以来ですよ・・・(笑)。


この時期にキャッチーなものを制作しておきたい、、といった理由は、特にありませんでした。このタイミングで、たまたま出来たのが、こういったスタイルだったという感じですかね。



 



・すべてのリリース作品に関して、岡田さんの音楽観や背景には、他地域にはない、福生市という土地の文化性が強く反映されているように思えます。学生時代や、それ以前の幼少期に、米国のリアルな音楽やカルチャーに触れた経験や記憶等がありましたら教えてください。
 

 

福生でセッション文化が身近にあったという点では、プレイヤーとしての経験を10代の早い段階で得ることが出来ましたが、同時期にセッションでよく顔を合わせてた歳の近い君島大空くんとか、King Gnuの新井くんなんかは特にアメリカ的なものに傾倒しているわけでは無いと思いますし、僕ともベーシックにある音楽観は異なるように思います。


アメリカ的なものの多くはレコードや本、SNS以前のインターネットから学びました。


その辺りの経験で言ったら、バンドをやっていた20代初めの頃に”森は生きている”のメンバーだった増村と、土着的ルーツを見失っている自分達はそれについてどう考えれば良いのか、といった話をずっとしていました、


レヴォン・ヘルムやトニー・アレン、スライといったグルーヴのオリジネーターたちのビートやタイムの感覚を引き合いに、また、グルーヴだけでなく、彼らの持つムードや質感、匂いみたいな目に見えないけど確かに感じる違いについてずっと考えを巡らせていました。これらのニュアンスはいまだに言語に置き換えるのが非常に難しいです。ただこの辺りのニュアンスは所謂プレイヤーや音楽家よりもレコード・オタクの方が敏感な印象もあります。


例えば、50年代のハウリン・ウルフ・バンドとスティーヴィー•レイ・ヴォーン・バンドの違いについて考えると分かりやすいかもしれません。時代が違うので音質の違いもありますが、同じようなバンド編成でシャッフルのビートを刻むときにどこかビートの何かが違います。どっちが優れているといった類の話ではありませんが、恐らく多くの人がその違いをなんとなく感覚で感じる事が出来ると思います。


ただ、多くのプレイヤーは、レイ・ヴォーン・バンドのシャッフルをトレースするのはさほど難しくなく感じると思いますが、恐らく50年代のハウリン・ウルフのビートを同じフレーズで同じ音符でプレイしても”あの感じ!”というのをうまくトレースする事が出来ないと思います。この時のハウリン・ウルフのビートの何がスペシャルなのかについて議論を交わすんです。ジェイ•ベルローズのマラカスは極めてハウリン・ウルフ的だ!みたいに。




一方でレイヴォーンやブルース・ブレイカーズはトレースしやすいが故に、多くの層へブルースを浸透させることが出来たかもしれない。。。という側面も考えられます。彼らのおかげで10代の初めにいろんな音楽へアクセスすることが出来ました。


 


・現在、フェンダーのギターを演奏で使用しているみたいですが、シングルコイルのギターに関するこだわりなどありますか? 

 
 
この4.5年は、フェンダーのジャガーをメインに使っていましたが、最近は、テスコのピックアップとビグスビーを載せたストラトをメインに、ギブソンのハムを積んでいるレスポールも同じような割合で使っていますし、リージェント(グヤトーン)のLG-50も頻繁に使用しています。シングル・コイルのタッチ、レスポンスの素直さは好きですが、必ずしもフェンダーのシングル・コイルにこだわりがあるわけではありません。

 

僕自身、最近は足元のペダルの数もだいぶ減らしてシンプルになったので、アンプに直で繋いでも重心がどっしりしていて、サスティーン(サステイン)も豊かなレス•ポールは重宝しています。





・岡田さんは、年代を問わず、洋楽、邦楽問わず、様々なジャンルの音楽をお聞きになっているように思えます。こういった、膨大な音楽知識の蓄積を、青年時代から、どのような形で積み上げていったのでしょうか。その経緯について、あらためて教えていただけませんか?
 
 
 

これは”いつまでも興味関心が尽きない”の一言に尽きるかもしれませんね。よく言われる話ですが、ジャズが好き、スワンプが好き、ファンクが好き、、みたいな感覚は、わかる部分もありつつよく分かりません、とも言えます。いつも素晴らしい音楽、グッとくる音楽が好きです。寝る間も惜しんで、いつもそんな音楽を探してます。





 
・また、岡田さんは、以前から、ギター・マガジン等、主要な音楽雑誌で連載をなさっています。これらの批評は、実際の音楽制作の際に、何らかの形で生かされていると思いますか?

 
  
これは自分ではなんとも言えません。どう感じるか聞きたいです。





・岡田さんは、日本のポップ・シーンで活躍する女性シンガーソングライター、例えば、安藤裕子さんや、柴田聡子さんとの共同制作も行ってます。こういった女性のシンガーと共同制作を行う時、音楽的なインスピレーションの側面で、良い影響を受けることはありますか? 

 
 

女性とだから、男性とだからこういう影響を受ける傾向にある。。とかそういった考え方はしたことがないですね。ちなみに、安藤さんに関しては、セッション・プレイヤーとして呼ばれただけなので、プロダクションにはかんでいないので共同制作といった感じではないです。





 

・今、夢中になっている音楽、アーティストがいたら教えてください。また、今年発売された作品の中で、ベスト・アルバムを選ぶとしたら、どれを選びますか?

 
 

Ry Cooder, Daniel Villarreal, Ras G, The Necks, Jeff Parker, Los Destellos, Augustine Ramirez, Andrew Pekler, Hiroshi Yoshimura, Michel Redolfi, Oscilation Circuit, Chalotte Dos Santos, Hailu Mergia, Mason Stoops, Dylan Day…。



ベストはまだ選べません。。


 

 


・先日、愛知県で行われた、こまぶんフェスタの出演についてもお伺いします。現地にツアーに行った際にご観光はされましたか? また、当日、Duennさんとステージで共演しています。客席に大掛かりなオブジェが登場したようですが、この公演や企画に関して、なにか思い出に残っていることはありますか?

 
 

のんびり観光するような時間は残念ながらありませんでしたが、小牧駅を出てすぐに気になる造形の建物があって、空いた時間に足を踏み入れてみたら図書館でした。


すごく静かで落ち着いた、ひらけた良いムードの場所でした。近所にこんな場所があればいいなと思いました。


 
鈴木康広さんの「空気の人」という空気の彫刻作品のための演奏を行ったのですが、とても面白かったです。ホールの客席側に空気の人を配置して、ステージ側にお客さんが入り、その間の地点で僕たちは演奏しました。


美術家の人たちと何かを一緒に作り上げるのはいつもワクワクします。美術系の方たちはいつも音楽家とは違った明瞭なコンセプトを持っているように感じる事が多いです。

 






・現在、取り組んでいる新プロジェクトなどありましたら教えてください。また、今後、予定しているライブ情報などありますか?


 


今年はいくつかのプロダクションに携わっていて、どれも素晴らしい作品になりそうです。なので、自分の作品はほとんど触る時間がない状況が続いてますが、合間合間にアイデアは貯めています。





 


質問にお答えいただき、重ねて感謝申し上げます。 

 

 

(Music Tribune  取材完了日 2023/9/8) 

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