斜め上の戦略 【Oblique Strategies(オブリーク・ストラテジーズ)】  従来とは違う思考法を取り入れる

 


 

 

・思考はどのような結果を形作るのか?

 

 人間はある思考に基づいてなんらかの行動を起こします。思考なくしては行動も存在する余地がありません。そういったことを考えると、思考の正当性によって行動が決定されますし、その後に何らかの行動を起こすことで従来とは異なる結果が現れるわけです。


 しかし、翻ってみると、思考は、価値観や倫理観、固定観念の蓄積から発生しています。思考とは、過去から未来に繋がる線を歩くということ。それは究極的に言えば、立体的な思考法はおろか直線的な思考法しかしえないことを意味する。すると、別の線上にある可能性を見落とす場合もある。例えば、外的な環境の変化だったり、他者の説得や直感的なヒントによって、外側から思考が変わる場合もありますが、結果的に何らかの発想の転換をもたらさないかぎり、従来の思考や行動を変えることはとても難しいでしょう。私達が、ときに自分でエキセントリックな方法であると考えるもの、それは意外に何らかの枠組みの中で動いているのに過ぎないかもしれません。


 かつて現代音楽家のジョン・ケージは「Chance Operation(チャンス・オペレーション)」という偶発的に発生する音楽の概念を生み出しました。ケージは、まだ彼が無名だった時期に、かつてモノクロ・テレビのアメリカのバラエティー番組に出演し、観客の笑いのなかで、即興の実験をしながら偶発的な音を発生させました。それはずいぶん滑稽な印象をもたらし、彼がコメディアンと考えた人もいたほどでした。その中には、ヤカンで湯を沸かす音を出すだけというのもあったのです。もちろん、その場の即興でケージの演奏はおこなわれました。そして、彼が取り組んだのは、音楽のイノベーションではなく、音楽を形成する仕組みや構造性を変化させたり破壊するということでした。これと同じような考えに基づいて作られたのが、ピーター・シュミットとブライアン・イーノによって考案された「Oblique Strategies (斜め上の戦略)」だった。ケージが実践的にその方法論を示したのに対して、ピーターとイーノの斜め上の戦略は、外側からの働きかけによって、別の結果を恣意的に発生させるという手法なのです。

 

 「Oblique Strategies−斜め上の戦略」は、音楽家を中心に、すでに実際の制作に取り入れられたことがありますが、例えば、音楽制作以外にも、実業家、経営者、他にも、政治家の方が戦略を立てる時にも有益となるかもしれません。


 オブリーク・ストラテジーズとは、あらかじめカードに考えを記しておき、何らかの制作をしていて、行き詰まりを感じた時、そのカードにかかれている短い警句を読み、新しい考えを取り入れ、それまでとは違う考えに気づき、そして行動を変化させ、最終的には従来とは異なる結果を生み出すという方式です。


 例えば、基本的に、何らかのアドバイスは人間がその間に介在するため、感情的な反発すら起こす虞れがありますが、この手法はカードによってもたらされるため、それほど大きな反発を起こす危険性がありません。なぜならカード自体は、善意でもなく、悪意でもなく、一つの考えを示したに過ぎないのです。


 では、この斜め上の戦略が、どのようにして生み出されたのかについて見ていきたいと思います。

 

 

・斜め上の戦略 思考の背後にある思考

 

デザイナーのピーター・シュミット

 このカードはどのようにして作られたのでしょう。1970年、ピーター・シュミットは、スタジオに溜まっていたすでに使用されなくなった版画に活版印刷した55文が記された「思考の背後にある思考」を作成し、これはのちにイーノが所有することになった。そもそもイーノは、1960年代からシュミットを知っていたようですが、彼自身も同様のプロジェクトを推進していた。1974年に彼は何枚かの竹製のカードに思考の背後にある思考について手書きをし、それを「Oblique Strategy」と名付けました。この2つのプロジェクトには重複期間があった。

 

 同年の後半、シュミットとイーノは、それらをひとつのカードのセットにまとめ、1975年に一般販売を開始しました。このセットは1980年初頭に、シュミットが急死するまでに3回の限定版の印刷が行われましたが、その後、カードセットは希少となり、プレミアがついた。

 

 16年後、ソフトウェアの先駆者であるピーター・ノートンはイーノを説得し、友人のクリスマスプレゼントとして第四版を制作しました。非売品として制作され、後にオークションに出回った。カードに関する世間的な評判は、その後も高まる一方で、イーノは2001年に新しいオブリーク戦略カードをセットで販売することに。 2013年5月には黒ではなくバーガンディー色の限定版が発売された。2012年には文書化され、書籍としても出版されています。

 

 これらのカードについて、ブライアン・イーノは次のように話しています。「これらのカードは、私達の別々の作業手順から進化しました。それは友情の間の多くの事例の一つに過ぎませんでした。私達はほとんどまったく同じ時期、ほとんどまったく同じ言葉で、作業のプロセスに到達したのです」


「数ヶ月、会わなかったこともあり、再会したり、手紙の交換をしたりするうちに、私達は同じような知的レベルにあることがわかった。これはその前にあった印象とはまったく異なるものでした」

 

 

 

・カードにはどのような言葉が記されているのか?


 オブリーク・ストラテジーズは、実際、現在もアマゾンやショップなどで販売されています。カードは箱の中に封入されていて、蓋を開くと、何らかの短い思考が書かれたカードが出てきます。そこにはあっと驚くようなことも書かれています。それでは、このカードには実際どのような言葉が書かれているのでしょうか。55のカードがあり、そこには現在の自分とは全然関係のなさそうなことまで書かれています。カードの言葉を下記に示していきたいと思います。

 

 

The List of Oblique Strategies:

 

・通常の楽器を放棄する

・アドバイスを受け入れる

・降着

・線には二つの側面がある

・地役権を許可する(地役権とは狭窄部の放棄です)

・セクションはありますか?  移行を検討する

 ・人々に自分のより良い判断に反して働くように依頼する

・自分の体に問いかけてみる

・いくつかの楽器をグループに集めてグループで扱います

・一貫性の原則と不一致の原則のバランスを取る

・汚れてください

・もっと深く呼吸してください

・橋を建てる - 建てる - 燃やす

・カスケード

・楽器の役割を変更する

・何も変更せず、完全な一貫性を維持して続行します

・子どもたちの声・話す・歌う

・クラスター分析

・さまざまなフェージング システムを検討する

・他の情報源を参照する - 期待できる - 期待できない

・メロディー要素をリズミカル要素に変換する

・勇気!

・重要なつながりを断ち切る

・飾る、飾る

・エリアを「安全」として定義し、アンカーとして使用する

・破壊する -何もない -最も重要なもの

・公理を破棄する

・欲望から切り離す

・使用しているレシピを見つけて放棄する

・時間を歪める

・できるだけ長い間、何もしないでください

・簡単なことだから恐れる必要はない

・決まり文句を恐れないでください

・自分の才能を発揮することを恐れないでください

・沈黙を破らないで

・あることを他のことよりも強調しないでください

・退屈なことをする

・食器を洗う

・言葉を変える必要があるでしょうか?

・穴は必要ですか?

・違いを強調する

・繰り返しを強調する

・欠点を強調する

・選択に直面したら、両方を行う (Dieter Roth 氏)

・録音を音響状況にフィードバックする

・すべてのビートを何かで埋める

・首をマッサージしてもらう

・ゴーストエコー

・ゲームを譲ってください

・最悪の衝動に道を譲る

・外側をゆっくりと一周してください

・隠された意図として自分の間違いを尊重する

・どうやってやればよかったのでしょう?

・エラーのないものを人間化する

・音楽が動く鎖や毛虫のように想像してください。

・音楽を一連の切り離されたイベントとして想像してください

・微小グラデーション

・意図 -信頼性 -高貴さ -謙虚さ

・不可能へ

・終わりましたか?

・何か足りないものはありますか?

・チューニングは適切ですか?

・ただ続けるだけ

・左チャンネル、右チャンネル、センターチャンネル

・完全な暗闇、または非常に広い部屋で、非常に静かに聞いてください。

・静かな声を聞いてください

・非常に小さな物体を見てください。その中心を見てください

・物事を行う順序に注目してください

・最も恥ずかしい部分を注意深く観察し、それを拡大する

・最小公倍数チェック -単拍 -単音 -単

・リフ

・ブランクを絶妙なフレームに収めて価値あるものにする

・やるべきことすべてを網羅したリストを作成し、最後に実行する

・リストにあるもの

・突然、破壊的で予測不可能な行動を起こす。組み込む

・特異なものを機械化する

・ミュートして続行

・各種類の要素は 1 つだけ

・(有機)機械

・あからさまに変化に抵抗する

・耳栓をしてください

・あの静かな夜を思い出してください

・曖昧さを取り除き、具体的な内容に変換する

・詳細を削除し、曖昧さに変換する

・繰り返しは変化の一形態である

・逆行する

・短絡

・彼の男らしさを向上させるには、それらを彼の膝に直接押し込みます

・ドアを閉めて外から聞いてください

・単純な引き算

・スペクトル解析

・休憩する

・明らかに重要でない要素から順に要素を取り除きます

・口にテープを貼ってください(Ritva Saarikko さんより)

・不一致の原則

・テープが音楽になった

・ラジオのことを考えてみましょう

・片付ける

・今のあなたを信じて

・ひっくり返してください

・背骨をひねる

・古いアイデアを使用する

・許容できない色を使用する

・ノートの使用量を減らす

・フィルターを使用する

・「資格のない」人材を利用する

・水

・あなたは今、本当に何を考えていますか? 組み込む

・状況の現実はどうなっているのでしょうか?

・前回はどんな間違いを犯しましたか?

・あなたの一番親しい友人ならどうしますか?

・やらないことは何ですか?

・異なる速度で作業する

・あなたはエンジニアです

・一度にドットは 1 つしか作成できません

・自分のアイデアを使うことを恥ずかしがる必要はありません

・[空白の白いカード]

 

 

 以上のカードの言葉が示している通り、これらのメッセージのようなものは、何らかの制作のために作られたため、音楽的な事項にまつわる思考が多い。

 

 その中には「録音を音響状況にフィードバックする」、「ステレオ・チャンネルのパンの振り方」から「フィルターを使用する」といった具体性のある音楽的な指示、「自分の才能を発揮するのを恐れないように」、「繰り返しは変化の一形態である」といった啓示的な内容まで、さらに制作における緊張感を解すため、「首をマッサージしてもらう」、「休憩する」、「長い間、何もしない」という実際的なアドバイスまで書かれています。これらのカードは、それまで考えもよらなかったような隠された思考に気づくきっかけを与えてくれるかもしれませんよ。

 

 

・斜め上の戦略が取り入れられた事例

 

 考え次第によっては、お遊びにも思えるオブリーク・ストラテジーズですが、こういったカードが実際のプロのミュージシャンの作品制作に使用された事例は一度や二度ではありません。

 例えば、コールド・プレイのアルバム『Viva La Vida Or Death And All His Friends』 はブライアン・イーノがプロデュースを手掛け、この作品の中でオブリーク・ストラテジーズが使用されているようです。他にも、フランスのロックバンド、フェニックスも2009年のアルバムでカードを使用した。さらに、MGMTは、『Congratulations』に収録されている「Brian Eno」の制作時に、スタジオにオブリーク・ストラテジーズのカードデッキを用意していたが、それを正しく使用出来たかは分からないという。他にもバウハウスも作曲時にこのカードを使用しています。

 最も有名な事例では、デヴィッド・ボウイのベルリン三部作(『Heroes』、『Low』、『Lodger』、1976年から79年にかけて制作)の中で、ブライアン・イーノがこのカードを使用しています。「Heroes」のインストのレコーディングに使用されただけでなく、「Lodger」ではより広範囲に使用された。ボウイの1995年のアルバム「Outside」で、再びイーノはこのカードを使用しています。

 アルバムの制作に関わったカルロス・アルマーは、このカードを使用するのが大好きらしく、後に「私が教えているスティーヴンス工科大学の舞台芸術センターの壁にはブライアン・イーノのオブリーク・ストラテジーズが飾ってある」と述べています。「もし、生徒たちがブロックに陥ったときは、私はその壁に向かって生徒たちを誘導する」という。
 
 もし、何かの考えに煮詰まった時、ライターズブロックに直面した時、別の考えがあることに気づくことはとても重要です。そこで、それまでとは異なる考え方や可能性があると気づくため、オブリーク・ストラテジーズは最適かもしれません。現在、このカードは、小売店などでも販売中です。



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