Review-  寺田創一(Soichi Terada) 『Apes In The Net』 サルゲッチュのサントラから6曲を収録

 寺田創一(Soichi Terada) 『Apes In The Net』


 

Label: Far Eat Recording

Release: 2024/ 03/08

 


Review

 

 

日本のハウスシーンの先駆者、寺田創一。『Apes In The Net』はプレイステーション用ゲーム『Ape Escape』(サルゲッチュ)のサウンドトラックからの6曲を集めたコンピレーションである。


ドラムンベースやブレイクコア、もしくはアシッド・ハウスを思わせるエレクトロが凝縮されている。寺田さんはゲーム音楽で知られるサウンドクリエイターではあるものの、実際の作品を聴くと、スクエアプッシャーに匹敵するほど本格派のプロデューサーで、熟練の卓越した技術を感じる。

 

APHEX TWINのデビュー作やSQUAREPUSHERの実質的なデビュー作『Feed Me Weird Things』の系譜にあり、デトロイトハウスの直系に位置する。近年のブレイクビーツやドラムンベースに親しんでいるリスナーにはリズムがシンプル過ぎるように感じられるかもしれない。


しかし、その簡素さゆえに、寺田のダンスミュージックは本格派の雰囲気を醸し出す。それに加え、寺田は、SF的なアナログシンセやMIDIのアウトプットの手法を知り尽くしている。ゲーム音楽で培われた熟練のプロデューサーによる思慮に富んだビートメイクは、ゲームセンターのビートマニアのはるか上を行き、エレクトロの真髄ともいうべき硬質なグルーブ感を生み出す。

 

「Spectors Factory」では4つ打ちのデトロイトハウスに焦点を絞りつつも、ブレイクコアのようなマニアックなクラブ・ミュージックの性質が反映されている。この曲は日本のゲーム音楽がオーケストラとともにダンスミュージックを中心として発展してきたということを思い返させてくれる。


原始的なハウスのビートのシークエンスを執拗に繰り返しながら、そこにちょっとした脚色、つまり、コナミの名作ゲーム『グラディウス』のようなスペーシーな色合いを加えている。性急なビートが矢継ぎ早にボクシングのジャブのように繰り出されるが、アシッド・ハウスを吸い込んだ奇妙な高揚感がリスナーを惑乱と幻惑の奥底へと誘う。


基本的なシークエンスにローエンドのベースライン、ゲームサウンドのチップ・チューンのマテリアルが宝石のように散りばめられ、まるでビートそのものが宙を舞うような高揚感を生み出す。ハウスをベースにしながらも電気グルーブのレイヴ・ミュージックのような恍惚とした感覚を生み出すのだ。

 

「Coaster」は原始的なドラムンベースを下地に置いたトラックで、SQUAREPUSHERが得意とするアウトプットに近いニュアンスも見いだせる。ベースラインはドラムンベース寄りだと思うが、ハイエンドに導入されるゲームのSEのような効果音は、初期のSQUAREPUSHERに近いニュアンスである。時々、その中に細分化され、圧縮されたビートが付属的に導入されると、楽曲はにわかにドラムンベースからドリルンベースに近づいていく。これらはベースやリズムの徹底した細分化が行われた90年代のテクノを復習するような内容となっている。クラブミュージックの実制作者にとっても参考になるのではないか。トラックの中盤ではスリリングな展開が訪れ、聞き苦しくない程度にノイズやグリッチの要素が付け加えられる。シンプルなドラムンベースではあるものの、複雑化したこの最近のジャンルを見るにつけ、新鮮なものが感じられる。


「Spectors」はAPHEX TWINの「Come To Daddy」の時代のテクノの系譜にあり、それほど過激なアプローチはないにせよ、先鋭的な要素が感じられる。ビートに対するメロディーは「グラディウス」やインベーダーゲームの系譜にあり、癒やしの感覚が漂う。8ビットで音楽を出力していた時代のチップチューンやアナログのテクノの懐かしさをどこかに留めている。曲の中盤でブンブン唸るベースラインは迫力があり、寺田サウンドのオリジナリティーが刻印されている。曲の終盤では、ゲームセンターで聞こえるプリクラのSE的な効果がファンシーな雰囲気を醸し出す。これらはゲームのサウンドクリエイターとしての手腕が凝縮されている。

 

『サルゲッチュ』のゲームは1999年にソニーから発売されたが、続く「Haunted House」を聴くと、いかにこのサウンドトラックが時代の最先端を行くものであったのかがわかる。


このトラックでは、アシッド・ハウスの手法を選んでいるが、ゲームの射幸性と熱狂性を表すとともに、長時間のゲームプレイに耐えうるように、音楽のなかに落ち着きと静けさが織り交ぜられている。また、ここには、サウンドデザイナーとしての寺田の手腕が遺憾なく発揮されている。どのシークエンスをどこに配置するのかという設計者としての直感が満載なのである。


リズムやビートは90年代のUKテクノの系譜にあり、シークエンスの中に、細分化され圧縮されたリズムが導入される。とにかく理論的なアウトプットの手段を選ぼうとも情感を失わないのが凄い。リードシンセやシークエンスを散りばめ、ミステリアスな感覚を生み出す。このトラックは今聴いても新しいエレクトロなのだ。

 

寺田創一はハウスやドラムンベースの基本的なスタイルを選んでいるが、「Mount Amazing」ではエキセントリックでトリッピーな技法が発揮される。寺田は得意とするドライブ感のあるビートを下地に、ピッチベンドを駆使し、トーンのうねりを生み出したり、清涼感のあるピアノのフレーズを散りばめ、安らいだ感覚を生み出す。


BPM、ビートやリズムは性急なのに、奇妙な落ち着きを作り出すプロデューサーとしての手腕は見事としか言いようがない。とりわけ、ピッチベンドの使用はシークエンスだけではなく、ベースラインにも導入され、これが全体的なウェイブのうねりを作り出し、所々に聞き手を飽きさせないような工夫が凝らされている。

 

EPの最後に収録されている「Time Station」 は、シュミレーションのような趣を持つトラックだ。これは、ゲームの効果音がアクション、バトル、ロールプレイングの動きのある側面とは異なる「システムのエディット」という要素があったことに拠る。この曲の中で、寺田はバトルやロールプレイング的なアグレッシヴな要素とは別の安らいだ感覚を電子音楽で示唆している。

 

少なくとも、90年代と00年代の日本の全般的なゲーム音楽は、オーケストラ、映画音楽、ダンスミュージックはもちろん、ロック、メタル、民族音楽など、あらゆる音楽の要素を網羅していた。恐るべきことに、グレゴリオ、古楽、さらには、日本の古典的な民謡に至るまで、驚くべき情報量を誇っていたのだった。EP『Apes In The Net』は、ダンス・ミュージックとしても一級品なのは事実だが、日本のゲームカルチャーの変遷のようなものが示されているのがとても素敵である



 

 

85/100


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