Interview(インタビュー ) Kazuma Okabayashi  アンビエント制作の核心にあるもの  アーティストの生活の一部をなす音楽の意義とは何か??

Interview -Kazuma Okabayashi

 

アンビエント制作の核心にあるもの  アーティストの生活の一部をなす音楽の意義とは何か??

 


現在の日本のアンビエントシーンで注目すべきアーティスト、Kazuma Okabayashi。2009年頃からMy Spaceで楽曲を発表するようになった後、2019年頃に自主レーベルを設立し、多数のアンビエント・ミュージックをリリースしてきた。アーティストのリリースの主要な特徴は、毎週のようにアルバムやシングルの発表を行う、ということである。アーティストのアンビエントはギターとシンセを中心に構築され、エモーショナルなニュアンスがわずかに漂う。

 

最近、Kazumaの音楽は、海外のリスナーの注目が集めるようになっている。Spotifyのアンビエントのプレイリストで特集が組まれ、スコットランドの老舗ファッション・ブランド、Johnstons of Elgin(ジョンストンズ・オブ・エルガン)の製品のルック動画の音楽を手掛け、米国のギタリスト、Hollie Kenniffとのコラボも行った。今後、海外での知名度も徐々に高まっていく可能性もある。

 

今回、注目のアンビエント・プロデューサーの制作にまつわる秘話、機材について、レーベルの運営、そして複数のコラボレーション、また、ストリーミングを活動の主軸に置くアーティストの心境について、貴重な話を伺うことが出来ました。以下、そのエピソードの全容をご紹介します。

 



Music Tribune:   


2019年頃から自主レーベルからアンビエント作品をリリースしているようですが、”place.”を立ち上げたきっかけについて教えていただけますか? また、レーベル名の由来等はありますか?



Kazuma Okabayashi: 


 "Place."という名前は元々、自身の音楽作品を発表するためのブランド名として使用していたものでした。当時はパワースポット巡りにハマっていて、パワーの集まる場所を自ら作りたいと考え、Place.と名付け、そのまま現在でも使用しています。

音楽レーベルとしてのPlace.を立ち上げたのは、“音楽家”とざっくりとした未来像を想像した時、「レーベルの運営者として活動していたい」という想いから、しっかりと運営できるシステムを作れるまでは、自分の作品だけリリースするためのレーベルを始めた、という経緯でした。



Music Tribune:   


正直、アンビエントはメジャーなジャンルではないと思うんですが、このジャンルに興味を持った理由や、そして実際に音源制作をはじめるに至った経緯について教えていただけますか?



Kazuma Okabayashi:  


 自身の経験の中で最も古いアンビエントに近い音楽に触れるきっかけは、2004年にRed Hot Chili Peppersのギタリスト、John Frusciante(ジョン・フルシアンテ)のソロアルバム『The Will To Death』の「Helical」という一曲との出会いでした。スプリングリバーブの心地よい響きと即興演奏によるエレクトリック・ギターの1発録りは、今でも自分が憧れるギターアンビエント像そのものでした。繰り返し何度も聴いた覚えがあります。


宅録作品もリリースしていたJohn Fruscianteの影響もあって、音楽制作自体は高校生の時に買ったZoomのMTR 'MRS-1044'を用いて、様々なジャンルの音楽を制作していました。そして、2009年頃から”Myspace”にアップロードしていた音楽をネットで発表するようになりました。その後、2016年頃から、アンビエント感のある曲を作ってはいたものの、アンビエントに明確に興味を持ったのは2019年というように、かなり遅いです。正直なところ、それまでは、特に好んで聴いていた音楽ではありませんでした。

 

しかし、Michiru Aoyama(青山ミチル)氏の曲との出会いがアンビエントに興味を持つ大きなきっかけとなりました。

 

Aoyamaさんの作る曲は、今すぐにでも外に飛び出して走り出したくなるような、そんな胸騒ぎがしました。アンビエントの多くは、リラックスやチルアウトを目的として作られた“静”の印象が一瞬で崩れ、“動”のアンビエントがあるんだと、大きな衝撃を受けたのを覚えています。もちろんアンビエントにそんな定義などないのですが......(笑)。 そこから、Aoyamaさんに“追いつきたい”と、2019年に初期衝動をそのままにアンビエントの楽曲制作を開始しました。



Music Tribune: 


岡林さんは、ソロプロジェクトに加えて、genfukeiという名義でも音楽をリリースなさっています。もうひとつの自分というべきか、若干、音楽性の指針に違いがあるような気がします。双方のプロジェクトの音楽性やコンセプトの違いを挙げるとするなら、どんな点があるでしょうか?

 


Kazuma Okabayashi:   


実はあまりコンセプトを決めて別名義への取り組みをスタートしたわけではありませんでした。


Michiru Aoyamaの衝撃の後、Helios、Goldmund(注: 坂本龍一ともコラボレーション経験がある)などのアンビエントに触れて、後にそれがKeith Kenniff(キース・ケニフ)によるプロジェクトである事を知り、とても驚いたのを覚えてます。そして、まったくの無名な自分がリスナーに印象付ける一つの手段として考えたことが別名義のプロジェクトに取り組むきっかけとなりました。


実は、Genfukeiの他、Flat Lake、Shaded Navy、Yurikagoといった名義でも音源をリリースしています。今はそれぞれ決まったコンセプトは考えないで、自由に活動していますが、別名義での活動を続ける中で、自然とコンセプトが作られていくように感じます。音楽性で言うと、”Genfukei”では、Post-rockやGloomcore、Bedroompop などアンビエントの枠を飛び越えたジャンルに挑戦したいと考えてます。アンビエント以外のアーティストとのコラボレーションも模索している最中です。



Music Tribune:   


これまで、ギターサウンドを基調にしたアンビエントから抽象的なシンセによるドローンまで、多岐にわたる音楽性を追求されているように見受けられます。2019年からご自身の作風はどんなふうに変化してきたとお考えでしょうか? 



Kazuma Okabayashi:   


2019年からの最初の作品はエレクトリックギターとループエフェクターを使用して制作したシンプルなインストゥルメントでした。その頃の音を聞くと、John Fruscianteの影響とMichiru Aoyama氏の影響を自分なりにアンビエントとして生み出していたように思います。


そこから、2021年の頃まで初期衝動のままにずっとギターアンビエントを制作していました。”Michiru Aoyamaさんの音に近づくにはどうすれば良いか?"と考え、ギターアンプやマイク、エフェクターやプラグインなどいろいろ試していた時期でもありました。

 

その一環で、購入したMoog Matriarch(モーグのセミモジュラーシンセ)のの導入により、音楽性の幅が広がる契機となりました。モジュラーシンセを使用したアンビエントの不規則で偶発的な音作りと、その逆とも言えるDAW上でMIDIを打ち込むタイプの曲作りにも興味を持つようになりました。それらに取り組むに際して、Moog Matriarchは双方の可能性を擁する理想的な機材でした。


それまで一貫して使用していたエレクトリックギターを使わない曲も作り始めることで、音作りにも変化が起こり始めたと思います。それまでは、ほぼ即興的な偶発性のある曲作りが大半でしたが、2023年あたりからはコード進行や曲展開にも注力し、より曲としての完成度を高めていくことにも取り組むようになりました。


初期衝動から始まり、これからも長く音楽活動を続けていくには、作曲家としての進化をしていきたい、と考えるようになりました。自身のマインドが変わることで実際の作風も徐々に変化していったように思います。



Music Tribune:   


近年、米国のギタリスト、Hollie Kenniff(注: ホリー・ケニフはキースの妻で、音楽的なコラボレーターでもある)とのコラボレーションを行っています。実際、私はこのリリースで岡林さんの音楽に注目するようになりました。このコラボがどのように実現したのか教えてほしいです。また、具体的な制作過程についても、こっそり教えていただけますか? 



Kazuma Okabayashi: 


 コラボレーション以前のHollie Kenniffさんとのやり取りのきっかけは、Instagramのダイレクトメールで、Hollieさんから私の音源に対して好意的なコメントを送ってくれたことが始まりでした。


前述の通り、Keith Kenniffに対して、とてもリスペクトの念を抱いていましたし、もちろんアーティストとしてのHollie Kenniffの存在も知っていました。なので、DMが届いた時は本当に驚きました。


そこから思い切って、私からHollieさんにコラボレーション依頼を打診したところ、彼女自身も「コラボに挑戦していきたい」と考えていて、タイミングが重なったことで共同制作がスタートしました。

 

前向きな言葉を貰ってからすぐ、曲の制作を開始し、現在リリースされている2曲の元となる素材、及びデモトラックを完成させました。その録音データをHollieさんに送ることで、本格的に曲制作がスタートしました。

 

私自身から提供した音は、”Moog Matriarch”のアルペジオ、エレクトリックギターのコードやメロディの素材でした。それを元にし、ボーカルやピアノ、シンセなどの音をHollieさんに追加してもらい、最終的に、編曲や各トラックのMIXまで施していただきました。シンセの音作りや編曲など、すべてが自分とは違った新しいアプローチだったので、かなり新鮮でした。特に、私から提供した素材もMIXを経て、音楽そのものも、よりいっそう煌びやかに変化したことにも驚きました。



Music Tribune:   


最近、スコットランドのファッション・ブランド、”Johnstons of Elgin(ジョンストンズ・オブ・エルガン)”のルック動画の作曲も手掛けたということで、本当に驚きました。これは、ブランド側から依頼があったんでしょうか? 実際に映像にまつわる音楽を制作してみて、印象はいかがだったでしょう?

 


Kazuma Okabayashi:   


ルック動画への曲提供は、Johnstons of Elginのビジュアルメディア全般を請け負っているイギリスのデザイン事務所から依頼が来ました。


最初は、先方が”Genfukei”のアルバムをチェックしてくれていて、「アルバムの中から曲を使用させてくれないか?」というお話をいただきました。しかし、配信手続きの済んでしまった楽曲を広告やソーシャルメディアで使用したりすると、思わぬトラブルが発生する可能性があるため、結果的に映像に合わせた曲を制作することになりました。


映像音楽の制作は初めての経験だったので刺激を受けました。印象としては、普段の音楽制作との違いを明確に感じました。音の主張が強すぎても弱すぎても難しく、双方が納得できるまで音楽を磨き上げるのに苦労しました。


仕上がった曲に対して、クライアントからフィードバックをいただいた後、何度か曲を修正をかけていく、といったことも新たに経験しました。レコーディングにより組み立てられた音を修正するのは、それほど容易なことではありませんが、MIDIデータの打ち込みであれば、より細かな修正が可能であったりと、普段の音楽制作では気づかないような未知の発見もありました。







Music Tribune: 


現在の制作環境や使用機材、レコーディング方法について、大まかで構いませんので、教えてもらえますか? 制作のこだわり、力を入れている点について教えてください。

 


Kazuma Okabayashi:   


現在は自宅を録音スタジオとして利用し、PCの音楽編集ソフトCubaseを用いて録音した素材のMIXや編集をしています。

 

録音に主に使用しているのは、エレクトリック・ギターと複数のエフェクト・ペダル。セミ・モジュラーシンセの”Moog Matriarch”。最近は少量のモジュラーシンセを導入し、実験的な音作りにも取り組んでます。


また、レコーディング方法については様々です。一番最初に取り掛かる音がその曲の雰囲気を左右することが多いので、エレクトリックギターからフレーズを作ったり、Cubase(注: スタンドアローンの作曲ソフトウェア)でソフトシンセを用いて、コード進行から作ったり、複数のエフェクトペダルを用い、インプロヴィゼーション的で偶発性のあるループ素材から作ったりと、様々な手法を用いる事を意識しています。


音源制作におけるこだわりや特に力を入れていることは、やはり、エレクトリックギターでの音作りです。楽器は人間の手によって実際に演奏して録音するので、手元のわずかなニュアンスの強弱や完璧でないリズムなどが、そのまま録音に反映されます。それにより、その曲の中でギターのサウンドが様々な意味合いを持ち、また、比喩的な事象が起きる瞬間(燃えるような音、風のような音、波のような音、呼吸するような音になる)にとても惹かれてしまいます。



Music Tribune: 


岡林さんは、これまで多数の作品をリリースしています。正直なところ、数が多く、聞ききれない印象もあるんですが、毎週のようにリリースを重ねるのはなぜでしょう? また、アンビエント制作というのは、サウンドデザインのようだったり、アートのようだったり、日記のようだったり、商業的なものだったりと、制作者によって捉え方は多種多様であるように感じます。岡林さんにとって、この音楽はどのような意味を持つのでしょうか? 



Kazuma Okabayashi: 


最初は、すごく単純に、制作する曲のスキルアップへの課題や経験値の積み上げを目的とし、多数の曲をレコーディングしていました。何年も続ける事で、いつしか、それが自分にとって大事な生活の一部となっていることに気づきました。仕事が忙しくなり、音楽制作ができなくなると呼吸が浅くなり、身体が固くなる感覚に襲われた事がありました。

 

自分にとっての音楽制作は、例えるなら、”深呼吸やストレッチ”のようなものに近いのかもしれません。


そして、生活の一部として出来上がった複数の曲を放置しておくことも、自分にとってはストレスのように感じてしまうため、現在のように音源を毎週リリースをするという形になりました。


聞ききれない曲数であったり、リリースそのもののペースが早すぎることは、リスナーに寄り添っていないかのようなネガティブな印象もありますが、仕事と両立して音楽活動を行っている現段階では、スキルアップや経験値として積み上げていくことを最優先に取り組んでいます。




Music Tribune:  


アルバムやシングルのアートワークも、絵画的で印象的なものが多いと思います。眺めているだけで癒やされてしまいます。これらのデザインは、どなたが手掛けているのでしょう。また、音楽と関連して、ジャケットのコンセプトや指針のようなものはありますか?



Kazuma Okabayashi:  


アートワークに関しては、2019年の頃は自ら撮影した写真を使用していました。

 

2021年の後半からは、曲の印象に合った素材を探して使用していました。2023年からは、AI生成によるアートワークに移行しました。


AI生成は、作曲をする時の楽器と同様に、頭の中のイメージを具現化してくれるツールとして、また、人間には思いつかないような、偶発的で斬新な発想を、AIを駆使して得る事により、自分の音楽的表現の一つとして発表することが出来るかも、と考えています。この選択をすることで、毎週リリースを重ねる生活の中で、写真を撮影するよりも時間的なコストが軽減され、音楽制作に多くの時間を費せるようになる。それが現段階の自分の音楽スタイルと合致しました。

 

実際のフォトグラフィーでは、表現する事が難しかった抽象度の高いアートワークを制作することによって、リスナーの曲への理解や受け取り方が、より自由になるかもしれないと感じています。



Music Tribune:  


アンビエント制作の最も魅力的な点を挙げるとするなら、それはどのような瞬間に求められるでしょう。

 

また、作曲に関してですが、岡林さんは制作者として、構想として既に出来上がっているものを提示するタイプでしょうか、それとも、制作過程で今までになかった何かを探していくタイプでしょうか? 

 


Kazuma Okabayashi:   


アンビエントはまだこれから発展していく音楽だと考えていますので、アンビエントの定義や枠から外に踏み出すような制作ができた時、可能性や魅力をひときわ強く感じることができます。

 

作曲に関しては、取り掛かる前にざっくりとした音の構想をイメージし、楽器やシンセサイザーで、それを曲として形にしていくことが多いです。

 


Music Tribune:  


 岡林さんは、2020年代のストリーミング世代に登場し、時代の波に上手く乗っているアーティストなのかなと思っています。最近ではSpotifyの特集プレイリストにもピックアップされたと聞きます。


近年、ストリーミングサービスに関して、マージン(収益配分)の側面で商業的に難しい問題があるという指摘もなされています。あらためてお聞きしますが、ストリーミングをメインとして音楽をリリースすることの最大の利点を挙げるとするなら、それはどんなところにありますか?



Kazuma Okabayashi:   


やはり誰でも簡単に音楽を世界に配信することができるのが最大の利点であるかと思います。

 

また、それにより、海外のアーティストと繋がってコラボレーションなどに発展していくことができます。

 

アマチュアのアーティストにとっては収益配分の問題よりも、そういった側面での利点が大きいように感じています。



Music Tribune:  


お答えいただき、ほんとうにありがとうございました。今後のリリースにも期待しております。