New Album Review: Wednesday 『Bleeds』

Wednesday 『Bleeds』




Label: Dead Oceans 

Release: 2025年9月19日

 

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Review

 

アッシュビルのWednesdayは前作『Rats Saw God』の後継作『Bleeds』において少なからず飛躍を遂げている。内面の恐怖が自画像としての暗喩を形作り、そしてサザン・ロックに根ざしたオルタナティヴロックの新しい水準を作り出した。内面的な恐れは、この最新作の中核となるラウドロックの形を取って表面に現れる。バンドの創設者の一人、ハーツマンのボーカルは、内省的な側面を持ち、それらが内面と外側とで常にせめぎあいを続けている。これは精神分析学の話とは無関係だが、それらがこのバンドのMJ レンダーマンを中心とするアンサンブルによって重層的なサウンドを作り上げる。ニューヨークともロサンゼルスとも異なる、独特な暗い憂いと激しい感情の間を揺れ動く、センチメンタルでエモなアルバムが登場している。

 

アルバムの冒頭では、内面の恐怖を象徴付けるかのような、ディストーションギターが配置されている。それが減退した後、クロマティックスケールを多用したロックサウンドが続く。チューブアンプを通したようなギターのノイズが重層的に重なると、ノイズであるはずのものがハーモニーに変わる。そしてWednesdayのロックサウンドで重要なのは、ブルース・ハープのような音色をギターで表現していることである。サザン・ロックの重要なソウルやブルースの要素が泥臭い感覚を生み出し、それらが青春のエバーグリーンな感覚と重なり合う。

 

深夜すぎのちょっとしたパーティをイメージ付けるような退廃的であるが心地良いサウンドが、このアルバムの序盤のコアの部分となっている。ミュートギター(バッキングギター)と、轟音のシューゲイズを彷彿とさせるラウドロックのフレーズを交互に配置させ、90年代のグランジやミクスチャーロックを受け継いだ2020年代のアルトロックの新しい定形を作り出していく。狂騒的なギター、ブリジャーズを彷彿とさせるボーカル、彼らが持てるすべてを注ぎ込んだ一曲と言える。実際的にこのオープナーは何か白熱したエネルギーを持ち、そしてモラトリアムのような感覚を宿している。青春時代の感覚を見事なロックサウンドに反映させている。

 

Wednedayは、ラウドなロックからアルトなロック、そしてカントリーやフォークに根ざしたバラード、またそれらの中間に位置するものまで器用に書き、それらを実際にバンドによって体現させる力を持っている。 郷愁的な気持ちを示した「Townies」は新しい時代のカントリーとも言えるだろうし、「Wound Up Here」でさえ、それらのクロスオーバーとしての効力を持つ。上記の二曲は、ワクサハッチーのようなカントリーとロックの融合というこのバンドのテーマを縁取っている。しかし、このバンドらしいというべきか、ウェンズデーの曲を個性的にしているのは、曲から立ち上ってくる幻想的な感覚である。これらがダイナーやモーテルのようなアメリカンな光景と混ざり合い、センチメンタルでナイーブな感覚を呼びおこすのである。特に「Wound Up Here」では明らかにブルースハープを縁取ったようなギターの音色が輝かしい魅力を放っている。それらは無類のロックファンの5人組の姿を脳裏に浮かび上がらせる。

 

特にアルバムの中盤にかけて、サザンロックへの傾倒は強くなる。ウェンズデーのこのアルバムにおける最大の強みとはブルース・ロックがいまだに2020年代のロックの文脈においてそれ相応の魅力があることを示したということである。アコースティックギターの弾き語りのバラードソング「Elderberry Song」ではアメリカ文学的な感性を通して、サッカー・マミーの書くようなセンチメンタルでエモな楽曲を書き上げている。また、The Byrd、Lynrd Skynrd、Bad Company周辺のブルース・ロックを彷彿とさせる「Phish Pepsi」は、このアルバムの中でも最も風変わりな一曲だ。この曲はそれほど轟音に傾くことなく、 カントリーとロックの中間にある渋いトラックとして楽しめる。よりモダンなアルトロックソングとして聞こえる「Candy Breath」ですら、カントリーやブルースロックの影響下にあるサウンドが敷かれていることを理解していただけるはずだ。

 

 

アルバムは最もセンチメンタルなトラック「The Way Love Goes」で一つのハイライトを迎える。 昼下がりのほっとするような瞬間をフォークソングに仕上げたこの曲は、このバンドが良質なメロディーを持ち、それらをニール・ヤングやミッチェルのようなレジェンドのサウンドと結びつけることが出来る器用な一面を兼ね備えていることを表している。 しかもこの曲でも明らかにブルースの影響が強く、それらが現代的な感性を持つバラードとして仕上がっている。少なくとも、このバンドのサウンドの大部分が古典的なロックやそのルーツからの影響があって成立していることがわかるはずである。それが彼らの描こうとする偉大なアメリカの象徴ともなっている。納屋や牧歌的な風景、アッシュビルはそれほど田舎とは言えまいが、これらのカントリーの叙情性をスティールギターなどを中心につくりあげていこうとするのである。

 

「Pick Up That Knife」では、轟音性という表層の部分が剥がれ落ちて、ウェンズデーというバンドの本質的な部分を垣間見ることが出来る。特にこの曲ではカントリーというよりもフィドルのような楽器の音色を用いていることからもわかるとおり、フォーク・ソングの性質が強い。これらの米国の民謡とロックやポップの形をオルタナティヴという共通認識によって、何か面白いものを作ろうというのが彼らの目論見でもある。また、それはこの曲を聴けば、結構上手くいっているという気がする。 

 

また、それは「Bitter Everyday」でも功を奏している。前作の音楽性と陸続きにあるアルトロックソングで非常に聴きやすく親しみやすい。この曲は近年、飽和状態にあるオルタナティヴロックに一定の規律を与えるような曲である。また、ペイブメントやGalaxie500の系譜にあるカレッジロックの真骨頂でもある。これは彼らが学生バンドのような立ち位置から出発したことを伺わせ、また同時に、原点回帰のような意味合いを持ちあせているとも解釈出来るわけだ。

 

ウェンズデーは明るい側面だけではなくて、暗い側面にも焦点を当てている。それはラウドで激しい印象を持つロックソングと対象的な印象を持つ。「Carolina Murder Suicide」は、幻想的なロックソングのスタイルと、シンパシーやペーソスが結びついた曲である。アルバムの最後の曲「Gary’s Ⅱ」は静かで落ち着いたフォークバラードで、癒やされるような感覚がある。 

 

 

 

82/100 

 

 

 

 

 

「Elderberry Song」 

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