Living Hour 『International Drone Infinity』
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Release: 2025年10月17日
Review
カナダのロックバンド、Living Hourは、『Someday Is Today』に続くアルバム『Internal Drone Infinity』をKeeled Scalesから先週末にリリースした。 カナダのレーベル、Next Doorから移籍後、第一作となる。最新アルバムは、前作のコラボレーターのJay Som(メリナ・ドゥテルテ)が全面的なプロデュースを担当した一作。このバンドは、カナダの次世代のインディーズロックウェイブを象徴付ける存在といってよいかもしれない。ドリーム・ポップやシューゲイズをインディーロックと結びつけるが、今作では、遊び心溢れる音楽的なアプローチに満ち溢れている。
アルバムのオープナー「Stained Steel Dream」では、エイフェックス・ツインと聴き間違えるほどのドリルンベースで始まるが、やはりその後は、静けさと轟音を行き来し、心地よい温みを持つアルトロックソングが続いている。ゆったりとしたテンポでギターロックは続いていくが、轟音のシューゲイズサウンドが後半部に登場する。アンセミックなフレーズも登場するが、テンポ感覚を変えながら、その轟音の向こう側にある静寂を発見する。サウンド全体にはどことなく、Wednesdayに近いテイストが捉えられるはずだ。このバンドの持つ美しいメロディーセンスは、続く「Wheel」に見出すことができる。ほのかな郷愁や田舎性に満ち溢れたサウンドは、ボーカルと骨太なギターラインの轟音のなかで溶け込み、ときどき、ドリーム・ポップの要素を引き出す。ややアメリカーナのサウンドを彷彿とさせるインディーズロックは、新しくテキサスのレコード・レーベルからのリリースを象徴付けるかのように、南部的な雰囲気を漂わせる。この南部的な郷愁やアメリカーナの要素は、続く「Waiter」でも継続しているが、少しよれたピッチのボーカルが、カントリーとロックのクロスオーバー性をより強調付けている。
「Best I Did It」ではギターの強烈なフィードバックノイズを用い、Dinasour Jr.の系譜にあるハードロック風のオルタナサウンドに挑んでいる。やや繊細で内省的な印象を持つボーカルが恐竜や巨人のようなディストーションギターと融合し、モダンなテイストを持つギターロックが誕生している。それらが時折、精妙な感覚を持つ轟音のシューゲイズサウンドへと変化する。しかし、依然としてアメリカーナやカントリーの影響がどことなく渋い印象をもたらしている。曲の後半では、轟音の中から、まるで雪煙の向こうから神秘的な情景が出現するかのような美麗な印象を持つボーカルフレーズが登場する。このあたりのリヴィング・アワーのバンドとしての強固なフレンドシップや一体感がこのアルバムの序盤の一つのハイライトの瞬間となるだろう。
前回は、ポップやトロピカルなサウンドも随所に散りばめられていたが、今回のアルバムではよりロック・バンドとしての性質が強まっている。そしてそれは他の現代のバンドの音楽的なアプローチと同期するかのように、ポスト・グランジの次世代のモダンロックへと組み替えた楽曲「Firetrap」 、もしくは、彼らの出発点となったThe White Stripesのようなガレージロック・リバイバルの楽曲「Big Shadow」が続いている。しかし、これらは乾いた感じのガレージ・ロックではなく、シューゲイズや音響派の系統にある極大のギターサウンドの音像によって構築される。神秘性という側面ではその限りではないものの、Mogwaiのような轟音のポストロックの要素を全面に押し出したという印象がある。その中で、今回は、かなりギターのプレイが活躍していることがわかる。ツインリードを織り交ぜてメタリックなサウンドを探っていることもある。これらはまだ完全形にはなっていないかもしれないが、ロックサウンドとしては面白さが感じられる。これはもしかすると、Fucked Upのパンクのアプローチにも比する実験性がある。
特に、アメリカーナやカントリー/フォークの要素が最も強まるのが、続く「Texting」である。ここでは、雄大なアメリカーナの雰囲気がギターの繊細なアルペジオを中心に組み立てられ、リヴィングアワーの代名詞とも呼べるドリーミーなボーカルが幻想的な雰囲気を作り出す。この曲の後半部では、、ニール・ヤング風のかなり渋いテイストを持つフォークサウンドも登場するのに注目しておきたい。轟音のロックサウンドがこのアルバムでは顕著であるが、一方でこういった静かで精妙な感覚を持つインディーフォークサウンドこそ、このバンドの隠れた長所である。この曲は、「Best I Did It」と並んで、このアルバムの最大の聞き所になる可能性が高い。
また、アルバムの前半部は轟音のギターロックが多いが、後半部になると、何かつきものが落ちたかのように静寂が強まる。「Little Kid」はオルタナティヴロックの隠れた魅力の静けさに焦点を絞っている。表向きにはそれほどはっきりとはしないが、どことなく哀愁と憂愁に満ち溢れた感覚が、リヴィング・アワーらしいロックサウンドに乗せられることが多い。しかし、その中で、少しダウナーな感覚を持つサッドコア/スロウコアのようなサウンドから、美しい旋律が立ち上る。これらの対極にある要素が絡み合い、『International Drone Infinity』が生み出された。
アルバムの終盤では、スロウコア/サッドコアの要素が強まり、鈍重だが幻想的な感覚を漂わせるインディーロックサウンドが、このアルバムの有終の美を飾っている。大きく変化したわけではないが、何かが確実に変化している。これらの変化の中で、今後どういったサウンドが作り上げられていくのかに注目したい。アルバムのクローズは、やはりアメリカーナを思わせる田舎性を感じさせるインディーロックソングである。しかし、その中でようやく、期待していたような新しい実験的なサウンドの萌芽を見出すことができる。ピアノ/シンセを織り交ぜたサウンドで、口笛の音などをサンプリング的に取り入れ、アート志向のインディーフォークソングを作り上げている。この最終曲では、やはり、このバンドらしい、特異な美的センスを感じ取ることができる。それは、前作のような圧倒的な感覚には乏しいものの、依然として、リヴィング・アワーは何か期待すべきものを持ち合わせている。相変わらず好きなバンドの一つ。
76/100
「Best I Did It」- Best Track





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