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 Weekly Recommendation

 

Yo La Tengo 『This Stupid World』 

 



Label: Matador Records

Release Date: 2023年2月10日


Listen/Purchase



 

 ニュージャージ州ホーボーケンのオルタナティヴ・ロックバンド、Yo La Tengoは84年の結成時からおよそ40年にもわたる長いキャリアを持つトリオです。

 

うろおぼえではあるものの、多分同じくらいのキャリアを持つ日本のある有名なロックバンドが、以前、このようにインタビューか何かで話していた記憶があります。「長く良いバンドでありつつづけるために必要なのは、売れすぎないことである」と。これは当事者から見ると、身も蓋もない話であるけれど、売れてしまうとミュージシャンとしての強いモチベーションが失われてしまうことを彼らは身をもって言い表していたように思えます。傑出した才能に恵まれながらも熱意を失ってしまった実例を、そのバンドメンバーは実際の目で見てきたのです。そして、伝説的な存在、ヨ・ラ・テンゴが、約40年目にして最も刺激的なアルバムを制作していることを考えると、この良いバンドである続けるための箴言はかなり言い得て妙なのかもしれません。

 

この新作アルバム『愚かな世界』のアートワークが公開された時、熱心なヨ・ラ・テンゴのファンは、すぐ気がついたことでしょう。これは、1993年の『Painful』、そして2000年の『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』の続編のような意味を持つのかも知れない、と。もちろんこれは憶測に過ぎませんが、『This Stupid World』は少なくともヨ・ラ・テンゴのキャリア、そして、ニュージャージーやニューヨークのその時々の音楽ムーブメントとの関わり方を見ると、一つの節目にあたる作品であると共にキャリアを総括するような作品と言えるかも知れません。


プレス・リリースでは、近年、プロデューサーと協力して作品を生み出してきたヨ・ラ・テンゴが最初期のDIYのスタイルに回帰し、完全なインディペンデントな制作を行った作品ということになっています。ところが……、実は、Tortoiseのドラマー、John McEntire(ジョン・マッケンタイア)がロサンゼルスでミックス作業に部分的に関わっているらしい。しかし、それ以外は、プレスリリースに書かれている通りで、ヨ・ラ・テンゴのメンバーがDIYの精神に基づいて制作に取り組んでいます。

 

Yo La Tengo

 新作アルバムの発売以前に先行シングルが三曲公開されました。ポップなコーラスを交えたローファイなロックソング「Fall Out」、そして、ヨ・ラ・テンゴのドラマーであるジョージア・ハプレイの和やかな雰囲気を持つ「Aselentine」までは、いつものようなヨ・ラ・テンゴの作品が来るだろうと予想していました。  


ところが、今週始めの最終プレビュー「Sinatra Drive Breakdown」を聴いた時、正直にいうと、今までの作風とは少し何かが違うと考えた。この新作アルバムが従来のヨ・ラ・テンゴのイメージを強化するのではなく、例えば、Sea And Cakeを彷彿とさせるソフトなロック性の印象を引き継ぎつつも、別の側面でそれを覆すような冒険心に溢れる作品であるように感じたのです。


そして、金曜日に『This Stupid World』の全貌が明らかになった時、その疑いのような奇妙な感覚が確信へと変化した。つまり、明らかにヨ・ラ・テンゴの約40年の中で、VUやソニック・ユースを始めとするNYのオルタナティヴの核心に最も迫り、なおかつ最もヘヴィーでカオティックな作品になったのです。

 

このアルバムはいろいろな解釈が出来るかも知れません。「愚かな世界」と題されたオルタナティヴ・ロックは、客観的な世界を多角的に描き出したとも取れますし、また、それはヨーロッパやアメリカの現代社会に蔓延る分断や歪みをノイズ・ロックという側面から抽象性の高いリアリズムとして表現しているとも解釈出来るわけです。そして、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『White Light / White Heat』の代表曲「Sister Ray」に近い、ローファイとカオスを交えたオープニング・トラック「Sinatra Drive Breakdown」で、バンドは、この混沌とした世界を内省的なノイズという観点から克明に描き出そうとしています。


「Sinatra Drive Breakdown」の中では、ある種、禍々しさのあるアイラ・カプランの警告の言葉も囁かれています。「死への準備をせよ/まだ時間が残されているうちに準備しなさい」と歌い、切迫し、いよいよ転変が近い私たちの世界を抽象的に表現する。そして、その人の手により規定された時間の中に居続けることの耐え難さと、その時間から逃れることの願望について歌われています。

 

待って、無視してほしい、無駄にしてほしい、生き続けてほしい、時計の針から目をそらして」とカプランは歌っているが、ヨ・ラ・テンゴの豊富なキャリアにあって、これほど苛烈で厳しい言葉、また、真実の世界をえぐり出した言葉が紡ぎ出されたことが一度でもあっただろうか? これはまさにヨ・ラ・テンゴはこの差し迫った世界を鋭い視点で捉えていると言えるのです。

 

最も衝撃的だったのは、オープニング曲「Sinatra Drive Breakdown」であるのは間違いありませんが、その他にも、これまでのヨ・ラ・テンゴの作風からは予想できない意外な曲もある。いつもフルレングスの中にあって、ふんわりとした癒やしを持つドラマーのジョージア・ハプレイの歌うフォーク・バラード「Aselestine」は、「Let's Save Tony Orlando's House」、「Today Is The Day」といった彼らの代表曲と並べても遜色のない曲で、聞き手を陶酔の中へと誘うことでしょう。その一方、ジョージア・ハプレイは、これまでにはなかった死の扉にさしかかる友人にさりげなく言及しており、既存の作品の題材とは少し異なるテーマを選び取っている。あまり偉そうなことは言えないものの、これは、多分、ヨ・ラ・テンゴの三者にとっての人生が以前とは変わり、そして、その真摯な眼差しから捉えられる世界が180度変化してしまったことを象徴しているのかもしれません。そう、1993年の世界とも、2000年の世界とも異なり、今日の世界はその起こる出来事の密度や、その出来事の持つ意味がすっかり変貌してしまったのです。

 

もはや、どうすることも出来ない。世界は今も時計の針を少しずつ進め続けており、世界中の人たちは、その現状を静観するよりほかなくなっています。それでも、ヨ・ラ・テンゴはこの世界に直面した際に、どのような態度で臨もうとしているのでしょうか。彼らは決してその愚かしさに絶望しているわけでも、そのことについて揶揄しようとしているわけでもないのです。それは、レコードの中で最も衝撃的で、カオティックなノイズに塗れたタイトル曲「This Stupid World」を聴くと分かるように、この世界に恐れ慄きながらも、その先にかすかに見える希望の光を見据えています。この曲は、ヨ・ラ・テンゴの既存の作風の中で、ニューヨークのアヴァンギャルド・ミュージックの源流に最接近していますが、それはThe Velvet Undergroundの往年の名作群にも引けを取らないばかりか、聞き手の魂を浮上させるエネルギーを持ち合わせているのです。


 

 97/100(Masterpiece)

 

 

Weekend Featured Track  「This Stupid World」

 

Parranoul 「After the Magic』

 

 


 

 

Label: POCLANOS

Release: 2023年1月28日

 

 

Review

 

韓国/ソウルを拠点に活動するプロデューサー、パラノウルは、これまでオーバーグラウンドのK-POP勢とは明らかに異なるスタンスを採ってきた。

 

デビュー・アルバム『To See The Next Part Of The Dreams』ではシューゲイズとノイズとエレクトロニカ、『Let's Walk on The Path Of A Blue Cat』ではギターロック/ポスト・ロック、そして『Down Fall Of The Neon Youth」ではエレクトロニカ中心のインスト曲、これまで作品ごとにパラノウルはその音楽性を微妙に変化させてきた。


そして、以前にも指摘したように、パラノウルは、日本語のサンプリングを曲の中に導入し、エレクトロ・サウンドの中には、コーネリアスの影響が感じられる。彼は日本文化やそのミュージック・シーンに愛着を感じてくれているように思える。これはとてもありがたいことである。さらに言えば、パラノウルの音楽性に内包されているのは、令和時代のJ-Popではなく、一世代古い平成時代のJ-Pop、特に、シティ・ポップの後の時代の渋谷系(Shibuya-Kei)の影響である。

 

二、三年の間に自主制作という形ではあるが、四作のフルアルバム、それに付随するEPのリリースはこのアーティストの多彩な才能を示している。特に最初期の作品では、青春の憂鬱の色合いを感じさせる疾走感のあるドリームポップ/シューゲイズ・サウンドがパラノウルというアーティストの重要なキャラクター性を形成していた。


しかし、今回の最新作『After The Magic』と銘打たれた最新のフル・レングスでは、最初期の青春性ーーエバー・グリーンな感じを与えるラフな音楽性ーーから脱却を試み、よりミドルテンポのオルタナティヴ・ロックを作品の中心に据えた。題名に込められた「After the Magic」の意味は、以前の作品がストリーミングやカセットテープ形式の発売であったにもかかわらず、海外の大手音楽メディアに取り上げられ、存外な注目を受けたことに対する感謝の思いがきっと込められているのだろう。

 

ホーム・レコーディングにより制作された既存のアルバムに比べると、この最新作はじっくり腰を据えて作り込まれた作品であるように感じられる。それはミュージシャンとしての精神的な成長ともいえる。楽曲の節々には、以前にはなかったフックのような取っ掛かりがあるし、その歌声には以前よりフレーズそのものを大切に歌い上げようという意図も見受けられるようになった。そのことによって、より壮大なスケールを持つポストロック曲「Arrival」も生み出された。これは、より彼が音楽というものに対する印象が、憧憬から敬意に変じた瞬間と言える。そして、以前のコーネリアスのような平成時代の渋谷系のJ-POPの要素を残しつつ、加えて、MBVやMogwaiのようなレイヴ・ミュージックからの影響、Alex G、Jockstrapに象徴されるストリングスのような楽器を取り入れたモダン・オルタナティヴ・サウンドをここに導きだしている。

 

今回、三部作のような形であった最初期の時代を超えて、ソウルのパラノウルは、既存の成功に耽溺することなく、次なる創造的な領域へと進み始めている。この最新作において、米国のオルタナティヴの最前線のアーティストの音楽に引けをとらない音楽性となったのも、パラノウル自身がカルト的ではありながらも、世界的に注目されるようになったことを自覚したからなのだ。


アーティストは、まだインディーズシーンで予想外の注目を受けていることに戸惑いながらも、着実にミュージシャンとしての階段を一歩ずつ上っている。ファンとしてはこの新作アルバムを聞きながら、パラノウルが今後どのようなアーティストに成長していくのか楽しみにしていきたいところだ。彼の掲げる「夢の続き」は、これからもきっと素敵な形で続いていくだろう。

 

82/100

 


 

puleflor

シューゲイザー/ポストロックトリオ、puleflorが、1月22日(日)にニューシングル「余熱」を発表しました。今回のニューシングルは自主制作盤として発売された。

 

puleflorは群馬で2021年に結成。9月に、茜音(Vo.g)、山口(g)、久保(ds)の現ラインナップとなっている。2021年の11月には、早くもデビューEP『timeless」をリリースして話題を呼んだ。また翌年には、三曲収録のシングル「Fragment」をリリースしている。

 

ベース無しの編成とは思えないサウンドの重厚さはもちろん、ドリーム・ポップのような浮遊感あるボーカル、そして、トレモロアームを駆使したギターサウンド、それを支えるタイトなドラムが魅力のバンドである。彼らは、羊文学の次世代のオルタナティヴ・サウンドを担うような存在だ。最新シングル「余熱」では、近未来のJ-Popサウンドを予見させる音楽性を生み出しており、ツイン・リードのギターの叙情的な調和と美麗なボーカルが絶妙な合致を果たしている。

 

今回のニュー・シングルについて、puleflorのボーカル/ギターを務める茜音は次のようなコメントを寄せてくれました。

 

”余熱”のデモが出来たのは昨年のあまり暑くない日のことで、環境が変わっていく中でも心にはずっと残っていてほしい温度について書きました。

 

puleflorは、昨年末に東京/横浜でのライブ・ツアーを敢行し、横浜のB.B. Street、新宿Nine Spice、下北沢Club Que、渋谷La.Mamaで公演を行った。下北沢の公演では、同日、対バンしたFall of Tearsのゲストとして春ねむりが出演している。さらに、バンドは2023年、三公演を予定しており、その中には東京公演も含まれている。

 

彼らのライブ・スケジュールの詳細は下記の通り。

 

 

・puleflor  -Live Schdule- 

 

2023年

 

・1月28日 横浜 B.B. Street

・2月4日 中野 Moonstep

・2月11日 Gunma Sunburst

 

チケットの詳細はこちら

 


puleflor 「余熱」 New Single


 

Label: puleflor

Release: 2023年1月22日


Tracklist: 

 

1.余熱


楽曲の購入/ストリーミング:

 

 https://linkco.re/4Td2Rczd

  The Murder Capital 『Gigi’s Recovery』

 

 

 

Label: Human Season Records

Release: 2023年1月20日

 

Listen/Purchase



Review


アイルランド、ダブリンで結成された5人組のロックバンド、ザ・マーダー・キャピタルはこの2ndアルバムで特異なオルタナティヴ・ロック/ポスト・パンクサウンドを確立してみせています。本作は、グラミー・プロデューサー、ジョン・コングルトンと共にパリでレコーディングが行われました。


デビュー・アルバム『When I Have Fears』で一定の人気を獲得し、同郷のFontaines D.C.やアイドルズが引き合いに出されることもあったザ・マーダー・キャピタルですが、実際のところ、ファースト・アルバムもそうだったように、硬派なポスト・パンクサウンドの中に奇妙な静寂性が滲んでいました。同時に、それは、上記の2つの人気バンドには求められない要素でもあるのです。


ある意味では、ファースト・アルバムにおいて、表面的なポスト・パンクサウンドに隠れて見えづらかった轟音の中の静寂性、静と動の混沌、一種の内的に渦巻くようなケイオスがザ・マーダー・キャピタルの音楽の内郭を強固に形作っていた。そして、素直に解釈すれば、その混沌とした要素、言い換えれば、オルタナティヴの概念を形成するコードの不調和や主流とは異なるひねりのきいた亜流性が、この2ndアルバムでは、さらに顕著となったように感じられます。ただ、アルバムの音楽に据えられるテーマというのは、デビュー作では”恐れ”に焦点が絞られていましたが、今作では、内面の探究を経て、さらに多彩な感情が混在している。そして、その”恐れ”という低い地点から飛び出し、戸惑いながらも喜びの方へと着実に歩みを取りはじめたように感じられる。バンドは、特に、青春時代の憂鬱、抑うつ的な感情、悲しみなど様々な感情の記憶を見返し、それらをこのレコードの音楽と歌詞の世界に取り入れたと説明しています。その結果、生み出された楽曲群は、ジェイムス・マグガバンの文学性、実際にT.S. エリオット、ポール・エリチュアール、ジム・モリソンといった詩人の影響により、さらに説得力がある内容に変化しています。また、ここには内的な痛みを包み込むような癒やしが混在するのです。


実際の音楽性からみても、デビュー・アルバムよりも幅広いサウンドが展開されていることに気がつく。オープニング・トラックのポエトリー・リーディングに触発されたと思われる「Existense」、「Belonging」といった楽曲は、近年のポスト・パンクバンドの音楽性とは明らかに一線を画しており、それらは前時代のフォーク・シンガーが試みた前衛性にも似たアプローチです。そして、フランク・シナトラを聴いていたということもあってか、旧時代のバラード・ソングの影響もところどころ見受けられます。これらの楽曲は、アルバムのオルタナティヴ・ロック・サウンドの渦中にあり、実に鋭い感覚を感じさせ、異質な雰囲気に充ちています。いわば、作品全体を通して聴いたときに、コンセプト・アルバムに近い印象を聞き手に与えるのです。

 

そして、今作において、ボーカルのジェイムス・マクガバンの歌詞や現代詩の朗読のような前衛的な手法に加えて注目しておきたいのが、ギターを始めとするバンド・サウンドの大きな転身ぶりです。実際、ザ・マーダー・キャピタルは、デビュー・アルバムで、彼ら自身の音楽性に停滞と行き詰まりを感じ、サウンドの変更を余儀なくされたといいますが、2人のギタリスト、The Damien Tuit(ダミエン・トゥット)とCathal Roper(キャーサル・ローパー)は、FXペダルとシンセを大量購入し、ファースト・アルバムのディストーション・ギター・サウンドからの脱却を試みており、それらは、#2「Crying」で分かる通り、フレーズのループにより重厚なロック・サウンドが構築されています。その他、このシンセとギターを組み合わせた工夫に富んだループ・サウンドは、アルバムの中でバンド・サウンドとして最もスリリングな「The Lie Become The Shelf」にも再登場。そして、この曲の終盤では、明らかにデビュー・アルバムには存在する余地のなかったアンサンブルとしてのケミストリーの変化が立ち現れるのです。

 

他にも、バンドのフロントマン、ジェイムス・マクガバンが今作の制作過程で強い影響を受けたのが、レディオ・ヘッドの2007年のアルバム『In Rainbows』だったそう。この時代、今でも覚えていますが、トム・ヨークとジョニー・グリーンウッドは「OK Computer」から取り組んでいたエレクトロニックとロックを融合させた新奇な音楽を一つの完成形へと繋げたのですが、これらのサウンドをザ・マーダーキャピタルは2020年代のロックバンドとして新しく組み直そうとしています。

 

そして、その斬新な音楽性は、ロンドン流の華美なポスト・パンク・サウンドと、アイルランド流の叙情性と簡潔性の合体に帰着する。これらのエレクトロニックとロックの要素の融合が、どのような結末に至ったかについては、このレコードのハイライトを成す「A Thousand Lives」、「Only Good Thing」という2曲で、目に見えるようなかたちで示されています。全般的に、この作品は洗練されており、叙情性にも富んでいますが、一つだけ弱点を挙げるなら、ジェイムス・マグガバンのボーカルの音域が少し狭いことに尽きるでしょう。この点については、イアン・カーティスに近い雰囲気を感じさせ、個人的には好みではあるのですが、ややもすると、一本調子の印象を与えかねません。しかしながら、彼自身の多彩なボーカル・スタイルと前衛的なバンド・サウンドの融合により、この難点を上手く補完しているように思えます。そう、まさに、バンド・アンサンブルの真骨頂が『Gigi’s Recovery』において示されているというわけなのです。もちろん、彼らが、この2ndアルバムにおいて、近年、完全に飽和状態にあったオルタナティヴ・ロックに新たな風を吹き込んでみせたことについては、大いに称賛されるべきでしょう。

 

 

95/100

 

 

 Weekend Featured Track 「Only Good Things」

 

Neutral Milk Hotel


ジェフ・マンガム率いる米国のインディーロックバンド、Neutral Milk Hotel(ニュートラル・ミルク・ホテル)は、キャリアを網羅したボックスセット『The Collected Works of Neutral Milk Hotel』をMergeより2月24日にリリースすることを発表した。彼らは1998年にオルト・ロックの隠れた名作『In The Airoplane Over The Sea』をリリースしたことでも知られている。


今回、2011年にジェフ・マンガムがNeutral Milk Hotel Recordsから自主リリースした限定ボックス・セットの全容が初めてデジタル配信でお目見えとなる。『On Avery Island』の拡張ダブルLP盤、『Live at Jittery Joe's』の限定12インチ・ピクチャーディスク、新アート付きの黒盤『Holland, 1945』/『Engine』7インチ、2014年にブルックリンのProspect Parkで収録した未発表ライブ盤の『Little Birds』(下記からストリーム可能)が収録されています。


また、1995年の『Everything Is』のエクスパンション・7トラック・バージョンのリマスター盤(10インチ盤)、On Avery Islandの「You've Passed」と「Where You'll Find Me Now」の初期4トラック・ソロ・バージョンを収録した7インチ・シングル、10インチの『Ferris Wheel on Fire EP』も発売されています。トラックリストとカバーアートの詳細は以下をご覧ください。


 



Neutral Milk Hortel 『The Collection Works of Neutral Milk Hotel』

 



 
In the Aeroplane over the Sea:
 
1. King of the Carrot Flowers Pt. 1
2. King of Carrot Flowers Pts. 2 & 3
3. In The Aeroplane Over the Sea
4. Two-Headed Boy
5. Fool
6. Holland, 1945
7. Communist Daughter
8. Oh Comely
9. Ghost
10. [untitled]
11. Two-Headed Boy Pt. 2
 
 
On Avery Island:

1. Song Against Sex
2. You've Passed
3. Someone Is Waiting
4. A Baby for Pree
5. Marching Theme
6. Where You'll Find Me Now
7. Avery Island/April 1st
8. Gardenhead/Leave Me Alone
9. Three Peaches
10. Naomi
11. April 8th
12. Pree-Sisters Swallowing a Donkey's Eye
 
Ferris Wheel on Fire:

1. Oh Sister (1995)
2. Ferris Wheel on Fire (1993)
3. Home (1992)
4. April 8th (1992)
5. I Will Bury You in Time (1994)
6. Engine (1993)
7. A Baby for Pree/Glow into You (1995)
8. My Dream Girl Don't Exist (Live) (1992)
 
Everything Is:

1. Everything Is
2. Here We Are (For W. Cullen Hart)
3. Unborn
4. Tuesday Moon
5. Ruby Bulb
6. Snow Song
7. Aunt Eggma Blow Torch
 
Little Birds:

1. Little Birds (Live) (1998)
2. Little Birds (Studio Demo) (1998)
 
"You've Passed" / "Where You'll Find Me Now":

1. You've Passed (Alternate Version)
2. Where You'll Find Me Now (Alternate Version)
 
Live at Jittery Joe's:

1. Intro
2. A Baby for Pree
3. Two-Headed Boy
4. I Will Bury You in Time
5. Gardenhead / Leave Me Alone
6. Two-Headed Boy Pt. 2
7. I Love How You Love Me
8. Engine
9. Naomi
10. King of Carrot Flowers Pt. 2
11. King of Carrot Flowers Pt. 3
12. Oh Comely

Pre-order:


https://lnk.to/NMHBoxSet

The New Pornographers ©︎ Ebru Yildiz

カナダ/ヴァンクーバーのロックバンド、The New Pornographers(ザ・ニュー・ポルノグラファーズ)が、次作『Continue As a Guest』のリリースを発表しました。この作品は、3月31日にMerge Recordsよりリリースされることが明らかになった。ファースト・シングル「Really Really Light」は、Dan Bejarとの共作だが、彼はアルバムには参加していない。Christian Cerezoが監督したビデオと、アルバムのアートワーク、トラックリストは以下の通りです。


バンドのカール・ニューマンは、声明を通じて次のように説明している。「”Really Really Light”を作るために、2014年の『Brill Bruisers』のために書かれたダン・ベジャーの曲を再利用しているんだ。長年にわたる僕のプロセスの一部は、完成しなかったものに手を加えることだった」

 

ダン・ベジャーのコーラスが本当に好きで、しばらくの間、それに属すると思えるものを書こうとしていたんだ。

 

エルトン・ジョンの『Your Song』のコーラスを挿入したアロエ・ブラックの曲『The Man』のことを考えていて、誰も知らない曲を挿入したら面白いんじゃないかと思ったんだ。でも、アロエ・ブラックのようなサウンドを目指したわけではなく、自分なりの解釈でやってみただけです。同じ曲の一部のように感じられるヴァースを書くゲームになった。僕の頭の中では、ジェフ・リンやトム・ペティのような、クラシックなものを目指していた。


10曲収録のこの新作には、サックス奏者のZach Djanikianも参加している。ニュー・ポルノグラファーズの最後のフル・レングスは、2019年の『In the Morse Code of Brake Lights』である。


「Really Really Light」のビデオは以下から視聴可能。





The New Pornographers 『Continue As a Guest』
 

Label: Merge

Release Date:  2023年3月31日



Tracklist:
 

1. Really Really Light
2. Pontius Pilate’s Home Movies
3. Cat and Mouse with the Light
4. Last and Beautiful
5. Continue as a Guest
6. Bottle Episodes
7. Marie and the Undersea
8. Angelcover
9. Firework in the Falling Snow
10. Wish Automatic Suite
 
 
Pre-order/Pre-save:
 
 

Weekly Recommendation For Tracy Hyde  『Hotel Insomnia』

 

 

 

 

Label: P-Vine

Release: 2022年12月14日



Listen/Buy


 

 

Review

 

2016年にファースト・アルバム『First Bleu』をリリースし、デビューを飾ったオルタナティヴ・ロックバンド、For Tracy Hyde(フォー・トレーシー・ハイド)は東京のシーンの中で要注目のシューゲイザー・トリオ、今後、国内にとどまらず、海外での活躍が予想される。宇宙ネコ子とのコラボレーター”ラブリーサマーちゃん”が在籍していたことでも知られ、辻村深月の原作の演劇『かがみの孤城」への楽曲提供等、他ジャンルの媒体と豊富なコラボ経験を持つグループです。

 

通算5作目となるフルレングス『Hotel Insomnia』は、13曲収録というボリューミーな内容となっています。本作は、シューゲイズサウンドを基調とし、ニューゲイズ、モダンなインディーロック、渋谷系、ネオアコースティックと、幅広いライブサウンドが展開され、このバンドのバックグランドがどのようなタイプの音楽で構成されているのかを知る手立てになると思われます。

 

My Bloody Valentine、RIDE直系の轟音のディストーション・ギター、ダンサンブルなビートはこのジャンルに属するバンドとしては王道を行くもので、加えて、日本のバンド、Passepied(パスピエ)の大胡田なつき、平成ポップ・チャートを席巻したJudy and MaryのYukiに象徴されるファンシーなボーカルに通じるものがあり、彼らの織りなすタイトなアンサンブルーードリーミーなサウンドとJ-POPサウンドの劇的な融合ーーが心ゆくまで楽しめる内容となっています。

 

オープニングを飾る「Undule」は、ギター・トラックの多重録音による重厚なディストーションサウンドを体感できますが、あくまでそれらのバックトラックと対象的に、幻想的なボーカルがが乗せられ、同時にスタイリッシュな雰囲気を漂わせています。MBVの音楽の最大の特徴はエレクトロを基調としたダンサンブルなビートとスコットランドのキャッチーなネオ・アコースティックの融合にありましたが、このバンドはそれを十分再現する作曲能力と演奏力を兼ね備えています。二曲目の「The First Time」では、オリジナルのシューゲイズ・サウンドとは対象的なニューゲイズ・サウンドが展開されており、甘美でノスタルジア満載のインディーロック、渋谷系に代表される多幸感のあるメロディーやコードに裏打ちされた楽曲が一曲目とは対象的な趣を持つ。

 

その後も、オルタナティヴ・ロックとネオ・アコースティック、J-POPの本質を見事に捉えた個性的なサウンドが続いていきますが、その中に微妙な楽曲のメリハリや緩急があり、聞き手の集中力をほとんど途切れさせることはない。特に、ノイズ・アヴァンギャルドやアート・ロックを意識したディストーション・ギターは、ソニック・ユースの最初期のような感性の尖さと抽象性の高いサウンドとして昇華され、中盤に収録されている楽曲は、純粋なギターロック/ネオ・アコースティックとしても聴いてみても楽しめるはずです。また、アルバムの中盤に収録されている「Friends」では、繊細な感覚と青春時代の切なさ兼ね備えたJ-POPの本質的な魅力の未知の可能性を追究しています。もちろん、彼らは、この曲に象徴されるように、J-POPのメロとサビの対比、サビのキャッチーさとシンガロング性を踏まえつつ、それらを最新鋭のオルタナティヴ・ロックとして再構築している。以上の特性は、彼らが、単なるPassepied(パスピエ)のフォロワーでなく、その未来系を行く新鮮なサウンドを提示している証ともなっています。

 

終盤になっても、バンドの音楽におけるチャレンジ精神は旺盛で、奥深いインソムニアの世界が果てしなく広がりをましていき、ローファイ・サウンドやチルウェイブを一緒くたにした彼らの構想するモダンなオルタナティヴの理想郷は破られることがない。序盤でキャッチーな表情をみせながら、中盤から終盤にかけてマニアックなサウンドに様変わりする瞬間は圧巻ともいえ、それらはアルバムの全体像にカオティックな印象を形作っている。このバリエーションに富んだオルタナティヴ・サウンドがこのアルバムそのものの価値を高め、一方ならぬ聴き応えをもたらしている要因でもある。これらの新旧のオルタナティヴ・ロックサウンドを自在に去来する伸びやかなライブ・セッション、そして、手強さのある骨太サウンドは、22年の東京に新たな音楽が到来した瞬間を告げている。この清新なサウンドが持つ妙味は、今後、連続したウェイヴのような形で魅力的なバンドが次々に台頭することを予兆的に示しているように思える。

 

現在も、無数のバンドがひしめく東京のミュージック・シーンにあって、For Tracy Hydeのサウンドは、力強い存在感を放っている。ある意味で、自由奔放と称せる伸びやかな表現性は、ロンドンの2022年のインディー・シーンに相通じる要素があり、今後、アンダーグランド・レベルで、世界的人気を獲得する可能性も少なくないように思えます。彼らが今作において日本のポップの要素を核心に置き、洋楽の感性に近い音楽を確立し、それが意外な形で反響を呼んだことは、最新アルバム『Hotel Insomnia』が発売後、タイニー・デスクで名高い米メディア、NPRのレビューとして率先して特集されたのを見てもわかる。For Tracy Hydeは、既に5作をリリースしている経験のあるロックバンドですが、作品リリースやツアーを介し、今後どのような形でブレイクを果たすのかに注目していきたい。オルタナ・ファンとしては、東京のミュージック・シーンに個性的な実力派バンドが登場したことを心から祝福しておきたいところです。



87/100



Weekend Featured Track 「Friends」