約10年前から、テレスコープスは、Tapete Recordsという新しい国際的なレーベル・パートナーを得ている。2021年にリリースされた前作『Songs Of Love And Revolution』は再びUKインディ・チャートにランクインし、ボーナス・エディションにはアントン・ニューコム、ロイド・コール、サード・アイ・ファウンデーションがリミックスを提供した。楽曲は時の試練に耐え、聴くたびに新しい発見がある。かつてイギリスの新聞は、ザ・テレスコープスを「舗道というより精神の革命」と書いた。この共通項は、30年以上に及ぶ影響力のある作品群を貫いている。ザ・テレスコープスは、世界中の様々なジャンルのアーティストに影響を与えている。
セカンド・アルバムをリリースした後、ブリット・ポップの全盛期が訪れた。同時にそれはテレスコープスにほろ苦い思い出を与えるどころか、ミュージックシーンから彼らの姿を駆逐することを意味していた。ローリーは燃え尽き症候群となり、しばらく無期限の活動休止を余儀なくされることになった。それから何年が流れたのか、音楽はどのように変わっていったのか。それを定義づけることは難しい。少なくとも、ローリーはガラスの散らばっているような部屋で暮らし、財政的には恵まれなかったが、少なくとも、音楽的な熟成と作曲の才覚の醸成という幸運を与えた。ローリーは、誰も彼のことを目に止めない時代も曲を書き続けた。長い時を経て、2015年にドイツのレーベル、Tapete Recordsと契約したことがテレスコープスに再浮上の契機を与えたことは疑いがない。『Stone Tape』を皮切りにして、『Songs Of Love and Revolution』とアルバムを立て続けに発表した。この数年間で、テレスコープスはイギリス国内のインディーズチャートにランクインし、文字通り、30年の歳月を経て、復活を遂げたのだ。
もうすでに、『Growing Eyes Becoming String』はレーベルのレコードの予約は発売日を前にソールドアウト、また、日本のコアなオルタナティヴロックファンの間で話題に上っている。それほど大々的な宣伝を行わないにもかかわらず、このアルバムは、それなりに売れているのだ。音楽を聞くと分かる通り、このアルバムは単なるカルト的なロックでもなければ、もちろんスノビズムかぶれでもない。Velvet Undeground、Stoogesの系譜にあるノイズ、サイケ、ブリット・ポップに対するおどろおどろしい情念、そして、Jesus and Mary Chainのような陶酔的な音楽性が痛烈に交差し、想像だにしないレベルのレコードが完成されたということがわかる。
#2「In The Hidden Fields」には、スティーヴン・ローリーがこよなく愛する東海岸のプロトパンクに対するフリーク的な愛着が凝縮されている。The Stoogesの「1969」、「I wanna be your dog」を思わせる、ガレージ・ロック最初期の衝動性、プロトパンクを形成する粗さ、そういったものが渾然一体となり、数奇なロックソングが生み出されている。しかし、テレスコープスは現代のロサンゼルスで盛んなローファイの要素を打ち込み、それをミニマルな構成によりフィードバックノイズを意図的に発生させ、それらを最終的に、サイケデリックな領域に近づける。時代錯誤にも思えるローファイなロックは、驚嘆すべきことに、カルト的な響きの領域に留まらず、ロンドンのBar Italiaのような現代性、そして奇妙な若々しさすら兼ね備えている。
テレスコープスは、そういったメタル的なドゥーム性を受け継ぎ、#3「Dead Head Light」において、彼ららしいスタイルで昇華している。Swansの「Cops」を思わせるヘヴィーロックを構成する重要な要素ーー重苦しさ、閉塞感、内向き、暗鬱さ、鈍重さーーこういった感覚が複雑に絡み合い、考えられるかぎりにおいて、最も鈍重なヘヴィーロックが誕生している。フロントマンのローリーは、暗い曲を書くことについて、「今の世の中は暗いのに、どうして明るい曲を書く必要があるの」と発言しているが、それらの世の中にうごめく、おぞましい情念の煙霧は、ノイズという形でこの曲を取り巻き、聞き手をブラインドな世界へといざなっていく。それらの徹底的に不揃いであり、いかがわしく、どこまでも不調和なこの世の中を鋭く反映させたような音楽を牽引するのが、ロールを巧みに取り入れたラフなドラムのプレイである。
アルバムのハイライトとも言える#5「Get Out of Me」は、彼らの主流のスタイルであるミニマルな構成のローファイ・ロックという形で展開される。小規模でのライブセッションをそのまま録音として収録したかに思えるこの曲は、テレスコープスの代名詞であるローリーのシニカルで冷笑的なボーカル、そして、Swansのように重苦しさすら感じられるスローチューンによって繰り広げられる。シンセのサイケデリックなフレーズ、Melvinsのバズ・オズボーンが好む苛烈なファズがギターロックという枠組みの範疇にあるドローン性を形成し、それらの幻惑的なサイケ・ロックの中にダウナーなボーカルが宙を舞う。最後には、地の底から響くようなうめき、悲鳴にもよく似た断末魔のような叫びを、それらのサイケロックの中に押し込めようとする。
「世の中が暗いのに、なぜ明るいものを作る必要があるのか?」というローリーのソングライティングの方向性は、アルバムの終盤になっても普遍的なものであり、それがテレスコープスの魅力ともなっていることは瞭然である。しかし、どこまでも冷笑的で、シニカルなバンドサウンドが必ずしも冷酷かつ非情であるとも言いがたい。「What Your Love」では、すでに誰かがどこかに速書きのデモソングとして捨てたかもしれないMBVのドイツ時代の音楽性や、スコットランドのPrimal Screamのギターポップ、Mary ChainsやChapterhouseのシューゲイズの源流を成すノイズを交えたドリーム・ポップの音楽性を継承し、それらの音楽を現在の地点に呼び覚ます。
アルバムの最後には、意味深長なタイトル曲代わりの「There is no shore(海岸はもうない)」が収録されている。テレスコープスは、本作の前半部と中盤部の収録曲と同じように、70年代の西海岸のサイケデリアとニューヨークのプロトパンクを下地にし、一貫して堂々たる覇気に充ちたヘヴィーロックを披露する。そして、ENVYの最高傑作『A Dead Sinking Story』の『Chains Wandering Deeply』を思わせる、ドゥーム・メタルの雰囲気に満ちたダークでダウナーなイントロから、へヴィーなリフとノイズと重なりあうようにして、亡霊的に歌われる「海岸はもうない、もうない……」というローリーのボーカルが、幻惑的な雰囲気を持って心に迫ってくる。この曲には、Borisのようなバンドの前衛音楽の実験性に近いニュアンスも見いだせるが、テレスコープスのスタイルは、どこまでもドゥーム・メタルのようにずしりと重く、暗い。
5曲入りの今作は、現在入手困難な幻のデビュー・アルバムへの原点回帰とも言える19分にも及ぶ巨大なオープニング・トラック 「Pain Equals Funny」を中心に、メルヴィンズのメンバー、バズ、デール、スティーブンに加え、セカンドドラマーのロイ・マヨルガ(Ministry、Soulfly、Stone Sour、Nausea)、ギタリストのゲイリー・チェスター(We Are The Asteroid)が 参加している。
アルバムには、ウォードのオリジナル曲に加えて、2曲のカヴァーが収録。デヴィッド・ボウイの最後のアルバム『Blackstar』の「I Can't Give Everything Away」と、クローズ曲として収録されているダニエル・ジョンストンの「Story of an Artist」のライブ演奏である。ウォードはサード・アルバム『Transfiguration of Vincent』(2003年)でボウイの「Let's Dance」をカヴァーしている。
DIY/ローファイのレジェンド、Half Japaneseがニューアルバム『Jump Into Love』を7月21日にFireからリリースすることを発表しました。
ところが、今週始めの最終プレビュー「Sinatra Drive Breakdown」を聴いた時、正直にいうと、今までの作風とは少し何かが違うと考えた。この新作アルバムが従来のヨ・ラ・テンゴのイメージを強化するのではなく、例えば、Sea And Cakeを彷彿とさせるソフトなロック性の印象を引き継ぎつつも、別の側面でそれを覆すような冒険心に溢れる作品であるように感じたのです。
最も衝撃的だったのは、オープニング曲「Sinatra Drive Breakdown」であるのは間違いありませんが、その他にも、これまでのヨ・ラ・テンゴの作風からは予想できない意外な曲もある。いつもフルレングスの中にあって、ふんわりとした癒やしを持つドラマーのジョージア・ハプレイの歌うフォーク・バラード「Aselestine」は、「Let's Save Tony Orlando's House」、「Today Is The Day」といった彼らの代表曲と並べても遜色のない曲で、聞き手を陶酔の中へと誘うことでしょう。その一方、ジョージア・ハプレイは、これまでにはなかった死の扉にさしかかる友人にさりげなく言及しており、既存の作品の題材とは少し異なるテーマを選び取っている。あまり偉そうなことは言えないものの、これは、多分、ヨ・ラ・テンゴの三者にとっての人生が以前とは変わり、そして、その真摯な眼差しから捉えられる世界が180度変化してしまったことを象徴しているのかもしれません。そう、1993年の世界とも、2000年の世界とも異なり、今日の世界はその起こる出来事の密度や、その出来事の持つ意味がすっかり変貌してしまったのです。
デビュー・アルバム『To See The Next Part Of The Dreams』ではシューゲイズとノイズとエレクトロニカ、『Let's Walk on The Path Of A Blue Cat』ではギターロック/ポスト・ロック、そして『Down Fall Of The Neon Youth」ではエレクトロニカ中心のインスト曲、これまで作品ごとにパラノウルはその音楽性を微妙に変化させてきた。
しかし、今回の最新作『After The Magic』と銘打たれた最新のフル・レングスでは、最初期の青春性ーーエバー・グリーンな感じを与えるラフな音楽性ーーから脱却を試み、よりミドルテンポのオルタナティヴ・ロックを作品の中心に据えた。題名に込められた「After the Magic」の意味は、以前の作品がストリーミングやカセットテープ形式の発売であったにもかかわらず、海外の大手音楽メディアに取り上げられ、存外な注目を受けたことに対する感謝の思いがきっと込められているのだろう。
デビュー・アルバム『When I Have Fears』で一定の人気を獲得し、同郷のFontaines D.C.やアイドルズが引き合いに出されることもあったザ・マーダー・キャピタルですが、実際のところ、ファースト・アルバムもそうだったように、硬派なポスト・パンクサウンドの中に奇妙な静寂性が滲んでいました。同時に、それは、上記の2つの人気バンドには求められない要素でもあるのです。
そして、今作において、ボーカルのジェイムス・マクガバンの歌詞や現代詩の朗読のような前衛的な手法に加えて注目しておきたいのが、ギターを始めとするバンド・サウンドの大きな転身ぶりです。実際、ザ・マーダー・キャピタルは、デビュー・アルバムで、彼ら自身の音楽性に停滞と行き詰まりを感じ、サウンドの変更を余儀なくされたといいますが、2人のギタリスト、The Damien Tuit(ダミエン・トゥット)とCathal Roper(キャーサル・ローパー)は、FXペダルとシンセを大量購入し、ファースト・アルバムのディストーション・ギター・サウンドからの脱却を試みており、それらは、#2「Crying」で分かる通り、フレーズのループにより重厚なロック・サウンドが構築されています。その他、このシンセとギターを組み合わせた工夫に富んだループ・サウンドは、アルバムの中でバンド・サウンドとして最もスリリングな「The Lie Become The Shelf」にも再登場。そして、この曲の終盤では、明らかにデビュー・アルバムには存在する余地のなかったアンサンブルとしてのケミストリーの変化が立ち現れるのです。
そして、その斬新な音楽性は、ロンドン流の華美なポスト・パンク・サウンドと、アイルランド流の叙情性と簡潔性の合体に帰着する。これらのエレクトロニックとロックの要素の融合が、どのような結末に至ったかについては、このレコードのハイライトを成す「A Thousand Lives」、「Only Good Thing」という2曲で、目に見えるようなかたちで示されています。全般的に、この作品は洗練されており、叙情性にも富んでいますが、一つだけ弱点を挙げるなら、ジェイムス・マグガバンのボーカルの音域が少し狭いことに尽きるでしょう。この点については、イアン・カーティスに近い雰囲気を感じさせ、個人的には好みではあるのですが、ややもすると、一本調子の印象を与えかねません。しかしながら、彼自身の多彩なボーカル・スタイルと前衛的なバンド・サウンドの融合により、この難点を上手く補完しているように思えます。そう、まさに、バンド・アンサンブルの真骨頂が『Gigi’s Recovery』において示されているというわけなのです。もちろん、彼らが、この2ndアルバムにおいて、近年、完全に飽和状態にあったオルタナティヴ・ロックに新たな風を吹き込んでみせたことについては、大いに称賛されるべきでしょう。
95/100
Weekend Featured Track 「Only Good Things」
Neutral Milk Hotel
ジェフ・マンガム率いる米国のインディーロックバンド、Neutral Milk Hotel(ニュートラル・ミルク・ホテル)は、キャリアを網羅したボックスセット『The Collected Works of Neutral Milk Hotel』をMergeより2月24日にリリースすることを発表した。彼らは1998年にオルト・ロックの隠れた名作『In The Airoplane Over The Sea』をリリースしたことでも知られている。
今回、2011年にジェフ・マンガムがNeutral Milk Hotel Recordsから自主リリースした限定ボックス・セットの全容が初めてデジタル配信でお目見えとなる。『On Avery Island』の拡張ダブルLP盤、『Live at Jittery Joe's』の限定12インチ・ピクチャーディスク、新アート付きの黒盤『Holland, 1945』/『Engine』7インチ、2014年にブルックリンのProspect Parkで収録した未発表ライブ盤の『Little Birds』(下記からストリーム可能)が収録されています。
また、1995年の『Everything Is』のエクスパンション・7トラック・バージョンのリマスター盤(10インチ盤)、On Avery Islandの「You've Passed」と「Where You'll Find Me Now」の初期4トラック・ソロ・バージョンを収録した7インチ・シングル、10インチの『Ferris Wheel on Fire EP』も発売されています。トラックリストとカバーアートの詳細は以下をご覧ください。
Neutral Milk Hortel 『The Collection Works of Neutral Milk Hotel』
カナダ/ヴァンクーバーのロックバンド、The New Pornographers(ザ・ニュー・ポルノグラファーズ)が、次作『Continue As a Guest』のリリースを発表しました。この作品は、3月31日にMerge Recordsよりリリースされることが明らかになった。ファースト・シングル「Really Really Light」は、Dan Bejarとの共作だが、彼はアルバムには参加していない。Christian Cerezoが監督したビデオと、アルバムのアートワーク、トラックリストは以下の通りです。
My Bloody Valentine、RIDE直系の轟音のディストーション・ギター、ダンサンブルなビートはこのジャンルに属するバンドとしては王道を行くもので、加えて、日本のバンド、Passepied(パスピエ)の大胡田なつき、平成ポップ・チャートを席巻したJudy and MaryのYukiに象徴されるファンシーなボーカルに通じるものがあり、彼らの織りなすタイトなアンサンブルーードリーミーなサウンドとJ-POPサウンドの劇的な融合ーーが心ゆくまで楽しめる内容となっています。
オープニングを飾る「Undule」は、ギター・トラックの多重録音による重厚なディストーションサウンドを体感できますが、あくまでそれらのバックトラックと対象的に、幻想的なボーカルがが乗せられ、同時にスタイリッシュな雰囲気を漂わせています。MBVの音楽の最大の特徴はエレクトロを基調としたダンサンブルなビートとスコットランドのキャッチーなネオ・アコースティックの融合にありましたが、このバンドはそれを十分再現する作曲能力と演奏力を兼ね備えています。二曲目の「The First Time」では、オリジナルのシューゲイズ・サウンドとは対象的なニューゲイズ・サウンドが展開されており、甘美でノスタルジア満載のインディーロック、渋谷系に代表される多幸感のあるメロディーやコードに裏打ちされた楽曲が一曲目とは対象的な趣を持つ。