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Velvet Undergroundのオリジナルメンバー、John Cale(ジョン・ケイル)が次作『POPtical Illusion』を発表し、そのリード・シングル「How We See The Light」を公開した。


遊び心溢れるアルバム・タイトルとは裏腹に、ケイルのわずか1年ぶりとなるセカンド・アルバムには、高評価された2023年発表のアルバム『MERCY』に見受けられたような、激しく詮索好きな怒りの感情がまだ含まれている。


『POPtical Illusion』では、ケイルは豪華なキャストを差し置いて、シンセサイザーとサンプル、オルガン、ピアノが入り組んだ迷路に一人で潜り込んだ。ケイルと長年のアーティスティック・パートナー、ニタ・スコットがロサンゼルスのスタジオで制作した『POPtical Illusion』は、まさにケイルがいつもそうしてきたように、未来に向かおうとする人の作品である。

 


「How We See The Light」


 

John Caleによる新作アルバム『POPtical Illusion』はドミノから6月14日にリリースされる。

 

 

John Cale 『POPtical Illusion』

 

Label: Domino

Release: 2024/06/14


Tracklist:


God Made Me Do It (don’t ask me again)

Davies and Wales

Calling You Out

Edge of Reason

I’m Angry

How We See The Light

Company Commander

Setting Fires

Shark-Shark

Funkball the Brewster

All To The Good

Laughing In My Sleep

There Will Be No River

 

Pre-add:

 

https://johncale.ffm.to/howweseethelight 


Weekly Music Feature

‐The Telescopes


 

  イギリスのバンド、ザ・テレスコープスは1987年から活動している。バンドのラインナップは常に流動的で、レコーディングに参加するミュージシャンは1人だったり20人だったりする。この宇宙で不変なのは、ノーサンブリア生まれのバンド創設者で作曲家のスティーヴン・ローリーだ。


当初はチェリー・レコードと契約していたが、後にホワット・ゴーズ・オン・レコードに移籍し、インディ・チャートの上位に常連となった。ザ・テレスコープスの音楽には堅苦しい境界線はなく、様々なジャンルを網羅し、常にスティーブン・ローリーのインスピレーションに導かれながら独自の道を歩んでいる。


スティーヴン・ローリーが、13th Floor Elevators、The Velvet Underground、Suicideといったアメリカのアンダーグラウンド・アイコンへの愛情を注ぎ込む手段として1987年に結成して以来、バンドはノイズ、シューゲイザー、ブリットポップ、スペース・ロックの世界に身を置きながら、そのどれにも深入りすることなく活動してきた。むしろローリーは、それらすべてをつなぎ合わせて、完全にユニークなドリームコートのようなものを作り上げることを好んできた。


1992年にクリエイション・レコードからリリースされた彼らの名を冠した2枚目のLPは、その年にパルプやシャーラタンズが発表したレコードよりも、ブリットポップへの強力なサルボである。


10年の歳月をかけて制作された続編『サード・ウェイブ』では、ローリーはジャズとIDMに没頭し、Radioheadの「KID A」の後の世界におけるロック・バンドというフォーマットの無限の可能性を示すにふさわしい作品を作り上げた。


約10年前から、テレスコープスは、Tapete Recordsという新しい国際的なレーベル・パートナーを得ている。2021年にリリースされた前作『Songs Of Love And Revolution』は再びUKインディ・チャートにランクインし、ボーナス・エディションにはアントン・ニューコム、ロイド・コール、サード・アイ・ファウンデーションがリミックスを提供した。楽曲は時の試練に耐え、聴くたびに新しい発見がある。かつてイギリスの新聞は、ザ・テレスコープスを「舗道というより精神の革命」と書いた。この共通項は、30年以上に及ぶ影響力のある作品群を貫いている。ザ・テレスコープスは、世界中の様々なジャンルのアーティストに影響を与えている。


「Growing Eyes Becoming String」は、イギリスのノイズ・ロックのパイオニア、ザ・テレスコープスの16枚目のスタジオ・アルバムである。


元々は2013年に2回のセッションでレコーディングされ、1回目は厳しいベルリンの冬にブライアン・ジョネスタウン・マサカーのスタジオでファビアン・ルセーレと、2回目はリーズでテレスコープス初期のプロデューサー、リチャード・フォームビーと行われた。10年近く前、ハードドライブのクラッシュに見舞われたこのセッションは、失われたものと思われ、すぐに忘れ去られてしまった。デジタル・エーテルから奇跡的に救出され、結成メンバーのスティーヴン・ロウリーがパンデミックの中、自身のスタジオで仕上げたこのアルバムは、2024年2月にFuzz Clubからリリースされることが決定、2013年当時のザ・テレスコープスの別の一面が明らかになった。


当時の彼らのフィジカル・アウトプットのほとんどが実験的なノイズ・インプロヴィゼーションで構成されていた。それらが明らかな構造とはかけ離れたものであったのに対し、『Growing Eyes Becoming String』は、ロンドンの実験的ユニット、ワン・ユニーク・シグナルがバックを務めるザ・テレスコープスが、並行する存在として、より歌に基づいた音楽を実際に生み出したことを示している。アルバムに収録される全7曲には、長年のファンがザ・テレスコープスの音楽から連想するクオリティのトレードマークがすべて詰まっている。ソリッドなボーカル、メロディ、ハーモニー、ノイズ、不協和音、即興、実験、そして自然の視覚の領域を超えた旅。


「この2つのセッションの目的は、ブラインドで臨み、完全にその場にいることだった」とスティーヴン・ローリーは振り返っている。「先入観なんかは一切なくて、すべてが "W "だったのさ」



『Growing Eyes Becoming String』- Fuzz Club



  当初、イギリスのロックバンド、The Telescopes(テレスコープス)の音楽活動は1980年代に席巻したブリット・ポップの前夜の時代のミュージック・シーンに対する反応という形で始まった。フロントパーソンのスティーヴン・ローリーには才能があったが、まだ一般的に認められる時代ではなかった。「10代の頃に起こった悪いことや、80年代のチャートを支配した酷い音楽等に触発された。テレスコープスは、まわりのほとんどのものに対する反応だった」 

 

 その当時から、テレスコープスは流動的にメンバーを入れ替えて来た。最初のリリースの前にも、ラインナップ変更があった。しかし、それらは偶然の産物であり、意図的なものではなかった。状況によってメンバーを入れ替えたにすぎないという。80年代から、スティーヴン・ローリーが触発を受けた音楽は、「周りの暗闇を受け入れながら、光の中で創造されたもの」ばかりだった。 ニューヨークのプロトパンク/ローファイの始祖、The Velvet Undergroundは言うに及ばず、サイケデリック・ロックの先駆者、The 13th Elevators、アラン・ヴェガを擁する伝説的なノイズロック・バンド、Suicideなど、スティーヴン・ローリーの頭の中には、いつもカルト的だが、最も魅力的なアンダーグラウンドのバンドの音楽が存在した。

 

  もうひとつ、ローリーに薫陶を与えたのが、イギリス国内のダンスミュージックだった。「私達は、バーミンガムやノッティンガムで遊び始め、当時流行っていたファンジンの文化を通して、言葉が広まっていった。私達の最初のロンドンでのショーは誰もいなかった。ケンティッシュタウンのブル&ゲートでハイプをプレイした時、観客は20人しかいなかった。その当時、カムデンのファルコンでは、多くのノイズバンドが最初のギグを行っていた。”パーフェクトニードル”を発表したときには、ファルコンでのショーはいつも満員となり、凄まじい熱気だった」

 

  正確に言えば、バンドはその後、MBVなどを輩出した''Creation''と契約を結び、リリースを行った。クリエイションのレーベル創設者、アラン・マッギーが彼らのショーを見に来た時、あまりに強烈すぎて、彼はその場を去らなければならなかった。翌日、彼はそれが良いことであると考え、テレスコープスに連絡を取り、マスターテープとライセンスを寄与するように求めた。ローリーはそれに応じ、クリエイションとの契約に署名する。その後、彼は引っ越し、創造的な側面に夢中になり、スタジオに行く時間を増やした。しかし、ショーではバイオレンスがあった。唾を吐きかけられたり、ボトルを投げつけられることに、ローリーは辟易としていた。そんなわけで、インスピレーションに従い、レコードを制作することに彼は専心していた。

 

 

  セカンド・アルバムをリリースした後、ブリット・ポップの全盛期が訪れた。同時にそれはテレスコープスにほろ苦い思い出を与えるどころか、ミュージックシーンから彼らの姿を駆逐することを意味していた。ローリーは燃え尽き症候群となり、しばらく無期限の活動休止を余儀なくされることになった。それから何年が流れたのか、音楽はどのように変わっていったのか。それを定義づけることは難しい。少なくとも、ローリーはガラスの散らばっているような部屋で暮らし、財政的には恵まれなかったが、少なくとも、音楽的な熟成と作曲の才覚の醸成という幸運を与えた。ローリーは、誰も彼のことを目に止めない時代も曲を書き続けた。長い時を経て、2015年にドイツのレーベル、Tapete Recordsと契約したことがテレスコープスに再浮上の契機を与えたことは疑いがない。『Stone Tape』を皮切りにして、『Songs Of Love and Revolution』とアルバムを立て続けに発表した。この数年間で、テレスコープスはイギリス国内のインディーズチャートにランクインし、文字通り、30年の歳月を経て、復活を遂げたのだ。

 

  もうすでに、『Growing Eyes Becoming String』はレーベルのレコードの予約は発売日を前にソールドアウト、また、日本のコアなオルタナティヴロックファンの間で話題に上っている。それほど大々的な宣伝を行わないにもかかわらず、このアルバムは、それなりに売れているのだ。音楽を聞くと分かる通り、このアルバムは単なるカルト的なロックでもなければ、もちろんスノビズムかぶれでもない。Velvet Undeground、Stoogesの系譜にあるノイズ、サイケ、ブリット・ポップに対するおどろおどろしい情念、そして、Jesus and Mary Chainのような陶酔的な音楽性が痛烈に交差し、想像だにしないレベルのレコードが完成されたということがわかる。

 

 

   #1「Vanishing Lines」を聞くと分かる通り、テレスコープスのギターロックを基調とした全体的な音楽の枠組みの中には、70年代のサイケデリックロックや、ザ・ポップ・グループのような前衛主義、なおかつ、ニューヨーク/デトロイトのプロトパンクを形成するヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ストゥージズ、スイサイド、スワンズといった北米のアンダーグランドのマニアックな音が絡み合い、ミニマルによる構成力を通じて、ラフなセッションが展開される。しかし、エクストリームなノイズは、ごくまれにメリー・チェインズのようなシューゲイズ/ドリーム・ポップの幻影を呼び覚まし、スティーヴン・ローリーのモリソンを彷彿とさせる瞑想的なボーカル、同時に、ドリーム・ポップのゴシック性が噛み合った時、独創的なギターサウンドや、ローファイ、ノイズに根ざした独創的なバンドサウンドが産み落とされる。

 

  本作の冒頭の曲の中には、シャーランタンズやパルプのような主流から一歩引いたブリットポップのグループのメロディー性が受け継がれている。そして、スティーブン・ローリーのボーカルは、最終的にシガレット・アフター・セックスのような夢想的で幻惑的なイメージを呼び覚ます。それは1980年代後半や90年代前半に、彼がブリット・ポップ・ムーブメントを遠巻きに見ていたこと、あるいは、商業的に報われなかったということ、そのことが、この時代の象徴的なミュージシャンやバンドよりもブリット・ポップの核心を突いた音楽を生み出す要因ともなったのである。ローリーの瞑想的なギター、そしてボーカルに引きずられるようにして、ローファイかつアヴァンギャルドなロックが、きわめて心地よく耳に鳴り響くのだ。

 

 「In The Hidden Fields」

 

 

 

  #2「In The Hidden Fields」には、スティーヴン・ローリーがこよなく愛する東海岸のプロトパンクに対するフリーク的な愛着が凝縮されている。The Stoogesの「1969」、「I wanna be your dog」を思わせる、ガレージ・ロック最初期の衝動性、プロトパンクを形成する粗さ、そういったものが渾然一体となり、数奇なロックソングが生み出されている。しかし、テレスコープスは現代のロサンゼルスで盛んなローファイの要素を打ち込み、それをミニマルな構成によりフィードバックノイズを意図的に発生させ、それらを最終的に、サイケデリックな領域に近づける。時代錯誤にも思えるローファイなロックは、驚嘆すべきことに、カルト的な響きの領域に留まらず、ロンドンのBar Italiaのような現代性、そして奇妙な若々しさすら兼ね備えている。

 

  プロトパンクやサイケロックの要素と併行して、この最新アルバムの中核をなしているのが、Melvins、Swansに代表される、ストーナー・ロックとドゥーム・メタルの中間にあるゴシック的なおどろおどろしさである。俗に言われるドゥーム・メタルのおどろおどろしい感じを最初に生み出したのは、Black Sabbathのオズボーンとアイオミであるが、そのサブジャンルとしてドゥーム、ブラック・メタル、スラッジ・メタル等のサブジャンルが生み出された。

 

  テレスコープスは、そういったメタル的なドゥーム性を受け継ぎ、#3「Dead Head Light」において、彼ららしいスタイルで昇華している。Swansの「Cops」を思わせるヘヴィーロックを構成する重要な要素ーー重苦しさ、閉塞感、内向き、暗鬱さ、鈍重さーーこういった感覚が複雑に絡み合い、考えられるかぎりにおいて、最も鈍重なヘヴィーロックが誕生している。フロントマンのローリーは、暗い曲を書くことについて、「今の世の中は暗いのに、どうして明るい曲を書く必要があるの」と発言しているが、それらの世の中にうごめく、おぞましい情念の煙霧は、ノイズという形でこの曲を取り巻き、聞き手をブラインドな世界へといざなっていく。それらの徹底的に不揃いであり、いかがわしく、どこまでも不調和なこの世の中を鋭く反映させたような音楽を牽引するのが、ロールを巧みに取り入れたラフなドラムのプレイである。 

 

 

 「We Carry Along」

 

 

 

  テレスコープスのドリームポップ/シューゲイズの音楽性は、アルバムの中盤の収録曲、#4「We Carry Along」に見いだせる。フィールド録音を取り入れて、バンドは本作のなかで最もシネマティックなサウンドを表現しようとしている。ダウナーなローリーのボーカルと、幻惑的な雰囲気のあるギターロックの兼ね合いは、かつてのヴェルヴェット・アンダーグラウンドのティンパニーを用いたスタイルでリズムが強化され、半音進行の移調により、トーンの微細な揺らめきをもたらす。スティーヴン・ローリーのボーカルは、本作の中で最もグランジ的なポジションを取っているが、それは、Soundgardenのクリス・コーネルのサイケデリックで瞑想的なサウンドに近い。この曲には、オルタナティヴ・メタルの名曲「Black Hole Sun」のような幻惑的な雰囲気が漂う。それらの抽象性は、コーネルが米国南部の砂漠かどこかを車でぼんやりドライブしていたとき、「Black Hole Sun」のサビのフレーズを思いついた、という例の有名なエピソードを甦らせる。「We Carry Along」には、ノイズ・ロックの要素も込められているが、同時にその暗鬱さの中には奇妙な癒やしが存在する。砂漠の蜃気楼の果てに砂上の楼閣が浮かび上がってきそうだ。それはフィールドレコーディングの雷雨の音により、とつぜん遮られる。


  アルバムのハイライトとも言える#5「Get Out of Me」は、彼らの主流のスタイルであるミニマルな構成のローファイ・ロックという形で展開される。小規模でのライブセッションをそのまま録音として収録したかに思えるこの曲は、テレスコープスの代名詞であるローリーのシニカルで冷笑的なボーカル、そして、Swansのように重苦しさすら感じられるスローチューンによって繰り広げられる。シンセのサイケデリックなフレーズ、Melvinsのバズ・オズボーンが好む苛烈なファズがギターロックという枠組みの範疇にあるドローン性を形成し、それらの幻惑的なサイケ・ロックの中にダウナーなボーカルが宙を舞う。最後には、地の底から響くようなうめき、悲鳴にもよく似た断末魔のような叫びを、それらのサイケロックの中に押し込めようとする。


 

  「世の中が暗いのに、なぜ明るいものを作る必要があるのか?」というローリーのソングライティングの方向性は、アルバムの終盤になっても普遍的なものであり、それがテレスコープスの魅力ともなっていることは瞭然である。しかし、どこまでも冷笑的で、シニカルなバンドサウンドが必ずしも冷酷かつ非情であるとも言いがたい。「What Your Love」では、すでに誰かがどこかに速書きのデモソングとして捨てたかもしれないMBVのドイツ時代の音楽性や、スコットランドのPrimal Screamのギターポップ、Mary ChainsやChapterhouseのシューゲイズの源流を成すノイズを交えたドリーム・ポップの音楽性を継承し、それらの音楽を現在の地点に呼び覚ます。


  アルバムの最後には、意味深長なタイトル曲代わりの「There is no shore(海岸はもうない)」が収録されている。テレスコープスは、本作の前半部と中盤部の収録曲と同じように、70年代の西海岸のサイケデリアとニューヨークのプロトパンクを下地にし、一貫して堂々たる覇気に充ちたヘヴィーロックを披露する。そして、ENVYの最高傑作『A Dead Sinking Story』の『Chains Wandering Deeply』を思わせる、ドゥーム・メタルの雰囲気に満ちたダークでダウナーなイントロから、へヴィーなリフとノイズと重なりあうようにして、亡霊的に歌われる「海岸はもうない、もうない……」というローリーのボーカルが、幻惑的な雰囲気を持って心に迫ってくる。この曲には、Borisのようなバンドの前衛音楽の実験性に近いニュアンスも見いだせるが、テレスコープスのスタイルは、どこまでもドゥーム・メタルのようにずしりと重く、暗い。

 

  最後に、それは幻惑という印象を越えて、秘儀的な領域に辿り着く。米国のプロトパンクやドイツのノイズを吸収しているが、秘儀的な音楽としては、どこまでも英国的なバンドである。表面的なイメージとは裏腹に、テレスコープスこそ、Crass、This Heat、Pink Floyd、Black Sabbath、こういった英国のアンダーグランドの系譜に位置づけられる。それは、サバスの「黒い安息日」の概念が生み出した「メタルの末裔」とも言える。アルバムの音楽から汲み取るべきものがあるとすれば、それは究極的に言えば、現代社会の資本主義のピラミッドから逃れられぬ人々がどれほど多いのかという、冷笑的でありつつも核心を捉えたメッセージなのである。

 

 

94/100
 

 

Weekend Featured Track- 「Get Out of Me」

 

 

 

The Telescopesの新作アルバム『Growing Eyes Becoming String』は、Fuzz Clubから本日発売。インポート盤の予約はこちら。LP/CDのバンドル、テストプレッシング等の販売もあり。



先週のWeekly Music Featureは以下より:

Maria W Horn『Panoptipkon』


以下の記事もあわせてお読み下さい:


THE VELVET UNDERGROUND(ヴェルヴェット・アンダーグランド)  NYアンダーグランドシーンの出発点、その軌跡


シアトルのグランジ/ストーナーの始祖、Melvinsがニューアルバム『Tarantula Hearts』を発表した。Ipecac Recordingsから4/19にリリースされる。リードシングル「Working The Ditch」の視聴を欠かさないようにしてほしい。


ヘヴィロックファン待望のメルヴィンズのニューアルバムは、どうやらバンドがこれまでに手がけたことのない様な作品で、最高に奇妙なアルバムのひとつとなるという。


5曲入りの今作は、現在入手困難な幻のデビュー・アルバムへの原点回帰とも言える19分にも及ぶ巨大なオープニング・トラック 「Pain Equals Funny」を中心に、メルヴィンズのメンバー、バズ、デール、スティーブンに加え、セカンドドラマーのロイ・マヨルガ(Ministry、Soulfly、Stone Sour、Nausea)、ギタリストのゲイリー・チェスター(We Are The Asteroid)が 参加している。



「Working The Ditch」



Melvins 『Tarantula  Hearts』


Tracklist:

1 Pain Equals Funny 

2 Working the Ditch 

3 She’s Got Weird Arms

 4 Allergic to Food 

5 Smiler


Pre-order:


https://themelvins.lnk.to/tarantula




 

米国のシンガーソングライター、M.ウォードは6月にANTI-から最新作『Supernatural Thing』をリリースしました。このアルバムはWeekly Music Featureとしてご紹介しています。


今回、ウォードは、1990年代の任天堂のビデオゲームにインスパイアされたアルバム収録曲「Engine 5」のビデオを公開しました。この曲には、スウェーデンの姉妹デュオ、ファースト・エイド・キット(クララとヨハンナ・セーデルベリ)が参加しています。ビデオはアンバー・マッコールが監督とアニメーションを手がけた。


 


ファースト・エイド・キットはストックホルム出身の姉妹で、彼女たちが口を開くと何かすごいことが起こるんだ。ストックホルムに行き、そこで数曲レコーディングするのはとてもスリリングだったよ。
エヴァリー・ブラザーズ、デルモアズ、ルーヴィンズ、カーターズ、セーデルベルグなど、血のつながったハーモニー・シンガーのヴォーカルは、どれも同じようなフィーリングを持っているんだ。


最新アルバム「Supernatural Thing」には他にも、Jim James、Neko Case、Shovels & Rope、Kelly Prattも参加している。


アルバムには、ウォードのオリジナル曲に加えて、2曲のカヴァーが収録。デヴィッド・ボウイの最後のアルバム『Blackstar』の「I Can't Give Everything Away」と、クローズ曲として収録されているダニエル・ジョンストンの「Story of an Artist」のライブ演奏である。ウォードはサード・アルバム『Transfiguration of Vincent』(2003年)でボウイの「Let's Dance」をカヴァーしている。



DIY/ローファイのレジェンド、Half Japaneseがニューアルバム『Jump Into Love』を7月21日にFireからリリースすることを発表しました。


Jad Fairは、John Sluggett、Gilles-Vincent Rieder、Mick Hobbs、Jason Willettを含むバンドの現在のラインナップでアルバムを制作し、ボルチモア、ブルーミントン、フランスのドヌビル、スペインのタラゴナでリモート・レコーディングしました。「バンドメンバーはお互いに遠く離れたところに住んでいるんだ。ジョンはアッシュビル地区に住んでいます。Gillesはスイスに住んでいる。ミックはロンドンに住んでいる。リハーサルができない距離だから、もちろん生々しさは保たれるよ」とジャドは言う。


「音楽とソングライティングの必要性を感じているんだ。毎日、曲作りに没頭することで得られるある種の静けさがあるんだ。普段使わない脳のある部分を使うんだと思う。使わないよりは使った方がいいと思っているんだ」


最初のシングルは「We Are Giants」で、典型的なオープンハートの曲で、まぎれもなくジャド・フェアの心のこもった作品です。アニメーションのビデオも、紛れもなくJad Fairらしさが満載。

 

 「We Are Giants」


Half Japanese 『Jump Into Love』

 


Label: Fire

Release: 2023/7/21


Tracklist:


1. It's OK

2. We Are Giants

3. True Love Will Save The Day

4. Listen To The Bells Chime

5. Jump into Love

6. The Answer is Yes

7. Shining Sun

8. This Isn't Funny

9. Step Inside

10. Here She Comes

11. Shining Stars

12. Zombie World

 

©Wunmi Onibudo


Bloc Party(ブロック・パーティ)が久しぶりのニューシングル「High Life」を公開しました。以下、チェックしてみてください。


フロントマンのKele Okerekeは、「『High Life』は、再度恋に落ちるような、絡み合う新しい恋の始まりのようなサウンドにしたかったんだ。私は本当にそれを祝福するようにしたいと思いました」


Bloc Partyは、1年前に6年ぶりのアルバム『Alpha Games』をリリースしました。先月、フロントマン/ボーカリストのKeleは最新のソロアルバム『The Flames pt.2』を発表したばかり。

 

「High Life」


 Weekly Recommendation

 

Yo La Tengo 『This Stupid World』 

 



Label: Matador Records

Release Date: 2023年2月10日



 

 ニュージャージ州ホーボーケンのオルタナティヴ・ロックバンド、Yo La Tengoは84年の結成時からおよそ40年にもわたる長いキャリアを持つトリオです。

 

うろおぼえではあるものの、多分同じくらいのキャリアを持つ日本のある有名なロックバンドが、以前、このようにインタビューか何かで話していた記憶があります。「長く良いバンドでありつつづけるために必要なのは、売れすぎないことである」と。これは当事者から見ると、身も蓋もない話であるけれど、売れてしまうとミュージシャンとしての強いモチベーションが失われてしまうことを彼らは身をもって言い表していたように思えます。傑出した才能に恵まれながらも熱意を失ってしまった実例を、そのバンドメンバーは実際の目で見てきたのです。そして、伝説的な存在、ヨ・ラ・テンゴが、約40年目にして最も刺激的なアルバムを制作していることを考えると、この良いバンドである続けるための箴言はかなり言い得て妙なのかもしれません。

 

この新作アルバム『愚かな世界』のアートワークが公開された時、熱心なヨ・ラ・テンゴのファンは、すぐ気がついたことでしょう。これは、1993年の『Painful』、そして2000年の『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』の続編のような意味を持つのかも知れない、と。もちろんこれは憶測に過ぎませんが、『This Stupid World』は少なくともヨ・ラ・テンゴのキャリア、そして、ニュージャージーやニューヨークのその時々の音楽ムーブメントとの関わり方を見ると、一つの節目にあたる作品であると共にキャリアを総括するような作品と言えるかも知れません。


プレス・リリースでは、近年、プロデューサーと協力して作品を生み出してきたヨ・ラ・テンゴが最初期のDIYのスタイルに回帰し、完全なインディペンデントな制作を行った作品ということになっています。ところが……、実は、Tortoiseのドラマー、John McEntire(ジョン・マッケンタイア)がロサンゼルスでミックス作業に部分的に関わっているらしい。しかし、それ以外は、プレスリリースに書かれている通りで、ヨ・ラ・テンゴのメンバーがDIYの精神に基づいて制作に取り組んでいます。

 

Yo La Tengo

 新作アルバムの発売以前に先行シングルが三曲公開されました。ポップなコーラスを交えたローファイなロックソング「Fall Out」、そして、ヨ・ラ・テンゴのドラマーであるジョージア・ハプレイの和やかな雰囲気を持つ「Aselentine」までは、いつものようなヨ・ラ・テンゴの作品が来るだろうと予想していました。  


ところが、今週始めの最終プレビュー「Sinatra Drive Breakdown」を聴いた時、正直にいうと、今までの作風とは少し何かが違うと考えた。この新作アルバムが従来のヨ・ラ・テンゴのイメージを強化するのではなく、例えば、Sea And Cakeを彷彿とさせるソフトなロック性の印象を引き継ぎつつも、別の側面でそれを覆すような冒険心に溢れる作品であるように感じたのです。


そして、金曜日に『This Stupid World』の全貌が明らかになった時、その疑いのような奇妙な感覚が確信へと変化した。つまり、明らかにヨ・ラ・テンゴの約40年の中で、VUやソニック・ユースを始めとするNYのオルタナティヴの核心に最も迫り、なおかつ最もヘヴィーでカオティックな作品になったのです。

 

このアルバムはいろいろな解釈が出来るかも知れません。「愚かな世界」と題されたオルタナティヴ・ロックは、客観的な世界を多角的に描き出したとも取れますし、また、それはヨーロッパやアメリカの現代社会に蔓延る分断や歪みをノイズ・ロックという側面から抽象性の高いリアリズムとして表現しているとも解釈出来るわけです。そして、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『White Light / White Heat』の代表曲「Sister Ray」に近い、ローファイとカオスを交えたオープニング・トラック「Sinatra Drive Breakdown」で、バンドは、この混沌とした世界を内省的なノイズという観点から克明に描き出そうとしています。


「Sinatra Drive Breakdown」の中では、ある種、禍々しさのあるアイラ・カプランの警告の言葉も囁かれています。「死への準備をせよ/まだ時間が残されているうちに準備しなさい」と歌い、切迫し、いよいよ転変が近い私たちの世界を抽象的に表現する。そして、その人の手により規定された時間の中に居続けることの耐え難さと、その時間から逃れることの願望について歌われています。

 

待って、無視してほしい、無駄にしてほしい、生き続けてほしい、時計の針から目をそらして」とカプランは歌っているが、ヨ・ラ・テンゴの豊富なキャリアにあって、これほど苛烈で厳しい言葉、また、真実の世界をえぐり出した言葉が紡ぎ出されたことが一度でもあっただろうか? これはまさにヨ・ラ・テンゴはこの差し迫った世界を鋭い視点で捉えていると言えるのです。

 

最も衝撃的だったのは、オープニング曲「Sinatra Drive Breakdown」であるのは間違いありませんが、その他にも、これまでのヨ・ラ・テンゴの作風からは予想できない意外な曲もある。いつもフルレングスの中にあって、ふんわりとした癒やしを持つドラマーのジョージア・ハプレイの歌うフォーク・バラード「Aselestine」は、「Let's Save Tony Orlando's House」、「Today Is The Day」といった彼らの代表曲と並べても遜色のない曲で、聞き手を陶酔の中へと誘うことでしょう。その一方、ジョージア・ハプレイは、これまでにはなかった死の扉にさしかかる友人にさりげなく言及しており、既存の作品の題材とは少し異なるテーマを選び取っている。あまり偉そうなことは言えないものの、これは、多分、ヨ・ラ・テンゴの三者にとっての人生が以前とは変わり、そして、その真摯な眼差しから捉えられる世界が180度変化してしまったことを象徴しているのかもしれません。そう、1993年の世界とも、2000年の世界とも異なり、今日の世界はその起こる出来事の密度や、その出来事の持つ意味がすっかり変貌してしまったのです。

 

もはや、どうすることも出来ない。世界は今も時計の針を少しずつ進め続けており、世界中の人たちは、その現状を静観するよりほかなくなっています。それでも、ヨ・ラ・テンゴはこの世界に直面した際に、どのような態度で臨もうとしているのでしょうか。彼らは決してその愚かしさに絶望しているわけでも、そのことについて揶揄しようとしているわけでもないのです。それは、レコードの中で最も衝撃的で、カオティックなノイズに塗れたタイトル曲「This Stupid World」を聴くと分かるように、この世界に恐れ慄きながらも、その先にかすかに見える希望の光を見据えています。この曲は、ヨ・ラ・テンゴの既存の作風の中で、ニューヨークのアヴァンギャルド・ミュージックの源流に最接近していますが、それはThe Velvet Undergroundの往年の名作群にも引けを取らないばかりか、聞き手の魂を浮上させるエネルギーを持ち合わせているのです。


 

 97/100(Masterpiece)

 

 

Weekend Featured Track  「This Stupid World」

 

Parannoul 「After the Magic』

 

 


 

 

Label: POCLANOS

Release: 2023年1月28日

 

 

Review

 

韓国/ソウルを拠点に活動するプロデューサー、パラノウルは、これまでオーバーグラウンドのK-POP勢とは明らかに異なるスタンスを採ってきた。

 

デビュー・アルバム『To See The Next Part Of The Dreams』ではシューゲイズとノイズとエレクトロニカ、『Let's Walk on The Path Of A Blue Cat』ではギターロック/ポスト・ロック、そして『Down Fall Of The Neon Youth」ではエレクトロニカ中心のインスト曲、これまで作品ごとにパラノウルはその音楽性を微妙に変化させてきた。


そして、以前にも指摘したように、パラノウルは、日本語のサンプリングを曲の中に導入し、エレクトロ・サウンドの中には、コーネリアスの影響が感じられる。彼は日本文化やそのミュージック・シーンに愛着を感じてくれているように思える。これはとてもありがたいことである。さらに言えば、パラノウルの音楽性に内包されているのは、令和時代のJ-Popではなく、一世代古い平成時代のJ-Pop、特に、シティ・ポップの後の時代の渋谷系(Shibuya-Kei)の影響である。

 

二、三年の間に自主制作という形ではあるが、四作のフルアルバム、それに付随するEPのリリースはこのアーティストの多彩な才能を示している。特に最初期の作品では、青春の憂鬱の色合いを感じさせる疾走感のあるドリームポップ/シューゲイズ・サウンドがパラノウルというアーティストの重要なキャラクター性を形成していた。


しかし、今回の最新作『After The Magic』と銘打たれた最新のフル・レングスでは、最初期の青春性ーーエバー・グリーンな感じを与えるラフな音楽性ーーから脱却を試み、よりミドルテンポのオルタナティヴ・ロックを作品の中心に据えた。題名に込められた「After the Magic」の意味は、以前の作品がストリーミングやカセットテープ形式の発売であったにもかかわらず、海外の大手音楽メディアに取り上げられ、存外な注目を受けたことに対する感謝の思いがきっと込められているのだろう。

 

ホーム・レコーディングにより制作された既存のアルバムに比べると、この最新作はじっくり腰を据えて作り込まれた作品であるように感じられる。それはミュージシャンとしての精神的な成長ともいえる。楽曲の節々には、以前にはなかったフックのような取っ掛かりがあるし、その歌声には以前よりフレーズそのものを大切に歌い上げようという意図も見受けられるようになった。そのことによって、より壮大なスケールを持つポストロック曲「Arrival」も生み出された。これは、より彼が音楽というものに対する印象が、憧憬から敬意に変じた瞬間と言える。そして、以前のコーネリアスのような平成時代の渋谷系のJ-POPの要素を残しつつ、加えて、MBVやMogwaiのようなレイヴ・ミュージックからの影響、Alex G、Jockstrapに象徴されるストリングスのような楽器を取り入れたモダン・オルタナティヴ・サウンドをここに導きだしている。

 

今回、三部作のような形であった最初期の時代を超えて、ソウルのパラノウルは、既存の成功に耽溺することなく、次なる創造的な領域へと進み始めている。この最新作において、米国のオルタナティヴの最前線のアーティストの音楽に引けをとらない音楽性となったのも、パラノウル自身がカルト的ではありながらも、世界的に注目されるようになったことを自覚したからなのだ。


アーティストは、まだインディーズシーンで予想外の注目を受けていることに戸惑いながらも、着実にミュージシャンとしての階段を一歩ずつ上っている。ファンとしてはこの新作アルバムを聞きながら、パラノウルが今後どのようなアーティストに成長していくのか楽しみにしていきたいところだ。彼の掲げる「夢の続き」は、これからもきっと素敵な形で続いていくだろう。

 

82/100

 


 

puleflor

シューゲイザー/ポストロックトリオ、puleflorが、1月22日(日)にニューシングル「余熱」を発表しました。今回のニューシングルは自主制作盤として発売された。

 

puleflorは群馬で2021年に結成。9月に、茜音(Vo.g)、山口(g)、久保(ds)の現ラインナップとなっている。2021年の11月には、早くもデビューEP『timeless」をリリースして話題を呼んだ。また翌年には、三曲収録のシングル「Fragment」をリリースしている。

 

ベース無しの編成とは思えないサウンドの重厚さはもちろん、ドリーム・ポップのような浮遊感あるボーカル、そして、トレモロアームを駆使したギターサウンド、それを支えるタイトなドラムが魅力のバンドである。彼らは、羊文学の次世代のオルタナティヴ・サウンドを担うような存在だ。最新シングル「余熱」では、近未来のJ-Popサウンドを予見させる音楽性を生み出しており、ツイン・リードのギターの叙情的な調和と美麗なボーカルが絶妙な合致を果たしている。

 

今回のニュー・シングルについて、puleflorのボーカル/ギターを務める茜音は次のようなコメントを寄せてくれました。

 

”余熱”のデモが出来たのは昨年のあまり暑くない日のことで、環境が変わっていく中でも心にはずっと残っていてほしい温度について書きました。

 

puleflorは、昨年末に東京/横浜でのライブ・ツアーを敢行し、横浜のB.B. Street、新宿Nine Spice、下北沢Club Que、渋谷La.Mamaで公演を行った。下北沢の公演では、同日、対バンしたFall of Tearsのゲストとして春ねむりが出演している。さらに、バンドは2023年、三公演を予定しており、その中には東京公演も含まれている。

 

彼らのライブ・スケジュールの詳細は下記の通り。

 

 

・puleflor  -Live Schdule- 

 

2023年

 

・1月28日 横浜 B.B. Street

・2月4日 中野 Moonstep

・2月11日 Gunma Sunburst

 

チケットの詳細はこちら

 


puleflor 「余熱」 New Single


 

Label: puleflor

Release: 2023年1月22日


Tracklist: 

 

1.余熱


楽曲の購入/ストリーミング:

 

 https://linkco.re/4Td2Rczd

  The Murder Capital 『Gigi’s Recovery』

 

 

 

Label: Human Season Records

Release: 2023年1月20日




Review


アイルランド、ダブリンで結成された5人組のロックバンド、ザ・マーダー・キャピタルはこの2ndアルバムで特異なオルタナティヴ・ロック/ポスト・パンクサウンドを確立してみせています。本作は、グラミー・プロデューサー、ジョン・コングルトンと共にパリでレコーディングが行われました。


デビュー・アルバム『When I Have Fears』で一定の人気を獲得し、同郷のFontaines D.C.やアイドルズが引き合いに出されることもあったザ・マーダー・キャピタルですが、実際のところ、ファースト・アルバムもそうだったように、硬派なポスト・パンクサウンドの中に奇妙な静寂性が滲んでいました。同時に、それは、上記の2つの人気バンドには求められない要素でもあるのです。


ある意味では、ファースト・アルバムにおいて、表面的なポスト・パンクサウンドに隠れて見えづらかった轟音の中の静寂性、静と動の混沌、一種の内的に渦巻くようなケイオスがザ・マーダー・キャピタルの音楽の内郭を強固に形作っていた。そして、素直に解釈すれば、その混沌とした要素、言い換えれば、オルタナティヴの概念を形成するコードの不調和や主流とは異なるひねりのきいた亜流性が、この2ndアルバムでは、さらに顕著となったように感じられます。ただ、アルバムの音楽に据えられるテーマというのは、デビュー作では”恐れ”に焦点が絞られていましたが、今作では、内面の探究を経て、さらに多彩な感情が混在している。そして、その”恐れ”という低い地点から飛び出し、戸惑いながらも喜びの方へと着実に歩みを取りはじめたように感じられる。バンドは、特に、青春時代の憂鬱、抑うつ的な感情、悲しみなど様々な感情の記憶を見返し、それらをこのレコードの音楽と歌詞の世界に取り入れたと説明しています。その結果、生み出された楽曲群は、ジェイムス・マグガバンの文学性、実際にT.S. エリオット、ポール・エリチュアール、ジム・モリソンといった詩人の影響により、さらに説得力がある内容に変化しています。また、ここには内的な痛みを包み込むような癒やしが混在するのです。


実際の音楽性からみても、デビュー・アルバムよりも幅広いサウンドが展開されていることに気がつく。オープニング・トラックのポエトリー・リーディングに触発されたと思われる「Existense」、「Belonging」といった楽曲は、近年のポスト・パンクバンドの音楽性とは明らかに一線を画しており、それらは前時代のフォーク・シンガーが試みた前衛性にも似たアプローチです。そして、フランク・シナトラを聴いていたということもあってか、旧時代のバラード・ソングの影響もところどころ見受けられます。これらの楽曲は、アルバムのオルタナティヴ・ロック・サウンドの渦中にあり、実に鋭い感覚を感じさせ、異質な雰囲気に充ちています。いわば、作品全体を通して聴いたときに、コンセプト・アルバムに近い印象を聞き手に与えるのです。

 

そして、今作において、ボーカルのジェイムス・マクガバンの歌詞や現代詩の朗読のような前衛的な手法に加えて注目しておきたいのが、ギターを始めとするバンド・サウンドの大きな転身ぶりです。実際、ザ・マーダー・キャピタルは、デビュー・アルバムで、彼ら自身の音楽性に停滞と行き詰まりを感じ、サウンドの変更を余儀なくされたといいますが、2人のギタリスト、The Damien Tuit(ダミエン・トゥット)とCathal Roper(キャーサル・ローパー)は、FXペダルとシンセを大量購入し、ファースト・アルバムのディストーション・ギター・サウンドからの脱却を試みており、それらは、#2「Crying」で分かる通り、フレーズのループにより重厚なロック・サウンドが構築されています。その他、このシンセとギターを組み合わせた工夫に富んだループ・サウンドは、アルバムの中でバンド・サウンドとして最もスリリングな「The Lie Become The Shelf」にも再登場。そして、この曲の終盤では、明らかにデビュー・アルバムには存在する余地のなかったアンサンブルとしてのケミストリーの変化が立ち現れるのです。

 

他にも、バンドのフロントマン、ジェイムス・マクガバンが今作の制作過程で強い影響を受けたのが、レディオ・ヘッドの2007年のアルバム『In Rainbows』だったそう。この時代、今でも覚えていますが、トム・ヨークとジョニー・グリーンウッドは「OK Computer」から取り組んでいたエレクトロニックとロックを融合させた新奇な音楽を一つの完成形へと繋げたのですが、これらのサウンドをザ・マーダーキャピタルは2020年代のロックバンドとして新しく組み直そうとしています。

 

そして、その斬新な音楽性は、ロンドン流の華美なポスト・パンク・サウンドと、アイルランド流の叙情性と簡潔性の合体に帰着する。これらのエレクトロニックとロックの要素の融合が、どのような結末に至ったかについては、このレコードのハイライトを成す「A Thousand Lives」、「Only Good Thing」という2曲で、目に見えるようなかたちで示されています。全般的に、この作品は洗練されており、叙情性にも富んでいますが、一つだけ弱点を挙げるなら、ジェイムス・マグガバンのボーカルの音域が少し狭いことに尽きるでしょう。この点については、イアン・カーティスに近い雰囲気を感じさせ、個人的には好みではあるのですが、ややもすると、一本調子の印象を与えかねません。しかしながら、彼自身の多彩なボーカル・スタイルと前衛的なバンド・サウンドの融合により、この難点を上手く補完しているように思えます。そう、まさに、バンド・アンサンブルの真骨頂が『Gigi’s Recovery』において示されているというわけなのです。もちろん、彼らが、この2ndアルバムにおいて、近年、完全に飽和状態にあったオルタナティヴ・ロックに新たな風を吹き込んでみせたことについては、大いに称賛されるべきでしょう。

 

 

95/100

 

 

 Weekend Featured Track 「Only Good Things」

 

Neutral Milk Hotel


ジェフ・マンガム率いる米国のインディーロックバンド、Neutral Milk Hotel(ニュートラル・ミルク・ホテル)は、キャリアを網羅したボックスセット『The Collected Works of Neutral Milk Hotel』をMergeより2月24日にリリースすることを発表した。彼らは1998年にオルト・ロックの隠れた名作『In The Airoplane Over The Sea』をリリースしたことでも知られている。


今回、2011年にジェフ・マンガムがNeutral Milk Hotel Recordsから自主リリースした限定ボックス・セットの全容が初めてデジタル配信でお目見えとなる。『On Avery Island』の拡張ダブルLP盤、『Live at Jittery Joe's』の限定12インチ・ピクチャーディスク、新アート付きの黒盤『Holland, 1945』/『Engine』7インチ、2014年にブルックリンのProspect Parkで収録した未発表ライブ盤の『Little Birds』(下記からストリーム可能)が収録されています。


また、1995年の『Everything Is』のエクスパンション・7トラック・バージョンのリマスター盤(10インチ盤)、On Avery Islandの「You've Passed」と「Where You'll Find Me Now」の初期4トラック・ソロ・バージョンを収録した7インチ・シングル、10インチの『Ferris Wheel on Fire EP』も発売されています。トラックリストとカバーアートの詳細は以下をご覧ください。


 



Neutral Milk Hortel 『The Collection Works of Neutral Milk Hotel』

 



 
In the Aeroplane over the Sea:
 
1. King of the Carrot Flowers Pt. 1
2. King of Carrot Flowers Pts. 2 & 3
3. In The Aeroplane Over the Sea
4. Two-Headed Boy
5. Fool
6. Holland, 1945
7. Communist Daughter
8. Oh Comely
9. Ghost
10. [untitled]
11. Two-Headed Boy Pt. 2
 
 
On Avery Island:

1. Song Against Sex
2. You've Passed
3. Someone Is Waiting
4. A Baby for Pree
5. Marching Theme
6. Where You'll Find Me Now
7. Avery Island/April 1st
8. Gardenhead/Leave Me Alone
9. Three Peaches
10. Naomi
11. April 8th
12. Pree-Sisters Swallowing a Donkey's Eye
 
Ferris Wheel on Fire:

1. Oh Sister (1995)
2. Ferris Wheel on Fire (1993)
3. Home (1992)
4. April 8th (1992)
5. I Will Bury You in Time (1994)
6. Engine (1993)
7. A Baby for Pree/Glow into You (1995)
8. My Dream Girl Don't Exist (Live) (1992)
 
Everything Is:

1. Everything Is
2. Here We Are (For W. Cullen Hart)
3. Unborn
4. Tuesday Moon
5. Ruby Bulb
6. Snow Song
7. Aunt Eggma Blow Torch
 
Little Birds:

1. Little Birds (Live) (1998)
2. Little Birds (Studio Demo) (1998)
 
"You've Passed" / "Where You'll Find Me Now":

1. You've Passed (Alternate Version)
2. Where You'll Find Me Now (Alternate Version)
 
Live at Jittery Joe's:

1. Intro
2. A Baby for Pree
3. Two-Headed Boy
4. I Will Bury You in Time
5. Gardenhead / Leave Me Alone
6. Two-Headed Boy Pt. 2
7. I Love How You Love Me
8. Engine
9. Naomi
10. King of Carrot Flowers Pt. 2
11. King of Carrot Flowers Pt. 3
12. Oh Comely
The New Pornographers ©︎ Ebru Yildiz

 

カナダ/ヴァンクーバーのロックバンド、The New Pornographers(ザ・ニュー・ポルノグラファーズ)が、次作『Continue As a Guest』のリリースを発表しました。この作品は、3月31日にMerge Recordsよりリリースされることが明らかになった。ファースト・シングル「Really Really Light」は、Dan Bejarとの共作だが、彼はアルバムには参加していない。Christian Cerezoが監督したビデオと、アルバムのアートワーク、トラックリストは以下の通りです。


バンドのカール・ニューマンは、声明を通じて次のように説明している。「”Really Really Light”を作るために、2014年の『Brill Bruisers』のために書かれたダン・ベジャーの曲を再利用しているんだ。長年にわたる僕のプロセスの一部は、完成しなかったものに手を加えることだった」

 

 

ダン・ベジャーのコーラスが本当に好きで、しばらくの間、それに属すると思えるものを書こうとしていたんだ。

 

エルトン・ジョンの『Your Song』のコーラスを挿入したアロエ・ブラックの曲『The Man』のことを考えていて、誰も知らない曲を挿入したら面白いんじゃないかと思ったんだ。でも、アロエ・ブラックのようなサウンドを目指したわけではなく、自分なりの解釈でやってみただけです。同じ曲の一部のように感じられるヴァースを書くゲームになった。僕の頭の中では、ジェフ・リンやトム・ペティのような、クラシックなものを目指していた。



10曲収録のこの新作には、サックス奏者のZach Djanikianも参加している。ニュー・ポルノグラファーズの最後のフル・レングスは、2019年の『In the Morse Code of Brake Lights』である。


「Really Really Light」




The New Pornographers 『Continue As a Guest』
 

Label: Merge

Release Date:  2023年3月31日


Tracklist:
 

1. Really Really Light
2. Pontius Pilate’s Home Movies
3. Cat and Mouse with the Light
4. Last and Beautiful
5. Continue as a Guest
6. Bottle Episodes
7. Marie and the Undersea
8. Angelcover
9. Firework in the Falling Snow
10. Wish Automatic Suite

Weekly Recommendation For Tracy Hyde  『Hotel Insomnia』

 

 

 

 

Label: P-Vine

Release: 2022年12月14日


 

 

Review

 

2016年にファースト・アルバム『First Bleu』をリリースし、デビューを飾ったオルタナティヴ・ロックバンド、For Tracy Hyde(フォー・トレーシー・ハイド)は東京のシーンの中で要注目のシューゲイザー・トリオ、今後、国内にとどまらず、海外での活躍が予想される。宇宙ネコ子とのコラボレーター”ラブリーサマーちゃん”が在籍していたことでも知られ、辻村深月の原作の演劇『かがみの孤城」への楽曲提供等、他ジャンルの媒体と豊富なコラボ経験を持つグループです。

 

通算5作目となるフルレングス『Hotel Insomnia』は、13曲収録というボリューミーな内容となっています。本作は、シューゲイズサウンドを基調とし、ニューゲイズ、モダンなインディーロック、渋谷系、ネオアコースティックと、幅広いライブサウンドが展開され、このバンドのバックグランドがどのようなタイプの音楽で構成されているのかを知る手立てになると思われます。

 

My Bloody Valentine、RIDE直系の轟音のディストーション・ギター、ダンサンブルなビートはこのジャンルに属するバンドとしては王道を行くもので、加えて、日本のバンド、Passepied(パスピエ)の大胡田なつき、平成ポップ・チャートを席巻したJudy and MaryのYukiに象徴されるファンシーなボーカルに通じるものがあり、彼らの織りなすタイトなアンサンブルーードリーミーなサウンドとJ-POPサウンドの劇的な融合ーーが心ゆくまで楽しめる内容となっています。

 

オープニングを飾る「Undule」は、ギター・トラックの多重録音による重厚なディストーションサウンドを体感できますが、あくまでそれらのバックトラックと対象的に、幻想的なボーカルがが乗せられ、同時にスタイリッシュな雰囲気を漂わせています。MBVの音楽の最大の特徴はエレクトロを基調としたダンサンブルなビートとスコットランドのキャッチーなネオ・アコースティックの融合にありましたが、このバンドはそれを十分再現する作曲能力と演奏力を兼ね備えています。二曲目の「The First Time」では、オリジナルのシューゲイズ・サウンドとは対象的なニューゲイズ・サウンドが展開されており、甘美でノスタルジア満載のインディーロック、渋谷系に代表される多幸感のあるメロディーやコードに裏打ちされた楽曲が一曲目とは対象的な趣を持つ。

 

その後も、オルタナティヴ・ロックとネオ・アコースティック、J-POPの本質を見事に捉えた個性的なサウンドが続いていきますが、その中に微妙な楽曲のメリハリや緩急があり、聞き手の集中力をほとんど途切れさせることはない。特に、ノイズ・アヴァンギャルドやアート・ロックを意識したディストーション・ギターは、ソニック・ユースの最初期のような感性の尖さと抽象性の高いサウンドとして昇華され、中盤に収録されている楽曲は、純粋なギターロック/ネオ・アコースティックとしても聴いてみても楽しめるはずです。また、アルバムの中盤に収録されている「Friends」では、繊細な感覚と青春時代の切なさ兼ね備えたJ-POPの本質的な魅力の未知の可能性を追究しています。もちろん、彼らは、この曲に象徴されるように、J-POPのメロとサビの対比、サビのキャッチーさとシンガロング性を踏まえつつ、それらを最新鋭のオルタナティヴ・ロックとして再構築している。以上の特性は、彼らが、単なるPassepied(パスピエ)のフォロワーでなく、その未来系を行く新鮮なサウンドを提示している証ともなっています。

 

終盤になっても、バンドの音楽におけるチャレンジ精神は旺盛で、奥深いインソムニアの世界が果てしなく広がりをましていき、ローファイ・サウンドやチルウェイブを一緒くたにした彼らの構想するモダンなオルタナティヴの理想郷は破られることがない。序盤でキャッチーな表情をみせながら、中盤から終盤にかけてマニアックなサウンドに様変わりする瞬間は圧巻ともいえ、それらはアルバムの全体像にカオティックな印象を形作っている。このバリエーションに富んだオルタナティヴ・サウンドがこのアルバムそのものの価値を高め、一方ならぬ聴き応えをもたらしている要因でもある。これらの新旧のオルタナティヴ・ロックサウンドを自在に去来する伸びやかなライブ・セッション、そして、手強さのある骨太サウンドは、22年の東京に新たな音楽が到来した瞬間を告げている。この清新なサウンドが持つ妙味は、今後、連続したウェイヴのような形で魅力的なバンドが次々に台頭することを予兆的に示しているように思える。

 

現在も、無数のバンドがひしめく東京のミュージック・シーンにあって、For Tracy Hydeのサウンドは、力強い存在感を放っている。ある意味で、自由奔放と称せる伸びやかな表現性は、ロンドンの2022年のインディー・シーンに相通じる要素があり、今後、アンダーグランド・レベルで、世界的人気を獲得する可能性も少なくないように思えます。彼らが今作において日本のポップの要素を核心に置き、洋楽の感性に近い音楽を確立し、それが意外な形で反響を呼んだことは、最新アルバム『Hotel Insomnia』が発売後、タイニー・デスクで名高い米メディア、NPRのレビューとして率先して特集されたのを見てもわかる。For Tracy Hydeは、既に5作をリリースしている経験のあるロックバンドですが、作品リリースやツアーを介し、今後どのような形でブレイクを果たすのかに注目していきたい。オルタナ・ファンとしては、東京のミュージック・シーンに個性的な実力派バンドが登場したことを心から祝福しておきたいところです。



87/100



Weekend Featured Track 「Friends」