ニューイングランドを拠点に活動するシンガー・ソングライター、サム・ロビンスのニュー・アルバム『So Much I Still Don't See』は、年間45,000マイルをドライブし、ニューハンプシャー出身の20代の男である彼自身とは全く異なる背景や考え方を持つ多くの人々と出会ったことで生み出された。
サム・ロビンスのサード・アルバム『So Much I Still Don't See』は、シンガー・ソングライターとしての20代、年間45,000マイルに及ぶツアーとトルバドールとしてのキャリアの始まりという形成期の旅の証だ。 そして何よりも、ハードな旅と大冒険を通して集めた実体験の集大成なのだ。
マサチューセッツ州/スプリングフィールドにある古めかしい教会でレコーディングされた『So Much I Still Don't See』のサウンドの中心は、旅をして自分よりはるかに大きな世界を経験することで得られる謙虚さである。 アップライトベース、キーボード、オルガン、エレキギターのタッチで歌われるストーリーテリングだが、アルバムの核となるのは、ひとりの男と、数年前にナッシュビルに引っ越して1週間後に新調したばかりの使い古されたマーティン・ギターだ。
『So Much I Still Don't See』のサウンドは、ジェイムス・テイラー、ジム・クローチェ、ハリー・チャピンといったシンガー・ソングライターのレコーディングにインスパイアされている。 ニューハンプシャーで育ったロビンズは、週末になると父親と白い山へハイキングに出かけ、古いトラックには70年代のシンガー・ソングライターのCDボックスセットが積まれていた。
『So Much I Still Don't See』のストーリーテリングは、タイトル曲の冒頭を飾る「食料品店でグラディスの後ろに並んで立ち往生した/孫娘のために新しい人形を見せてくれて微笑む」といった歌詞に見られるように、小さな瞬間を通して構築されている、
そして、オープニング・トラック「Piles of Sand」の "I'm standing in the sunlight in a public park in Tennessee/ and I know the soft earth below has always made room for me "や、チェット・アトキンスにインスパイアされたアップビートな「The Real Thing」の "The Hooters parking lots are all so bright "などの歌詞がある。
ミュージック・シティでの波乱万丈の5年間を経て、2024年初めにボストン地域に戻った後に制作された最初のレコーディングが『So Much I Still Don't See』である。 週に5日、カントリー・ソングの共作に挑戦した後、ロビンズは路上ライブに活路を見出し、今では全米のリスニング・ルームやフェスティバルで年間200本以上のライブをこなしている。
『So Much I Still Don't See』は、彼の妻のミドルネームにちなんで名付けられたオリジナル・インストゥルメンタル・トラック「Rosie」を含む初のアルバムである。 この曲は、アルバムの中盤に位置する過渡期の曲で、あるメロディー・ラインを最後までたどり、そのラインを中心にコード・カラーを変化させながら流れていくという、画家のようなスタイルで書かれている。
このツアーとその後のソングライティングの成長により、ロビンスはいくつかの賞を受賞し、フェスティバルに出演するようになった。2021年カーヴィル・フォーク・フェスティバルのニュー・フォーク・コンテスト優勝者、2022年ファルコン・リッジ・フォーク・フェスティバルの「Most Wanted to Return」アーティスト、その後、2023年と2024年には各フェスティバルのソロ・メインステージ出演者となった。
2023年初頭、サム・ロビンスは、16代ローマ皇帝が記した名著、マルクス・アウレリウスの『瞑想録』を贈られた。 ストイシズムの概念を中心としたこの本からのアイデアは、『So Much I Still Don't See』の楽曲に染み込んでいった。 このアルバムの多くは、過去1年間の旅を通してこの本を読んで発見したストイックな哲学によって見出された内なる平和を反映している。
「All So Important」の軽快でアップビートなバディ・ホリー・サウンドは、この哲学を瞑想した歌詞と相性がよく、私たちは、皆、大きな宇宙の中の砂粒に過ぎないという感覚を表現している。 「ローマ帝国の支配者のブロンズの胸像、太陽が照らすあらゆる場所の皇帝/彼の名前は永遠に生き続けると思っていた/それでも、今は目を細めなければ読めなくなった」というような歌詞の後に、「It's all so, all so important」という皮肉なコーラスがシンプルに繰り返される。
『So Much I Still Don't See』の曲作りにもうひとつ影響を与えたのが、ロビンズが主催するグループ、ミュージック・セラピー・リトリートでの活動だ。
『So Much I Still Don't See』のラストは、全米ツアー中のシンガーソングライターであり、ロビンスの婚約者でもあるハレー・ニールとの静かで穏やかなひととき。 2人はバークリー音楽大学で出会った後、別々のキャリアを歩んできたが、ここぞというときに一緒になる。 最後の10曲目に収録されているビートルズのカバー「I Will」は、レコーディング最終日にスタジオの隅にあった安物のナイロン弦ギターでレコーディングされた。 短くて甘いラブソングは、内省的で温かみのあるアルバムのシンプルな仕上げであり、『So Much I Still Don't See』に貫流する真の精神である。冷静さとシンプルさ、そして、常に未来を見据えていることにスポットを当てている。
「What a Little Love Can Do」
アルバムからの最初のシングル「What a Little Love Can Do」は、ある瞬間を切り取った曲だ。 ナッシュビルで起きた銃乱射事件のニュースを聞いた後、ロビンズは一人でギターを抱えていた。 ニューイングランドの故郷から遠く離れた赤い州の中心部に住んでいた彼は、その日の出来事によって、今まで見たこともないような亀裂がくっきりと浮かび上がった。
その瞬間に現れた歌詞が、この曲の最初の歌詞である。"It's gonna be a long road when we look at where we started, one nation broken hearted, always running from ourselves"。 (長い道のりになりそうだ、私たちがどこから出発したかを見渡せば、ひとつの国が傷つき、いつも自分自身から逃げていたのだった)
バーミンガムからデトロイト、ニューオリンズからロサンゼルス、ボストンからデンバーまで、この曲は知らず知らずのうちに、これらの冒険から学んだ教訓の集大成として書かれた。 お互いに物理的に一緒にいるとき、話したり、笑ったり、お互いを見ることができるときに見出される一体感の深さが、『What a Little Love Can Do』、そしてこのアルバム全体の核心となる。
「What a Little Love Can Do」のサウンド・ランドスケープは、アルバムの中でもユニークだ。セス・グリアーが優しく弾く、荒々しく柔らかいピアノの瞬間から始まる唯一の曲である。
この曲のピアノとアコースティック・ギターの織り成すハーモニーは、ロビンズのライヴとサウンド・センスを象徴している。 ギター、ピアノ、そしてサム自身の温かみのあるリード・ヴォーカルが一体となった 「What a Little Love Can Do」は、サード・アルバム『So Much I Still Don't See』への完璧なキックオフだ。
『So Much I Still Don't See』のセカンド・シングルでありオープニング・トラックである、きらびやかで内省的な「Piles of Sand」は、このアルバムのために書かれた最初の曲だった。 この曲はナッシュビルで書かれ、アルバムの多くと同様、シンプルで観察的な視点から出発している。
アルバムのオープニング・トラックである "Piles of Sand "のサウンドは、一人の男とギターのシンプルなサウンドを中心に構成されており、アルバムの幕開けにふさわしい完璧なサウンドだ。 ジェームス・テイラーのライヴ・アルバム『One Man Band』にインスパイアされた、この曲には、ピアノの音だけがまばらに入っている。サム・ロビンスの見事なギター・ワークとフレッシュで明瞭なソングライティング・ヴォイスを披露するアルバムの重要な舞台となっている。
『So Much I Still Don't See』からの3枚目のシングル、チェット・アトキンスにインスパイアされたアップビートな "The Real Thing "は、アルバムの2曲目に収録されており、10曲からなるコレクション全体の様々なエネルギーの一例である。
「The Real Thing」は、歌詞のグルーヴから始まった。ツアー中のアメリカのある都市を車で出発し、自宅から何千マイルも離れた場所で、12時間のドライブを前にして、インスピレーションの火花が散った。 「郊外の柔らかな灯りの下、滑らかなハイウェイを走っている/アップルビーズが角を曲がるたびに視界に飛び込んでくる」という最初の行のノリから、「The Real Thing 」の残りの部分は、アメリカの人里離れたホテルで一晩で書き上げられた。
この曲は、アルバム全体に存在する実存的な問いかけを軽やかに表現している。 環境保護主義、世界における人間の居場所、作家の居場所についての質問に言及する「The Real Thing」は、ソフトでカッティング、詮索好きな「So Much I Still Don't See」へのアップビートなキックオフ曲である。
サウンド的には、「The Real Thing」はロビンスがギターで影響を受けた偉大なフィンガースタイル・プレイヤー、チェット・アトキンスへのオマージュである。
『So Much I Still Don't See』のタイトル・トラックは、白人としてニューハンプシャーで育ったロビンズの人生と生い立ちの瞬間を中心とした、澄んだ瞳と澄んだ声の曲だ。
歌詞のニュアンスとしては''世界には自分はまだ知らないことがたくさんあった''ということを感嘆を込めて歌っている。曲全体を通して歌われる「There's so much I still don't see(まだ見えないものがたくさんある)」という柔らかく、小康状態で瞑想的なリフレインが、テーマをひとつにまとめる結びとなっている。
明確な認識(気がつくこと)は変化への第一歩であり、「So Much I Still Don't See」は政治的な歌の静かな瞑想として書かれた。 ただこれは、説教じみた、不遜なマニフェストではない。 この曲は、明瞭で、柔らかく、内向きの曲であり、書き手と聴き手の内省のひとときを意味している。
「So Much I Still Don't See」のサウンドは、歌詞とメッセージの瞑想的な雰囲気を反映している。鳴り響くオープン・アコースティック・ギターのストリングス、うねるような暖かいコード、ロビンスの柔らかく誘うようなヴォーカルが、聴く者を曲の世界へ、そして曲とともに自分自身の物語や歴史へと導いていく。
「So Much I Still Don't See」は、同名のアルバムのアンカーとして、そして、10曲の核となる曲として、ロビンスの明晰な眼差しと真摯でフレッシュなソングライティング・ヴォイスを端的に表している。
Sarah Banker is a heartfelt singer/songwriter based in the mountains of Colorado. Drawing inspiration from her childhood experiences performing in theatrical productions, Sarah found her true voice through songwriting after learning guitar, following her degree in Cultural Anthropology.
After only three months of playing, she had her first guitar performance. Instantly hooked, 18 months later, she sold most of her belongings and set out on the road with just a backpack and her guitar.
Her journey of exploration and curiosity has taken her from the jungles of Hawaii to the forests of the Pacific Northwest, down to the deserts of southern Utah, and up to the peaks of Colorado—each place influencing her musical releases and touching others along the way.
Her new EP, Into the Heart, is a collection of authentic and transformative songs centered around resilience. The vibrant four-song folk-pop EP was recorded and produced by Jeff Franca (Thievery Corporation) in his studio, at 9,000' feet elevation in the Indian Peaks Wilderness in Colorado. The result is a musical journey that is touching, sonically playful, and organic.
Sarah Banker's ability to capture the complexity of emotions in simple yet expressive lyrics is a consistent strength across her music. Her songs feel both universal and deeply personal, inviting listeners to reflect, heal, and embrace what’s to come.
Ultimately, her musical intention is to be a source of light and love through sound. She also hopes her music inspires others to be the best version of themselves, sharing, "You are the ONE, the one who has the potential to make the changes that lead to a fulfilling life experience. You have everything you need within you to take charge of your life."
Black Country, New Road 『Forver Howlong』
Label: Ninja Tune
Release: 2025年4月4日
Review
ファーストアルバム『For The First Time』では気鋭のポストロック・バンドとして、続く『Ants From Up There』では、ライヒやグラスのミニマリズムを取り入れたロックバンドとして発展を遂げてきたロンドンのウィンドミルから登場したBC,NR(ブラック・カントリー、ニューロード)。
一方で、ビートルズの中期以降のアートロックを現代のバンドとして受け継いでいくべきかを探求する「The Big Spin」が続く。「ラバーソウル」の時代のサイケ性もあるが、何より、ピアノとサックスがドラムの演奏に溶け込み、バンドアンサンブルとして聞き所が満載である。新しいボーカリスト、メイ・カーショーの歌声は難解なストラクチャーを持つ楽曲の中にほっと息をつかせる癒やしやポピュラー性を付与する。
ロック寄りの印象を持つ瞬間もあるが、終盤では古楽やバロックの要素が強まり、さらにアルバムの序盤でも示されたフォークバンドとしての性質が強められる。「For The Cold Country」では、ヴィヴァルディが使用した古楽のフルートが登場し、スコットランドやアイルランド、ないしは、古楽の要素が強まる。結局のところ、これは、JSバッハやショパン、ハイドンのようなクラシック音楽の大家がイギリスの文化と密接に関わっていたことを思い出させる。特にショパンに関しては、フランス時代の最晩年において結核で死去する直前、スコットランドに滞在し、転地療養を行った。彼の葬式の費用を肩代わりしたのはスコットランドの貴族である。ということで、イギリス圏の国々は意外とクラシック音楽と歴史的に深い関わりを持ってきたのだった。