ロンドンを拠点に活動するミュージシャン、ジョーダン・ラカイは、2021年のフルレングスアルバム「 What We Call Life」、そして、レーベルメイトでもあるBonoboとのコラボレーション作品「Shadows」に続くファン待望のEP「Bruises」を3月4日にリリースすると発表しています。「Bruises」は、これまでと変わらず、お馴染みのNinja Tuneからの発売となります。

 

 


新作EP「Burises」には、四曲が収録される予定で、既に表題曲の「Bruises」は先行シングルとして公開されています。

 

今回、この楽曲について、ジョーダン・ラカイは、レゲエ寄りのアプローチを図ったと話しており、ポップスとクラブミュージックを絶妙に融合したラカイの音楽性を引き継いだ上で、新鮮味を感じさせてくれる楽曲です。また、シングル「Bruises」には、ストリングスのゴージャスなアレンジメントが施されていたり、ジェイムス・ブラウンのヴォーカルスタイルの影響を感じさせる雰囲気もありと、ジョーダン・ラカイの音楽のさらなる進化を伺わせる楽曲となっております。クラブミュージックファンにはもちろんのこと、R&Bファンも要チェックしておきたい聴き応え十分の楽曲です。

 

新しいシングルカット曲「Bruises」について、ジョーダン・ラカイは以下のように述べています。

 

「まず、弦のパートを書いてから、共同制作者のアミカ・ストリングス・カルテットに、この楽曲のアイディアを持っていきました。

 

一日中、曲のセクションごとに様々なアイディアが面白いように浮かんで来たんですが、結果的にすべて上手く行ったことにとても満足しています。今回、 以前のような音楽制作環境に戻ることができたので、トラック制作自体はとても楽しむことが出来ました」

 


 

 ・Ricardo Villalobos


 

1970年、チリ、サンティアゴ出身のリカルド・ヴィラロボスは、アウグスト・ピノチェトの独裁政権から逃れるため、1973年に両親とともにドイツに移住した。

 

リカルド・ヴィラロボスは、11歳の頃から、コンガ、ボンゴといった打楽器の演奏を始めたが、ミュージシャンとしての才覚に自信が持てなかった。その後、電子音楽の作曲に取り組むようになったのは、1980年代後期になってから。

 

イギリスのロックバンド、デペッシュ・モードに影響を受けた他、Daniel Millerをはじめ、南米音楽にも強い触発を受けている。

 

1994年には、Playhouseから最初の音源をリリースし、1988年にはDJとして本格的な活動を開始した。その後、盟友ZIPによるレーベル、perionを中心に数多くの音源をリリース。また、DJとして活躍するかたわら、リミックス音源も数多く手掛けている。

 

追記としてはECMレコードのリミックスアルバム「RE:ECM」をリリースしている。2008年には、ダンスミュージック系大手ウェブサイト「Resident Advisor」では、2008年度のナンバーワンDJに選出されている。




・Einkind

 

  

ドイツ、フランクフルトを拠点に活動するアインゼルカインドは、Pressure Traxx/La Pena Recordsのレーベルオーナーである。

 

世界中のコアな音楽ファンから支持を受け、アンダーグランドなDJであれば誰もがあこがれるフランクフルトの隣町、オッフェンバッハの老舗クラブの「Robert Johnson」のレジデントDJを務めている。二十年以上の長いキャリアを誇るアインカインドは、熟練された確かなDJスキルを持ち合わせ、SonarやADEなど海外の大型フェスティバルでも名を見かけるほどである。

 

アインゼルカインドは、トラック制作でもこれまでに数多くの作品を世に送り出しており、イギリスのアンダーグラウンドシーンを担うFuse Londonの提携レーベル「Infuse」から「Dirtdrive EP」をリリースするなど、ドイツ国内だけでなく多くのミュージックファンにその力量を認められている。

 

盟友であるフロスト、クリスティアン・ブルクハルトとともに運営するレーベル「Pressure Trax」の活動も目まぐるしく、2014年秋には、上記のリカルド・ヴァルロボスの音源をリリースしている。





「Arnorac EP」 Pressure Traxx

 

 

 



Scoring



Tracklist

 

1.Arnorac A

2.Arnorac B

3.Arnorac C

4.Arnorac D



 

ドイツ国内の電子音楽家、DJとして活躍を続けてきたリカルド・ヴァルボラス、アインゼルカインドのレーベルを通してのコラボレーションを図った「Arnorac EP」は、アインゼルカインドの主宰する「Pressure Traxx」から、オリジナル盤は2017年1月にリリースされた作品で、長らく入手困難になっていたようで、今回、デジタルバージョンとして解禁され、Spotifyで視聴可能となった作品である。

 

今作はドイツの現代テクノシーンを象徴づけるようなクールな作品に挙げられる。これまで、ヴァルボラスはグリッチテクノの要素を感じさせるリミックスを中心に行ってきたが、そのヴァルボラスの音楽の方向性が色濃く出た作品といえるかもしれない。

 

シンセサイザーの音源は、ドイツのNative Instruments社のソフトウェア音源「Reactor」の音色を彷彿とさせ、モジュラーシンセのような独特な響きを持ち、それが全体的なヴァルボラスらしいエグみのあるリズムトラックを形作っている。この独特の質感、リズム性をほのかに残しながらもデジタルノイズに近い音色をモジュラーシンセにより生み出すのが、ヴァルボラスのトラック制作のすごさといえるのである。

 

また、リズムトラックの音色をフィルターのエフェクトを通して巧みに変化させ、曲の表情にバリエーションをもたせる手法が取り入れられているのが、このEP作品「Arnorac」の最も面白さを感じる部分で、こちらの方は、アインゼルカインドのDJとしての素晴らしい手腕といえるだろうか。

 

これらのヴァリエーションに近い意義を持つ4つのトラックは、アメリカのジョン・テハダのテックハウスにも近い雰囲気を持つコアな電子音楽である。ハイエンドを強調したグリッチノイズ的手法が採られながらも、ハウスのような太いベースラインも併せ持つ。

 

ミニマルテクノの通好みのオシャレさ、ハウスの強いダンス要素を融合した新しさの感じさせるエレクトロで、アフターの真夜中のフロアの陶酔したオーディエンスを意識した、UKベースラインのようなエグみのある雰囲気を持っている。いかにもテクノ好きをうならせるような快作のひとつです。





アメリカの偉大なシンガーソングライター、シャロン・ヴァン・エッテンが2020年以来のソロシングル作「Porta」のミュージックビデオを共有しました。

 

この静かな印象のあるシャロン・ヴァン・エッテンのアンセムソングでは、自己と安全に対する喪失についてしとやかに歌われた楽曲、おそらく、ポピュラー・ミュージックファンを歓喜させる名曲と言える。

 

「Porta」はシャロン・ヴァン・エッテンがうつ病に苦しんでいる際に書かれた楽曲である。彼女はこの楽曲について以下のようなコメントを出している。

 

 

「私の壮年期の人生のほとんどは、うつ病と不安にたいする機能的な発作によって苦しめられていました。

 

そして、私は時々、それらの暗い瞬間が私に対して最大限に働きかけるのです。この間、私は非常に精神と肉体が乖離していると感じます。私の精神が肉体に繋がっておらず、私の精神は制御不能に陥るのです」


 

新作シングル「Porta」は、そういった肉体と精神の乖離という機器的な状況に陥りながら生み出されたものである。

 

つまり、シャロン・ヴァン・エッテンはそういった自己のアイデンティティをより自分の肉体となじませるためにこの楽曲を生み出す必要があった。それはきっと同じような精神的な症状に苦しめられる人に、一種のやすらいだ気持ち、同じような症状に苦しむ人が自分だけではないという精神的な力強さを与えてくれるに違いない。

 

今回、公開されたミュージックビデオ「Porta」は、ノースカロライナ州でベースピラティス(フィットネスの一種)を運営している彼女の友人のステラ・クックとヴェン・エッテンの毎週行われていたミーティングにインスピレーションを得ている。この2020年に行われたミーティングを介して、シャロン・ヴァン・エッテンの精神状態を良い方向に向かったという。

 

シャロン・ヴァン・エッテンはさらにこの新曲「Porta」について以下のように語っている。

 

 

「難しいときでも、苦しいときでも、手を差し伸べる。あなたが自分自身に手を差し伸べるのを助けてくれる友人がきっといる。ぜひそういった苦しいときには友人に手をさしのべてみてください」

 

 

今回の作品は、シャロン・ヴァン・エッテンが精神的な治癒へと向かった経緯を、自分の経験を通して他の同じような症状に苦しんでいる人々に手を差し伸べようと努めた作品とも言えるかもしれない。この春、シャロン・ヴァン・エッテンは、ヨーロッパツアーを敢行した後、夏にはエンジェル・オルセン、ジュリアン・ベイカー、ワイルドハーツといった豪華なメンバーとツアーを回る。どういった素晴らしいステージになるのかファンとしては楽しみにしたいところだ。

 

 


アメリカの伝説的なインディーロックバンド、国内のパンクロックバンドに絶大な支持を誇るスーパーチャンクが三曲収録のシングル「On the Floor」をmerge recordsからリリースしました。

 

 

 

 

このシングル作品にはカレッジ・ロックの祖、R.E.Mのマイク・ミルズがバックヴォーカル、そして、Nothing Painted Blueのフランクリン・ブルーノがピアノ演奏で参加した豪華シングル作となります。

 

また、三曲入りのシングル「On the Floor」は、2月25日にMerge Rocordsからリリースされるフルレングスアルバム「Wild Loliness」の最後の先行作品となります。新作アルバムのレコーディングには、アメリカの再注目のSSW、シャロン・ヴァン・エッテン、スコットランドのアノラックシーンの雄、Teenage Fanclubのノーマン・ブレイク、レイモンド・マッギンリー、WyeOakのアンディー・スタック、Camera Pallettのケリー・プラットらが参加しています。

 

USインディー・ロック、ギター・ポップやネオ・アコースティックの好きな方はぜひともチェックしていただきたいシングル作です。 


 



 

 

Superchunk  「On The Floor」 Merge

 

 

 

Tracklisting

 

1.On The Floor

2.This Night

3. Endless Summer

 

 

Space Shower Music Awards 2022にもノミネートされている日本のシューゲイズシーンの次世代を担うロックバンド、羊文学が4月20日にファン待望のセカンドフルアルバム「our hope」のリリースを発表致しました。2020年のデビュー作「POWERS」以来のフルレングスのアルバムとなります。

 

 

このアルバムには現在フジテレビの深夜枠で放送中のTVアニメ「平家物語」 (原作 古川日出男訳 「平家物語」)のオープニングテーマとして使用されている「光るとき」、ANIPLEXから配給のアニメ映画「岬のマヨイガ」(原作 柏葉幸子)などを含む12曲が収録。リードシングルとして既に「光るとき」がリリースされています。このシングル作は、羊文学らしさが遺憾なく発揮された作品で、シューゲイズサウンド、J-POPを絶妙に融合させた要注目の楽曲となります。 

 

 

 

 

 

「our hope」の初回生産限定盤のBlu-Rayディスクには、特典として2021年9月に行われた「羊文学 Tour 2021 ”Hidden Place"Usen Stadio Coast」のライブ映像がフルヴァージョンで収録。

 

2021年1月30日、Usenの運営する新木場スタジオコーストは、多くのファンに惜しまれつつ、DIR EN GREYのライブを持って長い歴史に幕を下ろしましたが、この羊文学のライブもまた、スタジオコーストの重要な記念映像として、日本のミュージック・シーンの歴史に刻まれることでしょう。

 

 

 

 

「Our hope」 F.C.L.S  

 

 

収録楽曲


1.mother

2.ブレーメン

3.変身

4.踊らない

5.砂漠のきみへ

6.おまじない

7.花びら

8.人間だった

9.powers

10.ハロー、ムーン

11.ロックスター

12.Girls

13.涙の行方

14.マフラー

15.1999

16.ghost

17.あいまいでいいよ

<アンコール>

18.銀河鉄道の夜

19.マヨイガ

20.夜を越えて

 

 

 

 

 「光るとき」

 

 

 

 

また、5月の下旬から羊文学は全国ツアーを控えています。宮城、仙台のPITでの公演をヘッドラインとして全国7箇所を回る予定。

 

 


・ 羊文学 ツアー情報

 


「羊文学 TOUR 2022 ”OOPARTS"」

 

 

・5月29日 宮城 仙台PIT

 

・6月9日  福岡 Zepp Fukuoka


・6月11日 大阪 Zepp Namba

 

・6月16日 愛知 Zepp Nagoya


・6月24日 北海道 Zepp Sapporo


・6月27日 東京 Zepp DiverCity

 

 

・ライブチケット

 

一般発売 4月23日土曜 10:00~

 

 

 Black Contry,New Road


 

ブラック・ニューカントリー、ニュー・ロードは、2018年、イギリス・ケンブリッジシャーにて結成された。タイラー・ハイド、ルイス・エヴァンス、ジョージア・エレリー、メイカー・ショー、チャーリー・マーク、アイザック・ウッドが最初のコアメンバーとして出発した。


BCNRは、アメリカの1990年代のポストロック/インストゥルメンタルロックの継承者であり、スリント、ドン・キャバレロといった最初期の雰囲気に加えて、ヴァイオリン、サックスなどオーケストラレーションの楽器を取り入れ、スティーヴ・ライヒに近い現代音楽の作曲法を取り入れたロックバンドとして、2019年のシングル「Athens,France」で鮮烈なデビューを飾った。

 

2021年に、Ninja Tuneからリリースされたデビューアルバム「For The First Time」は批評家の間で好評を博し、The Gurdian、NME,The Timesといった大手誌が文句なしの満点評価を与えた。批評家にとどまらず、世界中のロックファンにも好意的に受け入れられた作品でもあった。

 

清新なデビューアルバム「For The First Time」は、英国、アイルランド圏内の最もすぐれたアルバムを選出する「マーキュリー賞」にもノミネートされ、全英チャートでも最高四位を獲得し、大きな話題を呼んだ。インディーロックバンドのデビュー作としては大成功を収めた作品だった。

 

2022年、待望のセカンド・アルバム「Ants From Up There」発表前にバンドのギターとボーカルを担当するアイザック・ウッドの脱退が発表された。バンドは活動の続行を宣言している。現在、次作品の制作に取り掛かっている最中である。




「Ants From Up There」 Ninja Tune





Scoring  





Tracklisting

 

1.Intro

2.Chaos Space Marine

3.Concorde

4.Bread Song

5.Good Will Hunting

6.Haldern

7.Mark's Thema

8.The Place Where He Inserted The Blade

9.Snow Globes

10.Basketball Shoes


 

 

Listen on「Ants From Up There」:


https://bcnr.lnk.to/afut



このバンドの中心人物の一人、アイザック・ウッドの脱退というアルバムリリース前の衝撃的な出来事が起こったにもかかわず、BCNRのセカンドアルバムは好意的な評価を与えられたように思える。

 

2021年のマーキュリー賞の授賞式の際に、NMEの取材に対し、バンドは既に二作目の作業がほとんど完了していることを告げて、さらに、その作品の内容に関しては「悲しい叙事詩、そしてデビュー作よりも好感が持てるアルバムになるでしょう」と話していましたが、実際、彼らのその時のコメントは二作目を聴くかぎり、正直な感慨を言い表していたとも言えるでしょう。また、ベーシストのタイラー・ハイドは、この二作目のアルバムについて、「より口当たりの良い曲が多い」、「一曲のランタイムは短い、三分半の曲を書こうと意図しました」と話していました。

 

BCNRの二作目「Ants From Up There」のレコーディングは、ワイト島のChale Abbey Studioにて、セルジオ・マシェスコをエンジニアに迎えて行われました。ワイト島はジミ・ヘンドリックスを始めとする多くのイギリスのミュージシャンが伝説的なライブを行った場所であり、イギリスのロックミュージシャンにとっては聖地のような場所だといえます。このことから、今回、ブラック・カントリー、ニュー・ロード、及びこのバンドのマーケティングを管理しているNinja Tuneは、この二作目のアルバムに並々ならぬ期待と決意を込めていたのが読めます。

 

アルバムの制作については、英国がCOVID-19のためにロックダウンを行い、都市を封鎖した当初の2020年の冬に開始されました。バンドのメンバー、ハイドとウェインは、この当時のボリス・ジョンソン首相の行動に嫌悪感を示しており、実際の歌詞については確かなことは言えませんけれども、作風自体に何らかの政治的な暗喩が込められているようにも感じられます。

 

年が変わり、2021年の6月に、バンドはツアーに乗り出し、いくつかの新曲を実際に演奏し、ライブパフォーマンスにおいてのオーディエンスの反応と楽曲の出来について手応えを感じていたようです。さらに、ツアーを終えてから、2021年の夏の終りにこのアルバムのレコーディングがワイト島のスタジオで開始されました。この時のことについて、バンドは以下のよに語っています。

 

「録音を開始した日は、イギリスがロックダウンから開放された日だった。ただ、それでも、私達はクルマでしかアクセスできない田舎の農家に滞在していたので、ある意味では、ロックダウンが継続されたようなものでした」


彼らの言葉に依拠するならば、一作目と異なり、一種の「閉鎖的な空間性」を感じさせるような内向性に満ちているのが、この「Ants From Up There」の本質とも言えるかも知れません。今考えてみれば、アイザック・ウッドのヴォーカルも後付の解釈になってしまうものの、一種の陰鬱さに彩られているように感じられます。それがどちらかといえば、活発で開放的な印象を受けたBCNRの鮮烈なデビュー作「For The First Time」との明確な違いであり、社会に蔓延する閉塞した空気感のようなものを体現したサウンドだというようにも言えるかもしれません。

 

もちろん、ポストロック/インストゥルメンタルの楽曲は最初のアルバム「For The First Time」より渋さや深みを増し、それはこのバンドの成長の証と捉えられます。それは、「Bread Song」や「Haidern」といったアメリカのシカゴ周辺のポストロックサウンドの雰囲気を受け継いだ楽曲では、最初のアルバムの楽曲より聴き応えのある良曲を生み出したといえるでしょう。

 

その他にも、デビュー作よりも、管弦楽器の存在感が強められ、以前よりもダイナミックさを増し、室内楽を介してのロックという新境地を見出した作品と称せる。さらには、アイザック・ウッドのヴォーカルもさらに迫力を増し、フロイドやクイーンの打ち立てた「ロックオペラ」にも似た質感を持っていることが、BCNRの二作目のサウンドの醍醐味とも言えるでしょう。

 

只、これらの三分半という楽曲の短さが、それらのロックオペラ風の楽曲のダイナミックな印象を薄めてしまっている部分もなくはないということです。それに加え、ヴォーカリストのアイザック・ウッドの最後の参加作品となってしまったという事実も、ちょっとだけ寂しさをおぼえてしまうのです。個人的な意見としては、やはり、そのことが頭の隅に引っかかってしまいます。果たして、アルバムの発売直前になって、主要メンバーの脱退を公に知らせるというのは、ファンとしては何故か寂しさを感じざるをえない。つまり、それにより、作品自体の聴き方だとか捉え方だとかが180°変わってしまい、フラットな状態で聴くことが凄く難しくなってしまったのです。

 

しかし、既に多くの音楽メディアの高評価を受けていることからも分かるとおり、もちろん、「Ants From Up There」は、新世代のポストロックとして、2022年の注目作品で、ポストロックの良盤のひとつに数えられることに変わりありません。また、現在、ブラック・カントリー、ニュー・ロードは、新しい作品に取り組んでいるということで、この二作目の楽曲を聴きながら、次の作品がどんな素晴らしい出来になるか、あるいは、今後、このロックバンドがどういった新しい道を切り開いていくのか、ファンとしては楽しみにしていきたいところでしょう。

 


 

 

 

 

・Black Country,New Road 「Ants From Up There」のリリース情報につきましては、以下、Ninja Tuneのオフィシャルサイトを御覧下さい。

 

https://ninjatune.net/release/black-country-new-road/ants-from-up-there 



 

 

 

New York City Pride March 2013: Harry Belafonte


1.カリプソの始まり

 

カリプソは、トリニダード・トバゴで始まり、西インド諸島全体に広がったアフロカリビアン音楽だ。西アフリカの「Kaiso」の親戚ともいえるカリプソ音楽は、コールアンドレスポンス形式が採られ、そして、カリプソリズムとして知られている2/4ビートに基づいた明るい曲調が特徴だ。

 

カリプソは、ソカ、メント、ベンナ、スパウジ、スカ、チャツネ、エクステンポなど多くのサブジャンルを生み出した。これらのスタイルの中心人物は、セージとストーリーテラーとして登場するグリオというリードシンガーにある。

 

これはアフリカの儀式音楽グリオに伝統形式を受け継いだものだ。今日のグリオは、英語でうたわれ、日常の苦難を記録し、正義性を主張する。

 

これらの音楽は、最初、農場にいる黒人たちがコミュニケーションを取るために生み出されたものである。雇い主である白人から、トリニダード・トバゴの労働者たちは仕事に従事する際、一般的な私語を禁じられていたため、彼らはこのグリオの形式から受け継いだ明るいカリプソを歌い始めた。

 

 

2.カリプソの歴史

 

カリプソ音楽は、18世紀のトリニダードでアフリカの奴隷のコミュニティ内に最初に登場した。

 

この音楽の形式は、西アフリカの伝統音楽の「Kaiso」が進化したものと一般には定義づけられ、歌詞の中に風刺的な意味が込められていた。つまり「Double Meaning」をそれとなく言語のニュアンスの中に滲ませていたのだった。

 

要は、俗にプランテーションを呼ばれるトリニダード国内の大規模農場で労働に従事する黒人たちは、雇い主の白人たちに解せないような言葉で、何らかのやりとりをする必要があり、一種の暗号のようなやりとりを仲間内で行ったのが「カリプソ音楽」の始まりであるといえる。

 

二十世紀のトリニダード・トバゴの黒人たちは、日頃、労働に従事している間、雇い主の白人たちをからかったり、揶揄したりするためのスラングを当初、カリプソの歌詞の中で頻繁に用いていたのである。気慰みのために、白人を嘲笑するようなスラングを、彼らに気取られぬように歌詞の中に込めていたのだった。

 

後の時代になると、 カリプソ音楽は、音楽としても、言語としても、徐々に洗練されていくようになり、フランス語(詳しく言えば、アンティル諸島の固有のクレオール言語)、英語、スペイン語、そして、アフリカの言語の影響を組み合わせた形式を発展させていった。アンティル諸島から移民してきたフランス人は、カーニバルの伝統性をトリニダードの島々に文化としてもたらし、トリニダード・ドバゴが国家として1834年に奴隷制を廃止してからというもの、元奴隷であった黒人たちは、カーニバルのためのミュージシャンとして注目されるようになった。その後、島内には、専用のカリプソテントがいくつも設営されていき、カリプソの単独公演が行われるようになっていく。つまり、このカリプソ音楽は、祝祭の雰囲気の強い形式であり、それは後世のボブ・マーリー、ジミー・クリフのレゲエの雰囲気に引き継がれている要素でもある。


カリプソ音楽が初めてレコードとして録音されたのは、1890年代からカリプソバンドとして活動していたLovey's String Bandがニューヨークで録音した音源である。このトリニダード・ドバゴのバンドは、1912年にジャズバンドとしてこの音源の録音を行った。後にこのバンドは五年後に、ジャズバンドとしてレコードをリリースしている。Lovey's String Bandの音源は、現在ワシントンDCのアメリカ議会図書館「Library of Congrass」に録音が保管されているようだ。

 

カリプソ音楽のミュージシャンとして最初のスターとしては、Julian Whitrose、Roaring Lion、Anttila The Hun、Load Invader(のちに「ラムとコカ・コーラ」がアンドリュー・シスターズによってカバーされている)が挙げられる。その後、1950年代に差し掛かると、Lord Kitchener,Mighty Sparrowといったミュージシャンが台頭してくるようになった。



3.カリプソの音楽的特徴

 

カリプソ音楽は、カリビアンミュージックの多くの形式と同様、西アフリカの儀式音楽のリズムの伝統性に加えて、スペイン、フランス、イギリス、その他ヨーロッパ諸国の言語を融合させている。カリプソの主要な要素は以下のようなものが挙げられる。
 


・フォーク音楽としての起源 
 

一般的に人気の高いカリプソ音楽はその多くがトリニダードのフォーク音楽を引き継いだものである。
 
 
 
 
・英語、フランス語(クレオール言語)を融合した独特な歌詞

 
 
元々は、カリプソの歌手がフランス語の一であるアンティル諸島のクレオール語で歌っていたが、英語がトリニダード・トバゴ国内の主要言語に成り代わるにつれ、ほとんどの歌詞が英語へと移行していった。
 
 

・グリオが歌うリードボーカル
 

グリオは、アフリカの儀式音楽の形式内で、ストーリーテリングを行う役割を持つリードシンガーである。
 
 
コールレスポンスを行う複数のシンガーと掛け合いながら、明るい曲調の楽曲が進行していく。これは、ベラフォンテの「バナナボート」を聴けば特徴がよくつかめる。初期のカリプソはグリオが語る民話を特徴としていた。

 

 

・スティール・パンの使用

 

スティール・パン(Steel Pan)は、トリニダード・トバゴ発祥のドラム缶から生み出された民族打楽器である。外側から内側にかけてなだらかに傾斜を描き、中心部は凹んでいる。ゴムを巻いた撥(Stick)でたたき、出音する。叩くポイントによって出される音色が様変わりする面白い楽器で、音響的にカラフルな効果を与える。 トリニダード・トバゴ国内のカリプソで使用されるスティールパンは、単一の楽器としてではなく、複数組み合わされて使用される事が多い。

 

 

カリプソ音楽の有名アーティスト

 

 

・Road Invadar

 

トリニダード・トバゴ国内で最初に名声を得たミュージシャン。初期のカリプソニアンであり、渋い声とフォーク色の強い音楽性が特徴である。 

 

 

 

・Lord Kitchener

 

ロード・ キッチナーは、1930年代に十代でキャリアをスタートさせ、2000年代になくなるまでレコーディングを続けた。有名な曲は1962年に録音された「London Is The Place For Me」が挙げられる。 

 

  


・Harry Belafonte

 

ハリー・ベラフォンテはトリニダード・トバゴ人ではなく、ジャマイカ出身のアメリカ人である。

 

彼の音楽は、多くの文化性を吸収している。ジャマイカのフォークをアレンジした1956年の「Day-O」(Banana Boat)はカリプソの最初の大ヒット曲となった。ベラフォンテの後期の作品では、歌詞の中で社会正義を強調している。これは後世のカリプソを奏でる音楽家にとって重要な主題となった。 

 


 


・Growling Tiger

  

ネビル・マルカノは、別名、グロウリング・タイガーとして知られている。カリプソのジャンルに最初に明確な政治性をもたらした。

 

彼は、トリニダード・トバゴの国家観について歌い続け、イギリスからの独立を後押しした。上記のベラフォンテ、及び、マルカノがもたらした思想性の強い要素は、後のボブ・マーレーのエチオピア皇帝を信奉する「ラスタファリ運動」に引き継がれていく。 

  

 

・Calypso Rose

 

元来、カリプソ音楽は男性のための音楽であったが、初めて、カリプソ音楽を女性にも普及させた重要なアーティスト、カリプソ・ローズは、1970年代にかけて活躍をした。「Gimme More Tempo」 、「Come Leh We Jam」といった名曲を残し、音楽ファンと批評家から高い評価を受けた。