ローファイの真髄 Yo La Tengo「And Then Nothing Turned Itself Inside-Out」

yo la tengo


ヨ・ラ・テンゴは、アメリカのニュージャージー州のオルタナティヴ・インディーロック・バンド。さらに細かなジャンル分けでは、ローファイ、ドリームポップというように称されることもあります。

1984年から現在まで、幾度かメンバーチェンジを繰り返しながらかなり長い活動を続けているアーティスト。その活動の長さ、しぶとさから、アメリカンローファイのドンといってもいいかもしれません。

一般的に、ロックバンドというのは、ある影響力の強いひとりふたりの人物を主体として展開されていく表現活動の形態と思われ、バンド内の重要な人物が脱退したりすると、以後の活動を維持するのが困難になることがある。

そこで、フロントマンではない人物が抜けたとたんに、全然別のバンドになってしまったりすることもあります。また、売れた途端に、いきなりそれまでの勢いを失い、一旦、花開いた才覚が急にしぼんでいってしまうような悲しき運命にあるロックバンドも多い。

その点、ヨ・ラ・テンゴだけは、上記の言葉、派手に売れないことにより、今日まで音楽性においてたゆまず成長を続けてきた非常に安定感のあるインディーロックバンドといえるでしょう。

もともとが外向きな音を奏でるバンドではないからか、人が入れ替わっても、音楽性についてはなんら変わりません。

三十七年という長年月に渡り、売れて第一線に出ようと思わず、良い音楽をアンダーグランドでひっそりと作り続けているのが、ヨ・ラ・テンゴというバンドの良さです。

そして、その三十七年という年月で培われた強固なローファイ精神が、噛めば噛むほど味が出てくる深遠な音楽性を強固なものとしているのでしょう。

 

ヨ・ラ・テンゴの音の特徴というのは、いわゆるサーフロックで使われるようなリヴァーブディレイ感満載のギターの音色。そして、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインを思わせるオールドタイプのアナログシンセの使い方、そして、そこに浮遊感のある力の良い具合に抜けたボーカルが器楽風に漂っている。

どことなく彼等の音楽というのはぼんやりしていますが、温かみのある心にじんわりしみる音楽で、聴いていると、穏やかな気分になることができるはず。

やはり長年の功ともいうべきか、音楽性の品の良さと、間口の広さを感じさせます。ごく普通のシンプルなポップ/ロックソングをその音楽性の主体としていますが、サンプラーを使ったエレクトロニカ風の楽曲であったり、また、スムースジャズ風の曲もありと、きわめて多彩な音楽性を感じさせます。

たとえば、ギャラクシー500,シー・アンド・ケイクあたりのいかにも、アメリカンローファイの風味を持ち合わせているのがこのバンドの正体といえ、とくに、このヨ・ラ・テンゴは、非常にメロディーの才覚が他のインディーロック、ローファイ界隈のバンドに比べて抜きん出ているのが強みでしょう。 

 

「And Then  Nothing  Turned Itself Inside-Out」

 

スタジオアルバム「And Then Nothing Turned Itself Inside-Out」は、彼等ヨ・ラ・テンゴの分岐点ともなった作品であり、それから持ち味の甘美なメロディーというのを押し出していくようになります。

それはのちのアルバム「Today Is The Day」によって完全型となりますが、いわゆるあらっぽいローファイの風味から、ポップ色を打ち出したバンドへ移行するさいの橋渡し的な役割を果たしたのがこのアルバムです。

一曲目の「Everyday」では、スロウコア的な少し陰鬱な感じのある楽曲が展開されますが、それは全然暗い気持ちにさせずに、雰囲気たっぷりに、その音の深い世界に聞き手をやさしくいざなうことに成功しています。

また、「Let's Save Today Orlando's House」は、英国のベル・アンド・セバスチャンを彷彿とさせるような清涼感のある名曲です。

このまったりした雰囲気、長調から短調に移調が行われるときの、甘く切ないボーカルのニュアンス、そして、スタジオアルバムでは、マイブラのラブレスで使用されているようなエレクトーンのモジュレーションがとてもいい雰囲気を出している。

まるで、あたたかな水の上にぷかぷかと浮かんでいるかのような感じともいえばいいでしょうか、このなんだかわけもなく心地よい雰囲気というのは、ヨ・ラ・テンゴにしか醸し出し得ない独特な音の質感でしょう。

そして、このアルバムをユニークな風味たらしめているのが、「You Can Have It All」の一曲。

これは少しドゥワップのようなバックコーラスと、その合間に漂う甘く切ないボーカル。そこに引き締まったドラミングが加わり、非常にリズム的に面白いニュアンスを生み出しています。

ブレイクを挟んでから、またこのリズムが再開されたりと遊び心も満載、そこにはホーンが加わったりとゴージャスな雰囲気もあります。スタジオでの長時間のジャムセッションの延長線上に生みだされたかのような曲ですが、神経質にならず、この余白のあるまったりした音楽性がとても良い。

その他にも、「Tears Are in Your Eye」は、オールドスタイルのフォークを踏襲したかのような楽曲、これもサイモン&ガーファンクルのような古き良き時代のアメリカの音楽を思わせていいです。

「Cherry Chapsticks」では、シューゲイザー的な音楽への接近を試みていたり。「Tippo Hippo」では、シカゴ界隈のロックバンドが奏でるようなエレクトーンを使用した渋い音楽にも果敢に挑戦している。

このアルバムのラストを切なく彩っている「Night Falls on Hoboken」も往年のアメリカのフォークを思わせるような名曲。

終盤にかけては壮大な世界観に通じていきます。このアウトロのベースの渋さと、ドラムのサウンドエフェクトの巧緻性が印象的であり、実に壮大なエンドロール的な雰囲気を醸し出しています。

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