Weekly Recommend Unknown Mortal Orchestra 「That Life」 Single


Unkown Mortal Orchestra 

 

今週も、先週のノスタルジックな通好みの音楽「”Lord Huron”にいざ続け!」といわんばかりに、同じようなリヴァイヴァルタイプの素晴らしい楽曲をお届けしようと思います。

 

今回、ご紹介するアンノウン・モータル・オーケストラは、Ruban Nielsonを中心にアメリカのオレゴン州、ポートランドを拠点として活動するインディーロック・バンドで、このグループの中心的な人物であるルビン・ニールソンは、元々、ニュージーランドでプロジェクトを立ち上げた当初は、Bandcampを中心として、楽曲を制作発表していたけれども、その後、アメリカのポートランドに移住、他のメンバーを引き入れ、基本的には、四人編成のバンドとしてメンバーを入れ替えながら活動を続けている。  

 

アンノウン・モータル・オーケストラの音楽は、 先週紹介したロード・ヒューロンと同じように、古い時代に流行したサウンドを現代にリバイバルした形で展開し、それを独自の他にはない渋い持ち味としている。

 

特に、昨今、アメリカンのインディーシーンでは、NYのアーティストをはじめ、ロサンゼルス近辺にこういった懐かしいサウンドを、バンドの主体的イメージとして打ち出し、独特な通好みの現代的なロック/ポップスを奏でるミュージシャンが数多く見られるのは事実であり、これは、アメリカのインディー・ロックの現在のライブハウスでも人気を博しているような雰囲気が伺える。

 

もちろん、このアンノウン・モータル・オーケストラにとどまらないで、Mild Club High,Real Estate,Arien Pink,Foxygen,Toroy Moi,Beach Fossils,Wild Nothing,Molly Burchと、その例をあげれば、枚挙にいとまがない。特に、このリバイバルミュージックのアーティストが分布しているのは、サンフランシスコ近辺の地域か、もしくはニューヨークで、これはあながち偶然とは思えない。

 

ニューヨークの往年の6.70年代の音楽の盛り上がりについては言わずもがな、サンフランシスコという土地も同じように、グレイトフル・デッド、スライ&ザ・ファミリーストーン、あるいは、ザ・レジデンツを始めとする、サイケデリック、ファンクロックが盛んな土地として栄えた歴史を持つ。この文化的な流れをうけてか、サンフランシスコ近辺には、いわゆる昔の音楽として、一時期、完全に忘れ去られていたサイケデリック音楽の影響を大いに受けたインディーロックバンドが、サンフランシスコ周辺、南部のロサンゼルス、それから、北部のオレゴンのポートランドのミュージックシーンに数多く見受けられる。そして、現代のインディーロックバンドは、このサイケデリック音楽を、どちらといえば、クラブミュージック寄りの解釈によって彩ってみせている。

 

 

これは、往古のファンクロックと、近年のヒップホップシーンの、「ハイブリッド的な存在」として誕生したアメリカ独自のジャンルではないかと思える。また、そこには、スライストーンのような泥臭さとはなく、サイケデリックをはじめとするジャンル、往年のサンフランシスコ発祥の音楽に大きな影響を受けていながら、それを斜に構えるような感じでクールに演奏してみせる。

 

 

そして、現時点において、アメリカの西海岸の重要なインディーのミュージックシーンは、シアトルではなく、その北部にあるポートランド、あるいは、ロサンゼルス周辺が最も盛り上がっているような印象をうける。つまり、アメリカという国土を全体的に見渡してみると、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、ポートランド辺りに、重要なアーティスト、あるいは、新しいミュージック・シーンが台頭している、もしくは、これから台頭してくるような気配が漂っている。


さて、このアンノウン・モータル・オーケストラだけに関して言えば、このサンフランシスコの伝説的なサイケデリック、ファンクロック界のスター、スライ&ファミリーストーンの影響を色濃く受けたバンドとして挙げられる。そこには、LPアナログ時代にしか味わえなかったデジタル音源よりはるかに甘美な味わいのある音、そういった音楽フリークが探し求める要素を、ルバン・ニールソンは自身の手で探し求め、それを往年の「暴動」を始めとするスライ・ストーンの時代に賑わったサンフランシスコシーンの音を多くのファンに提供し続けている。

 

このような言い方が相応しいものか分からないものの、ルビン・ニールソンは、上記に挙げた、Arien PinkやMild Club Highと共に、アメリカのサイケデリックのコアな継承者としてシーンで息の長い活動を今日まで続け、インディーズシーンの流れを必死に形作ろうとしているように思えてならない。

 

アンノウン・モータル・オーケストラは、バンドの作曲を担当し、もちろん、シンガーでもあるニールソンのソロプロジェクトとして発足した2010年から、Bandcampを中心としてインディーシーンで活動を続け、ポートランドに移住し、バンド体制となってからも、多くの良盤をリリースしてきている。

 

 

まず、はじめに、アンノウン・モータル・オーケストラの入門編として推薦しておきたい作品は、「Ⅱ」 2013、Multi-Love」 2015、(共にJagjaguwarからリリース)の二つがある。

 

「Ⅱ」では、良質なメロディセンスの感じられるローファイ風味あふれるポップソングが味わえる。一方、「Muli-Love」では、スライ・ストーン直系のノスタルジックなサイケデリックファンク、ディスコサウンドを堪能出来る。なぜかしれないが、不思議と、70年代のサンフランシスコの音楽的な熱狂をリアルタイムで体感していないリスナーにも、ノスタルジックな気分に浸らせてくれる、何かがあるように思える。

 

 

 


「That Life」 2021   (Single)



 

直近では、「Weekend Run」というシングルをリリースしているアンノウン・モータル・オーケストラ。このシングル作品では、女性ボーカルをフーチャーしたアース・ウインド&ファイアー寄りの寛げるような音楽を奏でている。

 

そして、七月の下旬にリリースされたばかりのシングル「That Life」においては、またそれとは異なるアプローチを図り、新たな2020年代のファンクロックの誕生を予感させている。

 

 

 

 

 

およそ一年ぶりくらいに、このモータウン・オーケストラの楽曲を聞いてみたところ、ほとんど驚愕せずにはいられなかった。それは、単純に、ルバン・ニールソンの歌い方がこれまでのスタイルとは一変していたことによるもので、まるで、別人が歌っているように思えた。これまでの作品、たとえば、「Ⅱ」において、ニールソンは、内省的なローファイ風味あふれる繊細な歌い方を選んでいたが、「Multーlove」辺りのリリースを機に、徐々に歌い方、声の質感というのが変貌してきていて、ついに今作「That Life」で、ひとつの完成形を見たといえるかもしれない。最新シングル作「That Life」において、ニールソンは、これまでのベールを、ガバっと剥ぎ取り、張りのあるファンク寄りの激渋のボーカルスタイルに路線変更を試みているように思える。そのスタイル変更は、バンドとしても完全に成功したと言って良いでしょう。


また、これは、このアンノウン・モータル・オーケストラが追究していた音楽のスタイル、往年のアナログレコードの音のジャンクでシャリシャリした質感を、完璧な形でデジタルとして現代に再現することに成功した快作。

 

これまで、どことなく、ぼんやりしたような印象があったニールソンの歌声が、今作においてかなり鮮明になっているのに、アンノウン・モータル・オーケストラのファンは驚くはず。歌詞をじっくり喉元で噛みしめるように歌うニールソンの声は、今作では、渋い味わいを伴い、楽曲トラックの前面に力強く表れ出ている。また、そこに、独特のR&Bとしての抒情性が込められている。このソウルフルな歌声を、心地よいリズムが背後からバンドサウンドとして強固に支えている。つまり、「That Life」の楽曲全体の雰囲気自体には、七十年代へのサンフランシスコの音楽の憧憬が滲んでいるものの、そこには漏れなく、現代的なクールさも滲んでいる。そして、楽曲のノリノリな感じというのは、これまでの彼等の楽曲より痛快味があるように思える。

 

そして、この楽曲において見過ごせないのは、アンノウン・モータル・オーケストラの公式プロモーションビデオのかわいらしい人形のダンスである。


ここで、セサミストリート風の人形が登場し、「That Life」の往年のディスコサウンド、あるいは、サイケデリックファンクの楽曲に併せて、可愛らしく踊っていて、それがこのミュージックビデオのハイライトとなっている。

 

このセサミストリート風の可愛らしい人形ダンス映像は、Youtubeの公式動画だけではなく、Spotifyのcanvasという機能、また、Apple配信のミュージックビデオでもお楽しみ頂く事が出来ます。  

 

 

 

 Watch on Apple Music

 

 

 

 

ここには、ルバン・ニールソンの温和な人柄だけではなく、アンノウン・モータル・オーケストラというバンド形態としてのユニークさが十全に発揮されている。これまでの音楽性は、どちらかといえば、フリーク向けの楽曲であったものの、今作では、アンノウン・モータル・オーケストラは様変わりを果たし、より多くの層に馴染みやすい楽曲のサウンドアプローチを追究している。


曲全体としては、それほど目くるめく展開力があるわけではないにせよ、何度となく、この曲をループしてみたくなる欲求を覚える。それは、彼等のサウンドアプローチが七十年代の音楽の美味しいとこ取りをし、なおかつそれをノリの良いリズムトラックとして再現しているからこそ。そして、メロディセンスというのも、初期からの”アンノウン・モータル節”ともいうべき独自の性質が引き継がれており、往年のディスコ、サイケデリックファンクを聴き込んだがゆえのセンスの良さが詰め込まれている。

 

これは、本当に、「美味い、美味すぎる!」と、思わず、声をあげてしまいそうになるのは必須です。そして、その辺りが、往年のディスコサウンドやファンクサウンドに慣れ親しんだヘヴィリスナーはもちろんのこと、この年代サウンドに馴染みがない最近の音楽ファンの心さえも「グワシ!」と鷲掴みにして離さないはずです。今作を、じっくり、または、とっくり聴いてみれば、次のアンノウン・モータル・オーケストラの次回作への期待感がいや増していくはず。


すでに、ニールソンの母国ともいえるニュージーランドでは、インディーズのディスクタイトルを複数回獲得して来ているアンノウン・モータル・オーケストラ。これから、さらに、アメリカのシーンにおいても快進撃を続けていきそうな勢いが余す所なく込められているのが「That  Life」!!

 

とても、親しみやすく、渋みのあるダンスミュージックであって、これぞまさに、現代のアメリカのインディーシーンの流行の最先端を行くポップサウンド!! 思わず一緒になってノリノリに踊りだしたくなる衝動に駆られるキャッチーで激渋ダンスロック。最近の音楽に飽きてきて、「なんか良いのないかな?」と探し回っている方に、是非ぜひおすすめしておきたい良曲です。


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