Weekly Recommend  UQIYO 「蘇州夜曲」

 UQIYO

 

UQIYOは、2010年から日本、東京を中心に活動する”Yuqi Kato”の音楽プロジェクト。以前はユニットとして活動していたようですが、現在はソロ・プロジェクトになっているようです。Yuqiはこのプロジェクトの作曲、演奏、マスタリングまで手掛け、ライプパフォーマンスでは、アコースティックギターの他に、キーボードも演奏してしまうというマルチタレントのアーティストです。

これまで、久保田リョウヘイ、元ちとせ、Monkey Majikをはじめとする日本の著名なアーティストとの共同制作を行っています。2020年から、日本国内のみの活動だけではなく、アジア圏まで音楽活動の幅を広げ、シンガポールのインディーレーベル「Umami Records」から作品をリリース。また、シンガポールのアーティスト”マリセル”とのデュエット曲「lo V er」を発表している。もう一つ、特筆すべきは、台湾のドリーム・ポップバンド”I Mean Us”とのデュエット曲「6000℃」で、現地台湾のインディーミュージックアワード「金音創作奨」の受賞者に輝いている。近年、国内にとどまらず、アジア全体に活躍の幅を広げつつあるインディーズアーティストです。

UQIYOの音楽性としては、バックグラウンドの広さを伺わせており、流麗なアコースティックギターの演奏がこのミュージシャンの最も秀でた点といえ、しかし、それほどひとつのジャンルに拘泥することもなく、柔軟性を持ちつつ、これまでの作品で幅広い音楽に取り組んでいるアーティストです。基本的には、インディー・フォークのジャンルに該当、アメリカン・フォークに対する「アジアン・フォーク」と称するべき独特な音楽性です。キーボードを駆使して実験的な音楽性に取り組むという点では、エレクトロ、クラブ・ミュージック寄りのアプローチを図る場合もあり。ということで、エレクトロ・ポップに近い楽曲もこれまでリリースしています。UQIYOの楽曲自体は親しみやすく、 アコースティックギターをフーチャーした穏やかなスタンダードなJ-Pop、あるいは、またインディーフォークとして聴くことも出来るかもしれません。

 

 

「蘇州夜曲」

 

今月の英詞のインディー・フォーク曲「ソンバー」においては、日本人らしからぬ堪能な英語曲を披露しているUQIYOこと、Yuqi Kato。そして特に、同時期にリリースされたこの昭和の名歌謡曲、「蘇州夜曲」の新たな2021年のシングルは、楽曲自体の切なく甘いメロディーが引き出された名曲のカバーということで、今週の一枚として、なんとしても、オススメしておきたいと思います。 

 

 


TrackListing

 

1.蘇州夜曲

 

もちろん、既にご存知の方も多いかもしれませんが、「蘇州夜曲」は、昭和の戦後の時代に置いて、日中間の国際的問題にまで発展した音楽史の曰くつきの名曲です。原曲は、戦時中の日本の国策映画「支那の月」という作品の挿入歌として使用されています。日本語バージョンと中国語バージョンの二パターンが現存している。これまで、日本歌謡界の歴代のスーパースター、李香蘭、美空ひばり、アン・サリー、夏川りみ、と錚々たる女性の名歌手がカバーしてきた日本歌謡曲の中でも屈指の名曲。

日中戦争時代、李香蘭がこの曲を歌い、当時の流行歌となる。そして、この曲については、素晴らしい名曲であったのにもかかわらず、むつかしい政治的問題が絡んだということで、非常に長い間、中国では政治的にご法度の曲とみなされてきた経緯があり、中国では嫌悪の対象となる楽曲だったようです。しかし、現在では、中国国内においてもこの曲に対する見方が変わって来て、現地のレコード会社からこの楽曲がリリースされたり、この曲を中国語で歌ったりする人もいるそう。

そして、今回、なぜ、このようなエピソードを長々と記述したのかというと、この新しい日本のアーティスト、UQIYOさんのカバーは、李香蘭に近いアプローチを忠実に選びとっているからです。特に、この楽曲を聞くかぎりでは、戦争の「せ」の字も出てこないのに驚く。どちらかというなら、奥深い中国大陸への日本人の慕情、恋情を和歌として歌いこんだだけの素晴らしい非の打ち所のない名曲です。しかし、あまりに歌の出来が良すぎたためか、国策映画の挿入歌として使用され、また、当世の流行歌となってしまったのでしょうか? 夏川りみさんの豪華なストリングス、ホーンセクションのカバー曲ももちろん素晴らしいですが、UQIYOのカバーで聴くことが出来るギターと歌、二胡という中国の伝統楽器の生み出す絶妙な空気感、簡素、質朴、朴訥、幽玄、とも称するべき水墨画に近い雰囲気のある「蘇州夜曲」こそ、この曲の伝統的な解釈であるように思えます。今回のリリースでは、情感たっぷりに、Yuqi Katoさんは、日本歌謡を深い慕情をいだき、現代のアーティストとしてカバーに真摯に取り組んでいるあたりが聞き所です。

この楽曲「蘇州夜曲」は、元が大名曲であるだけに、実際、カバーをする際、ミュージシャンとしての覚悟が試されるという気もする。しかし、今回のカバーにおいて、UQIYOさんは、そういった高い壁をもろともせず、原曲に対する敬意を持ち、謙遜した演奏、一歩引いた謙虚な歌を丹念に紡ぐことにより、原曲「蘇州夜曲」のメロディーの本来の魅力を引き出し、本来の雰囲気を損なわず、さらに、そこにまた、この曲の新鮮味を新たに提示している点については素晴らしいとしか言いようがありません。

そして、カバーという音楽史に引き継がれている伝統ある形式。これについて、あらためて再考してみると、先人たちの精神を敬意を持って現代に継承し、次の未来、また、次の世代に生きる人達に「文化」として繋げていくという役割が込められていることに、「蘇州夜曲」のUQIYOさんのカバーを聴くにつけ何かしら考えさせられるものがありました。それからもう一つ、なんとなく感じいらずにはいられなかったのは、李香蘭という歌い手にまつわる問題、また「音楽に罪があるのか?」というよく近年取り沙汰される問題についてです。これは例えば、現在でも、ポーランドの放送局では、カラヤン指揮のワーグナーの音源を流すことが困難という問題にも非常によく似た事象です。

もちろん、音楽と政治というのは常に抜き差しならない問題を抱える一方、また音楽というのは、人々の心にわだかまる歴史的な負の感情を取り払い、大きな癒やしを与えることも出来るはずですから、UQIYOさんの今回のカバーのように、現代のアーティストが歴史的な感情を取り払うために新たな挑戦を試みること、アートを観念から救い出し、観念から離れた広い領域に解き放ってみせること(沖縄出身の夏川りみさんの「蘇州夜曲」のカバーには重要な意義があった)これら二つの挑戦はとても頼もしいことでしょうし、文化史として見ても大いなる意味が込められているはずです。

少なくとも、「蘇州夜曲」という曲は、今、聴いても、なんとなく、切なさの感じられる味わい深い恋歌です。海を越えた大陸にたいする深い慕情を感じさせる日本歌謡の最高峰の一曲で、ピクチャレスクな雰囲気に満ちています。最後に、この楽曲のきわめて感慨深い日本語詞を引用しておきます。

 

 

髪に飾ろか 接吻しよか

君が手折りし 桃の花

涙ぐむよな おぼろの月に

鐘は鳴ります 寒山寺

                        「蘇州夜曲」の歌詞より”

 

 

・UQIYO公式


https://uqiyo.lnk.to/Soshuyakyoku

 

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