Album Reviews  盛岡夕美子 「余韻(Resonance)」

 

盛岡夕美子

 

盛岡夕美子さんは、1978年から1987年にかけて作詞家、ピアニスト、作曲家として活動していた音楽家です。

 

1975年に、サンフランシスコ音楽学院を主席で卒業した後、"宮下智"を名乗り、日本の音楽業界でコンポーザーを務める。1980年代にかけて、男性アイドルグループへの楽曲提供を行い、中には、驚くべき男性アイドルの名が見られ、1980年代にかけて、田原俊彦、少年隊といったアイドルのヒット曲のソングライティングを手掛けていた名音楽家です。

 

盛岡さんは、元は、クラシック畑のピアニストでありながら、J-POPの裏方としての仕事を多く受け持ち、1980年発表の田原俊彦のシングル「哀愁でいと」B面曲「ハッとして!Good」で、第22回日本レコード大賞で最優秀新人賞に輝く。その後、ジャニーズ事務所と専属契約を結び、少年隊の1980年代の楽曲を多数手掛ける。1980年代の日本ポップスシーンにおける重要な貢献者と言えるでしょう。

 

ジャニーズ事務所に所属するアイドルグループへの楽曲提供の他に、1980年代にソロ名義「盛岡夕美子」としての作品を二作発表。これらの作品は商業主義やエンターテインメント業界とは無縁のニューエイジ、アンビエント、世界的に見ても秀でたヒーリング音楽をリリースしています。


この盛岡夕美子としてのソロ名義での作品発表後、アメリカに移住。 その後は、サンフランシスコのエコール・ド・ショコラ、フランスのエコール・ヴァローナで学んだ後、音楽家からチョコラティエに華麗なる転身。その後、自身の会社「Pandra Chocolatier」を設立し、ワイントリュフの開発に取り組み、ビジネス事業も軌道に乗り始める。


しかし、2017年に北カルフォルニアで起こった山火事によってワインの輸送供給が滞ったのを機に日本に帰国。2019年には日本の世田谷にワイントリュフの専門店を立ち上げていらっしゃいます。

 

その後、一度だけ作曲家の仕事を行っており、2018年に、King&Princeに楽曲提供を行っています。

 

 

 

 

 

「余韻(Resonance)」2020  Metron Records  
 
*原盤は1987年リリース



 

 


1.Komorebi

2.Moon Road

3.Rainbow Gate

4.Ever Green

5.潮風

6.おだやかな海

7. Round And Round

8.La Sylphide/空気の精

9.Moon Ring

10.銀の船




 

この作品「余韻」は、1987年、盛岡夕美子名義で発表されたニューエイジ作品のVinyl再発盤として昨年発売された作品。表向きの田原俊彦、少年隊といった仕事、謂わば表舞台の喧騒からまったく遠く離れたアルバムを、この1987年に盛岡夕美子さんは発表していらっしゃいます。いわば、年代的には、まだ、おそらくニューエイジミュージックがそこまで日本でも浸透していなかったと思われる時代、日本のもっとも早い年代に活躍した環境音楽家、吉村弘と同じようなヒーリング的な指向性のある音楽を、盛岡さんはこの作品において追求していらっしゃいます。

 

この作品において盛岡さんの生み出す音楽は、終始穏やかであり、これ以上はないというくらいの癒やしをもたらしてくれ、聞き手の内面を見つめる機会を与えてくれる瞑想的な音楽ともなりえるはず。この「余韻」はクラシックピアニストとしての素地のようなものが遺憾なく発揮された作品で、波の音といったサンプリングが挿入されている点で、ニューエイジ音楽を想定して製作された音源だろうかと思われますけれども、クラシックピアノを体系的に学習した音楽家のバッグクラウンドを持つためか、サティやドビューシー、ラヴェルをはじめ、一般に「フランスの6」と呼ばれる全音音階を使用する傾向のある近代フランス和声の影響が色濃く感じられる作風です。

 

それほど大きな展開を要さないという点では、イーノ、バッドの音楽性に近いものが感じられます。ミニマル・ミュージックとしての指向性を持ち、それが淡々と奏でられる上品なピアノ音楽。しかし、この単調さがむしろ反面に聞き手に何かを想像する余地を与えてくれる、本来、あまりに情報量が多すぎる刺激的な音楽というのは一見すると心惹かれるものがあるように思えますけれども、そこには聞き手の存在する余地がなくなるという弊害もまたあると思うのです。しかし、盛岡さんのこの作品では、それとは対局にある「家具の音楽」、あるいは、調和という概念に焦点を絞った音楽が提示されており、また、ここでもアンビエントの重要な概念、聞き手のいる空間、聞き手の考え、何より、聞き手の存在が尊重されているという気がします。

 

それは、軽やかなピアノ演奏、情感あふれる鍵盤のタッチ、そして、ピアノの余韻、レゾナンス、ピアノのハンマーが振り下ろされた後、音の消えていく際の余白の部分を楽しむ音楽といえ、ジョン・ケージの最初期のアプローチにも比する音楽と称することが出来る。そして、この音楽は端的に言えば、わたしたちの心に、ひとしずくの潤いをもたらしてくれる癒やしの効果をもたらしてくれる音楽でもある。

 

1987年の最初のリリースから実に三十三年という長年月を経て、今回、Metron Recordsからリマスター盤として再発された「余韻(Resonanse)」の再発盤で感じられるのは、メロディやリズム、それ以上の空間性としての秀逸な純性音楽の数々。この作品には、一時代性とは乖離した多時代における普遍性が込められていて、人や時代を選ばないような音楽。また、久石譲をはじめとするジブリ音楽にも似た安らぎを感じていただけるかもしれません。

 

何か、じっと、目をつぶっていても、音楽自体が生み出すサウンドスケープがおのずと思い浮かんでくる貴重な音楽です。

 

サウンドトラックのようだと喩えるのは安直といえ、深い精神性に支えられた瞑想的で穏やかな作品です。日本のアンビエント、ニューエイジの隠れた名盤としてご紹介させていただきます。

 

 

「余韻(Resonance)」

Listen on Bandcamp:

 

https://metronrecords.bandcamp.com/album/resonance


 

 

盛岡夕美子「余韻(Resonance)リリース情報の詳細につきましては、Metron Records公式サイトを御覧下さい。

 

 

https://metronrecords.com/