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 フランスのミュージシャン、アーティスト、詩人として活動する、Merle Bardenoir(メル・バルドゥノワール)のプロジェクト、Glamourieがデビュー・アルバム『Imaginal Stage』をKalamine Recordsから9月24日にリリースしました。是非、下記よりチェックしてみて下さい。

 

Glamourieの音楽は、ほとんどがインストゥルメンタルで、プロジェクトを構成する幻想的なテーマの展開は、タイトルだけでなく、ビジュアルを通じても展開される。また、メル・バルドゥノワールは、画家/イラストレーターとしても活動しており、美しく幻想的なアートワークを幾つか製作しています。(アートワークの作品の詳細については、アーティストの公式ホームページを御覧下さい)

 

『Imaginal Stage』は、オーガニック・アンビエント、サイケデリック・フォーク、ポスト・ミニマリズムを融合した画期的な作風であり、どことなくエキゾチックな雰囲気を漂わせている。

 

この電子音響作品のタイトルは、昆虫の最終段階である”イマーゴ”に因んでいるという。この作品では、妖精のような雰囲気が、プログレッシブなレイヤーとヒプノティックなループを通して、音のさなぎから姿を現す。このアルバムには、ハンマーダルシマー、アルトフルート、幽玄な声、レゾナンスボックス、伝統的なパーカッションが含まれ、様々な電子効果が変換されている。

 

各トラックは、Merle Bardenoirによるオリジナルアートワークで描かれています。アルバムの楽曲はBandcampにてご視聴/ご購入することが出来ます。 アートワークとともに下記より御覧下さい。

 

 

 

 

 

『Imaginal Stage』 Artwork

 

 

 Nils Frahm 「Music For Animals」

 



Labal: 
Leiter-Verlag

Release Date : 2022年9月23日



Official-order

 


 Review



ニルス・フラームの2022年の最新作「Muisic For Animals」 は、Covid-19の孤立の中で生み出された。彼がマネージャとともに立ち上げたドイツのレーベル"Leiter-Verlag"からの発売された。さらに、彼の妻、ニーナと共にスペインで二人三脚で制作されたスタジオ・アルバムです。

 

この作品について語る上で、ニルス・フラームは明瞭に、商業主義の音楽と距離を置いていると、The Line Of Best Fitのインタビューにおいて明言しています。フラームは、「マイケル・ジャクソン、デヴィット・ボウイ、ビリー・アイリッシュ、といったビックスターとは別の次元に存在する」と語る。それはまた、「自分がその一部だと思われたくありません、再生数ごとにより多くのお金を稼ぐために音楽の寿命を短くする人々です」「誰かが短い曲を作りたいと考えているなら、それは問題はありません。でも、それは私にとって真っ当な判断とは思えないのです」

 

「自分がその一部だと思われたくありません、再生数を稼ぐことや、多くのお金を稼ぐために音楽の寿命そのものを短くする」というフラームの言葉は、現今の商業主義の音楽が持て囃される現代音楽シーンに対する強いアンチテーゼともなっている。実際、再生時間が三時間にも及ぶ壮大な電子音楽の大作「Music For Animals」は、深奥な哲学的空間が綿密に作り上げられ、建築のように堅固な世界観が内包されている。一度聴いただけではその全容は把握しきれず、何度も聴くごとに別空間が目の前に立ち現れるかのような奥深い音楽とも言えるでしょうか。

 

 

これまで、 ニルス・フラームは、2000年代の「Wintermusik」の時代から、ドイツ、ポスト・クラシカル、そして2010年代に入り、第二期の「Screws」の時代に象徴されるコンセプチュアルなピアノ音楽、さらに、2010年代の中期、第三期のそれと対極に位置する前衛的なエレクトニカ/ダウンテンポの作風「All Melodies」、次いで、近年には、UKのPromsとの共演の過程で生み出された、電子音楽とオーケストラレーションとの劇的な融合性に果敢に挑戦した「Tripping with Nils Frah」というように、作品の発表ごとに作風を変えていき、片時もその場に留まることなく、前衛的な音楽性を提示していますが、この最新作「Music For Animals 」も同様に、フラームは既存の作品とは異なる音楽性に挑んでいます。


フラームは、このアルバム「Music For Animals」の発表時、作品中にゆったりとした空間を設けるサティの「家具の音楽」のようなコンセプトを掲げており、近年のポピュラーミュージックの脚色の多い、華美な音楽とは正反対の音楽を目指したと説明していました。プレスリリースにおける「木の葉のざわめきを見るのが好きな人も世の中にはいる」との言葉は、何より、このミュージック・フォー・アニマルズ」の作風を解釈する上で最も理にかなった説明ともなっている。ここでは、木の葉が風に吹き流される際の情景が刻々と移ろいゆく様子が、いわばサウンドスケープのような形を通して描かれていると解釈出来るわけです。

 

近年のエレクトロ/ダウンテンポの作風に比べると、アンビエントに近い音楽性がこの作品には感じられますが、実際の作品を聴けば、アンビエント寄りの作風でありながら、それだけに留まる作品ではないことが理解していただけるだろうと思います。アルバムの収録曲は、シンセサイザーのシークエンスをトラックメイクの基点に置き、バリエーションの手法を用いながら、 徐々にそのサウンドスケープが音楽に合わせて、スライドショーのような形で刻々と変化していくのです。

 

ニルス・フラームのエレクトロニカ寄りの作風として、既存作品の中においては、「All Ecores」/「Ancores 3」に収録されている「All Armed」のような楽曲が、最も前衛的であり、最高傑作とも呼べるものですが、それらの即効性のある電子音楽とは別のアプローチをフラームはこの作品で選択したように感じられます。例えば、その音楽そのものの印象は異なるものの、クラフト・ヴェルクの「Autobahn」の表題曲の系譜にある、音楽としてストーリーテリングをする感慨がこのアルバムの全編に漂い、音楽として1つの流れのようなものが各々の楽曲には通底している。それは喩えるなら、フランスの印象派の絵画のように抽象的でありながら、フォービズム/キュピズムのように象徴的でもある。さらに言えば、今作の音楽の流れの中に身を委ねていますと、表面上の音楽の深遠に、表向きの表情とは異なる異質な概念的な音楽の姿が立ち現れてくる。それはピクチャレスクな興趣を兼ね備えているとも言えるでしょう。

 

現代のヨーロッパのミュージックシーンにおいて、既に大きな知名度を獲得しているフラームではありますが、彼は、この作品で、手軽な名声を獲得することを避け、純性音楽の高みに上り詰めようと苦心している。さらに、フラームは短絡的に売れる音楽をインスタントに作るのではなく、洗練された手作りの工芸品のような形を選び、三時間に及ぶ大作を丹念に完成させました。そのことは、商業主義の音楽ばかりが偏重される現代音楽シーンにおいて、また資本主義経済が最重視されるこの世界で、きわめて重要な意義を持つと断言出来ます。

 

 

 

82/100

 

 

Featured Track  「Seagull Scene」

 

 



米国・ポートランドを拠点に活動するアンビエント・プロデューサー、Elijah Knutsen(イライジャ・クヌートセン)が本日、8月15日、ニューアルバム『Maybe Someday』をリリースしました。良質なアンビエント作品ですので、ぜひチェックしてみて下さい。

 

このフルレングスアルバムは、アンビエント・ドローンを基調とした作風でありながら、ドリーム・ポップ、環境音楽、スロウコア等、このアーティストのバックグランドを伺わせる多彩な要素によって構成されています。

 

この最新フルレングス・アルバム「Maybe Someday』は、孤独、憧れ、寂しさ、人生を無駄にすることへの恐れ、夢が叶うことへの憧れなどのコンセプトを探求した、非現実的な作品である。トラックは、北日本の暗く雪深い風景、特に青森のコンクリートで覆われた都市を中心に、テーマ別に構成されています。願いが叶うようにと人々が祈る神社、単調な都会の風景、暗い海底トンネルなどのフィールドレコーディングがアルバム全体に重ねられている。



願いが叶うようにと祈る神社の音声が、どこまでも続く洞窟のようなドローンとともに循環するトラック "All Wish Is Gone Away "を収録。親しみやすい環境音楽のジングルと、まばらなシンセサイザーの音が、より希望に満ちた印象を与える "Dreamless"。そして、"Burn Away "では、祈りの鐘の音と、夏の蝉の鳴き声が重なり、自然界の音が消え、アルバムが始まるのです。


The Cure、Robin Guthrie、Hiroshi Yoshimura、Hurold Buddなどのアーティストやグループから音やテーマについてインスパイアされている。Elijah Knutsenは製作中に「The Cureの音楽に強い感銘を受けた」と述べています。まだ確定ではありませんが、Elijah Kutsenは来年、来日ツアーを予定しており、レーベル側と話し合いをかさねているようです。

 

アルバムの収録楽曲の視聴は以下より、トラックリストとアートワークは下記にてご覧下さい。アルバムの購入はこちらから。

 

 

 

 

 

 

 

Elijah Knutsen 『Maybe Someday』




Label:  Memory Color

Release: 2022年 8月15日

 

 

Tracklist

 

1.Burn Away

2.Lonely Aomori

3.Seikan Undersea Tunnel

4.Dreamless

5.All I Wish Is Gone Away

6.Arctic Dreams

7.Kabushima Shrine Sound

8.Mayne Someday



Memory Color Official HP: https://memorycolor.jp/


 


Weekly Recommended

 

Rafael Anton Irisarri  『Agitas Al Sol』



 Label:  Room 40

 Release:2022年7月22日  


Listen/Stream



ー脱構築主義の極北に位置する異端のアンビエントミュージックー



ラファエル・アントン・イリサリは、現在、ニューヨークを拠点とする電子音楽のプロデューサーです。

 

所謂、アンビエントのジャンルに属する電子音楽プロデューサーで、イリサリの描くサウンドスケープはドローンの領域に位置づけられる。そして、米国内のアンビエントシーンで最初にドローンを導入した先駆的なクリエイターのひとり。最初期には、ピアノを導入したロマンチックな雰囲気を擁するアンビエントを主作風としていましたが、2015年の代表作『A Fragile Geography」から作風が次第に前衛化していき、抽象的な電子音楽の領域へと踏み入れていきました。

 

昨日、リリースされたばかりの最新作『Angitas Al Sol』についても、その方向性は変わりがありません。以前、この作曲家の音楽を評するに際して「深く茫漠とした霧の中を孤独に歩くかのよう」という比喩を使ったことがありますが、最新作ではそのニュアンスがより一層強化されて無限に近づいた印象を受けます。そして、プレスリリースでアントン・ラファエル・イリサリ自身が語るように、この作品は、まるで有機物であるかのように「深く深く息をしている」。


この最新アルバムは、『Atrial』、『Cloak』という2つの組曲から構成されており、少ない曲数ですが、二枚組のLP作品です。近い作風を挙げると、例えば、カナダのTim Hecker、カナダのRoscilや日本の畠山地平の志向するようなアブストラクトなドローンミュージックが展開される。

 

アントン・ラファエル・イリサリの生み出す音響空間は、ティム・ヘッカーのようにアンビエントの既成概念に反逆を示す。お世辞にも人好きのするものとは言えませんし、アブストラクトミュージックの表現の極地が見いだされる。言い換えれば、ここにあるのは、ビートもなく、メロディーもなく、小節というのも存在しない、ブラックホールのような空間であり、明らかに脱構築的主義やポストモダニズムを志向する音楽です。それらの前衛的な要素は、上記した二者のアンビエントプロデューサーよりもさらに先鋭的な概念が込められているように伺えます。

 

近年のアンビエントのプロデューサーでは、壮大な宇宙、美しい自然などを表現しようとする一派、それに反する機械的な表現を試みる一派が多数を占めていると思えますが、(もろろん、その他にも様々表現がありますが・・・)米国の電子音楽家、ラファエル・アントン・イリサリはそのどちらにも属さない、孤絶した表現性を徹底的に追求する芸術家であるように思えます。彼の音楽は常にジャンルに背を向け、カテゴライズ化されるのを忌避しているように思える。それはまたこの音楽家が作り手として、こういうジャンルの音楽を作ろうと意図すること、カテゴライズの概念を設けることがクリエイティビティを阻害することを知っているからなのかもしれません。

 

今作で、アントン・ラファエル・イリサリが探求するアンビエントの世界は、ノイズミュージックに近いものです。どちらかといえば、日本のMerzbawに近いアバンギャルドノイズの極地に見いだされる抽象主義の音楽でもある。つまり、アンビエントドローンの一つの要素のノイズ性を徹底的に打ち出したのが『Angitas Al Sol』なのであり、現今の前衛音楽の中でもひときわ強い異彩を放っている。そして、本作に見いだされる抽象主義の表現性は、絵画で言えば、ターナーの後期のような孤高の境地に達しており、売れるとか売れないであるとか、音楽や芸術がそういった単眼的な観点のみで評価されることに拒絶を示した作品と呼べるかもしれません。

 

『Agitas Al Sol』は、これまでのイリサリのどの作品よりもはるかに前衛的かつノイズ性が引き出された作風で、ポピュリズムとは対極に位置する芸術音楽の表現がこのアルバムには見いだされます。表向きには、人好きのしない音楽であり、さらに、いくらか不愛想な印象を持つ作品でありながら、耳を凝らすと、このアーティストの最初期からの特徴のひとつ、暗澹たるロマンチズムが先鋭的なノイズミュージックの向こう側に見いだされることにお気づきになるかもしれません。シンセサイザーのパンフルートの音色が抽象的なシークエンスの向こうに微かに広がり、それが淡い感傷性により彩られている。このひとつの壁を来れれば、この音楽の表面的な持つ印象が反転し、無機質な性格ではなく、温もりに溢れた表現を見出すことが出来る。

 

多分、音楽を評価する上、また、クリエイティヴなものを生み出す際にも一番の弊害となりえる「二元論の壁」のような概念を越えられるかどうかが、 このアルバムの本領をより深く理解するための重要なポイント。私たちは、(私も含めて)常に何らかのフィルターを通して物事を見るのが習慣となっている。しかし、それまでの人生の間で培われた考えを、今までに定着した価値観や規定概念という小さな枠組みから開放し、以前の古びた考えをアップデートさせ、その他にも多くの考えが無数に存在するということ、自らの思念は部分的概念に過ぎないということを、アントン・ラファエル・イリサリは『Agitas Al Sol』において教唆してくれるのです。


つまり、音楽を聴く時の最大の救いとは何かといえば、音楽を通じて、単純な良し悪しの価値観から心を開放させるあげることに尽きるだろうと思えます。世の中には、そういった二元論ばかりが渦巻いているように思えますが、 『Agitas Al Sol』のような真の芸術は、そういった呪縛から心を解放させる力を持っている。さらに、個人としての意見を述べるなら、このアルバムは、Tim Heckerの2011年の傑作『Ravedeath 1972」に比類するハイレベルなもので、真の意味で「実りある音楽」として楽しんでいただけるはず。そして、不思議なことに、商業的な路線と対極にある音楽を求める人は一定数いるらしく、bandcampでは、リミテッドエディションがソールドアウトとなっている。そういった本物の音楽を愛する人向けの作品と言えるかもしれません。



Rating:

85/100

 

 

 Weekend Featured Track「Atrial-2」



 

 

ベルギー・ブリュッセルを拠点とするアンビエント音楽家、クリスティーナ・ヴァンツォが複数のアーティストとのコラボレーションを行った新作アルバム「Christina Vanzou,Michael Harrison and John Also Benett」を9月2日にリリースすると発表しました。また、この新作アルバムの告知に伴い、アルバムに収録される「Harp of yaman」がシングルとしてデジタル配信されています。

 

次回作は、マイケル・ハリソン、ジョン・アルソ・ベネットが、ジャスト・イントネーション・チューニング、深いリスニング、共鳴する空間への傾倒を中心に、豊饒なコラボレーションから生まれた、ラーガからインスピレーションを得た作曲と即興の組曲となります。 


マイケル・ハリソンは作曲家、ピアニストであり、ジャスト・イントネーションと北インド古典音楽の熱心な実践者である。ラ・モンテ・ヤングの弟子であり、「ウェル・チューンド・ピアノ」時代にはピアノ調律師、パンディット・プラン・ナートの弟子として活躍し、その後は独自の調律システムを開発しています。

 

各作品の構造的な枠組みを提供し、セッションを指揮したクリスティーナ・ヴァンツォとの会話に導かれ、ハリソンが毎日行っているラーガの練習から、その古代の形式を出発点として作曲が花開き、変容していきました。また、John Also Bennettが演奏するモジュラーシンセサイザーの響きをバックに、ハリソンのカスタムチューニングされたスタインウェイのコンサートグランドで演奏されるピアノの即興演奏が、セッションを真の集団的プラクティスへと発展させた。 


インド・ニューデリーを拠点に活動するコンセプチュアル・アーティストで、このアルバムのために素晴らしいアートワークを提供したパルル・グプタは、「曲は沈黙の延長のように感じられる」と述べています。

 

ピアノから発せられる音は、計測された瞑想的な音場の中に浮かび上がり、共鳴し、そして溶けていく。すべての音が生き、呼吸し、最終的に沈黙に戻る、集中したリスニング体験を可能にする。これらの聴覚生態系には、集団的な聴取と即興演奏の経験から生まれる可能性と、何世紀にもわたって西洋音楽を支配してきた標準的な等調性チューニングシステムに対する反証が含まれています。


本作は、2019年に行われたトリオのベルリン・セッションの青々とした録音を45回転レコードの2枚組に収め、曲目クレジットとアルバムで使用されたハリソンの手書きのチューニング・チャートを掲載したリサグラフ印刷のインサートが付属しています。


"観察者 "と "ピアニスト "と "シンセサイザー "が三角形を形成している。観察者(クリスティーナ)は目撃者でありガイドであり、ピアニスト(マイケル)は正確で直感的であり、シンセシスト(ジョン)は共鳴を高めフレームワークをサポートするドローンの味付けを提供します。ピアノは、共鳴体となるよう慎重に準備されている。

 

この強化は、マイケルの作品「黙示録」と北インド古典音楽(ラーガ)に基づく、マイケルの2つのジャスト・イントネーションの調律によって達成された。これらのチューニングは、数学的に正確な音程を維持するものです。

 

今作収録の楽曲では、声の代わりにシタールやタブラがピアノになり、タンプーラの代わりにシンセサイザーが使われます。ラーガを演奏することは、構造化された即興演奏の古代の実践である。時間、知識、記憶が練習者の身体と心の中で交錯し、これがラーガの練習の大きな部分を占めている。ラーガは、筋肉の記憶や個人の美学と結びついて、結果を個性化する。トリオを組むことで、複数の視点と時間軸が崩れ、ラーガは再び変異する。これらの紆余曲折は、ラーガが私たちの集合的な記憶の中にすでに複数の作曲が保存されていることを示すように、それ自体に回帰するように見えるだけだ。それらは、自然のように花開き、変形し、湧き出る。


これらの録音を実行するために書き留められたものは何もない。最もシンプルな形式を、最も複雑でない方法で探求した。このプロセスの最初の反映は、リスナーの心と体の中で起こるものです。観察者は常に観察している。音の領域は記憶と想像力を叩き込み、ラーガの音そのものがプリズムのような出来事となる。

 


--Christina Vanzouー

 

「Harp Of Yaman」






Christina Vanzou 「Christina Vanzou,Michael Harrison and John Also Benett」

 

 

 

Label: Séance Centre

 

Release: 2022年9月2日



Tracklist

 

1.Open Delay

2.Tilang

3.Joanna

4.  Piano on Tape

5. Sirens

6. Open Delay 2

7. Harpof Yaman

8. Bageshri

 


pre-order on bandcamp:  


https://vantzou-harrison-bennett.bandcamp.com/releases


オレゴン州ポートランドを拠点に活動を行うアンビエント&エクスペリメンタルプロデューサー、Elijah Knutsen(イライジャ・クヌートセン)は、8月1日にニューアルバムのリリースを発表しました。この告知に併せて、クヌートセンは、5月21日に最初の(二曲収録の)シングル「Lonely Aomori」を公開しました。

 


 

シングル「Lonely Aomori」は、まばらでメランコリックなコード、不規則なフィールドレコーディング、テクスチャドローンで満たされた2つの長いフォームトラックで構成されています。これは、80年代と90年代の、日本のニューエイジ/アンビエントムーブメントに触発されたアンビエントリリースです。

 

またこのシングルは、フィールドレコーディングと環境ノイズの間でねじれる層状のきらめくコードで構成された、長く曲がりくねったドローン。瞬間的なフィールドレコーディングと無限のドローンを使用し、トラックは、世界で最も雪の多い都市の1つである日本の青森市の昼と夜にリスナーに誘います。 

 

さらに、二曲目に収録される「Seikan Undersea Tunnel」は、キネティックで曇ったテクスチャーとして始まり、逆にされた青々とした音のフィールドと、虹色のシンバルと水の音を組み合わせています。

 

トラックは、すぐにブレイクされ、以前のテクスチャよりもメランコリックな感じを帯びたまばらなコードが導入され、交通の音と誤った旅行が和音と融合し始めます。トラックはすぐさまノイズのクライマックスに達し、トンネルが浸水したかのように、波が押し寄せる音で終わります。(”青函トンネル”は、本州と北海道の島々を結ぶ海底トンネルであり、世界最長の海底トンネルです) 

 

このシングルに収録されている二曲は、ドローンの王道を行く楽曲であるとともに、繊細なフィールドレコーディングが取り入れられ、美しい視覚性を兼ね備えています。日本の穏やかで繊細な風景を目の前に浮かび上がらせるかのようなアンビエントのアプローチが行われています。「青函トンネル」がモチーフとして取り入れられていることもあり、アメリカのアンビエントファンはもちろんのこと、日本のアンビエントファンもチェックしておきたい素晴らしい作品です。

 

 

 

Elijah Knutsenのニューアルバム「Maybe Someday」は、2022年8月1日にリリースされる予定です。

 

追記:Elijah Knutsenさんへ、日本語でわざわざリリース情報を送っていただきまして、本当にありがとうございました。以上、新作アルバム、及び、先行シングルのリリース情報を掲載致します。また、最初の掲載において、スペルミスをしてしまいましたこと、御本人に深くお詫び申し上げます。


 Lucy Liyou 「Welfare/Practice」

 


Label: American Dreams

Release Date: 2022年5月20日



Listen/Stream



ーーパンソリ、移民の記憶、感情の記録ーー


 

 "私は特定の出来事や思い出よりも、感情を記録しようとしている。つまり...私の音楽は結局のところ、それに尽きる。


 

アメリカ/フィラデルフィアを拠点に活動する実験音楽家、Lucy Liyouは、前作の姉妹アルバム「Welfare/Practice」を今週末に発表しています。このアルバムで、ルーシー・リヨーは、韓国系アメリカ人の血筋を受け継ぎ、幼少期の思い出を元に、パンソリ(韓国民俗オペラ)や韓国ドラマのサウンドトラックからインスピレーションを受け、声、フィールドレコーディング、ミーム、Tumblr、YouTubeビデオからのオーディオ・サンプル、シンセサイザー、そして、アコースティック・ピアノによるTTS(テキスト・トゥ・スピーチ)のコラージュにより、独自の複雑な物語を作り上げていく。


「Welfare/Practice 」の作曲は、2019年末に始まり、ルーシー・リヨーは彼らの祖父が演奏していたパンソリの録音に触発されたアルバムを書こうとしました。音楽を通してのストーリーテリングとは何か、声だけでどれだけパワフルで世界を構築できるかを考えさせられました」と、リヨーは言う。「それを”TTS”でやってみようと思ったんです」


リヨーの新作は、電子音楽、ピアノ、オルゴールといった新旧の楽器、語りといった多次元的な要素をまじえ、それを一つらなりのスターリングテリングのような方式で展開していく。しかし、この作品にはそういった皮層に鳴り響いている音楽の中に、その裏側にはかなり奥深い意味が内在しています。


ルーシー・リヨーは、この作品を生み出すにあたって、韓国の民族楽器「パンソリ」の研究を行っています。パンソリは、18世紀に生まれ、一人の歌い手に合わせて鼓手が太鼓を叩くという形式の韓国の民族音楽です。アメリカの移民の家庭に生まれたリヨーは、祖父の時代、そのまたおうこの世代の暮らしにごくごく当たり前のように存在していた、その「パンソリ」にまつわる記憶を呼び覚ますため、はてないようにおもえる記憶の旅を企てる。それは基本的に、現代的な電子音楽やピアノをモチーフとし、往古の韓国で歌われていたかもしれないモノローグ方式のストーリーテリングという形を交えてくりひろげられていくのです。


リヨーの新作「Welfare/Practice」は、綿密な技法、サンプリング、フィールドレコーディング、そして、自身の声の録音という複数のマテリアルを多次元的にくみあわせることにより、シネマティックな視覚性をよびさまそうというものです。それは、この音楽家が音楽を感情表現と考えている証とも言えるのかもしれない。リヨーは、繊細で叙情性あふれる生きた音楽を通し、民族の感情の記憶をたどります。それらは、彼が生きる人生において直に聞いたかどうか定かではないものの、先祖たちが聴いたもの、接したものが、触れたものが、その際に生じた内的感覚が彼の遺伝子にしみついているのかもしれません。それは、ときには、喜んだ経験でもあり、傷ついた経験でもあり、また、楽しんだ経験でもある。その他、様々な先祖が体験したであろう感情を、リヨーはこのレコードで再現しようと試みる。それはすべての移民の心に共鳴する何かが込められ、韓民族にそれほどゆかりのない人の魂を捉えるものがあるはずです。


モダンで実験的な作風でありながら、リヨーは、ーーパンソリーーそれにまつわる祖国の民衆の暮らしというテーマを通して韓民族の深い感情の記憶をこのアルバムでたどり、歴史の錯綜により複雑化した定からなぬ謎を解きほぐしていこうと試みていきます。それは、アルバムジャケットにあらわされているように、バラバラに散らばったパズルをかき集めるような途方も無い企て。彼自身が人生において実際に見たのかどうかさえ定かではない、遠い時代を生きたリヨーの祖先のアメリカへの移民としてのおぼろげな記憶にはじまり、それよりもさらに古い、それよりももっと古い、韓民族としての原初の記憶に定着した日常的な暮らしに至るまで、ルーシー・リヨーは、自分自身のルーツをひたむきに追い求めていきます。真摯さのようなものが宿ることによって、このアルバムは表向きの静けさとは裏腹に強い芯のようなものが通い、圧倒的なパワーが与えられる。時に、サンプリングによって重層的に組合わせるアコースティックとエレクトリックの両側面の性格が絶妙に引き出された生き生きとしたサウンドは、さながら生きた有機物のように蠢き、純粋な美麗さを持って、稀に、強い痛みのようなものを伴って胸にグッと迫ってくる。また、それは何らかの癒しや共鳴のような気分を私たちに与えてくれます。


本来、感情表現をするのには、文章や詩が一番最適かと思われますが、それは人によって様々のようです。ある人にとってはそれは文章や絵であり、写真であり、ある人にとっては演劇であるもの、それはリヨーにとって、レコードという音楽の形式だったのであり、さらには、アルバムの中に内在するモノローグや対話をおりなしてくりひろげられていく、ささやかでありながら壮大な物語でもあったのです。ルーシー・リヨーの紡ぎ出す精神的に凛としたはかなさを持つ音楽は、多種多様な実験的な試みを介して、民族の歴史や源泉を遡行しながらたどっていく。果たして、それはあらかじめ何らかのかたちで約束されていたものであったのだろうか・・・。このレコードーーひとつの記録は、様々なルーツを持つ人に静かな共鳴を与え、感情のもつ現実的な側面を提示し、奥深い情感を与え、さらに、人間の感情というものがどれほど多彩であるのかを教えさとしてくれる。様々な記憶の感情を丹念に辿るリヨーの音楽を通しての試みは、せつなげな情感を滲ませています。



Weekend Featured Track 


Lucy Liyou 「Unnie」



 

シカゴに本拠を置く実験音楽専門のレーベル”American Dream”は、最初のコンピレーション・アルバム「The Deep Drift You Will Find the Most Serene Of Lullabies」をリリースしました。

 

ジョーダン・レイエスとデヴィン・シェファーによって企画されたこのコンピレーションアルバムは、クリア・ルーセイ、エミリー・ハーパー・スコット、パトリック・シロイシ、キャメロン・ノウラーといったアーティストの楽曲を収録しています。

 

過去一年間、American Dreamは、ソフトな実験音楽/電子音楽に焦点を絞った2021年のクレア・ルサイのLP盤を含む一連のリリースを発表しています。レーベルは他にも、マーサ・スカイ・ マーフィーとマックスウェル・スターウィング、キャメロン・ノウラーとイーライ・ウィンターのコラボレーション作品、パトリック・シロイシの「Hidemi」、ロス・ジェントリーの「Apparitional」、デヴィン・シャーファーの「In My Dreams I I’m There」などもリリースしています。

 


Grouper

 

ザ・レイト・ニュースとなり大変恐縮ではありますが、アンビエント/エクスペリメンタル・フォークシーンで強い存在感を放つ、アメリカ・ポートランドのGrouper(リズ・ハリス)のゴシック風の魅力を持つアルバム「Ruins」が、今年4月15日に新たにCD/LP盤として再編集されリリースされました。

 

オリジナル・アルバムは、アメリカの電子音楽の名門レーベル”kranky”から2014年10月31日にリリースされ、今回、同レーベルからレコード盤としてリプレスが行われました。この作品は、リズ・ハリスが、ポルトガル滞在中に、ポータブル4トラック、ソニー製のステレオマイク、ピアノといった必要最低限の機材でレコーディングが行われています。二曲目に収録されている「clearing」を始め、リズ・ハリスがピアノの弾き語りをし、静かで神秘的な雰囲気が引き出されています。音楽家だけでなく画家としての表情を併せ持つハリスの独特でせつない音響世界が体感出来、暗鬱な淡いエモーションが滲むアルバムです。

 

リズ・ハリスは、幼い時代から、宗教的なコミュニティーの中で育ち、コーカサスの神秘思想家であるゲオルギイ・グルジエフから強い影響を受けています。神秘主義者としての概念から引き出される独特なアンビエント空間は、他のアーティストの電子音楽/エクスペリメンタルフォークに比べ強い異彩を放つ。CD/レコード盤として再編集された「Ruins」に改めて注目したいところです。

 

リズ・ハリスは、この作品について、「このアルバムは一種のドキュメントです。・・・失敗した構造でもあります。録音したものに一切加工を施さず、そのままにしておくことにしました」と説明しています。

 

 

 

Grouper 「Ruins」(2022 Repress)

 

 



Label: Kranky

 
Catalogue: KRANK189

 
Format: CD & LP

 
Release Date: 15th April 2022

 

 

Tracklist

 

1.Made Of Metal

2.Clearing

3.Call Across Rooms

4. Labyrinth

5.Lighthouse

6.Holofermes

7.Holding

8.Made of Air


 



・Drift

 

https://driftrecords.com/products/grouper-ruins?variant=943141157



 
 
英国・ロンドンを拠点に活動するアンビエントアーティストで、英国とジャマイカというに国にルーツを持ち、”Speciments”という名を冠して活動するアレックス・アイヴスは、「Intersections」のリリースを発表しました。さらに、新作アルバムの発表に合わせて先行シングル「Daybreak」が公開されています。

 

アレックス・アイヴスは、今度の新作において、芸術的なコラボレーションの本質を探求しています。平野みどり、ピーター・ブロデリック、ベノワ・ピウラード、エミリー・レヴィエネーズ・ファローチらの協力を得て、新しいアルバム「Ambient Campus」を完成させました。


「私は、他の人々との人生を通して、私達が持つすべての素晴らしい小さな交流に対するある種の頌歌としてアルバムの曲を書いて見たかったのです」と、アレックス・アイヴスは「標本」という新作について説明しています。  

 



 

 

Specimens 「Intersenctions」




 

Release:5/20 2022



Tracklisting

 

1.The Lighthouse(feat,Midori Hirano)

2.Marble Bones(feat.Benoit Pioulard)

3.The Illusion of eternal Bliss(feat.Emilie Levienaise-Farrouch)

4.Human Pillar(fear.Benoit Pioulard)

5.Shipwreck(fear.Midori Hirano)

6.Daybreak(fear.Peter Broderick)




・Patricia Wolf 

 

「I'm Looking For You In Others」

 



パトリシア・ウルフは、純粋な電子音楽家というより、シンガーソングライターとして知られるイギリス・サウスロンドンのミュージシャンです。一般的な楽器として、ウクレレ、ピアノ、ビオラを演奏しますが、電子音楽のサンプリングとクラシックを融合した独特な作風を擁するアーティストです。

 

最新アルバムにおいて、パトリシア・ウルフは、モダンアンビエントの領域を開拓しています。タイトル「あなたの中に他者を探す」という哲学的な主題が掲げられており、清涼感のあるアンビエントから暗鬱なサウンドまで、このアーティストの内面世界が電子音楽、シンセサイザーのシークエンスによって多彩に展開されていく。聞きやすいアンビエント作品としておすすめです。



 

・Suso Suiz 

 

「Just Before Silence」

 



スペイン・カディスのミニマル/アンビエントミュージシャンのSuso Suiz(スーソ・サイス)の大御所の最新作は、アンビエントの名盤として挙げても差し支えないかもしれません。クラシックという分野を、ボーカル芸術、電子音楽の切り口から開拓してみせた斬新な雰囲気を持つ作品です。

 

アンビエント音楽として抽象的な作風ではあるものの、背後に展開されるシンセサイザーのシークセンスは独特な和音を有している。奥行きを感じさせるアンビエントは、時に宇宙的な広がりを持ち、霊的な雰囲気も持ち合わせています。今年65歳になる電子音楽家が挑んだヴォーカル芸術と電子音楽の融合の極限。問答無用の大傑作です。 

 


・Alejandro Morse 

 

「Adversalial Policies」

 

 


 

アレジャンドロ・モースは、メキシコを活動拠点とするドローンアンビエント・アーティストです。

 

アレジャンドロ・モースは、昨今の平板なアンビエントとは異なり、迫力のあるアンビエントを生み出す演奏家です。表現性については、アブストラクトな色合いを持つものの、独特な低音の響きがこの作品の世界観をミステリアスなものとしています。低音域の出音、それに対比的に組み込まれる高音域のシンセサイザーのフレーズが何か聞き手に高らかな祝福のような感慨を授けてくれる作品。自然を感じさせるような楽曲から、時にはインダストリアルな雰囲気を持つ楽曲にいたるまで、幅広いアンビエントの表現がこの作品では探求されています。

 

 

 

・Messeage to Bears(Worridaboustsatan Rework)

 

「Folding Leaves」

 



Messeage to Bearsの最新作「Folding Leaves」は、荘厳なゴシック建築のような趣を持つピアノとシンセサイザーを融合した既存のアンビエントから見ると、画期的な作風です。このアルバムのオープニングを飾る「Daylight Goodbye」は、ピアノの旋律を活かすのではなく、ピアノやアコースティックギターを音響的に解釈し、それを空間的な広がりとして表現しているのが見事です。

さらにそこに、電子音楽家メッセージ・トゥ・ベアーズは、ブリストルサウンドというべきか、ブリストルのクールなダンスミュージックのグルーブ感を加味しています。また、純粋なアンビエントトラックの他にも、テクノ寄りのアプローチがあったり、さらに、フォーク寄りのサウンドを持つ秀逸なボーカルトラックがあったり、かなり幅広い柔軟な音楽性が味わえる作品です。                
 
 

 

 

・Francis Harris 

 

「Thresholds」



 

NY、ブルックリンを拠点に活動する電子音楽家、フランシス・ハリスの最新アルバム「Thresholds」は、アバンギャルドの雰囲気も持ちつつ、多種多様な電子音楽が展開されています。

 

時に、会話のサンプリングが取り入れられたり、ピアノのフレーズがアレンジに取り入れられたり、さらには、グリッチノイズをリズム代わりに表側に押し出したりと、Caribouのような実験的あるいは数学的な試みが行われています。また、ヴォーカルをダブ的に解釈を行った楽曲もあり。そういった電子音楽寄りの楽曲の合間を縫って、緩やかで穏やかな雰囲気を持つアンビエントが作品全体の強度を持ち上げています。暗鬱でぼんやりとしたドローンアンビエント、それと対比的な色合いを持つモダンテクノの風味が掛け合わされた特異な作品です。 

 

 

 

・Pan American 

 

「The Patience Fader」




Pan−Americanの他にも、ギターアンビエントに旧来から取り組んでいるアーティストとしては、坂本龍一ともコラボレーションを行っているオーストリアのFenneszが挙げられますが、パン・アメリカンの新作は、クリスティアン・フェネスほどは、実験音楽、電子音楽の色合いは薄く、心休まるような雰囲気を持っています。


この最新作におけるパン・アメリカンのエレクトリック・ギターの演奏は、スティール・ギター、ウクレレのような純朴さ、穏やかさがあり、それをこのアーティストは温かなフレージングによって紡がれてゆく。ギターによって語りかけるような情感が込められ、南国のリゾート地にやってきたような開放感にあふれる極上の作品です。 

 

 

 

・Andrew Tasselmyer


「Limits」

 

 

現行ドローンアンビエント音楽の中でも屈指の人気を誇るメリーランド州ボルチモア出身のアンドリュー・タセルマイヤーは、アンビエントだけではなくポスト・クラシカルの領域でも活躍する音楽家です。

 

このアルバムにおいて、アンドリュー・タセルマイヤーは、ロスシルや畠山地平に近いアプローチを図り、風の揺らぎのようなニュアンスをシンセサイザーのシークエンスにより探求しています。さらに、トラック全体に深いディレイエフェクトを施すことにより、プリペイドピアノのとうな音色を作ったりと、実験音楽の要素も多分に取り入れられています。作品全体には、機械的な作風であるのにも関わらず、大自然の中で呼吸するかのような安らぎが込められています。 

 

 

 

・Recent Arts、Tobias Freund&Valentina Berthelon

 

 「Hypertext」 

 


 

2022年現時点までにリリースされたアンビエント作品の中で、スペインの大御所・スーソ・サイスの「Just Before Silence」と共に注目すべき作品として挙げられるのが、Recents Artsを中心に、三者の電子音楽家がコラボレーションを行った「Hypertext」です。アルバムでは、アンビエントの先のあるSFに近い作風が取り入れられており、「SF-Ambient」とも称するべき前衛的なサウンドアプローチが生み出されています。

 

その他にも多彩な表現性が込められており、グリッチテクノに近いアプローチがあったかと思えば、モダンアヴァンギャルドの領域に踏み入れていく場合もあり、ヒップホップのサンプリングに近い雰囲気も取り入れられています。もしかすると、今後、こういった近未来を象徴するような斬新なSFアンビエントサウンドが数多く生み出されていくのではないか、そんなふうに期待させてくれる作品です。お世辞にも、聴きやすいアンビエント音楽とはいえないものの、今年までは存在しなかった音楽性が提示された、前衛的な電子音楽として、最後に挙げておきます。

 

*Ambient Music Selection 2022 2nd Halfはもし余裕があったらやります。あまり期待せずお待ち下さい。 

 

Loscil

 

ロスシルは、カナダ・バンクーバーを拠点に活動するスコット・モルガンのエレクトロリック/アンビエントのソロプロジェクト。

 

モーガンは1998年にバンクーバーでこのプロジェクトを立ち上げ、ブランディングライトと呼ばれるアンダーグランドシネマで視聴覚イベントを開催している。ロスシルと言う名は、「ループオシレーター」を指す関数(loscil)に由来する。

 

既にアンビエントアーティストとしては確固たる地位を獲得している。これまでオリジナル制作の他にも、坂本龍一、ムスコフ/ヴァネッサ・ワグナー、サラ・ノイフェルド、bvdub、レイチェル・グリムス、ケリー・ワイスといった幅広いジャンルのアーティストの作品に参加している。

 

 

 

「The Sails,Pt.1 」 Scott Morgan


 

 

Tracklisting

 

1.Upstream

2.Fiction

3.Twenty-One

4.Wells

5.Still

6.Trap

7.Cobalt

8.Container

9.Wolf Wind

 


・「The Sails, Pt.1」


Listen/Buy

 

 

スコット・モルガンは、自身の音楽性について、「ループの要素は、私の楽曲制作の重要な部分です。電子的に作曲を行う際、ループの要素を元に素材を追加したり、フィルタリング、編集を行なって余計な音を削り、耳に心地よい音へと到達できるように努めています」と語っています。

 

つまり、モルガンは、ミニマル派の技法を電子音楽という側面から解釈し音楽を提示してきているわけです。彼はこれまで、上記のような短いフレーズをループさせ、シンセサイザーのオシレーター処理を行うことにより、アンビエントとも電子音楽ともつかない穏やかで心地よいサウンドを生み出してきています。


しかし、今回リリースされた「The Sails,Pt.1」については、以前までの作風を受け継ぎながら、そこに独特なエレクロの要素が含まれており、ロスシルの既存の作風を知るリスナーに意外な印象もたらす作品です。

 

これまでの抽象的、いわゆるアブストラクトな音作りは、今作において反対に具象性を増しており、旋律の流れ、あるいは、リズム性という面で、旧来のアルバムに比べると、いくらかつかみやすい印象を受ける作品です。これまで、ロスシルの音楽が抽象的で理解しづらかった方にとっては、「The Sails,Pt.1」は最適なアルバムといえるかもしれません。しかし、だからといって、このアーティストらしい思索性が失われたというのではありません。この作品で繰り広げられるのは、絵画的な音の世界、奥行きのある音響空間であり、叙情的なアンビエンスが取り入れられていることに変わりはありません。

 

もちろん、表向きには、これまでと同じようにアンビエントの王道を行く音作りも行われていますが、今作におけるモルガンの音楽性には、今回、新たに、シュトックハウゼンのクラスターの要素を取り入れているのが革新的です。スコット・モルガンは「The Sails, pt.1」において、アンビエントとハウス、テクノのクロスオーバーに挑み、これまでのリズム性の希薄な作風と異なり、リズム、フレーズの旋律、ループ、これらの要素を立体的に組みわせて、エレクトロ、ハウス、テクノ、こういったダンスミュージックの核心に迫ろうとしています。

 

実際的な音楽というより、強固な概念にも似た何かがこの音楽には込められており、それは何か力強い光を放っている。これはスコット・モルガンの以前までの作品にあまり見受けられなかったなかった要素です。もちろん、そこまた、ロスシルらしい清涼感、叙情性、壮大な自然を思わせるような麗しさも多分に込められています。今作「The Sails」シリーズは「Pt.2」が今後制作される予定です。これからの続編の到着も、アンビエント、エレクトロファンとしては、心待ちにしていきたいところでしょう。

 


・Apple Music Link

Album of the year  2021 

 

ーAmbientー



 

・Christina Vanzou /Lieven Martens  

 

「Serrisme」 Edicoes CN

 

 

Christina Vanzou /Lieven Martens  「Serrisme」  

Serrisme  


 

Stars Of The Ridの活動で知られるアダム・ウィットツィーとの共同プロジェクト、The Dead Texanとして音楽家のキャリアを開始したベルギーを拠点に活動するクリスティーナ・ヴァンゾー、リーヴォン・マルティンス、ヤン・マッテ、クリストフ・ピエッテの四者が携わった今年9月1日にベルギーのレーベルからリリースされた「Serrisme」は、それぞれが独特な役割を果たすことにより、アンビエント音楽の新たな形式、ストーリー性のある環境音楽を提示している。

 

この作品において、クリスティーナ・ヴァンゾー、リーヴェン・マルティンスは、サウンドプロデューサーとしての立ち位置ではなく、サウンドイラストレーション、つまり、音楽を絵画のように解釈し、雨の音、ドアの音、そして風の唸るような音、多種多様のフィールドレコーディングの手法により表現することで、作品に物語性、また音楽の音響自体を大がかりな舞台装置のような意味をもたせた画期的な作品である。


今作品の音楽の舞台は、ベルギ、フランダースにある広大な田園風景の中にある葡萄の栽培温室で繰り広げられる。雨の音、風の音、嵐、小石が転がる音、ドアのバタンという開閉、時には、鳥の鳴き声。これらはすべて、音楽そのものにナラティヴ性、視覚的効果を与えるための素材として副次的役割を果たす。これらの環境音は、実際のフィールドレコーディングにより録音され、様々な形でサンプリングとして挿入されることにより、物語性を携えて展開されてゆく。

 

近年、クリスティアン・ヴァンゾーが取り組んできたサウンド・デザインの手法は今作でも引き継がれている。BGMのような効果を介して、一つの大掛かりなサウンドスケープー音風景を建築のような立体性を持って体現させている。

 

作品の前半部は完全な環境音楽として構成されるが、後半の2曲「GlistenⅠ、Ⅱ」は電子音楽寄りのアプローチが図られている。

 

これまで、ドイツのNative InstrumentsをはじめとするDTM機材、実際のオーケストラの演奏を交えて、アンビエントをサウンドデザインの形に落とし込むべく模索しつづけてきたクリスティーナ・ヴァンゾウはこの二曲において完全な独自のアンビエントの手法を完成させている。

 

そこには、アルバムの前半部の物語性を受け継いで、フランダースのぶどうの農園のおおらかな自然、そして、広々とした風景が電子音楽、それから、人間の歌という表現を通して絵画芸術のごとく綿密に描き出される。

 

今作は、前衛性の高い実験音楽の性格が強い一方で、聞き手との対話が行われているのが画期的な点だ。「Terrisme」の7つの楽曲で繰り広げられる音楽ーー音楽を介しての絵の表現力ーーは、聞き手に制限を設けるのでなく、それと正反対の自由でのびのびとした創造性を喚起させる作品である。

 

芸術性、創造性、実際の表現力どれをとっても一級品、今年のアンビエントのリリースの中で屈指の完成度を誇る最高傑作として挙げておきたい。 

 

 

  

 

 

 

 

 

・Isik Kural 

 

「Maya's Night」 Audiobulb Records



Isik Kural 「Maya's Night」  

Maya's Night

 

 

トルコ、イスタンブール出身で、現在はスコットランドグラスゴーを拠点に活動するisik kuralは、今年デビューを果たしたばかりの気鋭の新進音楽家。アンビエント界のニューホープと目されており、アンビエント音楽を先に推し進めるといわれる音楽家である。マイアミ大学で音楽エンジニアリングを専攻したKuralの音楽は、ブライアン・イーノの初期のシンセサイザー音楽を彷彿とさせる。

 

Kuralのデビュー作となる「Maya's Night」はブライアン・イーノの音楽と同じように、徹底して穏やかで、清らかなアトモスフェールに彩られている。

 

聞き方によってはテクノ寄りのアプローチともいえるかもしれないが、この癒やし効果抜群の音に耳を傾ければ、この音楽がアンビエント寄りのアプローチであると理解していただけると思う。シンセサイザーの音色自体は古典的な手法で用いられるが、Kuralは、そこに粒子の細やかな精細感ある斬新なシンセサイザー音色アプローチを取り入れ、驚くほど簡素に端的に表現している。

 

特に、Isik Kuralのデビュー作「Maya's Night」が画期的なのは、シンセサイザーの音色、実にありふれたプリセットを独創的に組み立てることにより、これまで存在しなかったアンビエントを生み出していることだろう。そして、近代から現代の作曲家が取り組んできた作曲の技法、例えば、レスピーギの「ローマの松」を見れば一目瞭然であるが、自然の中に在する生物のアンビエンス、例えば、「Maya's Night」の作中では、鳥の声をはじめとする本来電子の音楽ではない音までも、Isik Kuralはシンセサイザーを用いてそれらの生命を鮮やかに表現しているのは驚くべきことで、そこには、Kuralの夾雑物のない生まれたての子供のような精神の純粋さが見て取れる。

 

加えてKuralのサウンドエンジニアとしての知性、哲学性、表現性、すべてが自由にのびのび表現されているのがこの作品をとても魅力的にしているといえる。秀逸なサウンドエンジニアとしてのテクニックを惜しみなく押し出し、テープディレイをトラックに部分的に施すことにより特異なミニマル構造を生み出し、サウンドデザインに近い形式に昇華させているのも素晴らしい。アンビエント音楽を次の段階に推し進めるアーティストとして注目しておきたい作品である。  

 

 
 

 

 



 

・A Winged Victory  for the Sullen 

 

「@0 EP2」 Ahead Of Our Time



A Winged Victory  for the Sullen 「@0 EP2」  

@0 EP2  

 

 

2021年のアンビエントの傑作の中で最も心惹かれるのが、これまでBBC Promsでロイヤル・アルバート・ホールでの公演も行っているA Winged Victory  for the Sullenの「@0 EP2」である。

 

このアンビエントプロジェクトのメンバー、アダム・ウィットツィーはかつてクリスティーナ・ヴァンゾーとの共同制作を行っていた人物で、現代のアンビエントシーンでも著名なプロデューサーに挙げられる。これまで2000年代から長きに渡ってアンビエントシーンを牽引してきたミュージシャンだ。

 

近年のアンビエントシーンにおいて残念なことがあるなら、プリセット、音色の作り込みにこだわり過ぎ、楽曲の持つ叙情性、表現性が失われた作品が数多く見受けられることだろう。

 

しかし、そういった叙情性、表現性を失わずに秀逸なアンビエントとして完成させたのが10月14日にリリースされた「@0 EP2」である。

 

ここでアダム・ウィットツィーとダスティン・オハロランのアンビエントの名手たちは、広大な宇宙に比する無限性をアンビエント音楽として描出しようと試み、それがアンビエント本来の持つ叙情性を交えて組み立てられる。これまでアンビエントシーンのプロデューサーたちは、アナログ、デジタル問わず、どこまでシンセサイザーによって音の空間性を拡張させていくのかをひとつのテーマに掲げていたように思われるが、今作において、その空間性はいよいよ物理的な制限がなくなり、「Σ」に近づいた、と言っても良いかもしれない。シンセサイザーのシークエンスの重層的な構築はまるで、地球内の空間性ではなく、そこから離れた無辺の宇宙の空間を表現しているように思える。


これまで多くのアンビエントプロデューサーたちが、「宇宙」という人間にとって未知数の形態を、音楽という芸術媒体を介して表現しようと試みてきたが、そのチャレンジが最も魅力的な形で昇華されたのが今作品といえるかもしれない。

 

宇宙という、これまでアポロ号の月面着陸の時代から人類が憧れを抱いてきた偉大な存在、そのロマンともよぶべきものが今作でついに音楽芸術という形で完成された、というのは少し過ぎたる言かもしれない。

 

それでも、アダム・ウィットツィーとダスティン・オハロランのアンビエントの名手が生み出した新作「@0 EP2」は、ミニアルバム形式の作品ながら、広大無辺の広がりを持ち、未知なる時代のロマンを表現した快作。そしてまた、現代を越えた未来への扉を開く重要な鍵ともなりえる。






 

Chihei Hatakeyama


 

畠山地平は神奈川県出身の日本を代表するアンビエントミュージシャンである。

 

2008年、電子音楽を専門とするKranky Recordsからデビュー・アルバム「Minima Moralia」をリリース。2010年には、hatakeyama自身が主宰するレーベル、White Paddy Mountainを立ち上げ、作品のリリースを行っている。


畠山地平の音楽性は、アンビエント、ニューエイジ、実験音楽に分類される。総じて、BPMは遅いのが特徴である。

 

ラップトップでギター、ピアノ、ヴィブラフォンを録音し、トラック自体をループ的に処理することにより、重層的なテクスチャーを生み出す。ロスシルやティム・ヘッカーといったアンビエントプロデューサーの方向性に近く、そこに日本らしい叙情性が加えられている。また、畠山地平は、きわめて多作なミュージシャンとして知られていて、2021年までに、70以上もの作品を残している。また、補足として、プレミアリーグの熱烈なエヴァートンファンであることも知られている。 


近年、アンビエントアーティストとして、アメリカだけにとどまらず、イギリスでの知名度が高まりつつあり、今年、BBCのRadio6で、畠山地平の楽曲がオンエアされていることも付記しておきたい。

 

 

 

 

 

「Void  ⅩⅩⅣ」 White paddy Mountain  2021 

 

 

 

 

 

Scoring




Tracklisting

 


1.Ready For Arrival

2.Longing for the Moon

3.Gathering and Dispersion

4.Gathering and Dispersion Ⅱ

5.Cosmos Elegy

6.Venus of the Four Seasons

7.A Sailor Always Finds His way Out of a Storm

8.Rest In Peace

9..Rest In Peace Ⅱ

 

 

Listen On  :「Void ⅩⅩⅣ」

 

https://songwhip.com/chihei-hatakeyama/void-xxiv

 

 

中国の「三国志」に触発され、製作されはじめたという畠山地平の通称「Voidシリーズ」も、2014年の「Void V」から始まり、七年間で遂に「ⅩⅩⅣ」まで到達。

 

この一連の連複したスタジオ・アルバムにおいて、畠山地平は、一貫したアプローチを採用している。すべて連作として捉えても差し支えないほど心地よいサウンドスケープが一面に広がっている。そして、アルバム・ジャケットについても同じで、ヴァリエーションのような手法が取られている。

 

今回の「Void ⅩⅩⅣ」もまた、いかにも畠山地平らしいドローン、アンビエントの中間点を彷徨う作風である。

 

前作と同様に、音楽のメロディーではなく、全体像がそのまま作品として提示されているという点も変わりはない。

 

今回の作品は、アンビエントの王道を行くロスシルに近い作風であり、曲を流し始めると、いつの間にか終了している。

 

これは、たしかにドビュッシーや後期のフランツ・リストが最晩年に落着した作風でもある。しかし、それは存在感を薄めているわけでなく、反面、強い存在感を感じさせる作品となっている。常に、今作では、サウンドスケープの概念が提示され、アンビエントのシークエンスの中に、非常に薄くギターフレーズが被せられているあたりは、Feneeszの音楽に近いアプローチのように思える。

 

クラシックであれば、変奏曲というのは慣れ親しまれているが、近年、ドイツのGAS、そしてアメリカのバシンスキーをはじめとするアンビエントアーティストたちがこの電子音楽の領域で、かつてヨーロッパの中世の作曲家たちが好んだ「変奏曲」の手法を取り入れるようになってきている。

 

興味を惹かれるのは、ドイツ、ロマン派の作曲家は、作品単位で変奏曲を生み出し、その作曲の腕を競っているような感もあった。一方、現代の電子音楽家たちは、アルバム作品単位でこれらの変奏に取り組むようになってきていて、畠山地平も日本を代表するアンビエントアーティストのひとりとして、この世界的なヴァリエーションの流れに追従していこうというのかもしれない。

 

そして、前作「Void ⅩⅩⅢ」と同じように、ロスシルやフェネスのアンビエントと異なり、東洋、アジア的な反響の空気感がこの作品の中に取り入れられていることに、西洋のリスナーはおそらく大きな驚愕を覚えるに違いない。そう、これは西洋のアンビエントではなく、東洋、アジアらしいアンビエント音楽といえるのである。

 

今作「Void ⅩⅩⅣ」で繰り広げられるサウンドスケープというのは、彼が掲げる三国志のテーマに則ったものであり、中国の水墨画のような淡い質感を描きだされているのが主な特徴である。そして、その音像の奥行きというのは、前作よりもさらに拡張され、ときに宇宙的な広がりに及ぶ。霧がかり、薄ぼんやりとし、先を見通すことの出来ない音像の風景。それはまさに、この日本アンビエントの旗手である、畠山地平にしか生み出せない独自の音響芸術でもある。

 

盛岡夕美子

 

盛岡夕美子さんは、1978年から1987年にかけて作詞家、ピアニスト、作曲家として活動していた音楽家です。

 

1975年に、サンフランシスコ音楽学院を主席で卒業した後、"宮下智"を名乗り、日本の音楽業界でコンポーザーを務める。1980年代にかけて、男性アイドルグループへの楽曲提供を行い、中には、驚くべき男性アイドルの名が見られ、1980年代にかけて、田原俊彦、少年隊といったアイドルのヒット曲のソングライティングを手掛けていた名音楽家です。

 

盛岡さんは、元は、クラシック畑のピアニストでありながら、J-POPの裏方としての仕事を多く受け持ち、1980年発表の田原俊彦のシングル「哀愁でいと」B面曲「ハッとして!Good」で、第22回日本レコード大賞で最優秀新人賞に輝く。その後、ジャニーズ事務所と専属契約を結び、少年隊の1980年代の楽曲を多数手掛ける。1980年代の日本ポップスシーンにおける重要な貢献者と言えるでしょう。

 

ジャニーズ事務所に所属するアイドルグループへの楽曲提供の他に、1980年代にソロ名義「盛岡夕美子」としての作品を二作発表。これらの作品は商業主義やエンターテインメント業界とは無縁のニューエイジ、アンビエント、世界的に見ても秀でたヒーリング音楽をリリースしています。


この盛岡夕美子としてのソロ名義での作品発表後、アメリカに移住。 その後は、サンフランシスコのエコール・ド・ショコラ、フランスのエコール・ヴァローナで学んだ後、音楽家からチョコラティエに華麗なる転身。その後、自身の会社「Pandra Chocolatier」を設立し、ワイントリュフの開発に取り組み、ビジネス事業も軌道に乗り始める。


しかし、2017年に北カルフォルニアで起こった山火事によってワインの輸送供給が滞ったのを機に日本に帰国。2019年には日本の世田谷にワイントリュフの専門店を立ち上げていらっしゃいます。

 

その後、一度だけ作曲家の仕事を行っており、2018年に、King&Princeに楽曲提供を行っています。

 

 

 

 

 

「余韻(Resonance)」2020  Metron Records  
 
*原盤は1987年リリース



 

 


1.Komorebi

2.Moon Road

3.Rainbow Gate

4.Ever Green

5.潮風

6.おだやかな海

7. Round And Round

8.La Sylphide/空気の精

9.Moon Ring

10.銀の船




 

この作品「余韻」は、1987年、盛岡夕美子名義で発表されたニューエイジ作品のVinyl再発盤として昨年発売された作品。表向きの田原俊彦、少年隊といった仕事、謂わば表舞台の喧騒からまったく遠く離れたアルバムを、この1987年に盛岡夕美子さんは発表していらっしゃいます。いわば、年代的には、まだ、おそらくニューエイジミュージックがそこまで日本でも浸透していなかったと思われる時代、日本のもっとも早い年代に活躍した環境音楽家、吉村弘と同じようなヒーリング的な指向性のある音楽を、盛岡さんはこの作品において追求していらっしゃいます。

 

この作品において盛岡さんの生み出す音楽は、終始穏やかであり、これ以上はないというくらいの癒やしをもたらしてくれ、聞き手の内面を見つめる機会を与えてくれる瞑想的な音楽ともなりえるはず。この「余韻」はクラシックピアニストとしての素地のようなものが遺憾なく発揮された作品で、波の音といったサンプリングが挿入されている点で、ニューエイジ音楽を想定して製作された音源だろうかと思われますけれども、クラシックピアノを体系的に学習した音楽家のバッグクラウンドを持つためか、サティやドビューシー、ラヴェルをはじめ、一般に「フランスの6」と呼ばれる全音音階を使用する傾向のある近代フランス和声の影響が色濃く感じられる作風です。

 

それほど大きな展開を要さないという点では、イーノ、バッドの音楽性に近いものが感じられます。ミニマル・ミュージックとしての指向性を持ち、それが淡々と奏でられる上品なピアノ音楽。しかし、この単調さがむしろ反面に聞き手に何かを想像する余地を与えてくれる、本来、あまりに情報量が多すぎる刺激的な音楽というのは一見すると心惹かれるものがあるように思えますけれども、そこには聞き手の存在する余地がなくなるという弊害もまたあると思うのです。しかし、盛岡さんのこの作品では、それとは対局にある「家具の音楽」、あるいは、調和という概念に焦点を絞った音楽が提示されており、また、ここでもアンビエントの重要な概念、聞き手のいる空間、聞き手の考え、何より、聞き手の存在が尊重されているという気がします。

 

それは、軽やかなピアノ演奏、情感あふれる鍵盤のタッチ、そして、ピアノの余韻、レゾナンス、ピアノのハンマーが振り下ろされた後、音の消えていく際の余白の部分を楽しむ音楽といえ、ジョン・ケージの最初期のアプローチにも比する音楽と称することが出来る。そして、この音楽は端的に言えば、わたしたちの心に、ひとしずくの潤いをもたらしてくれる癒やしの効果をもたらしてくれる音楽でもある。

 

1987年の最初のリリースから実に三十三年という長年月を経て、今回、Metron Recordsからリマスター盤として再発された「余韻(Resonanse)」の再発盤で感じられるのは、メロディやリズム、それ以上の空間性としての秀逸な純性音楽の数々。この作品には、一時代性とは乖離した多時代における普遍性が込められていて、人や時代を選ばないような音楽。また、久石譲をはじめとするジブリ音楽にも似た安らぎを感じていただけるかもしれません。

 

何か、じっと、目をつぶっていても、音楽自体が生み出すサウンドスケープがおのずと思い浮かんでくる貴重な音楽です。

 

サウンドトラックのようだと喩えるのは安直といえ、深い精神性に支えられた瞑想的で穏やかな作品です。日本のアンビエント、ニューエイジの隠れた名盤としてご紹介させていただきます。

 

 

「余韻(Resonance)」

Listen on Bandcamp:

 

https://metronrecords.bandcamp.com/album/resonance


 

 

盛岡夕美子「余韻(Resonance)リリース情報の詳細につきましては、Metron Records公式サイトを御覧下さい。

 

 

https://metronrecords.com/ 

 


 


 


 

 

アンビエントを形作る基本概念とは? 


既によく知られている通り、アンビエント音楽の出発は、ブライアン・イーノが怪我をして入院中に、友人が病室に持ってきてくれた壊れたハープのレコードをかけた瞬間にもたらされた。音楽を介しての崇高な啓示という言葉が相応しいのかどうかはわかりませんが、傑出した音楽家には人生のある分岐点において、何らかの音楽を介しての悟りのようなものがもたらされるのが常です。


この後、ブライアン・イーノは既に「Discreet Music」で、その音の萌芽は充分見られるものの、Ambientシリーズという傑作を1978年から1982年にかけて発表、アンビエントという概念を広めていくわけです。


現代では、アンビエント=環境音楽という概念は広義において使用されることが常であり、アシッド・ハウス系のアーティストの音楽にも、このカテゴライズが与えられ、リズム性が希薄なクラブ・ミュージックのアーティストにも適用されるようになりました。


しかし、基本的に、このアンビエント音楽の本義は「主役を引きたてるため」にある存在する音楽であり、例えば、演劇でいうところの舞台の書き割りであるとか舞台照明のような主役の舞台上での演技を引き立てるような役割を果たすものです。


それが、後のWindows98の起動音、横断歩道を渡る際の機械音楽、駅のホームで流れている環境音楽という概念に引き継がれていく。これらの音楽は、その場に交通する多くの人が主役であり、起動音、横断歩道の短い音楽、駅で流れている音楽は、常に脇役であり主役ではありえないわけです。


もちろん、これらの環境音楽の作曲者も自分の作製した音楽を聞き手の空間に際立たせようと作曲するのでなく、その場の空気を尊重して短いBGMを作製しているのが常です。

 

これは、初期の任天堂等のゲーム音楽においても同じ。つまり、アンビエント音楽の真髄は、演劇の舞台背景のような機能を果たす音楽=BGM(バッググランドミュージック)であり、演奏者のいる空間性を重視するのではなく、聞き手のいる空間性を重視し、それを尊重する音楽であると言えかもしれません。


ですから、近代フランスの酒場で、ショパンを客前で好んで演奏していたエリック・サティが一般にアンビエントの元祖としてみなされるわけです。エリック・サティは客のおしゃべりの引き立てとしてショパンを弾いていたわけです。


しかし、これは、近年、このアンビエントという語があまりに広い範囲で使われるようになったため、見えづらくなった本義といえる。

 

そのため、実を言うと、エイフェックスの初期作品はアンビエントに該当するものの、ティム・ヘッカーはドローンであるものの、本流に属さないオルタネイティヴなアンビエントと言っておきたいのです。


元々、ブライアン・イーノは、最初期の作品をアナログシンセサイザーを用い、「空間の広がり=アンビエンス」を発生させていましたが、多分、イーノが表現しようとしていたものは音というよりも概念に近かったろうと思われます。


おそらく彼にとって病室で身動きがままならなかった際に聴いた壊れたハープのレコードの音楽は疲弊した精神に潤いを与えるものであったろうし、その音楽的啓示が与えられた「祝福された瞬間」を再現しようと試みようとしたことが「Ambient」シリーズ、「Apollo」「The Pearl」という名作群の誕生に繋がった。これらの作品においてイーノが表現したかったもの、おそらくそれは、病室でいたんだ肉体、そして、疲れた精神を癒す、ハートがじんわりする音楽です。


昨今、このアンビエント音楽が多くの人に求められるようになったのはひとつ理由があり、現代の人々がより温かな癒やしを求めているからなのかもしれません。


常に、日常の中にまみれる喧騒、常に、毎日のようにもたらされる無数の情報、常に、何かに忙殺される時間、常に、劇的に移ろい変わり、混沌としつつある世の中の状況、常に、 おびただしくもたらされる無数の刺激の数々。

 

実は、21世紀に入るまでに、我々、現代人は、これらの自分では抱えきれないものを所有していることに辟易としており、自分は既に生涯における充分なものを既に所有しているのに、外側から常に何かが供給されているため、コレ以上は何も要らないと思う「本心」を常に覆い隠し生きねばなない。


世の中で重要だとされている出来事、多くの人が重要という出来事の殆どが我々にとって不必要でとるにたらぬもの。そして、本当に重要な出来事が見えにくくなっていることことに気が付かねばなりません。


現代社会において、人間にとってもっとも必要なものが何なのか。明言しませんが、現代社会を生き得る人たちが見失ってしまったように思える「何か」を探すきっかけを、アンビエント音楽、アーティストの名盤は、音という言語よりも高らかな啓示により授けてくれるかもしれません。


ここでは、定番の作品から風変わりな作品まで、様々な側面からアンビエントをご紹介致します。是非、以下、リストアップする作品の中から貴方にとってピッタリな癒やしの音楽を探してみて下さい。

 



アンビエントの名盤ガイド


 

・Brian Eno

 

 

「Ambient1 Music For Airport」1978

 

 

 
アンビエントという概念は全てこの作品「Ambient 1 Music For Airport」から出発したというべきでしょう。 

 
「人を落ち着かせ、考える空間を作り出そう」。
 

ブライアン・イーノは、ドイツのケルン・ボン空港で暇を潰していた時、この伝説的な環境音楽の着想を思いついたようです。
 
 
ジャケットワークのデザインもまたブライアン・イーノ自身が手掛けたこの作品は、アンビエントの祖でもあり、ミニマルミュージックの究極系。異なるテープレコーダーを介して録音したシンセサイザーの音色を同期し、さらにその音色をランダムに変えることにより生み出されています。
 
 
アコースティック・ピアノのシンプルな音色は、洗練された空港内の空間、そして無数の人々がいる会話をする空間という本来、2つの分離した空間を音楽によって合一させる効果を持っています。会話をするのにも邪魔にならず、空港のロビーの広々とした空間というものの静かに馴染む音楽が前半部。 
 
 
一方、後半部では、パッヘルバルのカノンをサンプリング的に処理、テンポ、ピッチを変更した楽曲。どちらも、イーノの考案した人を落ち着かせるというコンセプトに沿った音楽と言えます。実際に「Music For Airport」は、NYのラガーディア空港で環境音楽として使用されていました。 
 
 
 

 

「Plateux Of Mirror」1978

 

 

 

アンビエント音楽の感じを何となく掴むためには、このブライアン・イーノ、そして故ハロルド・バッドの共作が最適と言えます。


ジョン・ケージが考案したピアノの本来ディケイするはずの音を極限まで伸ばす手法を、さらに、ここで、イーノは「Above Chiangmai」という世紀の傑作において自身のサウンドエンジニアとしての手腕により見事に実現してみせました。

 

加えて、ハロルド・バッドのピアノ演奏というのも、徹底的に聞き手のいる空間を重視した家具の音楽としての概念を両者の音楽家はアンビエントという新たな形に昇華させてみせています。 

 

ロキシー・ミュージックのキーボード奏者として活動したのち、事故による負傷、その病室で壊れたハープのレコードを聴いたときに、ブライアン・イーノが体感した一種の音楽的な啓示がここで音によって体現されています。

 

それは、アンビエンスー空間に既に満ちている音をピアノの演奏、アナログシンセを駆使して奥行きのある空間を生み出すことにより体現されています。

 

また、忘れてはならないのは、ここでは、他では得難い癒やしが込められ、傷ついた魂、精神を癒やす効果も込められている特異な音楽。心が疲れているときに聴く音楽として、オススメしておきたいところです。  


 

 

「Apollo Atmospheres and Soundtracks 」 1983

 

 

 

もうひとつ、ブライアン・イーノがアンビエント音楽という得難い概念を明確に定義づけたのが伝説的な作品「Apollo(Ascent)」。

ここで得られる音楽的な体験は神秘的ともいえ、これまでにはないような異質な感慨を与えてくれるでしょう。

 

特にアンビエントの歴史からみても屈指の名曲「An Ending」では、地球を離れた宇宙に普遍的に満ちている空間、音、そこに満ちている概念を克明にアンビエンスにより捉えてみせています。この宇宙的な音を表現するスタイルは、その後のアンビエントの重要なファクターとして引き継がれていきます。

 

またその他の楽曲においても、ブライアン・イーノは電子音楽としての新たな実験性に挑んだ作品が多く収録されており、この次の世代に繋がっていくアンビエントの基礎を生み出した。

 

その後、生み出されるアンビエントの多くの作品の重要なインスピレーションの源泉となった伝説的な作品です。

 


・Jon Hassell 

 

 

「Vernal Equinox」1977(original) 2020(remastered)

 

 

 

1978年にイーノがアンビエントという概念を生み出す以前に実はアンビエントの本流に当たる音楽を既に生み出していた人物、それが2021年6月下旬に亡くなられたジョン・ハッセルという伝説的な名トランペット奏者です。

 

ジョン・ハッセルはダブ音楽に代表されるようなトランペットの録音をダビング、サンプリングにより、新たな手法のジャズ音楽を追求した音楽家でもあります。

 

特に、この1977年の作品「Vernal Equinox」は、クロスオーバージャズの先駆的作品としてもよく知られていて、また、アンビエントをモダンジャズ的手法で体現した最初の作品でもある。

 

このスタジオ・アルバムには、モダンジャズ、ダブ、民族音楽(インドネシアのガムラン)、電子音楽と、様々な前衛的な音楽のアプローチが見受けられます。四曲目の「Blues Nite」には後のドローンアンビエントのも通じる音楽をハッセルは1977年において生み出していることに驚く。

 

非常にエクスペリメンタル色の強い作品ではありますが、アンビエント音楽の歴史を線として捉えた場合には、この作品を度外視することは難しいでしょう。 

 

 

・Harold Budd

 

 

「Avalon Sutra」2005

 

 

 

1978年の共作において、アンビエントという概念を提言したのち、バッドはピアノ音楽としてのアンビエントを追求していくようになる。 

 

その一つの音楽としての探求が逸早く明瞭な形となったのがデイヴィッド・シルヴィアンをゲストとして迎え入れた「Avalon Sutra」。

 

ここではハロルド・バッドの生み出す音楽の重要な鍵となる癒やしの効果が作品全体に漂っている。ひたすら穏やかで、甘美で、心温まるようなピアノ音楽がここでは味わえます。サウンド面でも革新的な処理がなされており、シンセ音楽とクラシカル,ジャズと、3つのジャンルのクロスオーバーに取りくんだ画期的な作品です。 

 

シンセサイザーのシークエンスとの融合、広い空間処理により、さながら天井の高い石造りの教会の中で音が響くような独特のピアノの音色を生み出しています。このピアノ作品は、のちのアンビエントの派生ジャンルの一、ピアノ・アビエントの重要なルーツとなった傑作。

 

もちろん、アンビエントだけではなく、弦楽器、金管楽器、木管楽器との合奏と言う面で、ポスト・クラシカル、クラシカルクロスオーバーの先駆的作品と称すべきなのかもしれません。

 

 

 

「After The Night Falls」2007

 

 

 

 

ブライアン・イーノの提唱した最初のアンビエント作品「Ambient」の共同制作者として知られるハロルド・バッド。

 

その後、バッドはソロ活動において、ピアノ演奏を介して彼にしか生みだしえないアンビエント音楽、音の空間性を音楽的な探求者として独自に追求していくようになります。 

 

バッドの長年の音楽的な探求の集大成を形作ったといえる作品が「After The Night Falls」。ここではアンビエント音楽の理想形が追求され、それがピアノ音楽によって見事に昇華されています。

 

この作品において際限なくひろがっていく心地よい空間、癒やし、穏やかさ、温和さ、といった感覚が慎ましやかな音楽性により彩られています。バッドの音楽で体感できる思索的な感覚は他の音楽では得難いもので、ここに、ハロルド・バッドの奥ゆかしい人格が滲み出ています。

 

ブライアン・イーノとの共作「Ambient」の延長線上にあるアンビエント音楽のひとつの頂点と言えるでしょう。




・Willam Basinsky 

 

 

「The Disintegration Loops」original 2002  Remastered 2014

 

 

 

ウィリアム・バシンスキーは既にアメリカのアンビエント界きっての重鎮と称してもおかしくはない存在。

 

元々はテキサス大学でジャズのサックスを体系的に学んだ後にイーノ、ギャヴィン・ブライヤーズといった音楽家に影響を受け、アンビエント制作を行うようになる。

 

バシンスキーのアンビエント音楽作製において革新的な技法をもたらし、ダンスフロアのDJのように、元あるサンプルネタを引用(たとえば、ラジオ放送でかかっているクラシック音楽)し、それをテープの切り貼りしていき、ターンテーブルのスクラッチのような手法を駆使することにより、ぶつ切りのホワイトノイズを発生させ、サンプリングネタの原型をとどめないような斬新で複雑怪奇な作品を生み出すのがバシンスキーの作曲の特徴。

 

一つの短いシンプルなフレーズを入念にトラック上で複合的に組み合わせ、それを徐々に重層的なヴァリエーションとして変形させていくという点では、ライヒのようなミニマル音楽の要素も多分に持ち合わせています。 

 

バシンスキーのDJ的手法がひとつの完成形を成したのが2002から2003年にかけて発表された「The Disintegration Loops」。

 

ここでは、わずか数秒楽節がLPレコードを再生する際に生ずるノイズのブツッという音をフレーズの合間に挟み、永遠と同じフレーズが繰り返される音楽。しかし、最終盤では、完全に元の原型が破壊され、ノイズだけが鳴りひびく摩訶不可思議なアヴァンギャルド音楽に様変わり。

 

ドローン・アンビエントとニュアンスが異なる「アンビエント・ノイズ」というこれまでに存在しえなかった新しいジャンルを生み出したモンスターアルバム、ウィリアム・バシンスキーの最高傑作の一つ。  



 

「92982」2009

 

 

 

元は故郷テキサスでアンビエント制作を行っていたウィリアム・バシンスキーは、その後、ニューヨークに移住し、映像と音楽を融合させた独特な活動を行う。

 

最初期は明らかにイーノやブライヤーズを意識した音楽を作曲していたバシンスキーではありますが、徐々にニューヨークに移住した影響はあってか、SF的というべきか宇宙的な広大なスケールを持つアンビエント制作を行うようになっていきます。

 

そして、どことなくバシンスキーの作品では彼らしくない作風ともいえるのが2009年発表の「92983」。

 

ここでは最初期からの特徴である変奏方式を導入しているバシンスキーではありますが、どことなくNYの街に満ちている生活の風景、人々の雑踏や哀愁をアンビエントとして叙情的に切り取ってみせた作品。

 

他の作品とは異なり、目の前の日常的な空間性を表現したバシンスキーの異色のスタジオアルバム。

 

この作品からさらにバシンスキーはSF的なアンビエントの作風に取りくんでその最終形となったのが2019年にリリースされた「On  Time Out Of Time」この作品も併せてオススメします。  



・Aphex Twin 

 

 

「Selected Ambient Works 85-92」1992

 

 

 

実験音楽としてのアンビエントではなく、クラブミュージック、デトロイト中心に盛んだったテクノ、アシッド・ハウスの影響をドラムンベースと融合し、ドリルンベースというこれまでになかったジャンルを生み出したことでも知られているエイフェックス・ツイン(リチャード・D・ジェイムス)。

 

既にスクエアプッシャーと共に、ワープ・レコードの看板アーティストといえるリチャード・D.ジェイムスは、クラブミュージック以外にも、ジョン・ケージをはじめとする現代音楽や実験音楽に色濃く影響を受けている実験的なグラブ音楽を生み出すアーティストです。 

 

エイフェックス・ツインとして、ソロ活動を始める以前の宅録時代の未発表作品を収録した「Selected Ambient Works 85-92」はエイフェックスの最良の名盤。ここには実験的なクラブミュージックの宅録の名曲に加え、テクノ、アシッド・ハウスからみたアンビエント音楽ともいえる楽曲が「Xtal」を中心に見られます。

 

クラブミュージック界にアンビエントの概念を持ち込み、その後のクラブ・ミュージックのシーンを導いた重要な作品です。 



 ・Gas

 

 

 「Pop」2000

 

 
 
 
GASは、ジャーマンテクノシーンを1990年代に率いていたウルフガング・フォイトによる電子音楽プロジェクト。ミニマル・テクノを最初にドイツのクラブシーンに導入したオリジネーターです。
 
 
GASの電子音楽はときにハウス、テクノ、アンビエントといった3つのジャンルを自由に行き来するような作風であり、ドローン、ゴアトランスにも近い質感のあるフロアで踊るための音楽も数多くリリースしています。  
 
 
特に、アンビエントの名盤としてあげたいのが、2000年発表の「Pop」。
 
 
テクノ音楽からみたアンビエントと称するべきダンスフロア向けの独特な作風を生み出しています。
 
 
他のアンビエントアーティストに比べ、フロアで踊るための縦ノリの音楽は、まさにウルフガング・フォイトのお家芸というべき。テクノ音楽もグルーブ感を追求し、コアな電子音楽を生み出そうすると、徐々にリズム性が希薄になって、最終的には、テクノ、ハウスとは対極にあるアシッド・ハウスに近い独特なアンビエントに行き着くということが理解出来ます。 



・Dead Texan 

 

 

「Aegina  Airlines」2004

 

 

 

既に、アルバム・レビューの方で一度取り上げている作品「Aegina Airlines」ですが、良い作品なので、再びここで取り上げておきたいと思います。

 

2000年代以降の密かなアンビエントムーブメントをさきがけて発表されたこの作品は後にStars Of The lidを結成し、アメリカのアンビエントシーンで著名な存在となるアダム・ウィリツィー。そして、後に実験音楽、アンビエントのソロアーティストとして活躍するクリスティーナ・ヴァンゾーのツインプロジェクト。

 

後に、スターズ・オブ・ザ・リッドのメンバーとしてアンビエントの名物的な存在となるアダム・ウィリツィー、その後、映像作家から音楽家に転向を果たし、アンビエントの傑作を数多くリリースしているクリスティーナ・ヴァンゾーの音楽家としての活動を始める契機となった「幻の傑作」。

 

一般的には知られていない作品ですが、ブライアン・イーノの「Music For Film」にも比する甘美なピアノのフレーズ、シンセサイザーのシークエンスが絶妙に融合を果たしている。思わず、「美しい!」といいたくなる傑作、アンビエントファンは必聴の名盤です。 



・Biosphere

 

 

「Dropsonde」2006

 

 

 
バイオスフェア、ゲイル・イエンセンは、ノルウェー、トロムソ出身のアンビエントアーティスト。ブライアン・イーノやデペッシュ・モードに影響を受けて、1983年に音楽制作をはじめる。 
 
 
元々、イエンセンは、シンセポップユニットとして活動していましたが、後にバイオスフィアとしてソロ活動を開始、電子音楽、アンビエント制作に入る。
 
 
1991年には、デビュー作「Microgravity」を発表、アンビエントテクノの先駆けと称される。1997年発表の「Substrata」は、90年代最高のアンビエント作品と高評価を受けています。
 
 
バイオスフェアのアンビエントは、イーノからの強い影響を感じさせ、存在感の希薄で、どことなく温かみのあるような空気感に包まれている。音というのではなく、心地よい空気感を感じるための音楽。
 
 
「Dropsonde」はモダン・ジャズとアンビエントを図った前衛的なクロスオーバーの作風で、様々なジャンルの音楽が入り乱れながら、イエンセンらしい穏やかな空気感が生み出されている傑作。
 
 
特に、一曲目の「Dissolving Clouds」はアンビエント屈指の名曲の一つに数えられます。 



・Brian Mcbride

 

 

「When the Detail Lost its Freedom」2005

 

 

 

ロスシルにも比する美麗な音像の世界を提供しているブライアン・マクブライドはテキサス州アーヴィング出身のアンビエントアーティスト。

 

アダム・ウィリツィーとのユニット、スター・オブ・ザ・リッドのメンバーとしてもよく知られています。 

 

特に、ブライアン・マクブライドの生み出すアンビエントは、電子音楽的なアプローチではあるものの、大いなる自然の恵みを感じさせるような、穏やかで、大いなる手のひらに包み込まれるような作風です。

 

特に、スター・オブ・ザ・リッドの音楽性の全体的な印象を形作っているのはブライアン・マクブライドの方であると思われ、そのあたりの上記のユニットにも似たアンビエントの質感を持っています。

 

特に2005年にリリースされた「When the Detail Losts Its Freedom」はパンフルートのようなシンセサイザーの音色を生かし、ひたすらやさしく、穏やかで、温かなシンセサイザー音楽が立体的な構造として紡がれていく作品。

 

シンセサイザーの織りなす壮大なオーケストラレーション。特に、「Overture」は大いなる自然の息吹を眼前にしたときに感じる、あの奇妙なほどの神々しさを彷彿とさせるアンビエント屈指の美しい名曲です。 



・Rafael Anton Irisarri

 

 

「Daydreaming」2007

 

 

 

ラファエル・アントン・イリサリは、米シアトルを拠点に活動するアンビエントアーティスト。

 

最初期はポスト・クラシカル寄りのピアノ音楽をフューチャーしたアンビエント音楽に取り組んでいました。 

 

他の電子音楽家に先駆けてドローン音楽を追求し、このジャンルの先駆者のひとりともいえます。

 

アントン・イリッサーリの音楽性には独特な暗鬱さ、そして、ロマンティックさが滲んでおり、それが上品で官能的な美を生み出す。絵画芸術にも近い雰囲気のあるピクチャレスクな趣向性を打ち出し、それはおよそイリサーリ節友商するべき独特なゴシック的な世界観により彩られています。 


ラファエル・アントン・イリサリのアンビエントの名盤は近年のコアでマニアックなドローン作品も捨てがたくはありますが、ポスト・クラシカル寄りのアプローチを図った美麗な印象のあるデビュー作の「Daydream」はアンビエントの名盤として挙げられるでしょう。暗鬱で静謐なゴシック的な世界観は、深い霧の中を歩くようなおぼろげな雰囲気により彩られてます。

 

特に、一曲目の「Walking Expectations」はアンビエントの屈指の名曲、フィールドレコーディングの手法を取り入れた作品です。

 

深いおぼろげな深い霧の中をひとり歩くような独特な寂寞感が漂う。ここに現れているのは美麗なだけでなく、甘美な音楽の追求者として荒野を切り開くイリサリの姿。その後のアンビエントドローン音楽の流行の予言となった一枚。  


 

・Fennesz&Ryuichi Sakamoto

 

 

 「cendre」 2007


 

 

オーストリアのエレクトリックギターでアンビエント世界を追求するクリスティアン・フェネス。

 

そして、近年ゴルトムントを始め、若手の電子音楽家と共同作業を行ってきたご存知、元YMOの坂本龍一の両者の才覚が十二分に発揮されたピアノアンビエントの最高峰とも言える作品が「Cendre」。

 

ここではフィールドレコーディングのサンプリングを用いた独特なアンビエンスの中に坂本龍一らしい繊細なビアノの旋律が絶妙に溶け込んでいる。

 

坂本龍一の作品の中でも日本的な感性が色濃く感じられる作品。西欧の電子音楽の最先端と日本の現代音楽の純粋な合体はきわめて完成度の高い非の打ち所がない作品。

 

このスタジオ・アルバム収録の「haru」は特に、坂本龍一のピアノ作品として間違いなく最高傑作の一つ。

 

メシアンをはじめとするフランス近代和声を下地にした和音構成、繊細でわびさびのきいた叙情性、そして、”やさしみ”にあふれる感性こそが坂本音楽の真骨頂と言えるでしょう。フェネス、サカモトという抜群の相性を持つ二人の秀逸な音楽家による最高のコラボレート作品です。   



・Loscil

 

 

「Coast/Range/Arc」2011

 

 

 

カナダ、ヴァンクーバー出身の電子音楽家、別名、音響彫刻家とも呼ばれるロスシルはスコット・モーガンのソロプロジェクト。

 

1998年からMultiplexというマルチメディア集団のメンバーとして活動。アメリカの電子音楽専門レーベル、クランキーレコードの代表的な存在としてアンビエント界をリードし、アメリカでのアンビエントという音楽、このレーベルの知名度を高めるのに貢献的な役割を果たした重要なアーティスト。

 

既に、イーノやシャルティエ、バシンスキーに並んでアンビエント界の巨匠といっても良いかも知れません。それほどアメリカではアンビエントが盛んでなかった時代から勇猛果敢にこの音楽にスポットライトを当ててきた気骨あるミュージシャンです。 

 

ロスシルは、2001年の「Triple Point」クラブミュージック、実験音楽、そして、アンビエント、ドローンにいたるまで多角的なアプローチを図り、音楽性も幅広いですが、ロスシルの音楽の魅力は粒の精細な音作り、知性的な構成を持った楽曲を生み出すことにかけては名人級です。 

 

特に、ロスシルの名作として名高い「Coast/range/Arc」は、非常に美しいサウンドスケープを思い浮かべられるエモーションに富んだ傑作。

 

ひたすら穏やかな波に揺られるかのような心地よい空気感をシンセサイザーにより表現した名作。ロスシルは、長いアンビエントの道のりの最果てにほのみえるこの世のものと思えない、癒やしに満ち溢れた音像風景を描出する。  



・Tim Hecker 

 

 

「Ravedeath 1972」 2011

 

 

 

ティム・ヘッカーはカナダ、ヴァンクーバー出身の電子音楽家。コンコルディア大学卒業後、カナダ政府で政治アナリストとして活動した後、DJ活動を行い、2001年に「Haunt Me」にて鮮烈なデビューを飾る。 

 

特にこの「Ravedeath 1972」がリリースされた年は相当なセンセーショナルな衝撃をミュージック・シーンにもたらしました。

 

基本的には実験色の強い電子音楽家としての表情を持つティムヘッカーですが、この作品はアンビエントドローンの最高傑作との呼び声の高い作品。知性派のアーティストであり、空間内に音がどのように広がっていくか、音響学を一つのアンビエンスとして解釈しようと最初期から取りくんでいたティム・へッカーは、この作品でひとつの頂点を極めてしまった。

 

「Ravedeath 1972」はコンセプト・アルバム色の強い実験音楽にも関わらず、ティム・ヘッカーの名を一躍アンビエント界にとどまらず、一般的な音楽シーンに知らしめた伝説的なスタジオ・アルバム。

 

この年にリリースされた中で最高作品の一つ。未だこの作品の衝撃性というのはおよそ十年が立っても色あせていない、音楽の未来を変えてみせた独特なアンビエント。  



・Eluvium 

 

 

「VirgaⅠ」 2020 


 

Eluviumはポートランドを拠点に活動するマシュー・クーパーの電子音楽プロジェクト。

 

最初期は、ポスト・クラシカル寄りの美麗なピアノ曲を中心とした「An Accidental Memory In the Case Of Death」を2007年に発表してデビュー。この作品はポスト・クラシカルの隠れた名盤として挙げておきたい。

 

特に、2020年の連作シリーズとしてリリースされている「VirgaⅠ」はエルヴィムの最高傑作のひとつで、「Viga-Abyss Forms-House Taken Ober」と同じ主題をバリエーションとして変奏させる手法はバシンスキーに通じるものがありますが、エルヴィウムの生み出すアンビエントはひたすら心地よさ、そして、癒やしに重点を置いた作風です。

 

本作において展開されるアンビエントは他のアーティストに比べるとそれほど目新しさはないものの、一方では、アンビエント音楽の真髄を行くとも言えるでしょう。ひたすら、奥行きのある心地よい空間が広がりを増していく音楽は、古典音楽の未来を形作る電子音楽の華麗な交響曲とでも称するべきか。

 

このアルバム作品は、マシュー・クーパーの飽くなき音楽の探究心から生み出された音楽に対する深い愛の顕現にほかなりません。

 

アンビエント・ドローン寄りの音楽性を追求した次作「Virga Ⅱ」と共に、2020年代のアンビエントの大作と言えそうです。 



・Roji Ikeda

 

 

「Ryoji Ikeda Ep」 2021

 

 

 

現在、フランス、パリを拠点に活動する池田亮司は、映像と音楽の劇的な同期を行う前衛音楽家。 

 

テクノ、グリッチやクリックとして有名な電子音楽家です。最初期はオーケストラレーションを配した現代音楽寄りの音楽を生み出していましたが、徐々に先鋭的で実験的な電子音楽を追求する。

 

アルヴァ・ノトとの共同制作者としても知られ、超音波、周波数から音楽を解釈した物理学、及び数学的な観点から精密なアプローチを行うのが池田亮司の音楽の特徴。特に前衛派としての印象の強い池田亮司は最新作においてアンビエントの世界へ踏み入れていきました。 

 

今作で繰り広げられているのは、精妙な音の粒子の質感が如実に感じられるひたすら心地よいアンビエントであり、旧来の池田作品より、比較的聞きやすく、親しみやすい作風となっています。

 

ウィリアム・バシンスキーの近年のアプローチにも近い宇宙的引力を持つ独特な音楽であり、暗闇の中で、音に耳を静かに傾けていると、さながら広い宇宙と対峙するかのような偉大な迫力に満ちた作品。

 

音楽の世界は、ついに、2020年代に入り、未来の電子音楽家たちは、宇宙的な概念を表現する世界に突入したことを告げ知らせる2020年代。いや、2030年代の未来を行くアンビエントの大傑作。