Album of the year 2021 ーPost Punk/Post Rockー

Album of the year 2021  

 

ーPost Punk/Post Rockー




 

・Idles  

 

「Crawler」 Patisan Records 

 



Crawler 

 

英ブリストル出身のポスト・パンクバンド、アイドルズはデビュー時から凄まじいポストパンク旋風を巻き起こし、快進撃を続けてきた。昨年リリースされた「Ultra Mono」ではUKチャート初登場3位、最終的には首位を奪取してみせ、英国に未だポスト・パンクは健在であるという事実を世界のミュージックシーンに勇ましく示し、2021年の最高のアルバムと呼び声高い作品を生み出した。


もちろん、今年、2021年もまた、アイドルズ旋風はとどまるところを知らなかったといえよう。このロック史に燦然と輝く「Crawler」の凄まじい嵐のようなポスト・パンクチューン・ハードコア・パンクの激烈なエナジーを見よ。ケニー・ビーツ(Vince Staples、Freddie Gibbs)を招き、アイドルズのギタリスト、Mark Bowenが共同プロデューサーとして名を連ねる11月十二日にリリースされた作品「Crawler」は、Idlesの新代名詞というべき痛快な作品である。


このアルバムは、パンデミックの流行に際し、世界中の人たちの精神、肉体的な健康状態が限界に達したことを受け、反省と癒やしのために制作された。


「トラウマや失恋、喪失感を経験した人たちに、自分たちは一人ではないと感じてもらいたい、そうした経験から喜びを取り戻すことが可能であることを知ってもらいたい」


Idlesのフロントマン、ジョー・タルボットは、この作品について上記のように語る。彼の言葉に違わず、アイドルズの「Crawler」は、パンデミックの流行により、失望や喪失を味わった弱い人々に強いエナジーを与え、前進する活力を取り戻させる迫力に満ちた重低音のパワーが、アイドルズの凄まじい演奏のテンションと共に刻印されている。特に#2の「The Wheel」は聞き逃してはならない。この豪放磊落な楽曲はあなた方の疲弊した精神に生命力を呼び戻してくれるだろう。


 

 

 


 

 

 

 


 ・Black Midi

 

  「Cavalcade」 Rough Trade 

 

 Black Midi  「Cavalcade」

 

 

ワインハウスやアデルを輩出したご存知ブリット・スクールから、ミュージックシーンを揺るがすべく登場したブラック・ミディ。フロントマンのGeordie Greepをはじめ、メンバーの四人全員が19歳という若さであり、近年、ラフ・トレード・レコードが最大の期待を持って送り出した大型新人である。


ブラック・ミディは、既に、日本に来日しているアヴァンギャルド・ロックバンドであるが、彼ら四人がリリースした「Calvalcade」もまた上記したアイドルズの「Crawaler」と共に今年一番の傑作に挙げられる。


この作品「Calvalcade」の制作は、デビューアルバム「Schlangenheim」2019の発表後それほど時を経ずに開始された。 


フロントマンのGeordie Greepは、このアルバムの制作の契機について、「Schlangenheimの発表後、多くの人達がこのデビュー作品を素晴らしいと評価してくれたこと自体はとても嬉しかった。でも、僕たちはこのアルバムに飽きが来てしまって。そこで、もっと素晴らしいアルバムを作ろうじゃないかと他のメンバーたちと話し合って、次作「Calvalcade」の制作に取り掛かることに決めたんだ」と語っている。


アルバム制作時までに、ギタリストのMatt Kwazsniewski-Kevinが一時的にメンタルヘルスの問題を抱え、休養を余儀なくされたが、彼はこのアルバムのソングライティング、レコーディングに参加している。


前作までに、ドイツのCanに影響を受けたインダストリアル・ロック、ヒップホップ、ポストロック、フリージャズ、前衛的な音楽のすべてを経験したブラック・ミディは今作においてさらに強いアヴァンギャルドの領域に入り込んでいる。


サックス奏者としてKaidi Akinnnibi、キーボード奏者としてSeth Evansがゲスト参加した「Calvalcade」は、2020年の夏の間にアイルランドのダブリン、モントピリアヒルのリハーサルスタジオでレコーディングされた作品であり、窓の外を飛び交っていたヘリコプターの音が録音中に偶然に入り込んでいることに注目である。


前作では、ジャムセッションを頼りにソングライティングをしていたブラックミディの面々は、今作で、よりインプロバイゼーション、即興演奏を繰り返しながら、アルバムを完成へと近づけていった。


その過程で、ラフ・トレードの主催するライブで、何度も実際に演奏を重ねながら無数の試行錯誤を重ねながら、より完成度の高い作品へつなげていこうとする彼らの音楽にたいする真摯な姿勢が、作品全体に宿っている。それがこの作品を飽きのこない、長く聴くに足る作品となっている理由なのだ。


そして、この作品は、ロック作品でありながら、偶然にもマイクロフォンが拾ってしまったヘリコプターの音のエピソードをはじめ、自分たちが演奏している空間の外側に起きている現象すら、一種の「即興演奏」のように捉えた、実験性の強い作品である。


実際、ブラック・ミディは、CANのダモ鈴木と共演、その強い影響も公言しているが、今作において衝撃的に繰り広げられる新時代のクラウトロック/インダストリアル・ロック、ポストロックというのは、前時代の音楽をなぞらえたものではなく、SF的な雰囲気すら感じられる未来のロック音楽の模範だ。


個々の楽曲の凄さについて七面倒な説明を差し挟むのは礼に失したことだ。ただ「John L」、ポストロックの一つの完成形「Chondromalacia Patella」の格好良さに酔いしれてもらえれば、音楽としては十分だ。

また、独特なバラード「Asending Forth」というブラック・ミディの進化を表す落ち着いた楽曲に、このロックバンドの行く先にほの見える、明るい希望に満ち溢れた未来像が明瞭に伺えるように思える。 

 

 

 

 


 

 



・Black Country,New Road 

 

「For The First Time」 Ninja Tune 

 

Black Country,New Road 「For The First Time」  



For the First Time 

 


ロンドンを拠点に活動する七人組のBCNRは、ブラック・ミディと同じように、十代の若者を中心に結成された。


既存のロックバンドのスタイルに新たな気風を注ぎ込み、バンドメンバーとして、サックス,ヴァイオリンといったオーケストラやジャズの影響を色濃く反映させた新時代のポスト・ロックバンド。彼らの音楽の中には、ロック、ジャズ、その他にも東欧ユダヤ人の伝統音楽、クレズマーからの影響が入り込んでいることも、このバンドの音楽性を独立独歩たらしめている要因である。


このデビュー作「For The Fiest Time」のリリース前から、先行シングル「Track X」がドロップされるなり、ロックファンの間では少なからず話題を呼んでいたが、実際にアルバムがリリースされると、その話題性はインスタントなものでなく、つまり、BCNRの実力であることが多くの人に知らしめられた。 


特に「Track X」に代表されるように、このアルバムは、閉塞した・ミュージックシーン(ミュージックシーンというのは、我々の日頃接している社会を暗示的に反映させた空間でもある)に新鮮味を与えてくれる作品だったし、言い換えてみれば、既存のロックに飽きてきた人にも、ロックって、実はこんなに面白いものだったんだという、ロック音楽の新たな魅力を再発見する重要な契機を与えてくれた作品でもあった。


これまでスティーヴ・ライヒ的なミニマル構造をロック音楽の構造中に取り入れること、あるいはテクノのような電子音楽の構造中に取り入れることを避けてきた風潮があり、それはこれまでのミュージシャンが、自分たちの領域とは畑違いの純性音楽の音楽家に対して気後れを感じていたからでもあるが、しかし、BCNRは、前の時代の音楽家たちの前に立ち塞がっていた壁を見事にぶち破ってみせた。


ブラック・カントリー、ニューロードの七人は若い世代であるがゆえ、そういった歴史的な音楽における垣根を取り払うことに遠慮会釈がない。また、そのことがこの作品を若々しく、みずみずしく、安らぎに近い感慨溢れる雰囲気を付与している要因といえるのである。


つまり、これまで人類史の中で争いを生んだ原因、分離、分断、排除、そして、差別といった概念は既に前の時代に過ぎ去った迷妄のようものであることを、ブラック・カントリー、ニューロードは「音楽」により提示している。そのような時代遅れの考えが彼らを前にしてなんの意味があろうか。


このロンドンの七人組ブラックカントリー、ニューロードの新しい未来の音楽は、それらとは対極にある概念、融合、合一、結束、そういった人間が文明化において忘却した概念を、再び我々に呼び覚ましてくれる。それがスタイリッシュに、時に、管弦楽器などのアレンジメントを介して、きわめて痛快に繰り広げられるとするなら、ロックファンは、彼らのこのNinja Tuneから発表されたデビュー作を、この上なく歓迎し、好意的に迎えいれるよりほかなくなるはずだ。


 

 

 


 

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