ラベル Post Rock の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル Post Rock の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

 



韓国ソウルのポストロック/シューゲイザーミュージシャン、Parannoulは、初のライブ・アルバムを先週末にリリースしました。このライブ音源には、ニューアルバム『After the Magic』をリリースする直前、1月14日にソウルの”KT&G Sangsang Madang Hongdae Live Hall”で開催されたフルコンサートが収録されています。

 

この日のライブは最初の5曲はソロ、残りのセットは生バンドで行われた。今回、Parannoulは9分の2022年シングル "Into the Endless Night" の46分バージョンを含む、フルバンド部分のライブアルバムをサプライズ公開した。


この日のライブのラインナップは、ボーカル/キーボードがParannoul、ベースは同じくソウルを拠点に活動する盟友的存在であるAsian Glow、ギターがYo、2ndギターがBrokenTeeth、ドラムが9SuK、トランペットがFin Fiorが担当して、「Into the Endless Night」を演奏した。

 

『After the Night』と名が冠されたこの作品は、アルバムと映像の両方でリリース。



 

 

 ポスト・ロックに関するレビューは断片的に記してきたものの、網羅的なディスクガイドについてはそれほど多くは取り上げてきませんでしたので、今回、改めてポスト・ロックの代表的なアーティストと決定盤を下記に取り上げていこうと思います。


選出に関しては現代的な音楽から見ても先鋭的なバンドの作品を中心にご紹介していきます。以前のタッチ・アンド・ゴー特集のレコメンド、日本のポストロック特集も是非合わせてご覧ください。

 

 では、ポスト・ロックというのは何なのか?? シンプルに説明しますと、その名の通り、ロックを先を行く音楽で、アバンギャルド・ロックとほぼ同意義といっても良いでしょう。ただ、これらは他のジャンルと同じく、マスロックをはじめ無数のサブジャンルに細分化されているため、相当なマニアでもなければ、その変遷を説明することは難しいので、ここでは割愛して大まかな概要のみを述べておきます。

 

 ポスト・ロックの音楽は大まかに3つに分けられます。一つは、轟音系と呼ばれるもので、MBVの轟音の次の時代に出てきた音楽です。これらは、オーケストラ音楽に近いダイナミックな編成がなされる場合もある。例えば、MOGWAI、シガー・ロス、MONOが該当する。2つ目はスティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスの現代音楽のミニマリズムを継承したロックで、Don Cabarello、God Speed You Black Emperror!が該当する。もうひとつは、ジャズの影響を受けたライブセッションの延長線上にあり、Toroise、Sea And Cakeが当てはまる。

 

 90年代前後に彗星のごとく登場したポスト・ロックの音楽は、70年代のパンクムーブメントがそうであったように、形骸化した音楽に対して新鮮なムードをもたらそうというミュージシャンの意図が込められていました。 これは穿った見方かもしれませんが、同年代のLAの産業ロックに対する反抗心もあったかもしれません。

 

 80年代〜90年代当初、ポストロックは米国で盛んになった後、海外にも広がっていき、アジアやヨーロッパでもインディーシーンを中心に盛り上がった。日本では、ToeやLITE、そしてAs Meias、台湾の高雄でもElephant Gymが台頭しています。その後、現在はジャズが盛んなイギリスにそのシーンの拠点を移し、特にロンドンを中心に前衛的なロック・ミュージックを志向するバンドが徐々に増えている。


 一例では、ロンドンのブラック・ミディやBC,NR、また、ドライ・クリーニングやキャロラインも明らかにポスト・ロックの範疇にある音楽に取り組んでいます。これは、ロンドン近辺の若者が普通に米国のアメリカーナやエモ、ポスト・ロックに親しんでいることの証明ともなっている。

 

 そして、当初のシカゴやルイヴィルのシーンを見るとわかるように、これらのロックの次の時代を象徴する新しい音楽というのは、必ずしもオーバーグラウンドのシーンから出発したとはかぎりません。

 

 当初は、アンダーグラウンドに属する小さなライブスペースから発生し、音楽ファンの間でその名が徐々に知られるようになった。例えば、Minor Threat〜Fugaziと同じように、それらのバンドはDIYのスタイルを図り、少人数規模のスタジオ・ライブを行うこともあったのです。

 

 もちろん、後のポストロックが有名になっても必ずしも先駆者のバンドが世界的な知名度を得るとは限らなかった。モグワイやシガー・ロスのような一般的な存在が出てくるのは最初の出発点から見ると、だいぶ後のこと。つまり、90年代のグランジも同様ですが、新しい音楽がアンダーグランドからオーバーグラウンドに引き上げられるのには、それ相応の時間を要するわけです。

 


 

God Speed You!  Black Emperor(Canada)

 



GY!BE(God Speed You! Black Emperor)は、カナダのポストロックシーンを象徴する偉大なバンドである。現在もメンバーを入れ替え、さらにストリングス奏者を増やして活動中。


バンド名は日本の暴走族の映画のタイトルに拠る。一般にいうポスト・ロックというジャンルの大まかな印象は、このバンドの音楽を通じて掴めるといっても過言ではない。ライヒのミニマリズムに根ざした曲の構成、チェロやヴァイオリンの導入、リバーブとディレイをかけた音響系のギターの音作り、映画のような会話やアンビエンスのサンプリングを導入し、物語調の音楽を紡ぎ出す。

 

GY!BEの楽曲は、ほとんどが10分を越えで、20分以上に及ぶ場合もある。大掛かりな曲がほとんどであるが、一曲の中に複数の小曲が収録され、それらの音のタペストリーが映写機のように連続していく。ライブではギタリストが椅子に座って演奏し、フィードバックを最大限に活用する。これまでのライブでは、ステージの背後にプロジェクターを設置し、映像と音楽を同期させるインスタレーション風のパフォーマンスを行っている。

 

米シカゴのクランキー・レコードから2000年発売された伝説的名盤『Lift Your Skinny Fists Like Antennas To Heaven』の発売当初は、海外メディアからレッド・ツェッペリンの音楽と比較される場合もあったという話。


「Storm」のミニマリズムも魅力ではあるが、実際のところ、このアルバムに収録されている「Static」、「Sleep」は『Led Zeppelin Ⅳ』に匹敵する凄さを体感出来る。



『Lift Your Skinny Fists Like Antennas To Heaven』 2000  Kranky

 


 

Mogwai (Scotland)

 


最近では、映画のサウンドトラックのリリースや、再発、回顧録などが中心となってしまい、ライブバンドとして第一線を退いてしまった感もあるモグワイであるが、以前、ディスクユニオンのスタッフのレビューではポスト・ロックというジャンルを紹介する上で必ず出てきた。それが上記のGY!BEとスコットランドのインディーロックシーンの象徴的な存在モグワイである。

 

97年の「Young Team」がNMEの年間ベストアルバムの七位に選出され、ニューライザーとして一躍注目を浴びだ後、2000年代を通して、世界的なロックバンドとして成長していった。日本の音楽シーンとも関わりがあり、ある作品にはENVYのボーカルが参加していることでも知られる。

 

モグワイの音楽がなぜポスト・ロックないしは新しいロックといわれたのかについては、アイルランドのMBVの轟音性をアンビエント的に解釈し、反復のディストーションギターのフレーズとリズムを通じて確信的に組み立てた功績が大きいといえるだろうか。また、よく言われる叙情性溢れる轟音ロックや、静と動を通じて繰り広げられる楽曲展開については、特にグラストンベリーやフジロックのような大型のロックフェスのコンサートとも親和性が高く、2000年代以降の音楽シーンの象徴的な存在となったのは何も不思議な話ではなかった。

 

反復フレーズを中心とするシンプルな轟音のギターロックは、初見のリスナーでも音楽の持つ世界に簡単に入り込むことが出来る。


今はなき日本の富士銀行をアートワークにあしらった「Young Team」、「Come On Die Young」を薦める方も少なくないと思われるが、ここでは、美麗なメロディーと轟音性が生かされた「The Hawk In Howling」を入門編として推薦したい。このアルバムに収録されている「I'm Jim Morrison,I’m Dead」、「Thank You Space Expert」は音響系のポスト・ロックの金字塔とも称するべき名曲である。なお、モグワイのスチュアート・ブレイスウェイトは現在、Silver Mossとして活動を行っている。

 

 

『The Hawk In Howling』 2008 Wall Of Sound Ltd.

 


 

Sigur Ros(Island)



現在来日公演中のビョークとともにアイスランドの象徴的な存在であり、またモグワイとともにポストロックの象徴的な存在であるヨンシー率いるシガー・ロス。1994年に結成、現在も活動中、昨年、『Art Of Mediation』をリリースしている。後の時代には、ステージでビョークと共演を果たしている。ライブではボーカルとともにヨンシーがバイオリンの弓を使用する場合もある。

 

シガー・ロスは、音響系と呼ばれるポスト・ロックのサブジャンルに属するバンドである。アンビエントや環境音楽とモグワイと同じように轟音性の強いロックを融合させ、90年代以降のロックシーンに革新性を与えた。それに加えて、フロントマン、ヨンシーのアイスランド語のボーカルを交えた音楽性は後の米国のExplosion In The Skyのようなバンドのお手本に。加えて、アイスランドの国土の気風の影響を受けた美麗なロックミュージックはそれ以前のU2の後の時代のロックミュージックとして多くのファンから受け入れられることになった。

 

その後、アイスランドにはヨハン・ヨハンソン、オーラブル・アーノルズとポスト・クラシカル/モダンクラシカルに属するミュージシャンが数多く出てきて、そして世界的な活躍をするようになった。そういった意味では、以前の記事でも書いたことなのだが、ビョーク、及びシガー・ロスはこれらの後続のミュージシャンの活躍への架け橋ともなった重要なアーティストなのである。音響系のポストロックとしてシガー・ロスは良盤に事欠かないが、お薦めとして、『agaetis byrjun』を挙げておく。この作品では、俗に言う音響系と呼ばれるアンビエントとロックの融合という革新的な音楽性の核心に迫ることが出来るはずである。

 

 

『Agaetis Byrjun』 1999 KRUNK

 

 




 

 

Rachel's (US)

 


ケンタッキー/ルイヴィルシーンでSlintとともにポスト・ロック/マスロックシーンの先駆的なグループ、Rachel's。現在はピアノ奏者としてモダンクラシカルシーンで活躍するレイチェル・グリムを中心に、Rodanのギタリスト、ジェイソン・ノーブルを擁する室内楽に近い編成のアート集団である。弦楽器とピアノを交えたバンドとして、91年からジェイソン・ノーブルが死去した2012年まで活動した。図書館のようなスペースでDIYの活動を行っていた。

 

それほど多作なアート集団ではないが、二十年間の活動の間にリリースされた作品はマニア向けではありながら、実験音楽として軒並み高いクオリティーを維持していた。活動開始から四年後に発表された95年のデビュー作『Handwrinting』は、カナダのGY!BEにも強い影響を及ぼしたと思われる。オーケストラにおけるミニマリズムとロックの融合の原型が「M.Dagurre」に見出せる。芸術家、エゴン・シーレを題材にした「Music For Egon Shiele』もオーケストラの室内楽として高いクオリティーを誇る。

 

彼らレイチェルズの入門編としては、2003年の最後の作品『System/Layers』をおすすめしたい。レイチェル・グリムスのピアノの演奏を中心に、ミニマリズムに触発された音楽性とジブリ音楽のような情感豊かな弦楽器のパッセージが劇的な融合を果たした傑作。全キャリアを通じて唯一のボーカルトラック「Last Things Last」を収録している。必ずしも、ロックの範疇にはないグループではありながら、後続のポストロックシーンに与えた影響は計り知れない。

 


『System/Layers』2003 Quartersticks  



 

Tortoise(US) 

 

 


いわゆるシカゴ音響派のくくりで語られることも多いトータス。現在のインディーズシーンで象徴的なミュージシャン、元Bastroのメンバー、ジョン・マッケンタイア、後に同地のジャズシーンの象徴的な存在になるジェフ・パーカーを中心に結成された。

 

ジャズを始め、様々な音楽が盛んなシカゴの気風を反映したアバンギャルドロックバンドである。 タイトルを冠したデビューアルバムではジャズを反映させた実験的なロックバンドとして台頭したが、続く96年の『Million Will Never Die』でシカゴ音響派と呼ばれるジャンルを確立。97年の「TNT」では時代に先んじてレコーディングにラップトップを導入し、ハードディスクレコーディング(Pro Tools)を採用し、 ユニークなサウンドを打ち出して成功を収めた。それまでバンドは演奏をテープに録音し、その後にデジタル・リマスターを施していた。

 

『TNT』はポストロックの先駆的なアルバムである。 ロックとコンピューターレコーディングの融合というのは現代的な録音技術としては一般的に親しまれる手法となったが、最初にこの音楽性にたどり着いたのは、RadioheadとTortoiseであった。現在も定期的にライブを開催しており、実際のライブセッションにおけるアンサンブルの超絶技法は、その場に居合わせたオーディエンスを圧倒する。レコーディングバンドとしてもライブバンドとしても超一流のグループである。PitchforkのMidwinter 2019での『TNT』のフルセットはトータスのキャリアにおいて伝説的なライブに数えられる。

 

 

『TNT』1998 Thrill Jockey

 


 

 

Battles(US)

 

 

ニューヨークのダンスロックバンド、Battlesは、Helmetのドラマー、ジョン・ステニアー、Don Caballeroのイアン・ウィリアムズを中心に結成。現在は脱退してしまったが、タイヨンダイ・ブラクストンが10年まで参加していた。またバンドは、7年、11年、16年にフジロックフェスティバルで来日公演を行っている。英国のダンスミュージックの名門、ワープ・レコーズと契約し、実験的なダンサンブルなポストロックバンドとしては当時、最大の成功を収めた。

 

知るかぎりにおいて、これだけシンバルの位置を高くするドラマーをいまだかつて見たことはない。シンバル(金物)の音の抜けを意識していると思われるが、実際のライブや映像を見ると、本当にびっくりする。


バトルズのポストロックバンドとしての最大の特徴は、変拍子を交えたテクニカルな構成力もさることながら、イアン・ウィリアムズが持ち込んだドン・キャバレロ時代のギターロックの革新性をダンサンブルなロックとして受け継いだことにある。デビューアルバム『Battles』はポストロックというジャンルにとどまらず、ロック・ミュージックの名盤に上げてもおかしくないような傑作である。

 

しかし、こういった以前には存在しなかった前衛的なサウンドが完成するまでに実に20年もの月日を費やしている。それ以前にメインメンバーの二人が90年代のUSアンダーグラウンドシーン、ドン・キャバレロやヘルメットのメンバーとして十分な実験を重ねた末に生み出されたものであり、この音は決して、一年や二年で考案されたものではない。特に、ドン・キャバレロのミニマリズムに根ざしたマスロックの要素がクラブミュージックのキャッチーさと組み合わさることで唯一無二の音楽が生み出されたのである。

 

 

『Mirrored』2007 Warp

 


 

toe(Japan)

 


海外でポストロックというジャンルが隆盛をきわめるにしたがい、2000年代の日本でもこのシーンに属するバンドが登場する。

 

日本の新宿を中心とするポスト・ハードコアのコンテクストから言うと、既にENVYがポストロックに近い作風を2003年の『Dead Sinking Story』で確立していたが、その後のジェネレーションがいよいよ登場するようになった。これらのシーンにあって、最初は3ndなるホーンセクションと変拍子を交えたアバンギャルドロックバンドが台頭、その後、パンク/ハードコアシーンで活躍していたBluebeard/There Is A Light That Never Goes Outのメンバーを中心に結成されたAs Meias,LITE、そしてtoeが 00年代のシーンを担う。最近、ロックダウン時に毎日新聞のインタビューに登場し、アーティストとしての提言を行っている。

 

toeの音楽に関して言えば、ミニマルの影響を交えたテクニカルで複雑な構成力を持つロック、いわゆるマス・ロックの典型例である。しかし、一方で、これらのマニア向けのコアな音楽性の中にも、エモーショナルな雰囲気と日本語のポップスの影響を交えたわかりやすい音楽性がtoeの最大の魅力。2000年代に国内のシーンで頭角を現したtoeは、その後、日本の全国区のロックバンドとなり、以後、LAでのライブを成功させ、その名を現地のシーンにとどめた。

 

オリジナル・アルバムとしては、2015年の『Hear You』を境にリリースが途絶えているtoeではあるものの、彼らの入門編としては代表曲「グッド・バイ」(シンガーソングライター、土岐麻子が参加したバージョンもあり)を収録した2009年の『For Long Tomorrow』がまず先に思い浮かぶ。

 

このアルバムに見られる変拍子に象徴されるテクニカルな構成力、及び、ポリリズムを交えた立体的なフレーズの組み上げ方は、日本のシーンに実験的なロックがもたらされた瞬間を刻印したと言えよう。また、LITEと同じく、邦楽ロックという観点から洋楽をどのように解釈するのかという点でも、バンドはこの作品にたどり着くまでかなりの試行錯誤を重ねた形跡もある。ライブバンドとしてのダイナミックな迫力と内省的なエモーションを兼ね備えた決定盤である。下記の「グッド・バイ」の映像はLAでのライブを収録。 現地の観客の日本語の熱いシンガロングにも注目したい。

 

『For Long Tomorrow』 2009 Machupicchu Industries




Elepahnt Gymー大象體操 (Taiwan)



アジアのシーンにも波及したポスト・ロックのウェイブは、日本のみならず、台湾にも新しい風を吹き込むことになり、海に近い高雄からエレファント・ジム(大象體操)という象徴的な存在を輩出する。2012年結成と比較的新しい歴史を持つエレファント・ジムは、兄弟のKTChangとTellChang、ドラマーのChia-ChinTuにより構成されている。昨年、二年ぶりとなるフルレングス『Dreams』のリリース記念を兼ねてフジロックで来日公演を行っている。

 

近作で、エレファント・ジムはSF的な世界観を交えた近未来を思わせる実験的なロックに取り組んでいるが、当初、バンドは先行のポスト・ロックバンドと同様、ミニマル・ミュージックの影響を絡めたマス・ロックのバンドとしてミュージックシーンに登場している。実際のライブやライブを収録したAudio Treeシリーズのバージョンでは、KT Chanのタッピングをはじめとするテクニカルなベースの演奏を楽しむことが出来る。しかし、現時点での決定盤としては以前紹介しているとおり、2016年のEP『工作』が入門編として最適。マス・ロックの象徴的なミニマルのフレーズと、シティ・ポップに近い雰囲気を持つ中国語の柔らかいフレーズを交えたKT Chanのボーカルが合わさり、バランスの取れたポストロックサウンドが生み出されている。

 

また、バンドは、日本語歌詞でも歌い、来日時のライブではMCを日本語で行うこともあるのだとか。日本での活躍にも期待したい。

 

 

Elepant Gym 『Work (工作)』 2016 EP

 


 


Black Midi(UK)



以後の時代になると、ロンドンにもポスト・ロックのウェイブが押し寄せることに。昨年、最新作『Hellfire』を発売し、来日公演も行ったロンドンのアバンギャルドロック・バンド、ブラック・ミディはイギリスのアバンギャルドロック・バンドの中で強い存在感を放つ魅力的なグループである。デビュー当初はドイツのCANを始めとするクラウト・ロックの影響を絡めた前衛性の高い作風でロンドンのシーンに名乗りを上げる。最初の作品のリリース後、マーキュリー賞にもノミネートされ、受賞こそ叶わなかったがパフォーマンスを行っている。

 

現在は、サックス奏者を交えた四人組として活動しているが、キング・クリムゾンのプログレッシヴロックの要素とミュージカルのようなシアトリカルな要素が劇的に合致し、唯一無二の作風を昨年のサードアルバム『Hellfire」で打ち立てることになった。

 

ファースト、2nd、3rdと毎回、若干の音楽性の変更を交えた作品としてどれも違った魅力があることは明白であるが、このバンドの醍醐味を味わう上では現時点でバランスの取れた3rdアルバム『Hellfire』を入門編としておすすめしておきたい。前作の「John L」から引き継がれた音楽性は、このバンドの持つ超絶的な演奏技術により、無類の領域へと突入しつつあるようだ。このフリージャズの要素は、プログレッシヴ・ロックとスラッシュメタルの方向性へと突き進んでいき、3作目の「Welcome To Hell」で結実を果たす。また、二作目から受け継がれたミュージカル風の音楽やバラードもまたブラック・ミディの音楽の醍醐味のひとつ、つまり代名詞のような存在となっている。今後、これらの作風はどのように変化するのか今から楽しみで仕方がない。


 

 

「Hellfire」2022 Rough Trade





Black Country,New Road(UK)

 



こちらもロンドンのポストロックシーンを代表するブラック・カントリー、ニュー・ロード。メンバーのサイドプロジェクトには、Jockstrapがある。昨年、アイザック・ウッド参加の最後の作品となった 2ndアルバム『Ants From Up Here』をリリースし、またフジロックでも来日公演を行っている。

 

現在、バンドはフロントマンの脱退後、新編成でライブを開催しつつ、新曲を試奏しながら練り上げている。今後、どのような新作が登場するか、心待ちにしたい。ライブ盤としては先週末に発売された『Live at The Bush Hall』がファンの間で話題となり、バンドの代名詞的なリリースとなっている。

 

前時代のポストロックシーンの音楽性を踏襲し、ジャズの影響をセンスよく織り交ぜ、弦楽器を交えてライヒのミニマリズムを継承したロックサウンドは、ロンドンのシーンを活性化させた。ファーストアルバムのアートワークについても、インターネットの無料画像を活用し、それを印象的なアートワークとならしめた点についても、現代のティーネイジャー文化の気風をセンス良く反映させたといえる。BC,NRもブラック・ミディと同様に、最初のアルバムがマーキュリー賞にノミネートされ、一躍国内の大型新人として注目を浴びるに至った。

 

『Live at Bush Hall』 2023  Ninja Tune



 


ロンドンのポスト・ロックバンド、Black Country,New Road(ブラック・カントリー、ニュー・ロード)は、アイザック・ウッド脱退後、新しいセットリストをクンでライブツアーを開催しています。これらの未発表の新曲は、12月にロンドンのブッシュ・ホールで行われた3回の公演を撮影した「Live At Bush Hall」という新しいパフォーマンス・フィルムとして発表される。


「スタジオ・アルバムを作りたくなかったんだ」とピアニストのメイ・カーショウはプレスリリースで語っている。"新しい曲は特にライブで演奏するために書いたから、パフォーマンスを出すのはいいアイデアかもしれないと思ったんだ"。

 

『Live At Bush Hall』は、Greg Barnesが監督し、John Parishがミキシングを担当した。「過去に見たり、やったりしたライブ・セッションから懸念していたことがあった」とギタリストのルーク・マークは語っている。

 

複数の演奏が視覚的に明らかにまとまっているため、演奏から引き離されてしまい、人工的でライブとは思えないような印象を与えてしまう。そこで私たちは、3つの夜が互いに異なるビジュアルに見えるようにするアイデアを思いついたんです。変装するという発想がないように。私たちは、とても正直で、私たちがちゃんと3回に分けて演奏したことを人々に知ってもらいたかったのです。これは、ただノンストップで全部のセットリストを演奏しているのではないんだ。

 

 

『Live At Bush Hall』は3月24日より発売。アルバムのご購入/各種ストリーミング/公演日程等はこちらから。


 

 

©Zev Schmitz

 

アルバム・リーフことカナダのエレクトロニック・アーティスト、ジミー・ラヴァルが、7年ぶりの新作LPを発表した。2016年の『Between Waves』に続く『Future Falling』は、5月5日にNettwerkから到着する。

 

最初の発表では、Bat for LashesのNatasha Khanとコラボしたニューシングル「Near」が公開されています。アルバムのアートワークとトラックリストは以下の通りです。


LaValleは「Near」について、「私はNatashaに私が作っている曲を送って、彼女がコラボしてくれるかどうか確認したんだ」とLaValle(ラヴァル)は語っている。

 

私たちは午後、私のスタジオで過ごし、彼女はその曲の上でいくつかのアイデアを歌った。私はそれらのアイデアを取り入れ、彼女のボーカルに触発されて新しいものを作りました。彼女が描く夢のような物語をサポートするようなものを作りたかったんだ。全てはとても自然なことでした。


カーンは、「私たちは有機的に仕事をし、私はジミーの音楽の上でボーカルを作り、メロディーと言葉で遊びました...そして彼はそれを取り上げて、『Near』になるように彫刻したのです。暗い森の奥深くへ入っていくようなイメージで、何か貴重で秘密めいた小さな安全が垣間見える。アンビエントなおとぎ話のようなものです。とても自発的で、即興で作るのが楽しかった。"


新作『Future Falling』の背後にあるプロセスについて、LaValle(ラヴァル)はこう説明した。


パンデミックの間、私はほとんど毎日新しい音楽を作りました。私は、自分が関係あると感じる膨大な量の新しい素材を蓄積しており、それはほとんど障害物のように作用していました。アナログ・シンセサイザーへの愛に忠実でありながら、新しい技を学び、多くのオーディオ・マニピュレーションを実験しました。

最終的に1曲のコレクションに落ち着き、すべてを再検討した後、複数の友人や協力者に連絡を取り、楽曲を提供してもらいました。これらの貢献により、私が常にインスピレーションを受けているコラボレーション・スピリットを保ち、一人で発見し、創造の時間を表現するレコードを作ることができたのです。


 

 

 

Album Leaf 『Future Falling』 

 

 

 

Label: Nettwerk Music Group


Release: 2023/5/5

 

 

Tracklist:


1. Prologue

2. Dust Collects

3. Afterglow [feat. Kimbra]

4. Breathe

5. Future Falling

6. Cycles

7. Give in

8. Stride

9. Near [feat. Bat for Lashes]

10. Epilogue

 

Pre-order:

 

https://thealbumleaf.bandcamp.com/track/future-falling 


Silver Moth(Via Bella Union)
 

スコットランドのポスト・ロックバンド、Mogwai(モグワイ)のStuart Braithwaite(スチュアート・ブレイスウェイト)を中心とする7人組の新プロジェクト、Silver Moth(シルバー・モス)が遂に始動します。

 

バンドは、デビュー・アルバム『Black Bay』を発表、最初のシングル "Mother Tongue "を公開しました。『Black Bay』は、Bella Unionから4月21日にリリースされる予定です。アルバムのトラックリストとカバーアートと合わせて、「Mother Tongue」を以下でチェックしてみてください。


Silver Mothは、Braithwaiteのほか、Elisabeth Elektra、Evi Vine、Steven Hill、Abrasive Treesのギタリスト/ソングライター、Matthew Rochford、Nick Hudson、ドラマー、Ash Babb、チェリスト、Ben Robertsが参加しています。Twitterでのやりとりをきっかけに、Zoomでミーティングを重ね、最終的にスコットランドのルイス島にあるBlack Bay Studiosで、プロデューサーのPete Fletcherとレコーディングを行ったのが、このプロジェクトの始まりでした。


「Black Bayに行くまではお互いのことを知らなかったから、スタジオに着いた途端、すごくクリエイティブなモードになった」と、Elisabeth Elektra(エリザベス・エレクトラ)は述べている。「私たちはバブルの中にいて、集団的な悲しみが続いてたから圧力釜のようなものだった。でも、そこから真の美しさが生まれたんだと思う」


Evi Vine(エヴィ・ヴァイン)は、「私たちは一度も会ったことがないのに、パワフルで美しく、天を衝くようなものを作ることができると、心の中ではわかっていました」と言います。「私たちは、確かなものに囲まれて、繰り返しの中で人生を過ごしています。理解したと思っていることを脇に押しやることも時には重要です。予期せぬ時に変化が訪れ、私たちは迷うのですからね。」

 

「Mother Tongue」




Silver Moss 『Black Bay』



Label: Bella Union

Release: 2023/4/21
 

Tracklist:


1. Henry
2. The Eternal
3. Mother Tongue
4. Gaelic Psalms
5. Hello Doom 
6. Sedna
 

Pre-order:


https://ffm.to/silvermoth-blackbay

 



デトロイトのポスト・ロックバンド、Fireworksが9年ぶりのアルバム『Higher Lonely Power』を元旦にリリースしました。本作は、自主レーベル、Funeral Plant Collectiveからの発売されている。


「私たちは一緒に創作する機会に感謝し、バンド名や販売店に関係なく、活動休止中も創作を続けていました」ギタリストのChris Mojanはこう語っています。「Higher Lonely Powerは、バンドで演奏することから来るプレッシャーや期待なしに、自分勝手で自己表現する機会を与えてくれた。俺たちは、まず、良くも悪くも、個人的なことをやり遂げる必要があったのです」

 

『Higher Lonely Power』には2019年のカムバック・シングル「Demitasse」は収録されていないが、ニューシングルが示唆していたように、このアルバムはFireworksの最初期の音楽性から大きく飛躍している。

 

エレクトロニクスを取り入れたアート・ロックからメタリックなポスト・ハードコア、ストリングを多用した、スウィープなクライマックス、アトモスフェリックなドリーム・ポップ、ブレイクビーツ、Fireworksの初期のパンキー・エモ・ポップのドライブ・エネルギー、その他、いくつかのジャンルや形容詞では容易に説明できないものに至るまで、常に変化する旅であると言える。

 

 

piget ©︎Holly  Whitaker


 アイルランド出身のソングライター兼プロデューサー、Charlie Loaneのプロジェクトpigletが、7曲入りのニューEP『Seven Songs』を、11月25日にBlue Flowersよりリリースすると発表しました。本日、pigletは、リード・シングル「to you tonight」を、映像作家Harv Frostによるミュージック・ビデオとともに公開しました。そのPVは以下よりご覧いただけます。


「to you tonight」について、Charlie Loaneは声明の中で次のように語っている。"私の意図は、私のパートナーと私たちの関係によって私の人生に加えられた愛と喜びを反映し、祝福する曲を書くことでした。" "一方で、私が考えるに、ラブソングが陥りがちな落とし穴を避けるために最善を尽くしました。"


"多くの場合、愛は所有者の感情によって曲の中で表現される "と彼は続けた。「永遠への執着、ジェンダーの固定観念、不健康な献身への非現実的な期待など、私たちには必要ないものだと思います。成功したとは言わない-それは聴いた人がどう思うか次第だけど-でも、それがアイデアだったんだ"。


「to you tonight」は、「mill」、「dans note」、「oan」などのpigletのソロシングルに続く作品となる。UKのインディーロックバンド、Porridge Radioとの2曲のコラボ曲も発表されている。

 

   

 

 

pigelet  『Seven Songs』 EP 

 


 

Label:  Blue Flower

Release:  2022年11月25日


ーFeatured Artistー

   ロンドンから登場した次世代のポストロック デビュー・アルバム誕生の背景とは

 

Caroline

 

 

Caroline

 

 最近、イギリスでは五人以上のメンバーを持つ大編成のコレクティヴが数多く活躍している。以前、マーキュリー賞にノミネートされたBC,NRがその筆頭に挙げられる。これらの2020年代のロックバンドは、以前のインディーロック・バンドにあった実験性と、ミニマル・クラシカルにあるような作曲技法を巧みにオルト・ロックと掛け合わせて前衛的な音楽を作り出している。そして、次に大注目を集めるのが、マンチェスター/ロンドンから登場したCarolineとなる。

 

Carolineは、最近のコレクティヴと呼ばれる体制をとり、8人という大編成からなる。その中には、ギター、ドラム、ベースというシンプルなバンドの構成に加え、チェロ、バイオリン、アイルランドの民族楽器、フィフォルといったオーケストラの楽器まで内包される。キャロラインが目指すのは、インディーロック、フォーク、オーケストラ、民謡のクロスオーバーなのである。

 

キャロラインは、2010年代の後半にバンドを結成し、実験的なジャムを重ねた後、ラフ・トレードの創設者、ガレージロックやレゲエのムーブメントをUK国内に定着させたジェフ・トラヴィスに言わば見初められた形となった。先行シングルを発表したのち、2022年始めにセルフタイトルのアルバムを発表した。ミニマル派の音楽を特徴としながらも、ミッドウエストエモ、アパラチアンフォーク、ポストロック、様々な音楽を吸収した新しい音楽はどのように生まれたのか。

 

彼らは、デビュー作の発表により、国内に留まらず、世界的に知られるようになっている。そして、耳の肥えたファンを唸らせた実験的で情感豊かなサウンドには、エモ、コンテンポラリーフォーク、2000年代以前のケンタッキー州ルイヴィルのミュージックシーンに象徴されるミニマル構造のポスト・ロック、オーケストラの室内楽、教会で聴かれるようなコーラスチャントまで広範な音楽性が内包されている。

 

先鋭的であり、実験的なサウンドは繊細さに加えて覇気すら感じられるが、そのバンドとしての出発点は、意外にもこれらの後の成功とはほど遠いところにあった。コレクティヴとしての出発点は、実は、このバンドの中心人物である、ジェスパーですらおぼつかないものであったのだ。

 

コレクティヴとしての船出、それは数年前のクリスマスに遡る必要がある。Carolineの中心的なメンバーであるジャスパー・ルウェリン(28歳)は、両親から、自分のバンドの曲を演奏して友人たちに印象づけるようにプレッシャーをかけられていたのだという。"両親は、「キャロラインの曲をかけてみて」と言ったんだ "と彼は振り返る。「私はまず、"Dark Blue"を演奏しました。そのとき、みんな、沈黙して気まずくなってしまった。彼らは、それについてどう考えていいのかわからなかったんでしょう」


彼のバンドメイトであるキャスパー・ヒューズもまた28歳であり、同じような経験を同居人にしたそうなのだが、彼はただこう勇ましく言ってのけた。「君はこれを演奏することで僕に挑戦してきたんだ "とね」と、3人目の結成メンバーである、マイク・オマリー(29歳)は最初期を回想している。


 アルバム発表前の先行シングルとしてリリースされた「Dark Blue」は、シングル・バージョンとアルバム・バージョンの異なるパターンで発表されているが、この曲は、このロンドンのバンドの印象を明瞭に決定づけた楽曲である。ミッドウエスト・エモ、ミニマル・クラシック音楽、アパラチアン・フォーク、コーラス・チャントを融合して構築されたこの曲は、このキャロラインという存在を象徴づけており、不協和音を特性を活かしつつも、内的な喜びに溢れている。

 

シンプルなリフが執拗に繰り返され、フィドルを始めとする多くの楽器が重られつつ、反復的なラヴェルの『Bolero』やライヒの「Octet」のような構造により、盛り上がるアンセムに発展してゆく。 それは、同音反復により足がかりを付け、その内向きのエナジーを徐々に増幅させていくのだ。この曲は徹頭徹尾、通奏低音のような形で、ギターのリフを反復させているが、同じ楽節を繰り返しながらも、複雑なオーケストラの楽器がこれらのモチーフと重なりあうことで、この曲のクライマックスではイントロとはまったく異なる境地に到達するのである。

 

「Dark Blue」は、ケンタッキー州ルイヴィルのSlintのように緻密でストイックな構成であるとともに、スコットランドのMogwaiの傑作『The Hawk Is Howling』の収録曲「Thank You Space Expert」のような際限のない壮大さを併せ持つ、おそらく、これがイギリス国内の音楽メディアでも、時に、キャロラインの音楽がモグワイが引き合いに出される理由なのだと思う。しかし、Carolineの壮大さは外側にむけて轟音が膨らんでいく印象を持つモグワイとは対極にある徹底した抑制と内省にある。内側にむけてベクトルが強められていくようにも感じられるのだ。

 

 

「Dark Blue」Single Version

 

 

 

 Carolineは、2010年代半ばにマンチェスターの大学で結成された。ギター兼ボーカルのヒューズがドラム兼チェロ兼ボーカルのルウェリンと「ある種のポスト・パンク」を始めたことから誕生したグループだった。マンチェスターからロンドンに活動の拠点を移した2017年には、ジャスパー・ルウェリンの古い仲間であり、10代の頃に立ち上げた「酔っ払ったアパラチアのフォーク・グループ」で一緒だったギタリストのマイク・オマリーが加入した。これでグループの骨組みが整えられた。


そこから、キャロラインは、長い期間のジャムセッションを通じてこれらの原型となった音楽に丹念に磨きをかけていった。まず、ヒューズの友人で、トランペッター兼ベーシストでもあるフレディ・ワーズワース(26)と共に、パーカッショニストのヒュー・アインズリー(28)とフィドラーのオリヴァー・ハミルトン(28)が参加し、彼の「うっとおしいほどのバイオリン」が「Dark Blue」とその後のバンドのフォークテイストのジャムを顕著に特徴づけていたのだ。


グループの名を決定しないままで、”彼ら”は実験的なジャムセッションを続けた。その後、彼らは、1年半以上の個人的な演奏を経て、遂に、2018年にcaroline(明確に説明されることのない名前)というバンド名を名乗るようになったのである。


もうひとりのフィドラー、マグダレナ・マクリーン(28)は、オリヴァー・ハミルトンのライヴの代役を務めてグループのソックスを吹き飛ばした後に加入し、それから、フルート、クラリネット、サックス奏者のアレックス・マッケンジー(27)はバンドにDMを送った後に加入を果たしている。


「このバンドは、結成当初から実にさまざまな形態に変化してきた」とヒューズは言う。当初は、小さなアイデアやテーマをループさせながら実験して、出来上がったものに「興奮する」ことが活動の全てだったという。「それは、たくさんの人が出会って、早い段階で仲良くなり、お互いを理解するのと同じことなんだ」と彼は説明する。


一方のジャスパー・ルウェインは、多くのアーティストや影響を受けていることが、Carolineのスタイルの核になっていると説明している。


"異なるものが一緒に同時に起こっているような、同じ全体の中にすべてが含まれているような、でも、それが独自の唯一無二のキャラクターを持っているような感じだ"。

 


 2022年のはじめ、彼らはセルフタイトルのデビューアルバムをラフ・トレードからリリースした。これはロックダウン中に録音されたにもかかわらず、再生と楽観主義のメッセージが込められており、全体を通して、静寂とノイズ、光と闇、希望と実存の恐怖が交錯し、音楽のリフレインが繰り返されている。何よりも、この作品は、即興的な感じがあり、フリージャズのような自由さに象徴づけられる音楽が中心となっている。しかし、マイク・オマリーは、「意外にも、それらの実験性が実際に聞こえる以上にコントロールされている」と断言する。

 

Caroline 『Caroline』

 

例えば、アルバムの六曲目に収録されている「Engine (eavesdropping)"」のクライマックスでは、フォーリーサウンドと切り取られたサンプルが使われている。ストリングスの下で鳴る機械音は、産業と牧歌の両側面を示すサウンドスケープを生み出している。


デビュー・アルバム『Caroline』は、複数の場所で録音され、異なる場所の音響効果がそのまま生かされている。彼らは、デジタルの不自然なエフェクト処理を厭い、その場所の持つ音響効果を自然に作品の中に取り入れている。これは、UKの現代音楽家、ギャヴィン・ブライヤーズのタイタニックシリーズの演奏のように、演奏上の実験にとどまらず、音響学的な実験性も取り入れられていることが驚きだ。それにより、同一の作品でありながら、別の作品であるようにも感じられる。ペッカム・スタジオでの録音に加えて、ルウェリンのヴォーカルがフローリングの床に反響する "Desperately "や、空のプールで録音された という"Dark Blue"、"Skydiving onto the Library Roof "など、『caroline』にはリビングルームでの録音まで収録されているのだ。


去る年の1月に行われたロイヤル・フェスティバル・ホールでのコンサートでは、新譜からのカットを演奏する代わりに、その会場で5時間に及ぶ即興演奏を行い、キャロラインの活動意欲は頂点に達したのだった。

 

「このアイデアは、観客が席を立ち、戻ってきたときに、1時間か2時間、ドリンクを飲んだり、他のことをしていたときに、私たちがずっと演奏していたことに気づくというものでした」とルウェインは言います。ところが、この実験演奏に観客は釘付けになり、ほとんどの人が最後まで残ってていたので、バンドのメンバーは驚いた。彼らは、その日会場に居合わせた観客が「終わりのないプロセス」に耐えられるかどうか疑っていた。しかし、彼らの実験的な演奏は多くの観客に好意的に受け入れられた。それは、キャロラインの音楽、そして彼らの存在が認められた瞬間でもあったのだろう。


そのときのライブに居合わせたジャスパー・ルウェインの父親は、クリスマスのあの気まずい演奏があったにもかかわらず、3時間も滞在していた。つまり、彼の父親は、彼の音楽の世界一の隠れたファンでもあるのだろう。しかし、ヒューズは、この日の演奏が非常に困難をきわめたことを暗に認めている。「あのときはクールだったけど、緊張しました」と彼は後になって語っている。「本当に疲れたし、終わった後、少しおかしくなったような気がしました。精神状態がとてもおかしかったんだ」

 

さらに、もうひとりのバンドの中心人物のマイク・オマリーにとってこの日のライブは大きな手応えとなった。それは彼らが何年もスタジオに閉じこもって制作してきた音源を、たくさんのオーディエンスが一緒に共有する準備が整ったという証拠でもあった。「他の人たちがグループとしてそういうことをしているのを目撃するのは、ある種、瞑想的なことなんだ」と彼は話している。




デビュー・アルバム『Caroline』の成功で、国内にとどまらず、海外にもロンドンの8人組、Carolineの名を轟かせることになった。もちろん、日本でもすでに耳の肥えたロックファンの心を惹きつけてやまない。

 

 こういった実験的なポストロック/アヴァンギャルド・フォーク作品が、なぜ海外でも一定のリスナーに快く受け入れられたのかは、これらのエピソードに見られる豊富な演奏経験、強かな実験性に裏打ちされたものなのである。このアルバムは商業的には大きな成功を収めなかったが、次世代に聴き継がれていく作品であることに疑いはない。これからの、彼ら、いや、Carolineがどのような新鮮な息吹をミュージックシーンにもたらすのか本当に楽しみで仕方がない。

Mogwai

 

  スコットランドのポストロックバンド、Mogwai(モグワイ)は来年、記念すべきファーストアルバム『Mogwai Young Team』と『Come on Die Young』をダブルゲートフォールド盤でリリースする予定です。今年、モグワイは、夏に来日公演を行っています。


現在はなき富士銀行を映し出したジャケットとして余りにも有名である1997年の実質的なデビュー作『Young Team』と、1999年のアルバム「Come On Die Young』は、それぞれ青と白のレコードで、オリジナルのトラックリストはそのままに、Chemikal Undergroundから来年2月10日にリリースされます。リマスターされた前者は、CDとデジタルでも再発される予定です。


モグワイのスチュアート・ブレイスウェイトは最近、回顧録『Spaceships Over Glasgow』を発表しています。10代のバカ騒ぎ、人生全般、ギグ、モグワイでの演奏について "Mogwai and Misspent Youth "と題された回顧録を発表している。


 

『Mogwai Young Team』

 

 

Side A

1. Yes! I Am A Long Way From Home
2. Like Herod
 
Side B
 
3.  Katrien
4.  Radar Maker
5. Tracy
 
Side C
 
6. Summer (Priority Version)
7. With Portfolio
8. R U Still In 2 It
 
Side D
 
9. A Cheery Wave From Stranded Youngsters
10. Mogwai Fear Satan
 
 
 
 Pre-order:
 
 
 
 
 
『Come On Die Young』


 

Side A

1. Punk Rock:
2. Cody
3. Helps Both Ways
4. Year 2000 Non-compliant Cardia
 
Side B
 
5. Kappa
6. Waltz For Aidan
7. May Nothing But Happiness Come Through Your Door
 
Side C
 
8. Oh! How The Dogs Stack Up
9. Ex-Cowboy
10. Chocky
 
Side D

11.  Christmas Steps
12.  Punk Rock/Puff Daddy/Antichrist
 
 
pre-order:
 
 


 Their / They're / Thereは、今年初めに2013年のEP以来、PacemakerとのスプリットEPで静かに復活を遂げている。以前、マイク・キンセラが在籍していたことで知られるシカゴのマスロックバンドです。

 

今回、T/T/Tは、エヴァンのStorm Chasers Ltdからポリビニールと提携し、初のフルアルバム『Their / Their're / Three』を10/21にリリースすると発表しました。現時点では、日本国内での販売が行われるかは未定。Storm Chasers Ltdの公式サイトから先行予約が可能となっております。


バンドのオリジナル・ドラマー、Mike Kinsella(マイク・キンセラ)の後任として、今回新たに、Jared Karns (Kiss Kiss, Hidden Hospitals, Djunah)を迎えてレコーディングが行われている。

 

新作アルバム『Their / Their're / Three』のファースト・シングルとして 、「Living Will Or Living Well」が公開されています。エヴァンの紛れもない叫びのメロディーと、マニアックなギター・ワークからは、T/T/Tの絶好調ぶりがうかがえる。このシングルは下記よりご試聴下さい。

 

 

 「Living Will Or Living Well」

 

 

 

 

Their / They're / There   『Their / Their're / Three』 

 



Tracklist:

 

 
A1: A Symphony Of Sparrows
A2: All In All We All
A3: A Patient (Cured) Is A Customer (Lost)
A4: Their / They're / Three
A5: Living Will Or Living Well
B1: Enemies Of Every Feather
B2: The Ultimate Ideas
B3: We're Moving Pictures
B4: A Kingdom Of (Y)our Own
B5: The Meaning & The Meadow

 

Pre-order: 

 

https://stormchasersltd.bigcartel.com/product/preorder-storm037-prc-438-their-they-re-there-their-they-re-three-lp

 

 

©︎  Hörður Óttarson


アイスランドのエクスペリメンタルロックバンド、Sigur Rósが、2002年のアルバム『()』の20周年記念リイシューのリリースを発表した。『()』のリイシューバージョンは、Heavyweight Double LP/10月27日にデジタルリリース、11月25日にフィジカルリリースされる。

 

また、同アルバムの "Untitled #7 "の未発表デモ・バージョンも同時に公開されました。デモの試聴と再発盤のトラックリスト/ジャケット・アートと共に以下よりご覧ください。


プレス・リリースによると、バンドは2013年の『Kveikur』以来となる新しいスタジオ・アルバムに取り組んでいるという噂です。


 




Sigur Rós『()』 2022 Aniversary Edition

 



Tracklist
1. “Untitled #1” — “Vaka” (The name of Orri’s daughter)
2. “Untitled #2” — “Fyrsta” (The first song)
3. “Untitled #3” — “Samskeyti” (Attachment)
4. “Untitled #4” — “Njósnavélin’ (The Spy Machine)
5. “Untitled #5” — “Alafoss” (The location of the band’s studio)
6. “Untitled #6” — “E-bow” [Georg uses an E-bow on this song]
7. “Untitled #7” — “Dauðalagið” (The Death Song)
8. “Untitled #8” — “Popplagið” (The Pop Song)
9. “Untitled #7” (Jacobs Studio Sessions)*
10. “Untitled #6” (Jacobs Studio Sessions)*
11. “Untitled #8” (Jacobs Studio Sessions)*
12. “Untitled #9 — “Smáskífa” 1 (Small Disc 1)*
13. “Untitled #9 — “Smáskífa” 2 (Small Disc 2) *
14. “Untitled #9 — “Smáskífa” 3 (Small Disc 3) *
 
Pre-order on bandcamp:

 

©︎Duglas Pulman

Carolineは、ロンドンのエクスペリメンタルロックバンドで、セルフタイトルのデビューアルバム『Caroline』を、今年の2月25日にRogh Tradeからリリースしました。

 

キャロラインは、このレーベルの主宰者ジェフ・トラヴィスが絶賛したという八人組の大所帯のバンド。そして、初の北米ツアーを間近に控えているバンドは、『A Softer Focus』に収録されているClaire Rousay(クレア・ラウジー)の「Peak Chroma」のカヴァーを公開しました。

 

クレア・ラウジーは、テキサス州アントニオ出身のドラム演奏を中心とした実験音楽家です。これまで、米国のミッドウェスト・エモからの影響を公言しているキャロラインのもう一つの音楽性の源泉を伺わせるカヴァーとなっています。近年、米国のマニアックなインディーロックや実験音楽から強い触発を受けるUKのミュージシャンが増えてきているのがかなり面白いですね。


「Claire Rousayの作品は、過去2年間、私たちのインスピレーションの源でした」とバンドは声明で共有し、次のように続けました。

 

「この”peak chroma”のバージョンをレコーディングすることは、偶発的で即興的なものに対する私たちの共通のこだわりを探求する方法となったのです。

 

前半は、私たちのスタジオで演奏された即興演奏のコラージュ(サックスは、友人のネイサン・ピゴットが演奏している)で、後半は、8月にサセックスにあるキャスパーの祖父の家に滞在した際、非常に暑い3日間を通じて録音された。祖父はその直前に亡くなったので、家は空っぽで寂しかった。その家は、海のすぐそばにあり、私たちはその海で毎朝のように泳いでいた」

 

 

Blue Bendy


サウスロンドンから彗星の如く現れたセクステットのインディー・ロックバンド、Blue Bendyが4曲収録のデビューEP「Motorbike」に続き、EPカット「Clean is Core」のPVを公開しました。下記よりご覧下さい。

 

ブルー・ベンディは、フォーク/トラッドからクラウト・ロック、ポストロック、エレクトロを吸収したいかにもサウスロンドンのバンドらしい雑食性を持つ。ヴォーカルのメロディーやムードは、ポストパンクのテイストと同じ部類に入りつつも、サウンドは更に愉快さと奇妙さが入り混じったアートロックを演出する。BCNRやCarolineに近い実験的なロックバンドといえよう。


デビューEPからのシングル・カット「Clean is core」は、純粋さについて書かれた曲だという。「クリーンで、信念に忠実であるという考え ・・・それがもう本当に存在するのならね。これは何度も言われてきたことだけど、パンチラインのあるリリックには楽しいトピックだね」


3日前に公開されたMVについて、ギタリストのハリソンは、「ブルーベンディがCGがはびこる風景/ナインティーズレイヴを飛びまわりながらカラオケを披露している...お楽しみに」と語っている。

 

デビューEP「Motorbike」は今年2月11日にリリースされています。ご視聴はこちらからどうぞ。


 

Black Midi Alba Jefferson


今年、来日公演を控えているロンドンのポストロックバンド、black midiが、次作『Hellfire』からのセカンドシングル「Eat Men Eat」を公開した。この曲には、ファンが投稿した50以上の録音と、Demi García Sabatのパーカッションがレイヤー化されています。Maxim Kellyが監督したこの曲のビデオは、以下からチェックできます。


「Eat Men Eat」は、2021年にリリースされたアルバム『Cavalcade』のトラック「Diamond Stuff」で初めて登場したThe Red River Mining Companyにちなんだものです。バンドのキャメロン・ピクトンは、ストーリーコンセプトに基づいて制作された新曲について以下のように説明しています。


この物語は、砂漠で、行方不明の友人を必死に探す2人の男から始まる。彼らの探求は、その地域の天然資源が乏しいにもかかわらず、さらに奇妙なホストが彼らを歓迎するためにその扉を開く奇妙な鉱山施設に彼らを導く。


その夜、仲間の姿が見えない中、鉱山の気難しい船長によって大規模な宴会が開かれ、家族の元へ帰る前の最後の夜だからと、皆を喜ばせる長い演説が行われる。主人公たちは、疑惑の念を抱きつつも、大食いのフリをして、可能な限り食事をとらない。しかし、残念なことに、それさえも十分ではないことに気づく。夜になって、彼らは隠れ、労働者たちが昏睡状態になると、船長に監督された監視員たちは、彼らの毒入りの胃袋を汲み上げる準備をする。この鉱山の目的は、この地方で愛飲されている血のように赤いワインを作るために必要な人間の胃酸を採取することであった。


陰謀が明らかになり、仲間もいないことを知ったパートナーたちは、この施設を破壊することを決意する。しかし、一人の男が毒の軽い影響を受け、胃酸が大量に分泌されるようになったため、作業が中断された。胸が泡立つと、彼はパートナーに最後の別れを告げ、もう一人の男が一人で力仕事をすることになる。


彼は成功し、二人が腕を組んで逃げ出すと、燃えさかる炎の中から悪魔のキャプテンが現れ、二人に酸欠地獄の呪いをかける。しかし、二人は心配する必要はない。なぜなら、二人は必ずや英雄として故郷に帰ってくるからだ。


Black Midiの次のアルバム『Hellfire』は、Rough Tradeから7月15日にリリースされる。「Eat Men Eat」は、リードシングル「Welcome to Hell」に続く作品となります。


 

Ganser

 

2018年にデビューアルバム「Odd Talk」をリリースした、シカゴのポスト・パンクバンド、Ganserは、10月5日に新しいEP「Nothing You Do Matters」のリリースを発表しました。



バンドは、2020年の「Just Look At That Sky」でMia Clarkeとコラボレートした後、LiarsのAngus Andrewと共に、この新作EPのレコーディングに取り掛かっています。

 

EPのオープニングトラックとして収録されるのは、「People Watching」です。この先行シングルのリリースと同時に到着したビデオは、ゲインズとキーボード奏者/ボーカリストのナディア・ガンファロが監督を務め、「Star Wars」の実写ドラマシリーズのマンダロリアンで導入されたLED背景ディスプレイのシステムが取り入れられています。

 

 

 

 

今週末、Ganserはシカゴで公演を控え、5月30日、31日にEmpty Bottleでのライブを行います。 

 

 

「People Watching」

 

Listen/Stream On bandcamp



Caroline



キャロラインは、ロンドンを拠点に活動する八人組のロックバンド。ブラック・ミディに続いて、ラフ・トレードが満を持してデビューへと導いた”超ド級”の新鋭ロックバンドの登場である。


デビューアルバムのリリースこそ2022年となったものの、バンドとしての歴史は意外にも古く、2017年のはじめ、Jasoer Llewellyn,Mike 0’Malley,Casper Hughesを中心に結成された。当初、毎週のように即興演奏を行っていたが、後になって、バンドとして活動を開始した。

 

キャロラインは、1990年代のアメリカン・フットボールをはじめとするミッドウェスト・エモ、ガスター・デル・ソルのようなシカゴ音響派、アパラチア・フォーク、ミニマリストのクラシック音楽、ダンスミュージック、実に多種多様な音楽から影響を受けている。ミニマリストに対する傾倒を見せるあたりは、Black Country,New Roadと通じるものがある。イギリスの音楽メディアは、このバンドの音楽の説明を行う上で、アメリカ・シカゴのスリント、あるいはスコットランドのモグワイを比較対象に出している。


結成当初、明確なプロジェクト名を冠さず、一年間、謂わば、即興演奏を行っていた。小さなフレーズの演奏の反復を何度も繰り返すことにより、楽曲を、分解、再構築し、幾度も楽曲を洗練させて、音楽性の精度を高めていった。その後、ステージメンバーを徐々に増加させていき、2018年になって、初めて、バンドとしてデビューライブを行った。キャロラインは2022年までに、シングル作品を五作リリースしている。ブラック・ミディに続いて、名門ラフ・トレードがただならぬ期待を込めてミュージック・シーンに送り込む新進気鋭のロックバンドである。





「Caroline」 Rough Trade



 

caroline [国内流通仕様盤CD / 解説書封入] (RT0150CDJP)



Tracklisting


1.Dark Blue

2.Good Morning (Red)

3.desperately

4.IWR

5.messen #7

6.Engine(Eavesdropping)

7.hurtle

8.Skydiving onto the library roof

9.zlich

10.Natural death



さて、今週の一枚として紹介させていただくのは、ラフ・トレードからの大型新人、Carolineの2月25日にリリースされたデビューアルバム「Dark Blue」です。

 

なぜ、キャロラインがデビュー前からイギリスのメディアを中心に大きな話題を呼んでいたのかについては、ラフ・トレードの創設者であるジェフ・トラヴィスがこのロックバンドのサウンドに惚れ込んでいたからです。

 

今回のデビュー作「Dark Blue」において、キャロラインは、ジェフ・トラビスの期待をはるかに上回る音楽を提示しています。ブラック・ミディ、ランカムの作品を手掛けたジョン・スパッド・マーフィーをエンジニアに招き、納屋、メンバーの寝室、リビングルーム、プール、と、様々な場所で録音を行ない、アパラチア・フォーク、エモ、実験音楽、電子音楽、ロック、様々なアプローチを介して、音響ーアンビエンスという側面から音楽という概念を捉え直しています。

 

そして、キャロラインの「Dark Blue」がどう画期的なのかについては、レコーディングで、リバーヴやディレイといったエフェクトを使用せず、上記のような、様々な場所の空間のアンビエンスを活用しながら、ナチュラルな音の質感、そして、音が消え去った瞬間を、楽曲の中で上手く生かしていることに尽きるでしょう。これはきっと、現代のマスタリングにおける演出過剰な音楽が氾濫する中、自然な音が何であるのかを忘れてしまった私達に、新たな発見をもたらしてくれるはずです。

 

この作品では、デビューアルバムらしからぬ落ち着き、バンドとしての深い瞑想性が感じられ、八人という大編成のバンドアンサンブルらしい、緻密な構成をなす楽曲が生み出されています。ギター、ベース、パーカッション、チェロ、バイオリン、複数の楽器が縦横無尽に実験的な音を紡ぎ出し、和音だけではなく、不協和音の領域に踏み入れる場合もあり、謂わば、演奏としてのスリリングさを絶妙なコンビネーションによって生み出しています。


また、キャロラインのバンドアンサンブルのアプローチは、ロック・バンドというよりかは、オーケストラの室内楽に近いものです。

 

彼らは、歪んだディストーションではなく、クリーントーンのギターの柔らかな音色を活かし、新鮮な感覚を音楽性にもたらし、さながら豊かな緑溢れる風景に間近に相対するようなおだやかな情感を提示してくれています。


このあたりの抒情性については、アメリカン・フットボールを筆頭に、アメリカのミッドウェストエモの影響を色濃く受け継いでいます。さらに、キャロラインは、「間」という概念に重点を置き、音が減退する過程すら演奏上で楽しんでいるようにすら思えます。またこれは、レコーディングのプロセスにおいて、作品をつくる過程で音を純粋に出すという行為が、本来、ミュージシャンにとって何より大きな喜びであるのを、彼らは今作のレコーディング作業を通し、改めて再確認しているようにも思えます。

 

彼らキャロラインが今作で提示しているものは、音楽の持つ多様性、その概念そのものの素晴らしさ。そして、ここには、ロックの未来の可能性だけでなく、現代音楽の未来の可能性も内包されています。かつて、ジョン・ケージ、アルフレド・シュニトケが追求した不協和音の音楽の可能性は、次世代に引き継がれていき、八人編成のバンドアンサンブル、キャロラインによって、ロック音楽として、ひとつの進化型が生み出されたとも言えるかもしれません。

 

「Dark Blue」は、デビュー作ではありながら、長い時間をかけて生み出されたダイナミックな労作です。およそ、2017年から5年間にわたり、このバンドアンサンブルは途方も無い数のセッションを重ねていき、どういった音を生み出すべきなのか、まったく功を急ぐことをせず、メンバー間で深いコミュニケーションを取りあいながら、数多くの音を介しての思索を続けてきました。

 

今回、そのバンドアンサンブルとしての真摯な思索の成果が、このデビュー・アルバム「Dark Blue」には、はっきりと顕れているように感じられます。新世代のポストロックシーンを代表する傑作の誕生と言えそうです。

 

 

 

95/100

 

 

Featured Track 「Dark Blue」Official Audio








rough trade official







Album of the year 2021  

 

ーPost Punk/Post Rockー




 

・Idles  

 

「Crawler」 Patisan Records 

 



Crawler 

 

英ブリストル出身のポスト・パンクバンド、アイドルズはデビュー時から凄まじいポストパンク旋風を巻き起こし、快進撃を続けてきた。昨年リリースされた「Ultra Mono」ではUKチャート初登場3位、最終的には首位を奪取してみせ、英国に未だポスト・パンクは健在であるという事実を世界のミュージックシーンに勇ましく示し、2021年の最高のアルバムと呼び声高い作品を生み出した。


もちろん、今年、2021年もまた、アイドルズ旋風はとどまるところを知らなかったといえよう。このロック史に燦然と輝く「Crawler」の凄まじい嵐のようなポスト・パンクチューン・ハードコア・パンクの激烈なエナジーを見よ。ケニー・ビーツ(Vince Staples、Freddie Gibbs)を招き、アイドルズのギタリスト、Mark Bowenが共同プロデューサーとして名を連ねる11月十二日にリリースされた作品「Crawler」は、Idlesの新代名詞というべき痛快な作品である。


このアルバムは、パンデミックの流行に際し、世界中の人たちの精神、肉体的な健康状態が限界に達したことを受け、反省と癒やしのために制作された。


「トラウマや失恋、喪失感を経験した人たちに、自分たちは一人ではないと感じてもらいたい、そうした経験から喜びを取り戻すことが可能であることを知ってもらいたい」


Idlesのフロントマン、ジョー・タルボットは、この作品について上記のように語る。彼の言葉に違わず、アイドルズの「Crawler」は、パンデミックの流行により、失望や喪失を味わった弱い人々に強いエナジーを与え、前進する活力を取り戻させる迫力に満ちた重低音のパワーが、アイドルズの凄まじい演奏のテンションと共に刻印されている。特に#2の「The Wheel」は聞き逃してはならない。この豪放磊落な楽曲はあなた方の疲弊した精神に生命力を呼び戻してくれるだろう。


 

 

 


 

 

 

 


 ・Black Midi

 

  「Cavalcade」 Rough Trade 

 

 Black Midi  「Cavalcade」

 

 

ワインハウスやアデルを輩出したご存知ブリット・スクールから、ミュージックシーンを揺るがすべく登場したブラック・ミディ。フロントマンのGeordie Greepをはじめ、メンバーの四人全員が19歳という若さであり、近年、ラフ・トレード・レコードが最大の期待を持って送り出した大型新人である。


ブラック・ミディは、既に、日本に来日しているアヴァンギャルド・ロックバンドであるが、彼ら四人がリリースした「Calvalcade」もまた上記したアイドルズの「Crawaler」と共に今年一番の傑作に挙げられる。


この作品「Calvalcade」の制作は、デビューアルバム「Schlangenheim」2019の発表後それほど時を経ずに開始された。 


フロントマンのGeordie Greepは、このアルバムの制作の契機について、「Schlangenheimの発表後、多くの人達がこのデビュー作品を素晴らしいと評価してくれたこと自体はとても嬉しかった。でも、僕たちはこのアルバムに飽きが来てしまって。そこで、もっと素晴らしいアルバムを作ろうじゃないかと他のメンバーたちと話し合って、次作「Calvalcade」の制作に取り掛かることに決めたんだ」と語っている。


アルバム制作時までに、ギタリストのMatt Kwazsniewski-Kevinが一時的にメンタルヘルスの問題を抱え、休養を余儀なくされたが、彼はこのアルバムのソングライティング、レコーディングに参加している。


前作までに、ドイツのCanに影響を受けたインダストリアル・ロック、ヒップホップ、ポストロック、フリージャズ、前衛的な音楽のすべてを経験したブラック・ミディは今作においてさらに強いアヴァンギャルドの領域に入り込んでいる。


サックス奏者としてKaidi Akinnnibi、キーボード奏者としてSeth Evansがゲスト参加した「Calvalcade」は、2020年の夏の間にアイルランドのダブリン、モントピリアヒルのリハーサルスタジオでレコーディングされた作品であり、窓の外を飛び交っていたヘリコプターの音が録音中に偶然に入り込んでいることに注目である。


前作では、ジャムセッションを頼りにソングライティングをしていたブラックミディの面々は、今作で、よりインプロバイゼーション、即興演奏を繰り返しながら、アルバムを完成へと近づけていった。


その過程で、ラフ・トレードの主催するライブで、何度も実際に演奏を重ねながら無数の試行錯誤を重ねながら、より完成度の高い作品へつなげていこうとする彼らの音楽にたいする真摯な姿勢が、作品全体に宿っている。それがこの作品を飽きのこない、長く聴くに足る作品となっている理由なのだ。


そして、この作品は、ロック作品でありながら、偶然にもマイクロフォンが拾ってしまったヘリコプターの音のエピソードをはじめ、自分たちが演奏している空間の外側に起きている現象すら、一種の「即興演奏」のように捉えた、実験性の強い作品である。


実際、ブラック・ミディは、CANのダモ鈴木と共演、その強い影響も公言しているが、今作において衝撃的に繰り広げられる新時代のクラウトロック/インダストリアル・ロック、ポストロックというのは、前時代の音楽をなぞらえたものではなく、SF的な雰囲気すら感じられる未来のロック音楽の模範だ。


個々の楽曲の凄さについて七面倒な説明を差し挟むのは礼に失したことだ。ただ「John L」、ポストロックの一つの完成形「Chondromalacia Patella」の格好良さに酔いしれてもらえれば、音楽としては十分だ。

また、独特なバラード「Asending Forth」というブラック・ミディの進化を表す落ち着いた楽曲に、このロックバンドの行く先にほの見える、明るい希望に満ち溢れた未来像が明瞭に伺えるように思える。 

 

 

 

 


 

 



・Black Country,New Road 

 

「For The First Time」 Ninja Tune 

 

Black Country,New Road 「For The First Time」  



For the First Time 

 


ロンドンを拠点に活動する七人組のBCNRは、ブラック・ミディと同じように、十代の若者を中心に結成された。


既存のロックバンドのスタイルに新たな気風を注ぎ込み、バンドメンバーとして、サックス,ヴァイオリンといったオーケストラやジャズの影響を色濃く反映させた新時代のポスト・ロックバンド。彼らの音楽の中には、ロック、ジャズ、その他にも東欧ユダヤ人の伝統音楽、クレズマーからの影響が入り込んでいることも、このバンドの音楽性を独立独歩たらしめている要因である。


このデビュー作「For The Fiest Time」のリリース前から、先行シングル「Track X」がドロップされるなり、ロックファンの間では少なからず話題を呼んでいたが、実際にアルバムがリリースされると、その話題性はインスタントなものでなく、つまり、BCNRの実力であることが多くの人に知らしめられた。 


特に「Track X」に代表されるように、このアルバムは、閉塞した・ミュージックシーン(ミュージックシーンというのは、我々の日頃接している社会を暗示的に反映させた空間でもある)に新鮮味を与えてくれる作品だったし、言い換えてみれば、既存のロックに飽きてきた人にも、ロックって、実はこんなに面白いものだったんだという、ロック音楽の新たな魅力を再発見する重要な契機を与えてくれた作品でもあった。


これまでスティーヴ・ライヒ的なミニマル構造をロック音楽の構造中に取り入れること、あるいはテクノのような電子音楽の構造中に取り入れることを避けてきた風潮があり、それはこれまでのミュージシャンが、自分たちの領域とは畑違いの純性音楽の音楽家に対して気後れを感じていたからでもあるが、しかし、BCNRは、前の時代の音楽家たちの前に立ち塞がっていた壁を見事にぶち破ってみせた。


ブラック・カントリー、ニューロードの七人は若い世代であるがゆえ、そういった歴史的な音楽における垣根を取り払うことに遠慮会釈がない。また、そのことがこの作品を若々しく、みずみずしく、安らぎに近い感慨溢れる雰囲気を付与している要因といえるのである。


つまり、これまで人類史の中で争いを生んだ原因、分離、分断、排除、そして、差別といった概念は既に前の時代に過ぎ去った迷妄のようものであることを、ブラック・カントリー、ニューロードは「音楽」により提示している。そのような時代遅れの考えが彼らを前にしてなんの意味があろうか。


このロンドンの七人組ブラックカントリー、ニューロードの新しい未来の音楽は、それらとは対極にある概念、融合、合一、結束、そういった人間が文明化において忘却した概念を、再び我々に呼び覚ましてくれる。それがスタイリッシュに、時に、管弦楽器などのアレンジメントを介して、きわめて痛快に繰り広げられるとするなら、ロックファンは、彼らのこのNinja Tuneから発表されたデビュー作を、この上なく歓迎し、好意的に迎えいれるよりほかなくなるはずだ。