New Album Review Samm Henshaw 「Untidy Soul」

 Samm Henshaw 


 

サミュエル・ヘンショーは、イギリス、ロンドンを拠点に活動するR&Bアーティスト。サウスロンドンのナイジェリア系の牧師の家庭に生まれ、若い時代から音楽に親しみ、教会内で楽器の演奏をおこない、音楽家としての土壌を培い、才覚を養った。

 

その後、サウサンプトン、ソレントでポピュラー音楽パフォーマンスの学位を所得。2015年にはコロンビアレコードとの契約に署名、一躍メジャーアーティストとして注目を浴び、BBCラジオ1のレギュラーポジションを獲得し、ジェイムス・ベイ、チャンス・ザ・ラッパーのツアーサポートに抜擢され、徐々に知名度を獲得していった。

 

2015年には、ウェイン・ヘクターやフレッド・コックスの協力を得て、デビューEP「The Sound Experiment」を発表。

 

2016年にはセカンドEP「The Sound Experiment 2」をリリースし、ミュージシャンとしてのキャリアが流れにのったと思われた矢先、UKコロンビアとの契約を終了した。その後、Sony Musicなどからのリリースを経て、2020年からインディーレーベルからのリリースを行っている。

 

Samm Henshawは、1970年代のニューソウルからの強い影響を公言している。スティーヴィー・ワンダー、マイケル・ジャクソン、 カーク・フランクリン、ローリン・ヒル、マーヴィン・ゲイ、などといった往年のR&Bアーティストの系譜を受け継いだ、古典的なソウルミュージックの色合いに加えて、ヒップホップ、ジャズの要素を交えたモダン・ソウルの体現者と言える。

 

2019年には、シングル「Church」が日本のトヨタの新型カローラのCMで使用されていた。その後、日本での来日公演が決定していたが、パンデミックにより公演がキャンセルとなっている。

 

 

 

 

「Untidy Soul」 Dorm Seven 

 



 

Scoring 

 

 

 

 

 

Tracklisting

 

1.Still No Album

2.Thoughts and Prayers

3.Grow

4.Chicken Wings

5.Mr.Introvert

6.8.16

7.My Introvert-Reprise

8.Loved By You(feat.Tobe Nwigwe)

9.Take Time

10.Waterbreak

11.It Won't Change(feat.Maverick Sabre)

12.East Detroit

13. Enpugh

14.Keyon-Interlude

15.Still Broke(feat.Kayon Harrold)

16.Joy



R&Bアーティストというのは、これまでのスターダムに上り詰める過程において、メジャーレーベルと契約を結び、その後、大掛かりなプロモーションを経て、ビックスターへの道のりを突き進んでいくのが定石だった。

 

けれども、今後、2020年代は、サム・ヘンショーのように、インディーズレーベルからタフな作品リリースを行い、根強いコアなファンを獲得していくというスタイルが主流になるかもしれない。

 

サム・ヘンショーは、2015年にUKコロンビアと契約したが、2020年からは独立したアーティストとしての活動を行っている。

 

サム・ヘンショーの「Untidy Soul」は彼の最初のスタジオアルバムであり、メジャーアーティストとしてリリースが叶わなかった悲しみ、そして、恋人との別れを経て、制作された実質的なデビュー作である。

 

一曲目の「Still No Album」は、上記のような経緯を踏まえての自虐的な意味合いが込められているように思えるが、このデビュー作はメジャーアーティストの作品の出来に引けを取るどころか、上回っている部分さえある。このアーティストの音感の良さ、そして、それをいかに現代的に聞きやすくするのか、歌手としてのセンスの良さが「Untidy Soul」では存分に発揮されている。

 

ここで、サム・ヘンショーが展開するモダン・ソウルは、彼の若い時代から聴き込んできたソウルミュージックの巨匠たち、スティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、それからオーティス・レディング、はては、サム・クックのサウンドの懐深さを踏襲している。ヘンショーの楽曲は付け焼き刃のものではなくて、本格派のソウルミュージックを継承しているともいえるのだ。

 

1970年代のアメリカ、デトロイト周辺のモータウンサウンドにしか求むべくもないノスタルジアにまみれた旋律の甘さ、メロウさ、まるで、楽曲そのものに酔いしれて歌うかのような「魂」がこの作品には随所に感じられる。もちろんこの作品は懐古主義を誇張するため生み出されたものではない。

 

そして、さらに素晴らしいのは、サム・ヘンショーは、ニューソウルの質感に加え、DJスクラッチを楽曲の中に取り入れ、ヒップホップ的なグルーヴ効果を加え、さらには、ジャズのインプロヴァイゼーションのような間奏曲をアルバムの合間に挿入し、作品全体の雰囲気をゴージャスに彩って見せている。


彼のメジャーアーティストとしての活躍がかなわなかったという思い、その悔しさをバネにし、それを、ソウルという華やいだ形に昇華し、今作は非の打ち所がないソウルミュージックに仕上がったといえる。

 

まだ2月の上旬ではあるが、2022年のソウルミュージックのリリースの中、注目すべき作品となることは間違いない。

 

 

 

 

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