Weekly Recommendation  Caroline「Caroline」



Caroline



キャロラインは、ロンドンを拠点に活動する八人組のロックバンド。ブラック・ミディに続いて、ラフ・トレードが満を持してデビューへと導いた”超ド級”の新鋭ロックバンドの登場である。


デビューアルバムのリリースこそ2022年となったものの、バンドとしての歴史は意外にも古く、2017年のはじめ、Jasoer Llewellyn,Mike 0’Malley,Casper Hughesを中心に結成された。当初、毎週のように即興演奏を行っていたが、後になって、バンドとして活動を開始した。

 

キャロラインは、1990年代のアメリカン・フットボールをはじめとするミッドウェスト・エモ、ガスター・デル・ソルのようなシカゴ音響派、アパラチア・フォーク、ミニマリストのクラシック音楽、ダンスミュージック、実に多種多様な音楽から影響を受けている。ミニマリストに対する傾倒を見せるあたりは、Black Country,New Roadと通じるものがある。イギリスの音楽メディアは、このバンドの音楽の説明を行う上で、アメリカ・シカゴのスリント、あるいはスコットランドのモグワイを比較対象に出している。


結成当初、明確なプロジェクト名を冠さず、一年間、謂わば、即興演奏を行っていた。小さなフレーズの演奏の反復を何度も繰り返すことにより、楽曲を、分解、再構築し、幾度も楽曲を洗練させて、音楽性の精度を高めていった。その後、ステージメンバーを徐々に増加させていき、2018年になって、初めて、バンドとしてデビューライブを行った。キャロラインは2022年までに、シングル作品を五作リリースしている。ブラック・ミディに続いて、名門ラフ・トレードがただならぬ期待を込めてミュージック・シーンに送り込む新進気鋭のロックバンドである。





「Caroline」 Rough Trade



 

caroline [国内流通仕様盤CD / 解説書封入] (RT0150CDJP)



Tracklisting


1.Dark Blue

2.Good Morning (Red)

3.desperately

4.IWR

5.messen #7

6.Engine(Eavesdropping)

7.hurtle

8.Skydiving onto the library roof

9.zlich

10.Natural death



さて、今週の一枚として紹介させていただくのは、ラフ・トレードからの大型新人、Carolineの2月25日にリリースされたデビューアルバム「Dark Blue」です。

 

なぜ、キャロラインがデビュー前からイギリスのメディアを中心に大きな話題を呼んでいたのかについては、ラフ・トレードの創設者であるジェフ・トラヴィスがこのロックバンドのサウンドに惚れ込んでいたからです。

 

今回のデビュー作「Dark Blue」において、キャロラインは、ジェフ・トラビスの期待をはるかに上回る音楽を提示しています。ブラック・ミディ、ランカムの作品を手掛けたジョン・スパッド・マーフィーをエンジニアに招き、納屋、メンバーの寝室、リビングルーム、プール、と、様々な場所で録音を行ない、アパラチア・フォーク、エモ、実験音楽、電子音楽、ロック、様々なアプローチを介して、音響ーアンビエンスという側面から音楽という概念を捉え直しています。

 

そして、キャロラインの「Dark Blue」がどう画期的なのかについては、レコーディングで、リバーヴやディレイといったエフェクトを使用せず、上記のような、様々な場所の空間のアンビエンスを活用しながら、ナチュラルな音の質感、そして、音が消え去った瞬間を、楽曲の中で上手く生かしていることに尽きるでしょう。これはきっと、現代のマスタリングにおける演出過剰な音楽が氾濫する中、自然な音が何であるのかを忘れてしまった私達に、新たな発見をもたらしてくれるはずです。

 

この作品では、デビューアルバムらしからぬ落ち着き、バンドとしての深い瞑想性が感じられ、八人という大編成のバンドアンサンブルらしい、緻密な構成をなす楽曲が生み出されています。ギター、ベース、パーカッション、チェロ、バイオリン、複数の楽器が縦横無尽に実験的な音を紡ぎ出し、和音だけではなく、不協和音の領域に踏み入れる場合もあり、謂わば、演奏としてのスリリングさを絶妙なコンビネーションによって生み出しています。


また、キャロラインのバンドアンサンブルのアプローチは、ロック・バンドというよりかは、オーケストラの室内楽に近いものです。

 

彼らは、歪んだディストーションではなく、クリーントーンのギターの柔らかな音色を活かし、新鮮な感覚を音楽性にもたらし、さながら豊かな緑溢れる風景に間近に相対するようなおだやかな情感を提示してくれています。


このあたりの抒情性については、アメリカン・フットボールを筆頭に、アメリカのミッドウェストエモの影響を色濃く受け継いでいます。さらに、キャロラインは、「間」という概念に重点を置き、音が減退する過程すら演奏上で楽しんでいるようにすら思えます。またこれは、レコーディングのプロセスにおいて、作品をつくる過程で音を純粋に出すという行為が、本来、ミュージシャンにとって何より大きな喜びであるのを、彼らは今作のレコーディング作業を通し、改めて再確認しているようにも思えます。

 

彼らキャロラインが今作で提示しているものは、音楽の持つ多様性、その概念そのものの素晴らしさ。そして、ここには、ロックの未来の可能性だけでなく、現代音楽の未来の可能性も内包されています。かつて、ジョン・ケージ、アルフレド・シュニトケが追求した不協和音の音楽の可能性は、次世代に引き継がれていき、八人編成のバンドアンサンブル、キャロラインによって、ロック音楽として、ひとつの進化型が生み出されたとも言えるかもしれません。

 

「Dark Blue」は、デビュー作ではありながら、長い時間をかけて生み出されたダイナミックな労作です。およそ、2017年から5年間にわたり、このバンドアンサンブルは途方も無い数のセッションを重ねていき、どういった音を生み出すべきなのか、まったく功を急ぐことをせず、メンバー間で深いコミュニケーションを取りあいながら、数多くの音を介しての思索を続けてきました。

 

今回、そのバンドアンサンブルとしての真摯な思索の成果が、このデビュー・アルバム「Dark Blue」には、はっきりと顕れているように感じられます。新世代のポストロックシーンを代表する傑作の誕生と言えそうです。

 

 

 

95/100

 

 

Featured Track 「Dark Blue」Official Audio





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