Weekly Recommendation Architects 「For Those That Wish To Exist At Abbey Road」

 

Architecs

 

2004年にアーキテクツは、双子の兄弟、ダン・サールとトム・サールによって、イギリス・イーストサセックスのブライトンで結成された。

 

現時点のバンドのライナップは、ドラムのダン・サール、ボーカルのサム・カーター、ベースのアレックス・ディーン、ギターのアダム・クリスティアンソン、ジョシュ・ミドルトン。2013年、オフスプリング、NOFX、Bad Religionをレーベルメイトとして要するEpitaphと契約を結んでいる。



 

The Dillinger Escape Planをはじめとするポストハードコアバンドの影響を受けた最初のアーキテクツの通算3枚目のアルバム「The Here and Now」からメロディアスなポスト・ハードコアの方向性へ進んでいった。彼らは、その後、「Daybreak」で最初期のスタイルに原点回帰し、政治的な歌詞を導入しながら、楽曲におけるメロディーと演奏テクニックの均衡を図るようになった。2014年、六枚目のアルバム「Lost Forever//Lost Together」のリリース後、アーキテクツは、英国内の屈指のメタルコアバンドとして不動の人気と批評家の賞賛を獲得した。

 

7作目の「All Our Gods Have Abandoned Us」のリリース直後、バンドは不幸に見舞われた。2016年にギタリスト兼ソングライターのトム・サールが三年間皮膚がんの闘病を送った後、この世を去っている。この後、オリジナルメンバーはダン・サールのみとなった。2017年9月、トム・サールが死に見舞われる直前に取り組んでいたシングル「Doomsday」をリリースする。これは、トム・サールなしでレコーディングされたアルバム「Holy Hell」に収録されている。その後、最高傑作との呼び声高い「For Those That Wish To Exist」を2021年にリリースしている。







「For Those That Wish To Exist At Abbey Road」 Epitaph   2022





Tracklist

 

1.Do You Dream of Armageddon? ーAbbey Road Versionー

2.Black LungsーAbbey Road Versionー

3.Giving BloodーAbbey Road Versionー

4.Discourse is DeadーAbbey Road Versionー

5.Dead ButterfliesーAbbey Road Versionー

6.An Ordinary ExtinctionーAbbey Road Versionー

7.ImpermanenceーAbbey Road Versionー

8.Fight Without FeathersーAbbey Road Versionー

9.Little WonderーAbbey Road Versionー

10.AnimalsーAbbey Road Versionー

11.LibertineーAbbey Road Versionー

12.GoliathーAbbey Road Versionー

13.Demi GodーAbbey Road Versionー

14.MeteorーAbbey Road Versionー

15.Dying Is Absolutely SafeーAbbey Road Versionー




今週の一枚としてご紹介させていただくのは、UKのメタルコアバンド・アーキテクツの最新作「For Those That Wish To Exist At Abbey Road」となります。



 

この作品は、昨年リリースされたアーキテクツの最新のオリジナルアルバムのリテイクとなります。何と言っても、このアルバムの最大の魅力は、ザ・ビートルズ、ピンク・フロイド、英国内の偉大なロックバンドがレコーディングを行ってきたレコーディングスタジオ「アビー・ロード・スタジオ」で録音が行われたことに尽きるでしょう。

 

この作品には、ライブ盤のような生演奏のド迫力、ハリウッドの映画音楽のような大掛かりなスケール、そして、物語性を感じさせる話題作です。前作のスタジオ・アルバム「For Those That Wish To Exist At Abbey Road」についても同様に、UKメタルシーンの屈指の名作に挙げられる作品で、インディペンデントレーベルからのリリースだったのにも関わらず、英国内のチャートで堂々1位を獲得。彼らの現時点での最高傑作と言っても差し支えないでしょう。



 

今作のアルバムは、メタルミュージックのこれまでの歴史を振り返っても屈指の名作の一つに挙げてもおかしくはないかもしれません。それくらいの壮大なスケール、物語性を兼ね備えているように思えます。メタル・コアというパンクロック寄りのアプローチが図られていながらも、1980年代のメタルミュージックの「様式美」に対する敬意がにじみ出たような作品です。今作では、ライブ・アルバムのコンセプトが取られ、メタリカの往年の名作「S&M」に近いスタイルーーメタルバンドの演奏とオーケストラレーションの融合ーーを試み、それらを長大な交響曲として完成させようという試みが行われています。

 

この両者に違いがあるとするなら、メタリカの方は、観客を入れて視覚的なエンターテインメント性を確立したのに対して、今回のアーキテクツの試みは、純粋な音楽として未知の領域へ挑んでいます。往年のUKの名ロックバンド、ピンク・フロイドやビートルズの恩恵に浴し、このライブレコーディングにおいて、メタルとクラシックの融合をレコーディングライブとして行っています。



 

レコーディングに際して、アーキテクツは、パララックス・オーケストラの指揮者、英国作曲家賞(BASCA)を三度受けているサイモン・ドブソンに前作の編曲を依頼。今回、編み出されたアビー・ロードのライブレコーディングでは、原曲に忠実なアレンジメントが施され、さらにそこに、ハリウッド級のドラマ性、緩急、迫力が加わり、ゴシック建築のような堅固な構造を持つ楽曲が生み出され、メタリカの名作「S&M」のような緊迫感を持ったスリリングな傑作が誕生しています。

 

例えば、メタリカの「S&M」に代表されるメタルとクラシックを融合したライブレコーディングにおいて、こういった異なるジャンルの試みとして、どうしても大きな障壁となっていたのが、オーケストラの楽器とロックバンドの楽器の音域の重複でした。 ロックバンドとオーケストラの演奏を並列させてみた際には、ベースにしろ、ドラムにしろ、ギターにしろ、ストリングスと管楽器の特性であるミドルレンジの音域が重なってしまうので、ライブとして出音される楽曲の印象がぼやけてしまうという難点があります。



 

そこで、かつて、メタリカのライブステージの音楽監督を担当したマイケル・エメリックは、この問題に対して、ドラマーのラーズ・ウルリッヒと何度も話し合いを重ねた結果、最終的には、カラヤンがベルリン・フィルとチャイコフスキーの交響曲を演奏した時に近い、画期的な管弦楽法の手法を選び、弦楽器の奏者の数を単純に倍加させ、オーケストラ奏者の大編成を作ることによって、なんとかメタリカのサウンドに負けない、分厚い中音域を生み出すことに成功しました。

 

しかし、このメタリカのS&Mでの先例を知ってのことなのか、今回、サイモン・ドブソンはこれと異なる手法を選ぶことによって、前作の「For Those That Wish To Exist」自体を新たに生まれ変わらせました。ストリングスや管楽器の編成を増やすという手法ではなく、このバンドの楽曲を徹底分析し、ミドルレンジの音域が重複しないように細心の注意を払いつつ既存の楽曲に巧みなアレンジメントを施し、ギター、ベース、ドラムのフレーズの引きどころを踏まえた上で、ギターのフレーズ、ドラムのショットを利用し、4つのストリングスのトレモロ、パーカッションのオーケストラ・ベル、フレンチホルンを始めとする、迫力ある金管楽器のアレンジメントを導入することで、これらの原曲にダイナミックでドラマチックな効果を添えています。



 

前作のアルバムと同じく、アーキテクツの今回のライブ・アルバムには、The Usedに代表されるスクリーモの影響を受けた激しい火花のような印象を持つメタル・コアの楽曲、北欧メタルやパワー・メタルの美麗な叙情性の滲んだ楽曲、それらの苛烈な楽曲の合間に挿入されるクールダウンの効果を持つドラマティックなバラード、これらの三つの要素を擁する楽曲がバランス良く収録されています。今回のアビー・ロード・スタジオでのライブは、きわめて聴き応えがあり、メタルとしての熱狂性を持ち、それと対比的な思索性を兼ね備えた非の打ち所のない作品です。

 

さらに、アーキテクツのメンバーは、このレコーディングに凄まじい覇気をこめており、それがライブの音の中にありありと込められているように思えます。今回の貴重なライブレコーディングを聞くかぎりでは、やはり、英国のロックバンドにとって、Abbey Road Studioは、格別の思い入れが込められた「聖域」とも呼べる場所なのでしょう。さらに、アーキテクツのメンバーのこの伝説的なスタジオに対する深いリスペクトがこのレコーディングの瞬間に全力で投じられています。それが、作品自体に、鬼気迫るような迫力、まばゆいばかりの煌めきをもたらしています。

 



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