New Album Review Otoboke Beaver 「Super Champon」EP

 Otoboke Beaver 「Super Champon」EP Damnably

 

 


 

関西のハードコアバンドとして海外でもライブ経験豊富のおとぼけビ~バ~。一説によると、大阪の高速のインターチェンジを出たすぐのところにあるラブホテルの名前からバンド名がつけられたという話もあります。正直、最初のこのバンドの印象は、それほど良いものとはいえなかったですけど、新作5曲収録のEP「Super Champon」(18曲収録のフルアルバムバージョンは、5月6日にリリース予定です)を聴き終えた時、いくらかその考えを改めねばなりませんでした。

 

タフでタイトな演奏、豊富なライブ経験に裏打ちされた頭ひとつ抜きん出た演奏技術、ドラムの超絶なタム回しの迫力は、スタジオレコーディングではありながら、この四人組のライブの迫力をそのままパッケージしたかのような凄まじさが感じられます。「インターネットには、私達の本当の音楽は存在しない」と、このバンドを最初期から率いてきたフロントマンのあっこりんりんは、インターネットを介して語っています。つまり、このバンドの本当の魅力はバンドのフロントマンから言わせれば、ライブにあるため、レコーディングだけを聴いて、四の五の言うのは穏当とはいえないかもしれません。

 

しかしながら、この五曲入りのEP「Super Champon」は、そういったおとぼけビ~バ~のライブの魅力を十分にパッケージした作品であると言えるのではないでしょうか。この作品には、関西、及び、日本のアンダーグランドシーンの長い歴史が面々と引き継がれています。古くは、INU、少年ナイフ、海外でも人気の高いメルト・バナナ、さらには、大阪が生んだガレージロックスター、ザ50回転ズ・・・、そういった、おとぼけビ~バ~の前の時代の日本のアンダーグランドミュージックの歴史を紡いできた偉大なバンドたちの系譜が、この新作には引き継がれている。メルト・バナナのグラインド・コアに近い怒涛のスピードチューンの連続、ザ50回転ズのような大阪のバンドとしての漫才性、これらの要素を一緒くたに飲み込んで、オープニングトラック「I Am Not Material」から、おとぼけビ~バ~の四人は、全力疾走でロックンロールチューンをめくるめく様に展開していきます。それは、きわめてタイトな演奏力、フレーズの間に執拗に導入される短い反復により、あるいは唐突な変拍子により、おとぼけビ~バ~のハードコア・パンクは、これらのフレーズの遊びを足がかりにし、怒涛の渦のような強烈なエネルギーを生み出してゆく。それは、一曲目の一秒目からはじまり、五曲目のアバンギャルドハードコア、ノイズハードコアにいたるまで、まったく一秒たりとも、途切れることはない。息せぬ暇もなく、凄まじいテンションを持つ痛快なロックンロールが展開されてゆく。

 

もちろん、このEP「Super Champon」の魅力は実際の音だけにとどまりません。一歩引いて見れば、本気なのかフザケているのかわからないブラックユーモアを交えた日本語歌詞は、日本の現代詩へのチャレンジともいえる。おとぼけビ~バ~は、英語の発音ニュアンスから見た、日本語独自の発音のニュアンスの面白さを的確に捉え、それを風刺的でユニークな歌詞へと昇華しています。ここには、個人的な日常の苦悩から、日本の社会に蔓延する同調圧力のようなものに対する痛切なアンチテーゼが幅広いスケールで掲げられており、それを、おもしろおかしさを交えてハードコア・パンクとして表現しているのが見事。さらに、フロントマン、あっこりんりんが紡ぎ出す歌詞には、表向きの社会では、おいそれと口に出すことがかなわない女性の「怒り」が込められている。これがバンドの音楽のド迫力に直結しているように思えるが、これは言い換えれば、女性としての「社会の同調圧力」という、わけのわかぬものへの反抗なのかもしれません。

 

これらのすべての要素が複雑に絡み合うことにより、おとぼけビ~バ~の音楽は生み出されています。アメリカにおけるこのバンドの知名度を高めた要因は、元々、伝説的なドラマーとしてのキャリアを持つフー・ファイターズのデイヴ・グロールが、最初にこのバンドを2019年に発掘し、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロに紹介し、彼も同じように、このバンドの音楽を激賞したところから始まりました。そして、デイヴ・グロールが、このバンドのサウンドに「少年ナイフ」の面影を見出したのは、ほぼ間違いありませんが、この作品を聴くと、それも頷けるような話。これは、以前まで存在しなかった日本独自のアンダーグラウンド・ミュージック「Champon Hardcore」が誕生した劇的な瞬間といえます。既に、海外では人気を獲得しているバンドなので、今後、日本での快進撃にも大いに期待していきたいところです。

 


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