Rachel Sarmanni 「Every Swimming Pool Runs To The Sea」EP
Label: Jellygirl Records
Release: 2022 6/16
スコットランドのフォークシンガー、レイチェル・サーマンニの新作EP「Every Swimming Pool Runs To The Sea」は、穏やかで心地良いコンテンポラリーフォークの良盤に挙げられます。
レイチェル・サーマンニは、元々、2012年に、デビュー当時は、The Herald、スコットランドの新聞で新星フォークシンガーとして特集を組まれている。デビュー作は、スコットランド国内で12位を記録した。その後、ラフ・トレードからリリースを行っていますが、それほど大きな世界的なヒット作には恵まれていません。しかし、このシンガーソングライターの今作で提示する音楽は、感じが良いもので、このシンガーの性格を作品として反映しているように感じられます。レイチェル・サルマーニのフォーク音楽は、口当たりが良いだけではなく、男性的なボブ・ディランとは相反する女性的な渋さにあふれている。それは歩んできた人生をそのまま反映しているともいえ、この新作EPにおいて、サルマーニは幼年時代の記憶から引き出される純粋なロマンスを、コンテンポラリーフォークとして綿密に組み上げようとしている。
意外に、スコットランドのフォークというよりかは、アメリカのフォークに近い性格も持ち合わせていて、例えば、Adrian Lenkerのソロ作品がお好きな方であれば、本作はうってつけの音楽となるはずで、2019年にリリースされたアルバム「So It Turns」に比べると、物語性はいくらか薄められてはいるものの、終始、穏やかで、温和で、平らかなフォークミュージックが一貫して提示されている。「Every Swimming Pool Runs To The Sea」で繰り広げられるコンテンポラリーフォークは、1970年代の音楽の良い側面を現代に引き継ぎ、フィドルをはじめとする楽器こそ導入されてはいませんが、セルティックからの伝統性もフレーズの節々に滲み出ています。さらに、二曲目の「Soak Me」では、ミニアルバムの中で最もドラマティックさがあり、突如として、ディストーションギターが、叙情性あふれるアルペジオを縫うようにして導入される。
レイチェル・サーマンニは、今回のささやかなフォークギターの曲集において、オープニングを飾る「Aquarium Kisses」に象徴されるように、幼い時代の水族館でのロマンチックな思い出ーー水槽越しの魚とのキスーーを、このささやかなミニアルバムの中にそっと込めています。当時のサーマンニにとって、その出来事はすごくスリリングだったはずで、その純粋な子供の頃の感動をフォークミュージックを通じて呼び覚まそうとしています。それは、聞き手に、同じような癒やしの効果を与え、さらに、子供時代の記憶を心地良く呼び覚ましてくれるはずです。
今作のフォーク音楽を彩るレイチェル・サーマンニのアコースティックギターの繊細で慎ましやかなアルペジオは、ストーリングテリングするかのようでもあり、その演奏は、澄明さにあふれています。さらに、メロディーとリズムのバランスを絶妙に保っているサーマンニのギターの演奏は、温和で包み込むような雰囲気のあるボーカルと相まって、スコットランドの牧歌的な風景を思い起こさせる。日曜の午後を、優雅で、心楽しいひとときに変えてくれるような素敵な作品です。