Weekly Recommendation  Yeah Yeah Yeahs 『Cool It Down』

 Yeah Yeah Yeahs 『Cool It Down』



 

Label: Secretly Canadian

Release: 2022/9/30

 

 

 

Review

 

  カレン・O率いるヤー・ヤー・ヤーズは、 知るかぎりにおいて、当初、シカゴのレーベル、Touch And Goが発掘したロックバンドで、最初のEP作品のリリースを契機に、当時のジャック・ホワイト擁するホワイト・ストライプスを始めとするガレージ・ロックリバイバルのムーブメントの機運を受け、着実な人気を獲得していきました。


デビューEP「Yeah Yeah Yeahs」を聴く限りでは、ニューヨークのバンドらしく、アーティスティックな雰囲気を持ち合わせており、ローファイやアート・ロックの色合いを持つバンドとしてミュージック・シーンに登場したのだった。しかし、意外なことに、当時、この流れに準じて登場したこれらのガレージロックバンドのいくつかは解散してソロ活動を転ずるか、それとは別の音楽性へ舵取りすることを余儀なくされる場合もあった。というのも、こういった直情的なロックを長く続けることは非常に難しく、それは限られたミュージシャンのみが許される狭き道でもあるわけです。

 

そしてまた、ヤー・ヤー・ヤーズも2013年に発表された前作「Mosquito」で同じような岐路に立ったように感じられます。彼らはすでにこの前作で、音楽性の変更に挑戦していたが、それはいささか評価の難しい作品になってしまった印象も見受けられる。それは、以前のアート・ロック/ガレージロック/ローファイバンドとしてミュージック・シーンに台頭してきたときの成功体験を手放すことが出来なかったからというのが主な理由であるように思える。そして、前作から九年の時を経て、LAとニューヨークの公演と並行して新作アルバムの発表が行われました。それ以前から新作が出るという噂もありましたが、実際、その時のカレン・Oのライブステージ写真での表情を見るかぎりでは、いささか安堵の雰囲気すら見て取ることが出来たのだった。

 

Yeah Yeah Yeahs

 九年という歳月は、決して短い期間ではありません。カレン・Oは、すでに母親になっており、以前のように若さと衝動性で何かの表現性を生み出すミュージシャンではなくなっている。そこにはすでに思慮深さだけでなく、慈しみのような性質も立ちあらわれるようになった。これはロックミュージシャンとしての人生の他にも様々な貴重な人生体験を得たからであると思われる。


それは残りの二人のミュージシャンについても同様のことがいえ、つまり、このヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『Loaded』の曲にちなんで名付けられたという「Cool It Down」には、カレン・O、ニック・ジナー、ブライアン・チェイスという三者三様の人生が色濃く反映されているともいえる。一般的に、家庭の生活とミュージシャンの両立ほど難しいものはない。そして、憶測ではあるものの、カレン・Oはこの九年間に苦悩していたかもしれず、ファンもそのことを考えると、どうするのかとやきもきするような気持ちになったに違いありません。しかし、今回の新作はこのボーカリストからのファンに対する明るい回答とも言える。今作を聴くかぎり、彼女は音楽を心から愛していることが分かる。


 フロントパーソンのカレン・Oは、今回の新作『Cool It Down』のリリースに関して以下のようなメッセージを添えています。下記のコメントにはこのボーカリストの作品に対する一方ならぬ思いが込められています。

 

 

「この21年間、音楽は、わたしとニック(ジナー)とブライアン(チェイス)にとって命綱のようなものだったし、多くの人にとってもそうだった。大きな感情に対する安全な避難所なんだ。だから、2021年に再びほかのふたりと一緒になれたとき、音楽に対する喜び、痛み、そして深い感謝の気持ちが、1曲1曲、私達の心から溢れ出てきたんだ。


このアルバムの多くの曲は、私が、音楽で返して欲しい感情を声にしている。誰も見たがらないようなことに向き合い、感情的になっている。アーティストとして、それを行う責任があります。それが自分に返ってくるのを感じると、とてもありがたく思います。なぜなら、そうすることで自分がおかしくなくなり、この世界で孤独でなくなると感じるからです。

 

そこに音楽がある。このレコードは、そのスーパーパワーを発揮するチャンスだった。このレコードは、これまでとは違う緊急性を持っているように感じる。


『クール・イット・ダウン』は多くの意味で、そこに、ぶら下がって待っていたあなたや、私たちを見つけたばかりのあなたへの私たちのラブレターです。

 

戻ってこれて本当に嬉しい! ええ、戻ってこれて本当に嬉しい。待って! 他の人は私たちみたいにあなたを愛していない」

 

 

 アルバムの全体は、デビュー当時とは全く別のバンドの音楽に様変わりしていて、華麗なる転身ぶりが窺えます。「Cool It Down」の全編は、シンセ・ポップやポスト・ディスコを基調としており、ハイパーポップとまでは行かないのかもしれませんが、最新鋭のポピュラーミュージックが提示されていることに変わりなく、そこにはやはり、アート・ロック/ガレージロックバンドとしての芯がしっかり通っている。この作品はいくらかポピュラリティーに堕している部分もあるものの、カレン・Oの歌声は以前よりも晴れやかです。何かしら暗鬱な雰囲気を漂わせていた『Mosquito』に比べ、良い意味で、吹っ切れたかのような清々しさがアルバムの全編に漂っている。


次いで言えば、ヤー・ヤー・ヤーズは新しいバンドとして生まれ変わることを、あるいは、以前のイメージから完全に脱却することをきっぱりと決意したかのように思える。その決意が、実際の歌にも乗り移ったかのようで、カレン・Oのこれらの八曲の歌声に、凄まじいパワーとエネルギーがこもっています。そして、それは、先行シングルとしてリリースされたオープニング「Spitting off the Edge of the World」に象徴されるように、外向性と内向性を兼ね備えた麗しい楽曲群がそのことを如実に物語っている。さらに「Burning」において、ポストディスコ、R&B、ロックの融合に果敢にチャレンジしており、カレン・Oの音楽に対するダイナミックな情熱が表現されている。ほかにも、バンドはこのアルバムの終盤に収録されている「Different Today」では、シーンの最前線のシンセポップのモダニズムに挑んでおり、これらの楽曲は、カレン・Oの音楽に対する深い愛情と慈愛に根ざしているように感じられます。 

 

「そのことを心から楽しむ人間に叶う者は居ない・・・


 ひとつの結論として、『Cool It Down』は、以上の格言を体現する一枚であり、ここには、カレン・Oの音楽に対する大きな愛情と喜びが満ちている。今作はきっと長らく復活を待ち望んでいたファンにとっては記憶に残るようなアルバムとなるでしょう。

 

90/100


 

Weekend Featured Track 『Different Today」


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