New Album Review Aoife Nessa Frances  『Protector』

 Aoife Nessa Frances  『Protector』

 


 

Label: Partisan

Release: 2022年10月28日


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Review

 

2020年、デビュー・アルバム『Land of No Junction』をリリースした後、イーファ・ネッサ・フランシスは、パンデミックに直面し、父親とともに、出身地である首都ダブリンから西に向かい、クレア州へと向かいました。

 

その後、イーファ・ネッサ・フランシスは、日記を記したり、散歩をしたり、また独学でタロットを学び、天体の運行にも興味を持つようになったという。これらの新たな習慣と合わせて、彼女の若い時代のヒーローたち、ゲンスブール、ニルヴァーナ、ホワイト・ストライプス、カニエ、そして、アイリッシュ・フォークからテクノミュージックまで広範な音楽の背景に思いを馳せることは決して、このセカンド・アルバムを生み出す上で何ら無関係であるとは言いがたい。


このセカンド・アルバムは、ニコ、ブロードキャスト、オルダス・ハーディングといった古い時代から現代にかけての個性的な女性シンガーソングライターの作品を彷彿とさせます。それらのマテリアルは、常に、上記のクレア州の風光明媚な海岸、牧歌的な風景、そして幻想的な情景と分かちがたく結びついている。これらの楽曲を父親の家の裏にある小屋でアイルランドの歌手、イーファ・ネッサ・フランシスは、ゆっくりと時間をかけて書き上げていったのです。

 

『Protector』は、アイリッシュ・フォーク、それも古い時代の民謡からの影響も感じさせる。その点では、アイルランドの固有言語のコーニッシュ語で歌われているわけではないけれども、今年マーキュリー賞にノミネートされたGwennoの『Tresor』音楽性にも近い性質を持つ。そして、これらの楽曲は親しみやすく、メロディー・エコーズ・チャンバーのようにドリーミーであり、ハーディングの不条理ポップの興趣もある。さらにネッサ・フランシスの歌声は常に瞑想的であり、身近な日常の風景、生活を寿ぐかのような雰囲気に彩られている。

 

そして、これらのフォークミュージックのアプローチをより個性的にしているのが、サイケデリックの要素です。古めかしいオルガン、フランジャーをかけたエレクトリックギター、落ち着いたアコースティックギター、曲調に反してダイナミックなドラム、そして対旋律的なアプローチをとるベースライン、オーケストラ楽器のハープ、 ホルン、これらの楽器が緻密に組み合わされることによって、『Protector』持つ世界観は構成されていく。このアルバムは全般的に、内省的な響きを感じさせるが、それは同時に外向きな心地よさにも焦点が当てられています。


特筆すべきなのは、その中にもこのアーティストの無類の音楽ファンとして表情を見せ、時折、オルガンの音色は、ザ・ドアーズの名曲のように、サイケデリックな色合いを帯びる。しかしながら、それらは極彩色のサイケではなく、常に落ち着いたイーファ・ネッサ・フランシスの抑制の聴いた歌声に中和されることで、全編にわたって温和な響きが絶妙に維持されているのです。

 

この作品は、細やかな日々にまつわる感情や出来事を丹念にしるした日記のようでもある。それは叙事的な響きを持ち合わせており、抒情的でもある。そして、それらは改めて混乱していた時代の中で、フォーク音楽を介し、みずからの内面に起こった出来事をひとつずつ解き明かしていくかのようでもある。言い換えれば、絡まった糸を手作業でひとつずつ解いていくような作業でもあるのです。本作のサイケ・フォークは、タロット的な天体と人体における関連性にもとづいた考えから導かれるミステリアスな趣を持っていますが、それらの中には、アイルランドという土地と関連を持たぬ人々にも共鳴する一般的な何かが込められているように思える。それは平らかで心温まる情景に接したいという渇望にも似た感覚である。それらの内的な省察を踏まえ生み出された本作は、常に、このシンガーが2020年のアイルランドのクレア州の美しい海際の風景と接し、デジタルが氾濫する世界と一定の距離を置いたからこそ生み出されたレコードであるのかもしれません。

 

このセカンドアルバム『Protector』の楽曲は、情報過多になりがちな現代人の心にちょっとした束の間の休息や治癒を与えてくれるでしょう。いわば無数の混沌の中の東屋、退避場ともなる作品であると共に、隙間のない空間に、心地よい余地、ほどよい空白をもたらしてくれる音楽となるはずです。

 

 

78/100

 

 

Featured Track「Emptiness Follows」


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