New Album Review  Paramore 『This Is Why』

 Paramore 『This Is Why』


 

Label: Atlantic Records

Release Date: 2023年2月10日

 


 

 

Review

 

パラモアの6年ぶりの新作アルバム『This Is Why』はブランクを埋め合わせるどこか、リスナーの予測を上回っている。ディスコやファンクのダンサンブルなビートとポスト・パンクのオリジナル世代のソリッドなギターやベース、ドラムの魅力をふんだんに詰め込んで、それらをノリの良いキャッチーなポップソングとして仕上げている。

 

ボーカルのウィリアムズは他のアーティストがロックダウンについてシリアスになったのを尻目に、これらの時代の出来事を実に痛快に笑い飛ばすかのようでもある。ときにはカイロプラクティックなどの自虐的なジョークを交え、スピーカーの向こうにいるリスナー、そしてライブに詰めかけるたくさんのオーディエンスを意識し、エンターテインメントが何たるかを教唆してみせる。

 

表向きにはフロントマンのウィリアムズの繰り出すボーカルのフレーズや、その歌いぶりに関しては、リスナーの楽しさを引き出すが、バックバンドとしての演奏は真摯で、彼らの緻密なポスト・パンクサウンドのライブ感満載の迫力がアルバムの収録曲を魅力的に引き立て、さらにはウィリアムズのファンクやR&Bに根ざしたダンサンブルなボーカルの存在感を否応なく引き上げている。これらのパンチが効いてフックを持ち合わせたポピュラーかつドライブ感のあるロックソングは、リスナーの心に潤いと、ほんのりとした明るさをもたらすことになるだろう。

 

アルバムには、タイトルトラック「This Is Why」をはじめ、ディスコ・ポップが中心を占めているが、これらのバンガーに加え「Running Out Of Time」をはじめとする若干しっとりとしたR&Bを基調にしたロックソングが全編に華やかな印象を添えている。もちろん、華やかさだけがこのアルバムないしバンドの売りではない。「Big Man,Little Dignity」では、メロウなソウル・ミュージックとポスト・パンクの硬質なギターをかけ合わせた新時代の音楽を呼び込んでみせている。これらの曲は夢想的な雰囲気と現実的な雰囲気の間でさまよいながら、パラモアらしい答えが生み出される。これらのアンビバレントな楽曲の数々は、近年、夢にいるのか現実にいるのか、その境目があやふやとなっている社会をある側面から反映しているようにも思える。

 

パラモアの新作アルバム『This Is Why』は、まさにロックダウンについての冷やかしの意味とまたリスナーや社会に対するトリオのイデオロギーにおける反論の意味がある。本作は、バンドのファンの期待に沿うような内容となっていることは確かである。そして、また、6年という月日を考えると、これだけのクオリティーの作品を生み出せるということは、パラモアの実力をしたたかに証明してみせているともいえる。もちろん、実際のライブで重要なレパートリーとなりそうな曲も複数用意されているし、ウィリアムズの力強い言葉「言いたいことがあるならいうべき」といった言葉は、ポスト・パンデミックのリスナーに勇気を与えてくれると思われる。

 

しかし、アルバムの後半で、その勢いというのが少しだけ陰りを見せる。これがなんによるものなのかはわからない。序盤と後半では音楽的な密度がはっきりと異なるのだ。エンターテインメントの楽しみが瞬間的な火花を見せたかと思うと、それがふっと消え入る寂しい瞬間もまたこのアルバムには捉えられている。それを余韻と捉えるかどうか、意気消沈と捉えるのかは聞き手次第なのかもしれない。『This Is Why』は良いアルバムであり、さらに売れることが約束されているアルバムでもある。ただ、買って後悔することはないと思うものの、長く聴き続けられる作品かどうかについては少しだけ疑問符が残る。おそらく、パラモアの最大の魅力はライブ・パフォーマンスにあり、飽くまで音源はその魅力の一部分にとどまるのかも知れない。

 

 84/100

 

 

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