Queen Of The Stone Age-『In Times New Roman...』 / Review

 Queen Of The Stone Age-『In Times New Roman...』 / Review



Label: Matador

Release: 2023/ 6/16



Review 



そもそも、QOTSAは、KYUSSのメンバーだったジョシュ・オムが結成したロックバンドで、ストーナー・ロックの象徴的なバンドである。「Stoner」というのは、ガレージ・ロックやグランジが下地にあるジャンルで、砂漠をトラックで砂埃を巻き上げて突っ走るようなイメージがある。それは実際、このジャンルの黎明時代を担った、KYUSS、Fu Manchuのアルバムのアートワークに象徴されるように、「カルフォルニアの砂漠のロックンロール」というイメージがある。音楽の出発としては、カルフォルニアには該当しないものの、カート・コバーンが学生時代にオーディションを受けたシアトルのMelvinsがその原点にあるといえるだろうか。これらのストーナー・ロックの音楽性については、「Honey Bucket」、「Now A Limo」といった楽曲、それから、長尺のトラックを一曲のみ収録した92年のセルフタイトル・アルバム『Melvins』に象徴される。その中には、アップテンポの楽曲もあるが、スローテンポの楽曲もある。とにかく、玄武岩のように鈍重で、重力を感じさせる、それがこの音楽ジャンルの正体である。おそらく「Stoner」という言葉は、同バンドの94年のアルバム「Stoner Witch」に因んでいると思う。

 

「Stoner」と呼ばれるロックサウンドは、米国のガレージ文化に裏付けされたもので、ガレージにアンプを持ち込み、フルテン(アンプのすべてのダイヤルをフルに回す)で、ローファイな轟音ロックサウンドを鳴らすことに主眼が置かれていた。 これはギター・ウルフという前例があるにせよ、日本や土地が狭小な場所ではなしえないロック・ミュージックのひとつだ。もちろん、QOTSAもグランジの後の2000年以降の時代、「Song For The Deaf」を始めとする傑作群においてヒットを飛ばし、「良きロックの伝道師」として活躍してきた経緯があったのである。

 

結局のところ、QOTSAのバンドとしてのイメージは、Melvinsのようなガレージに近いラフなロックをより洗練させ、それを大衆にわかりやすい形で伝えていくというものだった。もちろんコミカルな悪魔的なイメージは、バンドに付加的な価値を付け加えることになった。彼らは、忠実にその使命をこなし、近年は、寡作になった印象こそあるものの、少なくとも彼らがロックンロールバンドでなかったことは一度もなかった。そして、それは最新作『In Times New Roman...』でも変わることはない。彼らは、ロックバンドではなく、ロックンロールバンドなのだ。

 

フロントマンの病からの復帰の過程を示した今作『In Times New Roman...』は、もちろんタイトルが示すとおり、「これで終わらない」というバンドの熱いメッセージが込められているとも推測出来る。ベテランの領域に達するとともに、「No One Knows」、「Feel Good Hit of The Summer」といった旧来のアンセム・ナンバーを、昔のように生み出すことは至難の技となった。実際、ロック・バンドとしても、以前のようにスムースにはいかなくなっていると、正直にフロントマンのジョッシュ・オムは打ち明けている。このアルバムを見ても、一目でわかるヒット・ナンバーはそれほど多くは収録されていない。しかし、一方で、テキサスのSpoonにも通じるブギーを基調にしたアクの強いロックソングは今も健在である。フロントマンがお気に入りであるという「Paper Machete」では、シンプルなロックンロールにガレージ・ロックの性質を加味し、The Hivesのヒット曲「Hat To Say I Told You So」にも比する痛快なロックナンバーによって、旧来のファンを納得させるような音楽を提供しようと努めている。QOTSAの音楽は、お世辞にも、古びていないとは言いがたいが、少なくともベテランのロックバンドとしてのプライドを、アルバムのハイライトの一つで示してみせたことは確かなのだ。


しかし、本作では、ワイルドなロックバンドとしてのプライドは示されてはいるものの、人目を惹くトラックが非常に少ないこともまた事実である。楽曲はいずれもパンチやフックに乏しく、また、どことなく重苦しい雰囲気が漂っている。これはフロントマンが今作を復帰のための道筋を示す「治癒の過程」と捉えていることを見れば、多少致し方ない部分もあり、同情的な気持ちにもなる。しかし、それは少なくとも、ストーナーやガレージ・ロック、スタンダードな楽曲に彼らの独特な「ちょいワル」な感じもわずかに漂っているとは言え、2017年のアルバム『Villains』に比べると、以前のような圧倒的な迫力が薄れてしまったことは事実なのである。

 

ただ、アルバムには、ファンの胸中を複雑にするものもあるけれど、それと同時に、一筋の光明となる希望を見出すことも出来る。もちろん、制作した順序通りに曲が収録されていないのは百も承知ではあるのだが、後半部のドラマティックなナンバー「Carnavoyeur」では、ロック・オペラ風のシアトリカルなアプローチを行っていることに注目したい。これは以前までのバンドにはあまりなかった要素で、いくらか新鮮味を与えてくれる。その他、「Sicily」では、ワイルドな悪漢のイメージに象徴されるロックバンドとしての姿が伺え、彼らは全盛期に近い感触や手応えを取り戻しかけているように思える。もし、バンド内でこれらのイメージが共有することができれば、今後、以前のような生き生きとしたQOTSAの姿を見れる日もそう遠くはないはずだ。

 

もうひとつ、本作の一番の魅力を挙げておくと、旧来の直情的なロックソングに加え、米国南部やメキシコの文化に象徴されるアメリカーナの音楽的な要素が加わったことだろうか。アメリカーナといえば、Calexicoというバンドが最もその音楽に近いが、そのイメージから直結するサボテン、テキーラ、その他、ワイルドな雰囲気が加われば、QOTSAの完全な復活は近い。とにかくユニークなロックバンドとして、QOTSAは2000年代からミュージック・シーンに君臨しつづけてきたわけで、そのユニークさだけは他の誰にも絶対に譲ってほしくはないのである。

 

 

64/100