Be Your Own Pet 『MOMMY』- New Album Review

 Be Your Own Pet  『MOMMY』

 

Label: Third Man

Release: 2023/8/25


Review

 

 

少なくとも、Be Your Own Petのような音楽はイギリスのポスト・パンクシーンに同系統のバンドを見出せる。一例ではブライトンのYONAKAが挙げられる。パンキッシュな音楽性、ライオット・ガールに近い苛烈な女性ボーカル、カートゥーン・パンクのようなシニカルさである。


バンドの音楽性は、ホワイト・ストライプスのガレージ・ロック性に加え、旧来のUKのポスト・パンクのオリジナル世代の音楽性が加味され、大規模のアリーナでのシンガロングを意識したアンセミックな展開を擁する。ただ、このバンドの一番の持ち味は、アメコミからそのまま飛び出てきたようなシュールさ、シニカルさ、そしてヒーローもののパロディーにも似た面白み、諧謔味に求められるのではないか。それら、この四人組にしか持ち得ないユニークさが混在し、BYOPの音楽性やバンド・サウンドを構成している。世界に2つと存在しない独自の世界観、ライオット・ガールのニューウェイブの旋風を彼らは今作を通じて巻き起こそうとしている。

 

少なくとも、シニカルなジョークを交え、斜に構えたようなスタンスで臨む彼らではあるが、ここで指摘しておきたいのは、その音楽性には他のどのバンドよりも真摯なものが込められているということ。#1「Worship The Whip」 は、パンチ力抜群のナンバーで、身構えようとするリスナーに、どでかい衝撃を与える。ガレージ・ロックのシンプルな魅力を織り交ぜて、それらをニューウェイブふうにアレンジしたコンパクトなサウンド。彼らの挨拶代わりのジャブだ。

 

#2「Goodtime」では、ニューウェイブとガレージ・パンクを織り交ぜた痛快なパンクサウンドが展開される。 基本的に、ジェミナ・パールのボーカルは音程を変えずに歌うという点では、スージー・スーの系譜にある。また、その声質には、突き抜けるような爽快感があり、そのボーカルを、ジョナス・スタインのプロト・パンクに触発されたシンプルなギター・リフが強化する。またジェミナ・パールのボーカルには、ロサンゼルスのXのようなファジーさもあり、また、X Ray Specsの『Adolescents』の時代のスチーム・パンクに対する親和性もある。一本調子で突き通して行くようなパンク・サウンドは、岩をも突き通すような強さがあるが、ただ、曲の中で、それらのシンプルなロックサウンドに、パールのスポークンワードの遊びの部分や、変拍子的な展開性を交えたシンガロングを誘うフレーズが加わることによって、絶妙なバリエーションがもたらされている。ガレージ・ロックファンはもとより、年季の入ったニューウェイブ・ファンをも唸らさせるような玄人好みのパンクサウンドが作り出されている。

 

#3「Erotomania」は、ギターリフの巧みさが光る。ボーカルの変則的な入り方に着目すべき点があるが、その後に展開されるジョナス・スタインの弾くリフは、最初期のAC/DCのアンガス・ヤング、UFOのギタリスト、マイケル・シェンカーにも比する渋みとフックが込められている。支柱となる中心のグルーヴを取り巻くように、周囲のパートを巻き込みながら突き進むギターラインの力強さには、ある種の頼もしさすら感じうることができる。ギターリフを全面に押し出したアクの効いたサウンドは、ボーカルのファジーな魔力によって、強烈なエナジーを帯びて来る。その後、バンドサウンドとして、ダンサンブルな要素を織り交ぜ、他では得がたい個性味溢れるサウンドが確立されている。狂気的なエフェクトを込めたギター・ソロに続き、曲の終盤では、ロックというよりも、ロックンロールに近いアグレッシヴなビートへと変化する。


Sonic Youthのフル・アルバムと同名である#4「Bad Moon Rising」は、曲調については似通った部分はほとんどない。しかし、一方、この曲は、キム・ゴードンが打ち立てた「ライオット・ガール」という概念に対する、バンドからのこの上ない賛美や称賛であるとも解釈できる。この曲の前向きで、飛び跳ねるようなエネルギッシュなパンク・サウンドは、サビで最高潮に達し、ほとんど及びもつかない激烈なエナジーを発生させる。特に、シアトル・サウンドの象徴的な存在、Mudhoney、TADを下地に置いた激烈なファズ・サウンドは必聴に値する。表向きには、マンチェスターのPale Waveに近いキャッチーなポスト・パンク、もしくは、最初期のセルフタイトル時代のYeah Yeah Yeah'sに近いプリミティブなガレージ・パンクとして気軽に楽しむことができる。そして、ポップネスを強く意識したボーカル、それと対比的なガレージを意識したファズのギター・サウンドの対象性に、アメリカのバンドとしての威信が込められている。

 

バンドはナッシュビルを拠点としているが、#5「Never Again」は、Adolescents、X、Germsといった西海岸のオリジナル世代のパンクを彷彿とさせる。ロックンロールを下地に置いたパンクサウンドは、またこのバンドの特徴であるひねりのある展開や、ガレージ・ロックと結びついて痛快なサウンドとして昇華されている。時にボーカルの中に見られるメロディック・パンクの要素はそれらのガレージ・パンクのエナジーに若干の変化と奥行きを与えている。

 

#6「Pleasure Seeker」では、尖った鋭利なファズ・ギターが再び炸裂する。イントロではレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのような展開を予想させるが、その後、意外にもNo Doubtのグレン・ステファニーが書くようなロックサウンドが展開される。そしてギターラインとドラム、リズムに関しては軽視されがちなLAの産業ロックを彷彿とさせ、LA Guns、Skid Row、Dokkenのハードロックの要素を現代に呼び覚ませてみせているともいえるだろう。ここにはパンクというルーツの他にヘアーメタルや、ハードロックからの影響がわずかに留められている。曲の中盤から終盤にかけては、特に、展開力という面で、何か期待させるものがある。その期待を裏切らないような形で、80年代のメタルに触発された換気力溢れるサビが繰り返される。こういった音楽を現代でやろうとするのは、実は結構勇気がいることと思われるが、それを誰よりもクールにやってみせている。バンドのこれらのHR/HMへの愛着の大きさゆえだろう。

 

当初、一本調子に思えた音楽は、以後、意外にも、多角的な側面を織り交ぜて展開される。#7「Rubberist」は、ボールルームのディスコをパンクという面から解釈している。そういった点では、Panic! At The Disco、The Killersのディスコパンクの再生を試みたとも考えられる。 実際、その試みは効を奏し、UKのディスコ・リバイバルのグループやソロアーティストにも比するスタイリッシュなダンス・ミュージックとして楽しめる。ノイジーなトラックの中の箸休め。バンドの引き出しの多さが伺えるが、これで手の内がすべて明らかとなったようには思えない。


#8「Big Trouble」ではパトカーのサイレンをイントロに配し、Xのオリジナル世代のポスト・パンクサウンドに舞い戻る。 しかし、これは単なる懐古的なパンクサウンドの側面のみが提示されたというわけでない。そのことは中盤以降のテクニカルな展開に現れ、アトランタのAlgiersのようなドライブ感のあるアクの強いパンクサウンドが強烈な印象を残す。しかし、その後はアンセミックなボーカルラインをもとにした、このバンドらしい曲の畳み方が味わえる。

 

#9「Hand Grenade」は序盤の収録曲とほとんど同じようなスチームパンク、カートゥーン・パンクの要素を絡めたアグレッシヴなトラックだが、序盤の曲と比べ、粗が目立つ。ただアルバムの終盤には工夫が凝らされている。#9「Drive」は、アルバムでは珍しくQueen Of The Stone Ageのヒット曲「No One Knows」を彷彿とさせる安定感のあるロック・ナンバーに取り組んでいる。ただ、ストーナー・ロックの影響はほとんど感じられず、Be Your Own Petは、よりその影響を繊細に変化させ、そして内省的な面を織り交ぜている。これらの表向きのライオット・ガールとは別の側面が、今後どのように現れてくるのかに期待すべき点がある。

 

また、クローズ曲も、ノイジーな曲調で押し通すのではなく、それとはまったく正反対の静かなイメージの癒やしに満ち溢れたトロピカルなナンバーで締めている。バンドは、このアルバムで、手の内をすべて見せたわけではない気がする。表向きには、ガレージ・パンク/ポスト・パンクとして楽しめる良作である。また、なぜ、ジャック・ホワイトがバンドと契約したかと考えながら聞くのも一興かもしれない。他にも、重要視すべきは、アルバムの中盤や終盤には、バンドの潜在的な音楽性の不敵さや、底しれない奥深さが暗示的に散りばめられていることだろう。この点に、バンドの表向きの印象から窺い知れない、侮りがたい資質が潜んでいる。

 


79/100

 

 

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