The Reds, Pinks and Purple  「Inner Richmond」-New Album Review

 The Reds, Pinks and Purple  「Inner Richmond」

 



Label: Burundi Cloud

Release: 2023/8/20

 

Review

 

これは、私の近所を散歩するときのサウンドトラックのつもりだった。サンフランシスコのインナー・リッチモンドを散歩するときのサウンドトラックとして、あるいは、何かしたいことがあるときのバックグラウンドとして。

 

-グレン

 

初めて聞くアーティストで、サンフランシスコのソロ・アーティスト、グレン・ドナルドソンさんのプロジェクト、The Reds, Pinks and Purpleの最新作。おそらくミュージシャンとしての活動はサイド・プロジェクトにあるような感じがある。2019年頃からEPやアルバムを商業路線には乗らないDIY路線で発表している。


 

散歩のために制作されたというこの作品だが、個人的な楽しみや安らぎのために録音されたのにも関わらず、奇妙な癒やしが得られる。クリーントーンのギターの背後にはアンビエント風のシークエンスが配され、これが温かな波の上を揺らめくような美麗な質感に彩られている。ギターサウンドに耳を澄ますと、キラキラした海の銀色の光や、健やかなサンフランシスコの太陽が目に浮かぶ。徹底して静謐さを志向したサウンドは、アンビエントとロックの中間にある。

 

かつて、オーストリアのFennesz(フェネス)は「美しさのためにノイズを制作する」と語った。一方のGlenn Donaldson(グレン・ドナルドソン)は、ノイズを除去した実験的でクリーンなギター・アンビエントの世界を押し広げようとしている。

 

アルバムは夾雑物を徹底的に削ぎ落とし、音楽の純粋な結晶のみを抽出したような音楽性だ。オープニング「Stoned Wanderer」は抵抗がなく、個性を削いだようなギターラインが続く。内省的なギターラインは、スロウコアやサッドコアにも近いけれど、そこには悲しみがほとんどない。ただひたすら心地よい音楽的な空間の無限性がシンプルなギターのストロークによって紡ぎ出される。その簡素さについては、アリゾナのPedro The Lionの方向性に近いものがある。人を驚かせるためのロックではなくて、人を安心させるような子守唄にも似たインディーロックだ。


 

「Inner Richmond」では、カントリー/フォークを下地にして和らいだギターロックを展開させる。音の抽象性に関してはシガー・ロスやエクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイをはじめとするポスト・ロックの最初期の時代の音響派を思わせるが、カントリーやフォークの要素が、この曲にクラシカルな気風を付与している。例えれば、Dirty Threeの作品や、Red Stars Theoryのセルフタイトルに収録されている「And Our Neighbors」に比する幽玄なロックが緩やかに繰り広げられる。これがノイジーな音を聴きすぎて耳が疲れがちな人に、またとない癒やしと安らぎの瞬間をもたらす。ギターラインに乗せられるストリングスも深い情感に彩られている。

 

 「Muriel Raff」はグラスゴーのネオ・アコースティック/ギター・ポップに触発されたような一曲。Mogwai、日本/米国のMONOのようなシューゲイズ/ポストロックとしての恍惚性もある。ところが、グレン・ドナルドソンの書く、もしくは指向するプロダクションというのは、ほとんど射幸性や多幸感を徹底して排除しているがゆえ、妙な安定感と落ち着きがある。ライブサウンドとは対極にある自分を見つめるための音楽で、例えれば、同じように海岸の散歩のために曲を制作したハスカー・ドゥのボブ・モウルドのような貫禄も漂う。これらの美麗なギターロックの音の運びが、どのような形でクライマックスを迎えるのかを、ぜひその耳で確かめて貰いたい。


 

一方、静かな印象のある曲とは正反対に、社交的なインディーロックも三曲目の「Nasturtium Beds」で楽しめる。Kevin ShieldsやJ Mascisに触発を受けたようなサウンドは、トレモロアームを駆使し、空間性と抽象性を重視したシューゲイズ/オルトロックという形でその後の展開へと移行していく。ところが、この曲も、手法論としては、ハードロックに近いものであるのに、テンポ感とギターの音の鳴らし方、マスタリングの手法に落ち着きがある。ノイジーな音楽性を志向しながらも、その内郭には奇妙なほどのサイレンスがある。これは非常に不思議に思える。そしてギターの旋律やコードの運行の中には、MBVの甘美的な雰囲気が織り交ぜられている。これらの夢想的なアトモスフィアは、その後、ボーカルの存在しないドリームポップへと変化していく。 これはどこかで聞いたことがあるようで、その実、あまり前例がない音楽なのだ。



ドリーム・ポップなのか、シューゲイズなのか、それともアンビエントなのか・・・。聞き手はこれらの考えに翻弄された後、アルバムの中で最も心地よい瞬間に到達する。「Everything at Lands End」はポスト・ロック/スロウコア/アンビエントの極北へとたどり着くが、そこには清々しい境地を見出すことができる。


エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ、ダーティー・スリー、モグワイ、シガー・ロス、モノ、その全てを凝縮したアンビエント・ギターの集合体とも称すべき音楽観がアルバムのクローズの内郭を形成している。ちなみに、これまでのグレン・ドナルドソンのアルバムのアートワークのデザインの多くは、住宅や花のイラストレーションで統一されている。たまには名前や名声から離れ、ギターロックの純なる喜びに耳を澄ませてみるのも、それほど悪いことではない。

 

 

87/100

 

 

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