Deeper 『Careful!』/ Review

 Deeper  『Careful!』

 

 

Label: Sub Pop 

Release :2023/9/12

 


Review



「立ち止まっていては、Deeperにはなることができないと思った」シカゴの四人組、Deeperのニック・ゴールは述べた。「この曲を聴いているとき、気持ちいいだろうか? この曲を聴いているとき、体はそれに合わせて動きたくなるだろうか?」これは、Deeper(ニック・ゴール、シラーズ・バッティ、ドリュー・マクブライド、ケヴィン・フェアバーン)が、『Careful!』の制作に取り組んでいる際に、彼らが自問したことだったという。「面白い曲にしたかったんだけど、2歳の子供が聴いてもいいような曲にしたかった。基本的にはポップ・ミュージックなんだ」


2020年3月、『Auto-Pain』をリリースして以降、Deeperは、1年半近く新作をライブで演奏することができなかったという。「自分の音楽が、他の人々にとって何を意味するのかを数値化するためにSpotifyの数字のみに頼る、という真空状態の中で生きるのはかなり大変だった」とマクブライドは言う。「しかし、自然は真空を嫌うものであり、バンドは空っぽの時間だけに止まらず、自分たちのアイデンティティとは一体何なのか? という突然空虚になった考えを埋めるべく急いだ。自分たちだけ孤立して、"Deeperって何?"って感じだった」とバッティ。さらに、「バンドとしてひとつのジャンルに留まりたくないといつも話していた」とゴールは言った。

 

Deeperの音楽は、2020年以降イギリスで活発な動きをみせるポストパンク・リバイバルに属している。Thit Heat、DEVO,Talking Heads,北米のプロトパンクを形成したTelevisionの『Marquee Moon』に近い感覚の音楽性を擁している。また、彼等のサウンドは現行のイギリスのポスト・パンク勢にも近いひねりが効いていることも特筆すべきだろう。Squid、Foals、Sport Team,KEGをはじめとするニューウェイブ・リバイバルに近い雰囲気を持っている。これらのサウンドは、そしてロンドンを中心とするポストパンクバンド勢のように、ダンサンブルな要素を絡めたインディーロックサウンドとして昇華される。バンドらしいパンチの効いたサウンドを「Build A Bridge」、「Glare」、先行シングルとして公開された「Sub」に見出すことが出来る。

 

さらに、他にも、Deeperは、このアルバムを介して、実験的な要素にも取り組んでいることに着目したい。「Heat Lumb」は、NEU!のサウンドに近いアヴァン性をジャーマン・テクノと結びつけ、Pussy Galoreのようなジャンク・ロックを掛け合わせ、アヴァンギャルドな要素をもたらしている。「Pilen 4th」では、モジュラー・シンセを駆使し、アンビエント風のトラックに挑戦している。さらに「Devi-loc」では、ニューヨークのアラン・ヴェガ擁するSuicideのシンセ・ロックのアヴァン性を復刻しようと試みる。そういった実験的な収録曲の合間を突くようにして、「Fame」のニューウェイブ風のユニークさや、「Everynight」でのTelevisionのようなプロト・パンクの要素が混在し、プロトともポストとも付かない個性味溢れるサウンドが確立された。


全般的に見るかぎり、ニュー・ウェイブとプロト・パンクの中間にある作風で、イギリスの現行のポストパンク・バンドに慣れ親しんでいるリスナーにとっては新奇性を感じさせないかもしれない。他方、Deeperは、「Airplane Air」、「Pressure」といったトラックで外向きのベクトルを持つパンク性と合わせて、独特な内省的な脆弱性(繊細性)をサウンドに生じさせている。言い換えれば、ギターのアルペジオやボーカルに、メロディアスな要素が掛け合わさることで生じる突然変異的なエモーション。それらの内省的なサウンドは、アルバムを取り巻く外的なエナジーを擁するポスト・パンクサウンドの渦中にあって、鮮やかなコントラストを形成している。

 

こういった長所もあることを認めた上で、本作の1番の難点を挙げるとすれば、前作のアルバム『Auto-Pain』では良かった面が薄れてしまい、クールな雰囲気が曇りがちになっていることかもしれない。


「Airplane Air」では、Deeperの本来の魅力とバンドが何を示そうとしているのか伝わってくる。ただ、他の部分では、イギリスのポストパンク・バンドのようなユニークさ、表面的なサウンドに見えづらい形で潜んでいる強い芯のような核、それからライブ・セッションで偶発的に生じる緊張感や精彩味を示すには至らなかった。セッションにおいてバチバチと互いに火花をちらすような独特な緊迫感、それは例えば、Squidの最新作『O Monolith』の「Swing」で捉えやすい形で示されている。しかし、この欠乏感は、Deeperが実際のライブで新しい曲の感触を確かめられなかったところに原因があり、彼らにとって不運だったと思う。この点は、ライブを重ねるにつれて解消されるはず。今後、よりアグレッシヴな音楽が生み出されることを期待したい。

 


68/100