Slowdive 『everything is alive』 -New Album Review

 Slowdive 『everything is alive』 

 



 

Label: Dead Oceans

Release: 2023/9/1



Review


UKのロックバンド、Slowdiveは、一般的には、シューゲイズの代表格とみなされている。例えば、シューゲイズの名盤のガイド本があれば、必ずといっていいほど掲載される。しかし、六年ぶりとなる最新作『everything is alive」に関しては、シューゲイズという括りだけでは語りえない何かが含まれている。もちろん、旧来のドリーム・ポップ/シューゲイズの要素が消えたというわけではない。しかし、多く旧来のファンが知っているSlowdiveとは別の音楽性がこの最新作では示されている。新しさと旧さが綯い交ぜとなった異質なアルバムと呼べるのではないか。


六年間にバンドにどのような心境の変化があったのかは定かではない。しかし、オープナーを飾る「slanty」の変貌ぶりには正直なところ驚きを覚えざるを得ない。ジャーマン・テクノを下地にしたミニマル・テクノで始まるイントロは、ロックの原初的でありながら驚異的な瞬間を見事な形で捉えている。しかし、曲のランタイムは、五分半とそれほど長大とは言い難いのに、このオープナーは10分を越えるロックの叙事詩のような壮大さが込められている。クラフトヴェルクの「Autobahn」の時代のレトロなテクノを下地にし、その中にチェンバー・ポップ風のアレンジや、奇妙なエキゾチズムの要素を散りばめ、続く展開への期待感を盛り上げている。その後に続くのは、お馴染みのシューゲイズサウンドである。しかし、例のディストーションとディレイを混ぜ合わせたギターラインは、目の前に立ち現れたかと思うと、すぐに煙のように立ち消え、すぐさまイントロのテクノ風のモチーフが出現する。これらのテクノとシューゲイズが交互に立ち現れるワイアードなサウンドは、RUSHをはじめとするプログレッシヴ・バンドが志向した実験的なロックに近い。大げさにいえば、大掛かりなエピグラフが目の前に出現するような錯覚すら覚えさせる。これはほとんど意表をつかれるような劇的なオープナーだ。


#2「prayer remembered」では一転して、Beach Houseをはじめとする現代的なドリーム・ポップサウンドを上手く取り入れ、甘美的なインディー・ロック性を探っている。この曲に見えるまったりとしたサウンドには、Mogwaiのような轟音系のポストロックの影響が取り入れられている。とはいえ、その雰囲気はチルウェイブにも近いリラックス感に満ちあふれている。遠くの海のさざなみをぼんやり眺めるかのような抽象的なサウンドは、以前のSlowdiveの音楽性のコモンセンスを打ち破るパワーを兼ね備えている。アーティスティックで描写的ともいえるギターラインは、シンセのシークエンスによって、よりドラマティックな雰囲気が加味されている。作曲の手法論としては、ドリームポップ/シューゲイズから完全に脱却しているにもかかわらず、その核心にある音楽的な風味は、他のいかなるバンドよりも、上記のジャンルの核心を突いている。ここには91年から三十年続くシューゲイズバンドとしての経験の豊かさが示されている。

 

#3「alife」でもバンドの音楽性の変貌ぶりには驚かされる。ここではローファイ/サイケの要素をシンセポップを掛け合せた現代的なインディーポップに取り組んでいる。これはバンドメンバーがオーバーグラウンドのアーティストにとどまらず、Beach House、Beach Fossils、Ariel Pink、Partimeのようなインディーズのサウンドに触発されている様子が伺える。 しかし、シューゲイズ界隈で大御所と目されるようになっても、彼らは新鮮なサウンドを吸収し、それをどのような形でアップデートさせるのか、そういった経験あるバンドとしての研鑽を片時も絶やすことはない。空間を浮遊する抽象的なボーカルは、モダンなインディーロックソングと結びつき、さらに最終的には、ディスコ・ポップのようなレトロな音楽という形でアウトプットされる。


この後に続く、#4「andalucia plays」は、情報筋によると、John Caleの「andalucia」が参照されているという。ドリーム・ポップに範疇にあるギターラインやシンセサイザーの甘美的なフレーズはこのバンドらしさがあり、感嘆すべきことに、ボーカルはジェネシスのピーター・ガブリエルのような円熟味と渋さを漂わせている。これまで、Slowdiveは、バラードを真っ向から書くことを疎んじてきた印象もあるが、この作品では、あえてそういった渋さを感じさせる音楽に挑戦している。実際、それはバンドの長きに渡る歴史を思わせるとともに、メンバーそれぞれが歩んできた人生の深さが美麗なサウンドとして昇華されている。最終的には静と動を代わる代わる出現させ、シューゲイズ/ドリーム・ポップの幻惑の中にリスナーを優しくいざなってゆく。

 

#5「Kisses」は、ディスコ・ポップに触発されたニューゲイズに近い雰囲気のある一曲で、UKのロンドンの現行のシーンへの経験のあるバンドからの解答とも言える。そのサウンドには、現代的なスタイリッシュなサウンドの側面がフィーチャーされている。踊ることも出来るし、またメロディーに浸ることも出来る、ローファイに触発されたUSインディー寄りの作風となっている。そして、この曲もまた、Ariel Pink、Partimeが書くようなサイケデリックな感じのサウンドの影響がみいだせる。サビの部分では甘口のインディー・ポップの最高の瞬間を味わえる。


#6「Skin in game」では、古典的なシューゲイズサウンドへと転じる。甘美的、轟音、退廃的なシューゲイズサウンドの核心を捉えた上で、地の底を這うかのような重々しいサウンドが貫かれている。そして、ここでも、ローファイサウンドに触発されたサイケデリアへの憧憬をギターの轟音性の向こうに読み取ることが出来る。Nu-gazeを意識した音作りではありながら、その中には、最もこのジャンルを良く知るバンドの奥義のような何かが示されているといえる。

 

#7「chained in cloud」では、レトロなテクノサウンドに縁取られたイントロに続いて、ドリーム・ポップサウンドへと移行する。しかし、正直、親しみやすい展開になっているとは言いがたく、ジャンク・サウンドの域を出ないところがあるのが惜しい。ただ、クローズ「the slab」では、シューゲイズの最もクールな部分が瞬間的に立ち現れる。スラブとタイトルに銘打たれているように旋律には、部分的にエキゾチックな要素が含まれている。ただ、バンドのクリエイティビティの煌めきは、ほんの一瞬にとどまり、スパークを迎えておらず、なおかつ、オープナーのような深みのある展開に結びついていないのが残念。夏の線香花火のように、一瞬で立ち消えてしまう部分もあるのが、このトラックのちょっとだけ惜しい点と言えるのではないか。




 

 

78/100


 

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