パワーポップの甘酸っぱさ The KNACK 「GET THE KNACK」

 THE KNACK 「GET THE KNACK」


いわゆる、一度聴いたら耳について離れない曲というのがあって、このTHE KNACKというバンドの「マイ・シャローナ」という楽曲もそのひとつに挙げられるでしょう。もうずいぶん昔になってしまいましたが、この中の一曲、マイ・シャローナがあるバラエティー番組に使われていたことを覚えている人は多くないかもしれません。

しかし、このマイ・シャローナというフレーズを聞くと、「ああ、この曲だったの!」と理解してくれる方も少なくないはず。今回、このアルバムを取り上げたのは、有名なこのマイ・シャローナという曲が収録されているから紹介しよう、というのではなく、このアルバムのその他の曲が、結構粒ぞろいの楽曲が揃っているため、再度、ここで埋もれつつありそうなThe Knackという良質なロックバンドに、さりげなくスポットライトを当てておこうという意図があります。

このバンドは、実は、カートコバーンなども、影響を受けたバンドとして挙げていて、直截的な影響を感じないですが、なんとなくそのフレーズやメロディーのキャッチーさという点で、カート・コバーンは、何か売れるロックミュージックの方程式を肌で学び取ったのかなあというような気がします。

 このバンドを説明する上では、”Power Pop”というロックのジャンルを無視するわけにはいきません。パワーポップというジャンルは、どちらかというと、ニューウェイブとかパンクよりの類型の扱いであって、何だかちょっと切ないような、甘酸っぱいようなフレーズがちりばめられているのが顕著な特徴です。その源流をたどると、Flamin' Grooviesという英国のロックバンドの「Shake Some Action」という楽曲が、パワーポップの原型、雛形だというようにいわれています。

もちろん、オーバーグラウンドなどではチープ・トリックという、パワーポップに分類されてもおかしくないバンドが、日本で、ビートルズに負けないほどの人気を博した経緯がありますが、どうも、このパワーポップというジャンルは、メロディーというのが前面に引き出されていて、一度聴いただけで楽曲の良さが理解しやすいという側面があって、日本人にとっては親和性の高い音楽性なのではないかと睨んでいます。

そして、THE KNACKというバンドはよく一発屋のようにみなされるところがちとかなしいところですが、実は結構、タイトなドラミングであったり、ギターの演奏というのは、シンプルでそれほど派手さはないんですが、隠れた実力派のバンドということだけは名言しておきたいですね。

 

このアルバムの中ではたしかにディスコミュージック的な雰囲気のあるマイ・シャローナばかり取りざたされるのにちょっと不満でありまして、個人的には他にもっといい曲があるじゃないかと、ナックファンとしては義憤をおぼえ、実は「Oh Tara」という曲、そして、「That's What The Little Girl Do」という二つがパワーポップ史の五本指に入ってきてもおかしくない名曲なんだと勝手に断定づけておきたいところです。

結構、THE KNACKの曲というのは、淡白な印象で、ギターの音色も、アンプからそのまま直という感じであるし、また、それほどメロからサビにおいて、旋律の音階が劇的な跳躍があるわけではないので、聴いていて強烈なインパクトはないです。それでも、ダグ・フィーガーの歌声の爽やかさというのは聴いていて心地よく、永遠の輝きすら持っているように思えます。彼の声質というのは、とても純朴でいて、とっつきやすいものがあり、歌い方にも、変な力みが入っていなくて、不純物のようなものが全然感じられないです。声は人を表すという言葉を信ずるならば、この歌声にフィーガーの人柄、彼の温和で親しみやすい性質がはっきり現れているのかもしれません。 

 「Oh tara」

これは十代の頃によく聴いた曲で、なんだか聴いていると、多感なころの情感をゆさぶられるかのよう、胸キュンというべきか、なぜだか切なくなってきたのを覚えています。実はこれがパワーポップの類い稀な魅力で、青春のセンチメンタルな情感を想起させてくれる。

それはちょっと青臭く、はたから見ると、ちょっとダサそうにも思えるのだけれども、十代の頃しか味わえないような大切な感情を、こういった楽曲というのははっきりとした形で呼び起こさせてくれました。今、年をとって聴きなおすと、たしかに曲の良さというのはよくわかるんですが、かつてのような胸をドギュンと射抜かれるような感じというのは、もうすでに味わいがたくなっています。なぜ、そのような共鳴が起こるのか、ちょっとわからないですけれども、それこそ、おそらく、音楽というもののもつ不思議な魅力、醍醐味なのではないでしょうか。

 「That's What The Little Girl Do」

この曲については、Oh taraとは対照的に、非常に明るく爽やかで、弾けたような印象のある曲で、とても親しみやすいところがあります。聴いていると、柔らかな風が目の前を通り抜けていくかのようなセンチメンタリズムで彩られています。ちょっとオールディーズ的なコーラス、そして、間奏のダブルギターのハーモニクスが非常にいい味を出しています。一切、余計な展開を付け加えず、非常にシンプルな構成となっています。

 

 

改めて聞いてみると、THE KNACKというのは、マイ・シャローナに代表されるように、あっけないほどシンプルでスタンダードなロックを奏でるミュージシャンです。小細工を一切せず、ありのままの音楽をからりとした痛快!といえるほどの心情で表現する。そういったところが、刺激的な色気のようなものを芸術に求めるタイプの聞き手にとっては、ちょっと物足りない印象があるのかもしれません。

 

しかし、やはり、改めて言っておきましょう。THE KNACKは素晴らしい!!

 

いつ聴いてもオールタイム・ベストのロックアーティスト。健全でいて、爽やかな音楽性で、今なお時を越えて、私たちを楽しませ、勇気づけてくれる、不思議な魅力を持った太陽のようなミュージシャン。

50年という長い年月を経ても、かれらの楽曲の輝きというのは今もなお失われていないように感じられます。



 

0 comments:

コメントを投稿