ブラジルに流れる最も濃い血脈 SEPULTURA「ROOTS」

 SEPALTURA 「ROOTS」

 セパルトゥアの魅力は、その音楽性の中にブラジルのインディオに対する深い敬意、そして、ただならぬ誇りを持って、その民族的な音を取り入れている点です。こういったバンドは、すでに紙の上の寓話になりつつある、イギリスやアメリカでは容易には出てこない異質な音楽であり、また、郷土にたいする愛着を一身に背負い、傑出したメタル音楽を産み落としたという面では、ジャンルが全然異なりますけれど、古典音楽のバルトーク・ベーラのハンガリー民謡にたいする憧憬にもなぞえられるかもしれません。

 今回ご紹介しますセパルトゥアのアルバム「Roots」は、アメリカの「Roadrunner」からのリリース。 彼等は、それまで「Arise」「Chaos A.D」と、ごく普通のスラッシュ・メタル、デス・メタル、低重音ハードコア・パンク色の感じられる音楽を奏でていましたが、今作「Root」では、さまざまな要素がミクスチャー的に昇華され、アルバム名の通り、ブラジル・インディオの民族性のルーツ色を強く押し出すことにより、唯一無二の屈強なメタルバンドの最高峰へと一挙に上り詰めたといっても過言では有りません。

一曲目の「Root」のイントロの凄まじい予感、それは奥深いジャングルの中の虫の鳴き声の異質な雰囲気を表したSEからはじまって、そして、来るぞ、来るぞと思わせながらの、ドラム缶を殴打するかのような、ハイエンドがコレ以上はないというくらい強調された金属的なタムが印象的なイーゴル・カヴァレラの爆音ドラムからして衝撃の連続。

この楽曲は、およそ、メタル史最高峰の楽曲といっても過言ではなく、その後に警告音のように発せられるギター、そして、ブラジルインディオの祖霊がとり付いたかのようなすごみのある怒りすら感じられる低く唸るようなボーカル、聞こえるすべての音が完璧といえ、これはただのノイジーなメタルミュージックでなく、民族の音楽という言語性を覚悟をもって奏でるという真摯な態度をとって表現されているのがはっきりの伺えます。

「Ratamahatta」では、インディオの呪術的な舞踏のような雰囲気を表していて、まさにミクスチャーロックという表現がふさわしく、先住民の言語、民族打楽器、ターンテーブルのスクラッチ的な手法をまじえてメタルという枠組みには入れるのが惜しいほどの独特な魅力を有しており、ジャズフュージョンの風味であるとか、あるいは独特なインディオの言語の発音がヒップホップのライム的な風味すらをも醸し出しています。

そして、彼等の初期から引き継いできた音楽性の集大成ともいえる「Spit」は、有無をいわさずの名曲。

アルバムの中では唯一、疾走感の感じられる楽曲、重戦車のようにすべての存在をなぎたおしていくかのよう。これはアメリカの爆音ニュースクールハードコアバンド「CONVERGE」に匹敵するほどの力強さと凶暴性を持っています。イントロのギター・チョーキングのキューンというゆらめきからはじまり、その上にガツンと乗ってくる背筋がゾクっとするようなベースの重低音。そして、激しい憤怒すら感じられる低く唸るようなマックス・カヴァレラのボーカル、そして、小気味良いギターの厚みのあるフレーズ、そのすべてがカッコよくて、ほとんど空間を突き刺すように、ゴリゴリと痛快なくらい素早く走り抜けていきます。

ここには聞くものの魂を鼓舞させるほどのパワーがあるのには、ほとんどニヤリとせずにはいられません。

このアルバム「ROOTS」には、ブラジルという土地に入植者として白人が入り込んできて、初めてインディオの独特な音楽に目の当たりにしたときの驚愕のような感慨が宿っており、それがいかほど白人に対して脅威であったのか、それまでの価値観を揺るがすほど独特な魅力を持った文化であったかが、ここにありのままに表現されています。

 インディオにたいする誇りを、ブラジルという国土の入植者である彼らが代わりに背負い、民族性あふれるロックを誇らしげに全世界にむけて発信したこと。これぞまさに、セパルトゥアをワールドワイドな存在とし、アルバム「ROOTS」を永久不変の輝きあふれる伝説的な作品たらしめているのでしょう。 

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