Sub Popの名作 Sunny day Real Estate 「LP2 」

Sunny Day Real Estate


Sunny Day Real Estateは、90年代のエモコアシーンを牽引したバンドとして有名。アメリカ、シアトル出身なので、ニルヴァーナのドラマー、デイブ・グロールとも人脈的に繋がりの深いバンド。もちろん、その後、ベーシストのネイト・メンデルがフー・ファイターズに合流したことで、彼はアメリカでも有数のロックバンドのメンバーとして活躍し、一躍有名になります。


このサニー・デイ・リアル・エステイトの良さというのは、繊細な叙情性あふれる楽曲の雰囲気にあります。それは、どことなくアンビエントのように淡くかすかな表現性の上に、非常に絶妙な具合に構築されており、強度のある印象と脆いような印象を併せ持つ異様なロックバンドです。たとえば、ニルヴァーナやパール・ジャムほど強くはないけれども、かといって、他のアメリカンフットボールやミネラルほどには繊細という印象もない。どちらかというと、強く儚いというような表現がこのバンドにはぴったり当てはまるのかもしれません。ほかのグランジ、もしくはエモ勢とも少し異なる性質で、きわめて静かな抒情的なフレーズと激情的なスクリームが、かのニルヴァーナのように、絶妙な具合で対比的に配置されているあたりが独特です。


Sunny Day Real Estateの醍醐味を知る上では、落ち着いたスタンダードなフォーク・ロック色を打ち出した2000年リリースの「The Rising Tide」と「Diary」を聴き比べてみてから、そのあと、今回、紹介するSub Pop Records(注・アメリカ、シアトルに展開するインディーズレーベルで、ニルヴァーナのデビューアルバムBleachをリリースしたことで有名。90年代のアメリカのグランジムーブメントを牽引した存在からリリースされた、激情系エモの先駆けともいえる「LP2」を聴いてみれば、ああこういうバンドなのかというのが理解してもらえるかもしれない。只、言っておきますと、ちょっとばかり、このLP2の方はちょっとだけマニア向けの雰囲気が漂っているのかもしれませんので悪しからず。


 

「LP2」Sub Pop 1995


アメリカ、シアトルのレーベル、「Sub Pop」からリリースされた「LP2」は、2009年リマスター再発盤。ここでは、他のサニー・デイ・リアル・エステートの作品より個性味あふれる音楽が奏でられていて、エモともグランジともつかない、その両方のニュアンスが合わさった独特な名盤。


 


アルバム全編には、静と動が絶妙に楽曲の中に配置されているのが伺え、また、フロントマンのジェレミー・エニグクの作曲センスが遺憾なく発揮されている。彼は、エモというジャンルについて、「美しい声があるならそれを生かさなければならない」というような発言をしており、その言葉通り、デビュー時にくらべると、今作では、エニグクの繊細で美しい声質を聴くことができるはず。


このアルバムには、サニーデイ・リアル・エステイト節とも言える独特な音階進行がはっきり見受けられるのが特徴となっています。


たとえば、一曲目の「Friday」からして、エジプト音楽のようなエスニック風味のあるエキゾチックで独特なコード進行が見られ、一曲目の数秒で、彼らの独特で甘美な世界観の中に、巧みに引き摺り込まれてしまうでしょう。


ジェレミー・エニグクのヴォーカルというのも、少し舌っ足らずで好き嫌いあるかもしれませんが、ここではファーストアルバムから引き継がれた以上の激しい抒情性が展開されていて、そこに圧倒されるものがある。なにか他のグランジ、もしくはエモ界隈に見られない怪しげな光を放っています。


三曲目の「Red Elephant」は、彼等の名曲のひとつと言っても差し支えないでしょう。きわめて繊細なギターフレーズが淡々と奏でられる中で、エニグクの清らかで繊細な泣きの入ったヴォーカルスタイル、というのは非常に切なげに聞こえます。その途中で激情的な曲展開に移行します。ここでは、エモの要ともいえる、切なさと泣き、そのなかに激しいディストーションギターの音色を最大限に活かしたフレーズが満載。この曲というのは、ポストハードコアの色合いもあり、後のエモ界隈のバンド、もしくはその後のスクリーモバンドの音楽性の見本となったと思われる。


十曲目の「Spade and Parade」も、渋みのある名曲で、ゴールドスミスのタメの効いたドラミングというのも、癖になる雰囲気があり、なにかここでは、詩的な感情が抽象派の絵画のように表現されていて、およそロックバンドとはいえないほどの抒情性が呼び覚まされている。エニグクのしっとりさとは対照的な歌唱法というのがどことなくコバーンを意識しているようなのが伺えます。また、楽曲の最後の静寂から轟音に移行するあたりは、いかにもシアトルらしいロックバンドの音楽性で、往年のサブ・ポップレコード愛好者をニヤリとさせること間違いなし。

 

この作品「LP2」は、シアトルのバンドということで、サブ・ポップからリリースされた事実についてはそれほど驚きもないですが、他のグランジロック界隈のバンド、グリーンリバー、マッド・ハニー、L7であるとか、この辺りの年代のサブ・ポップのカタログから見ると、かなり独特で、異色の音楽性でしょう。


このアルバムは、1stアルバムとともにサニー・デイ・リアル・エステートの音楽性を明瞭に決定づけたといえ、また、後代のエモ、もしくはスクリーモというジャンルの主要なイメージを形作った重要なアルバムと言える。どちらかというと、エモコアとグランジの間の子のような感じがあり、両方のジャンルのファンにとって聴き逃すことのできない、通好みの作品となっています。 

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