New Album Review Fontaines D.C. 「Skinty Fia」

 Fontains D.C. 「Skinty Fia」

 


Label:Patisan Records


Release:4/22 2022

 

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ーアイルランドの孤独ー


フォンテインズ・DCの通算三作目となる「Skinty Fia」は、これまでの作品の中でも最もこのバンドの音楽性が明確となったアルバムに挙げられます。これまでのポストパンク寄りのアプローチよりもバンドの本質であるブリットポップの色彩がより鮮明となっています。アルバムのタイトルは、アイルランド語で「鹿の天罰」を意味し、さらに、このフレーズは、ドラマーのトム・コルの叔母が、かつてよく語っていたアイルランドの古い諺に由来するようです。

 

いくつかの先行シングル「Skinty Fia」から直前にリリースされたこのアルバムのハイライトをなす「Jackie Down The Line」に至るまで、このサイトでは、バンドのシングルの流れを追ってきましたが、彼らの新作について言えることは、少なくとも、表面的な音楽よりもアイルランドのバンドにとって深く重い意味を持つのだということです。

 

一曲目に、アイルランド語のオープニングトラックを持ってきているように、フォンテインズDCのメンバーは、鹿の天罰と題された本作においてアイルランド民族としての源泉のようなものをイギリスのプリットポップへの憧憬を交えたような形で探求してきます。彼らは、オアシス、アンダー・ワールド、それ以前のマッドチェスタームーブメントの筆頭であるザ・ストーン・ローゼズに近い、パンクとダンス・ロックの中間を行くような音のアプローチをいくつかの楽曲で追求していきます。さらに、それに加え、イギリスのNMEが書いている通り、ブリストルサウンドのトリップポップの独特な暗鬱かつクールな雰囲気がこの作品には情念のように渦巻いているように思え、それが作品全体に陶然としたアトモスフェールを醸し出しています。さらに、バンドは、この作品の制作段階で、ギターロックを聴くのをやめ、代わりに、カニエ・ウェストをはじめとするラップを好んで聴いていたらしく、ブラックミュージックからのグルーヴの影響は少なからず感じさせ、かつてストーンローゼズがクラブミュージックに新たな質感を追い求めたように、2022年代に生きる彼らはヒップホップに探ろうとしているのかもしれません。

  

アルバムの中で最も強い印象を放ち、ロックバンドとしての高い完成度を提示したのが、5曲目に収録されている「Jackie Down The Line」でしょう。このトラックでは、フェイザーをかけたアシッドハウスに近いギターロックがミドルテンポで繰り広げられていきますが、そこには、オアシスの初期のような「孤独」の香りがほんのり滲んでいて、その他にも、「Nabokov」においては、カサビアンやザ・ストーン・ローゼズに近いアプローチを図り、前の時代で止まったままであった時計の針を、実験的なギターロックのアプローチを介して、さらに現代へと押し進めようとしているように感じられます。また、ブリット・ポップの影響を色濃く受けつつ、そこに何らかの現代のバンドとしての新しいサウンドを付け加えようと苦心惨憺を重ねるバンドメンバーの姿がレコーディングされた音を通して何となく浮かび上がってくるかのようです。ある側面で、その試みは成功しており、また、ある側面では、まだ荒削りで未完成な部分もあると感じられます。このバンドは、まだまだ未知数のポテンシャルを秘めたバンドなので、このレコーディングの最後でようやく何かのきっかけを掴んだというような気もします。

 

そして、作品の評価とは別に、なぜ、彼らが、この「Skinty Fia」に取り組まねばならなかったのかについては、アイルランド民族としてのアイデンティティを、この作品において探し求めたいという強い意志があったからなのかもしれません。上記のように、あえて「孤独」という言葉を選んだ理由は、アイルランドという国家の地理、また、政治、宗教、生活すべてにおいて適用できる概念なのです。それは、UKという地理以上に巨大な存在の内に位置する国家としてのアイデンティティ、そして、イングランドという存在を通して見える、アイルランドの民族性、文化性を、フォンテインズDCは、このアルバムにおいて、真摯に探し求めているようにも感じられます。彼らの表現性は、不器用で、バンドとして完成されていない部分もありますが、それが何かしらせつなく、琴線に触れるものがある。


少なくとも、このアルバムは、そういったロック音楽の核心にある精神性を漂わせた快作であることは疑いないようです。ギター、ベースのディストーションのかかり具合、バンドサウンドとしての兼ね合いを見ても、表向き以上に、ヘヴィーであり、グルーヴィーで、聴き応えあるアルバムです。近年、シンセポップやドリームポップが流行する中、逆に、こういった重たいヘヴィーロック寄りのアプローチを図るバンドは希少なので、新鮮味すら感じさせてくれる作品です。


 

critical rating:

85/100

 

 

 

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