Mass Of The Fermenting Dregs 「Awakening:Sleeping」

 Mass Of The Fermenting Dregs 「Awakening: Sleeping」

 

 

Label:  Flake Sounds

Release: 2022年8月17日

 

Listen/Stream

 

 

Review

 

実を言うと、Mass Of The Fermenting Dregs(MOTFG、マスドレ)はデビューする以前から、十数年以上前から知っている。


当時、ストリーミング視聴サイトを通じて、The Mass Of The Fermenting Dregsの「kirametal」を初めて聴いた。2000年代当時、最初のオリジナル・メンバーで活動していた。当初は宮本奈津子を中心とする女性トリオ編成のロックバンドだった。アーティスト写真、ワンピース姿で、ベースをワイルドにかき鳴らし、情熱的に歌をステージでうたう姿は今でもありありと覚えているが、そのクールな佇まいは、NYのアンダーグラウンドシーンから登場したブロンド・レッドヘッドのカズ・マキノを彷彿とさせた。そのクールでありながらパッションあふれる印象に違わぬ、切れ味バツグンのオルタナティヴロックサウンド全開のバンドが関西のシーンに登場したという印象を受けたのである。

 

当時、マスドレは、EMIのオーディションに合格し、最初のEPをニューヨークで行っている。これはナンバーガールもそうだったが、2000年代くらいまで、EMIは海外でのレコーディングを見込みのある新鋭バンドに積極的にとりくませていた証拠でもある(デイビッド・フリードマンがプロデュースを手掛けた『Sappukei』もアメリカでレコーディングされた)」同年に、マス・オブ・ザ・ファーメンティング・ドレッグスは、フジ・ロックなど夏フェスの参加等を通じて、あれよあれよという間に全国区のロックバンドに成長していき、ロキノンのライターにも知られるようになった。

 

この最初期のセルフタイトルのおかげなのか、マス・オブ・ザ・ファーメンティング・ドレッグスは、海外のインディーロックファンの間で人気があるようなのだが、ここ日本では、正直、その実力に比べて適切な知名度に恵まれていないように思える。つまり不当に過小評価を受けている。さらに、それにくわえ、数年前、オリジナル・メンバーの脱退という出来事は、バンドを存続させていく上で大きな障壁ともなったように思える。それでも、マス・オブ・ザ・ファーメンティング・ドレッグスは、結局のところ、バンドとしての歩みを止めることはなかった。メンバーを入れ替えて、新たな編成のスリーピースバンドとして再出発することになった。


 

最新作『Awakining:Sleeping」は、このバンドが新境地を開拓した作品といえ、マスドレらしいオルタナティヴ・サウンドも全開であり、これまでとひと味異なる音楽性を取り入れたバリエーションに富んだ作風となっている。オープニング・トラックを飾る「Dramatic」では前作アルバムに収録されていた「あさひなぐ」のように、J-Popに近いアプローチを図り、前作に見られたような歌ものとしての曲をより洗練させ、親しみやすいものとなっている。そこに宮本のボーカルは、以前のような気負いがなくなり、松任谷由実のような大御所のような貫禄のある歌いぶりとなっている。この一曲目こそがこのニューアルバムの世界観を形成しているといえる。

 

結局のところ、音楽をはじめとする芸術全般は、作り手の人生をそこに反映したものでしかない。それだけはどのような形をとろうとも偽りようがないのだ。このアルバムの中に内包される世界は、その後、このバンドの歩みそのものを反映していくかのように様々な形で展開される。

 

シューゲイズサウンドを取り入れた轟音ロックサウンドを追求した「いらない」、最初期のオルタナティヴ・ロックの延長線上にあるパワフルなサウンドを引き出した「Melt」の魅力もさることながら、バンドとしての新境地を見出した「1960」では、クラフトヴェルクやNEUのドイツのデュッセルドルフの電子音楽をロックミュージックに組み替えた音楽にもチャレンジしている。

 

特に、この「1960」では、日本のギター・ソロが不評という現代ミュージックシーンに激烈に強い抵抗を示すかのように、一分以上にも及ぶ、クールなギターソロが展開されるが、ギターソロというものの醍醐味がここに詰め込まれている。その他、「Helluva」では、マッド・カプセル・マーケッツ、ココバットのような、往年のミクスチャーサウンドを現代的なヒップホップサウンドとして再解釈した曲まで収録されている。これらの多彩でバリエーションに富んだサウンドアプローチが、アルバムの前半部において、刺激的に繰り広げられていくのである。


 

アルバムの後半部は、前半部とは少し印象が異なる、メインボーカルを務める宮本ではなく、新加入の男性メンバーがボーカルに挑戦し、これまでのマスドレにはなかった新たなチャレンジを刻印したものとなっている。「Ashes」では、ブラッドサースティ・ブッチャーズ、イギリスのMega City Fourを彷彿とさせる爽快でドライブ感あふれる楽曲を提示している。ここでまた、これまでのマスドレの音楽にはなかった新鮮な要素をリスナーは楽しむことが出来るはず。

 

他にも、モダンなオルタナティヴ・フォークに触発されたインストゥルメンタル曲「After The Rain」では、これまでのマスドレらしからぬ内省的な音楽を体感出来る。さらにアルバムのクライマックスでは、以前からのファンの期待に大きく答えてみせる。「鳥とリズム」では、近年のアルバムに見受けられる、J-Popに根ざしたキャッチーで爽やかな日本語ロックソングが展開される。ここで、マス・オブ・ザ・ファーメンティング・ドレッグスらしい叙情的なロックサウンドの真骨頂を堪能出来るはずだ。さらに、クロージング・トラック「Just」ではこのバンドらしいキワキワなヘヴィーロック性を維持しつつ、親しみやすいキャッチーな要素が込められている。

 

今週初めにリリースされた三作目のアルバム「Awakening:Sleeping」は、これまでのMOTFDの作品の中で、最も聴き応えのあるアルバムに挙げられる。シングル「kirametal」のデビューからおよそ16年にわたり長いタフなロックバンドとして活動してきた、このバンドの底意地のような怒涛のスピリットが全編には漂っている。日本でインディーロックバンドとして長く活動することは、ときに苦しいことではあると思われるが、タフな活動スタイルを長年にわたって徹底して貫いてきたロックバンドとしてのプライドがこの新作全体には漂っている。ここに、マスドレは、日本のインディー・ロックバンドとしての最大の成果を目に見える形で築き上げたといえる。

 

 

90/100

 

 

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