New Album Review Nils Frahm 「Music For Animals」

 Nils Frahm 「Music For Animals」

 



Labal: 
Leiter-Verlag

Release Date : 2022年9月23日



Official-order

 


 Review



ニルス・フラームの2022年の最新作「Muisic For Animals」 は、Covid-19の孤立の中で生み出された。彼がマネージャとともに立ち上げたドイツのレーベル"Leiter-Verlag"からの発売された。さらに、彼の妻、ニーナと共にスペインで二人三脚で制作されたスタジオ・アルバムです。

 

この作品について語る上で、ニルス・フラームは明瞭に、商業主義の音楽と距離を置いていると、The Line Of Best Fitのインタビューにおいて明言しています。フラームは、「マイケル・ジャクソン、デヴィット・ボウイ、ビリー・アイリッシュ、といったビックスターとは別の次元に存在する」と語る。それはまた、「自分がその一部だと思われたくありません、再生数ごとにより多くのお金を稼ぐために音楽の寿命を短くする人々です」「誰かが短い曲を作りたいと考えているなら、それは問題はありません。でも、それは私にとって真っ当な判断とは思えないのです」

 

「自分がその一部だと思われたくありません、再生数を稼ぐことや、多くのお金を稼ぐために音楽の寿命そのものを短くする」というフラームの言葉は、現今の商業主義の音楽が持て囃される現代音楽シーンに対する強いアンチテーゼともなっている。実際、再生時間が三時間にも及ぶ壮大な電子音楽の大作「Music For Animals」は、深奥な哲学的空間が綿密に作り上げられ、建築のように堅固な世界観が内包されている。一度聴いただけではその全容は把握しきれず、何度も聴くごとに別空間が目の前に立ち現れるかのような奥深い音楽とも言えるでしょうか。

 

 

これまで、 ニルス・フラームは、2000年代の「Wintermusik」の時代から、ドイツ、ポスト・クラシカル、そして2010年代に入り、第二期の「Screws」の時代に象徴されるコンセプチュアルなピアノ音楽、さらに、2010年代の中期、第三期のそれと対極に位置する前衛的なエレクトニカ/ダウンテンポの作風「All Melodies」、次いで、近年には、UKのPromsとの共演の過程で生み出された、電子音楽とオーケストラレーションとの劇的な融合性に果敢に挑戦した「Tripping with Nils Frah」というように、作品の発表ごとに作風を変えていき、片時もその場に留まることなく、前衛的な音楽性を提示していますが、この最新作「Music For Animals 」も同様に、フラームは既存の作品とは異なる音楽性に挑んでいます。


フラームは、このアルバム「Music For Animals」の発表時、作品中にゆったりとした空間を設けるサティの「家具の音楽」のようなコンセプトを掲げており、近年のポピュラーミュージックの脚色の多い、華美な音楽とは正反対の音楽を目指したと説明していました。プレスリリースにおける「木の葉のざわめきを見るのが好きな人も世の中にはいる」との言葉は、何より、このミュージック・フォー・アニマルズ」の作風を解釈する上で最も理にかなった説明ともなっている。ここでは、木の葉が風に吹き流される際の情景が刻々と移ろいゆく様子が、いわばサウンドスケープのような形を通して描かれていると解釈出来るわけです。

 

近年のエレクトロ/ダウンテンポの作風に比べると、アンビエントに近い音楽性がこの作品には感じられますが、実際の作品を聴けば、アンビエント寄りの作風でありながら、それだけに留まる作品ではないことが理解していただけるだろうと思います。アルバムの収録曲は、シンセサイザーのシークエンスをトラックメイクの基点に置き、バリエーションの手法を用いながら、 徐々にそのサウンドスケープが音楽に合わせて、スライドショーのような形で刻々と変化していくのです。

 

ニルス・フラームのエレクトロニカ寄りの作風として、既存作品の中においては、「All Ecores」/「Ancores 3」に収録されている「All Armed」のような楽曲が、最も前衛的であり、最高傑作とも呼べるものですが、それらの即効性のある電子音楽とは別のアプローチをフラームはこの作品で選択したように感じられます。例えば、その音楽そのものの印象は異なるものの、クラフト・ヴェルクの「Autobahn」の表題曲の系譜にある、音楽としてストーリーテリングをする感慨がこのアルバムの全編に漂い、音楽として1つの流れのようなものが各々の楽曲には通底している。それは喩えるなら、フランスの印象派の絵画のように抽象的でありながら、フォービズム/キュピズムのように象徴的でもある。さらに言えば、今作の音楽の流れの中に身を委ねていますと、表面上の音楽の深遠に、表向きの表情とは異なる異質な概念的な音楽の姿が立ち現れてくる。それはピクチャレスクな興趣を兼ね備えているとも言えるでしょう。

 

現代のヨーロッパのミュージックシーンにおいて、既に大きな知名度を獲得しているフラームではありますが、彼は、この作品で、手軽な名声を獲得することを避け、純性音楽の高みに上り詰めようと苦心している。さらに、フラームは短絡的に売れる音楽をインスタントに作るのではなく、洗練された手作りの工芸品のような形を選び、三時間に及ぶ大作を丹念に完成させました。そのことは、商業主義の音楽ばかりが偏重される現代音楽シーンにおいて、また資本主義経済が最重視されるこの世界で、きわめて重要な意義を持つと断言出来ます。

 

 

 

82/100

 

 

Featured Track  「Seagull Scene」