New Album Review  amiina 『Yule』

 amiina 『Yule』

 

 

Label: Aamiinauik Ehf

Release: 2022年12月9日


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Review 


 

mumの後に続き、アイスランドのフォークトロニカ・シーンに台頭した、国内の音楽大学で結成された室内楽団、amiina(アミーナ)。

 

基本的に、室内楽の多重奏の形式をとるが、首都レイキャビクのfolktronica(フォークトロニカ)のシーンの気風をその音楽性の中に力強く反映しており、もはや、このジャンルのファンにとって、2007年の「Kurr」、2013年の「The Lightning Project」といった作品はマスター・ピースと化している。ロシアの発明家が考案した高周波振動機の間に手をかざすことで音を発生させるテルミン等のオーケストラ発祥の楽器を使用し、既存の作品中で、子供むけの絵本にあるような幻想的な世界観を確立している。上記のmum、シガー・ロスとの共通点は見いだされるものの、体系的な音楽教育に培われたオーケストラ寄りの音楽性がamiina(アミーナ)の特徴と言えるだろう。

 

近年、レイキャビクでは、レイキャビク・オーケストラを始め、国家全体としてオーケストラ音楽を独自文化として支援していこうという動きがあるが、オーラブル・アルナルズやビョークを始め、どのような音楽形式を選んだとしても、古典音楽や現代音楽の要素はアイスランドのアーティストにとって今や不可欠なものとなりつつある。他の地域に比べると、ポピュラー・ミュージックとオーケストラの区別がなく、双方の長所を引き出していこうというのが近年のアイスランドの音楽の本質である。そして、もちろん、アミーナはもまた同じように、古典音楽に慣れ親しんで来たグループだ。近年、エレクトロニカと弦楽器の融合にメインテーマを置いていたアミーナではあるものの、この12月9日に自主レーベルから発売された最新EPでは、電子音楽の要素を排して、チェロ、ビオラ、バイオリンをはじめとする室内楽の美しい響きを探究している。このリリースに際し、アミーナは、クリスマスの楽しみのために、これらの細やかな室内楽を提供する、というコメントを出しているが、その言葉に違わず、クリスマスで家庭内で歌われる賛美歌に主題をとった聞きやすい弦楽の多重奏がこのEPで提示されている。

 

アルバムの全7曲は細やかな弦楽重奏の小品集と称するべきものだろう。厳格な楽譜/オーケストラ譜を書いてそれを演奏するというよりも、弦楽を楽しみとする演奏者が1つの空間に集い、心地よい調和を探るという意味合いがぴったりで、それほど和音や対旋律として難しい技法が使われているわけではないと思われるが、長く室内楽を一緒に演奏してきたamiinaのメンバー、そしてコラボレーターは、息の取れた心温まるような弦楽器のパッセージにより美麗な調和を生み出している。それらは賛美歌のように調和を重んじ、amiinaのメンバーは表現豊かな弦のパッセージの運びを介し、独立した声部の融合を試みている。これらの楽曲はほとんど3分にも満たない小曲ではあるけれど、クリスマスの穏やかで心温まるような雰囲気を見事に演出している。

 

連曲としての意味合いをもつ六曲は、流麗な演奏が繰り広げられ、クリスマスの教会で歌われるようなミサの賛美歌の雰囲気に充ち、何かしら心ほだされるものがある。演奏というものの本質は、演奏者の心の交流で、彼らの温和な関係がこういった穏やかな響きを生み出したと推察される。


それに対して、最後の一曲だけは曲調が一変し、旧い教会音楽やグレゴリオ、さらにケルト音楽に根ざした精妙な弦楽のパッセージが展開される。全6曲は、弦楽のハーモニーの妙味や流れに重点が置かれているが、他方、最終曲だけは、澄んだ弦楽の単旋律のユニゾンがこれらの調和的な響きとコントラストを成している。もし、前6曲が細やかな弦楽の賛美歌と解釈するなら、最終曲は古楽や原初の教会音楽に挑戦しており、この室内楽団のキャリアの中では珍しい試みと言える。

 

音楽は単一旋法がその原点にある。原初的なユニゾンの響きにあらためて着目するラスト・トラックは、複雑化し、枝分かれした現代の無数の音楽の混沌の中にあって、逆に、新鮮に聴こえるかもしれない。『Yule』は、浄夜のムード作りにうってつけの作品と言えるのではないだろうか??

 


78/100


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